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『最弱』の汚名は返上する。~不遇だなんて、言わせない~  作者: パタパタさん・改
第一章『アルテイン編』
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第一章66 『置いて行かれた約束』

 「あれ? 親父?」


 ”電磁石”の鍛錬一日目が終了し、久々に家に戻っている道中だった。


 外の庭園から見える大きな玄関、茶色をベースに金の縁がなぞらえてある豪勢な扉に手を掛けるガタイの良い金髪男が居ることに気が付いた。それが親父だと気づくのに数秒かかった。


 親父は耳が良いらしく、振り向く前に「ゼクサーか」と後ろに居る人物を射俺だと見抜いた。


 「どうしたお前、学校はどした?」


 「今日日曜だぞ。オレは朝のトレーニング帰りだよ」


 「え、嘘だろ。あー、確かに昨日ペドと飲みに行ったとき、土曜のおつまみ食ったな・・・」


 キョトンとした顔で首をかしげ、それからすぐに今日の月日を認識した。ちなみにペドとは、ウガイン=ペドワルルの父親”ドラミス=ペドワルル”のあだ名である。親父が名前が食べ物と似ているという理由でそのあだ名をつけたらしい。身勝手なこった。


 まぁそれはさておき、オレはあることが気になった。オレは早歩きで扉を開ける親父に追いつき、共に家の中に入る。


 「親父、仕事は?」


 「あぁ、あるけどよぉ。俺だって休みの時があるんだ。今がそれ。後三十分もすれば俺はまた仕事だ」


 親父の一日はくっそ忙しい。それは俺だって知っている。朝起きれば家に居るか居ないかである。家が最早一種の宿場、そして多分親父は睡眠の大半を友人と飲み潰すことで賄っている。最近は家で寝ることが多くなっているとは思うが、どうなのだろう。


 そんな親父が少しの休憩として家に帰ってきたのだ。


 聞きたいことが山ほどある。


 「なぁ親父、母さんは、その・・・仕事か?」


 「そうだな。なんか諸外国の冒険者養成施設で講義するんだってよ。最近はそういう仕事ばっかだからな。俺もあんまり顔を合わせてねぇ・・・」


 「―――?」


 何故かオレの方に向かって言っていたような気がしたが、首を傾けると親父は天井を見ていた。気のせいらしい。


 「親父は今はなんの仕事してんの?」


 「今は”外”でモンスター倒してんだよ。最近近辺ではあまり見かけねぇモンスターが出ててよ。それの討伐に駆り出されてんの」


 靴を脱ぎ、玄関に揃える親父に倣ってオレもまた玄関で靴を脱ぐ。


 相変わらず変な流儀だが、慣れてしまったものはしょうがない。オレは脱いだ靴を揃えて端に寄せると、不意に廊下を歩いている親父が声を出した。


 「なぁ、ゼクサー。お前、なんのトレーニングしてたんだ?」


 「なんのって、そりゃぁ電気属性の鍛錬だよ」


 「・・・・・・・」


 ”どんな”とは言わない。何故か言いたくなかったのだ。だが親父もあまり詮索する気がないのか、一瞬立ち止まるもすぐに歩き出す。表情は見えない。一体あの刹那の時間で何を考えたのか。


 オレは前を行く親父に追いつき、重ね積もった質問を投げかける。


 「なぁ親父はさ、”千剣天威”ってどうやって作ったんだ?」


 「なんでそんなことを聞くんだ?」


 「何故?」と聞かれてもこれは少し答えづらい。そもそもなぜこんなことを聞くのかと言うと、想像力の圧縮と言う奴である。


 オレは今さっきまで超特異次元に接続して一時的に”電磁石”の最高状態を体験していた訳だが、実際にオレの今の状態でやろうとなると、斧や剣、ましてやトレンチコートなどを作るために必要な能力量が足りないので無理となる。その上今の能力量を”形”に収めようとも、想像力が欠如しているせいで上手く形にならずに崩壊する。


 その問題点を改善するために、親父から”千剣天威”のモチーフを教えて貰うのだ。


 「(話でしか聞いたことはないけど、親父の友人は皆絶賛してたからな。どんなのか教えて貰うだけでも価値がある・・・!!)」


 「エクスカリバー」やら「レヴァンティン」、「グングニル」や「グラム」、「クサナギ」と沢山の種類があるのは知っているが、どれも聞いた事がなければ見た事もない。親父と母さんが流行らせたカタカナ語とはまた違った難しさがある。


 が、これを正直に親父に言っても混乱を呼ぶだけだ。それになんか言いたくない気持ちが勝ってしまう。


 オレは少し言葉を濁しながら返事をした。


 「だってよぉ、そろそろ大会だから雷で剣とか槍とか作って観客を驚かせたいし・・・」


 我ながら言った直後にベタな解答だと思った。


 これで親父が納得するかと思い、親父の方を見て見る。希望は薄いが、親父だって男だ。大団円で属性から物体を作る!ってなったらそりゃ格好いいやろ!という神経があることを信じてみよう。


 オレがそんなことを願っていると、親父が顎を触りながら聞いてきた。


 「ゼクサーは、属性能力者大会に出るのか?」


 「え? あぁ!」


 「ちなみにどれくらい勝算あるんだ?」


 「アルテイン相手だとちょっと厳しいかな?くらい。それ以外だったら全然余裕」


 「電気属性のくせにでしゃばるのか? 随分と大きく出たもんだ。恥知らずめ」


 「え」


 あまり意識していなかったからか、親父が何を言ったのかよく分からなかった。何を言ったのかは分からなかったが、正直聞き返す程の事でもなかった気がするので、オレは何も返答をしない。


 「んで、教えてくれるのか? モチーフとか、どうやって発動させるとか、どんな攻撃方法なのかとか、教えてくれるのか?」


 「・・・まぁ、別に構わねぇよ。真似できるかどうかは知らんが、結局対比的に見てオリジナルの俺の知名度が上がるだけだしな」


 「どゆこと?」


 「大会でお前が俺の技パクっても、オリジナルには一生勝てねぇし、俺が一番扱いなれてるから比較されて俺の知名度が上がるってことだよ。それでも教えて欲しいのか・・・・?」


 完全に親父がオレを邪魔者扱いしているような声音でオレに語り掛ける。どうにも言外に「お前が大会なんて無理だ」とも聞こえたが、それはイドに出会っていなかったオレであれば少し響いていただろう。だが、オレはイドと出会い、DQN思考を手に入れアルテインと殺し合いをして精神病院に放り込まれた男だ。面構えと一緒に心構えも違うのだ。


 オレは躊躇なく答えた。


 「あぁ、頼む。教えてくれ! ”千剣天威”のやり方とかモチーフとか色々!!」


 「――ッッ!!?」

 

 オレが頼み込み、そして頭まで下げた事に親父がほんの少し動揺して――。


 「・・・・いいぜ。教えてやるよ! ここまで頼まれちまったら仕方がねぇ!!」


 「マジ!?」


 「あぁ! ・・・だけど今からは無理だな。書類整理とか武器の掃除とかしなきゃいけないからな。明日の夕方くらいの時間帯なら家に帰ってるだろうから、そん時に教えてやるよ! 最近仕事面倒くさいし別の事やりたかったんだよなぁ!!」


 「ふぉ―――ッッ!!!」


 パンッと手を叩き、親父がノッた声で了承する。どうやら手ごたえありのようだ。


 

 A A A 



 そして次の日の夕方。


 「今日も鍛錬きつかったなぁ・・・。やっぱ想像力が足りねぇってイドにも言われたし、デカい構想は出来ても、小型にするって結構難しいな・・・」


 何度繰り返しても指一本すらも磁気を帯びることすらできない現状にオレがガックシと項垂れる。


 接続していた時は簡単に存在の”電磁石化”が出来たと言うのに、あの感覚を思い起こさせようとすると妙に身体が重くなる。


 イド曰く、オレはほんの一キロの粘土で家を作ろうとしている状態らしく、もっと構造を小さく縮小して考える想像力が欠如しているとのこと。


 「(指を自身の存在だと思って”電磁石化”してみろってなんかしっくりこねぇ・・・)」


 大会制覇には必要だとは言われるが全く持って掴めない。


 ――「なんかもー少し幻想的な感じが必要だよな。ルナの想像力覗いてんだけど、現実に寄り過ぎちゃって本能的に「現実じゃあり得ない」って認識が働いてるんだよなー。もーちょい夢っぽいことを学べばいーんじゃねーかな?」


 昨日の帰り際、イドがそんなことを言っていた。


 だからこそ、昨日は絶好の機会だと思ったのだ。


 「親父なら夢を現実みたく思ってる人だし、色々考えつきそうだよなぁ」


 オレが親父を頼ったのはそういう知恵を授かれるかもしれないという意図あってのことだ。


 そんなことを考えながら、オレは少し早くついてしまったが故に外のテラスで親父を待つ。

                                  

 

                                

   

                                    


                                


                                  

                 

                                        

  

                                  


                             



                              


                      


                              


                    


                   











 

 親父はその日も次の日も、その次の日も、待てど暮らせど大会当日まで俺の前に姿を現わすことはなかった。

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