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『最弱』の汚名は返上する。~不遇だなんて、言わせない~  作者: パタパタさん・改
第一章『アルテイン編』
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第一章6 『原点』

 オヴドール学園。

 

 オレの住んでいる国――パーティアス民主国が出来た時からある昔ながらの学校だ。オレの親父も母さんもここの卒業生で、国内随一有名な学校だ。

 

 頭も身分もお堅い人が居るのかなぁ、と思われがちだが案外そんなことも無かったりする。


 それはオレの目に映る光景が特にそれを物語っていて―――、


 「やったー! 明日から夏休みだー!!」


 「なぁ明後日遊びに行かねぇ?」


 「鍛錬の時間が増えるな・・・」


 「僕も属性発現し始めたばかりだから、鍛えなくっちゃ!」


 六限の授業が終わり、明日から夏休みとなったいちクラスの様子だ。

 

 荒れ狂う生徒に狂喜乱舞する生徒、少なくとも其処らにある学校の生徒とあまり大差ない気がする。多分、一般校の生徒の方が夏休みに対する意識が高いはずだ。


 そしてそのクラスの中でも非常に浮いてしまう存在が一人、―――まごうことなき、オレである。

 

 オレは皆と違い、国による保証制度によって就職先(高給取り)が既に決まっているのもあり、皆のように冒険者・調査員になるべく鍛錬をしたり、国を動かす幹部になりたい人のように勉強に励んだりする必要が全くないのだ。

 

 ある意味、学生にとっては夢のような未来で、ある意味、地獄みてぇな未来だ。


 「オレは、国の動力源なんかよりも、やるべきことがあるんだ・・・!!」


 確定した希少な未来、正に生まれた時から決まった夢ある現実、果たしてそんな人生(もの)に送る価値はあるのだろうか。

 

 そんなの簡単だ。


 「ねぇに、決まってんだろ・・・ッ!!」


 人生は浪漫だ。時折、現実的になるのも有りだが、基本は浪漫。そうじゃなきゃ、人としては成功しても人間性的に言えば、・・・完全に落ちこぼれだ。


 「だが、失敗は出来ねぇ・・・」

 

 オレが摑むと決めた一途な現実は、浪漫だがしかし失敗が出来ないのだ。


 失敗なんかしてしまったら、オレは自分に笑いものにされちまう。


 他人から笑われるならまだいい。この世の半分は死体蹴りで出来ているんだ。そんな不条理は身をもって体感したし、泣いてたってぐずってたって解決はしねぇ。


 だが自分に笑いものにされるのは勘弁だ。自分の限界を笑われている気がして堪らねぇ。


 じゃぁどうする?


 「立ち上がってもう半分を蹴り返してやる・・・ッ!!」


 それがオレがオレに誓える最強の逆襲方法。解決策はオンリーワン。オレが自分を笑う立場になればいい。


 だからこそ、失敗は出来ねぇ。


 「さっさと帰るに越したことはねぇ・・・。帰ったら鍛錬だ」


 今はまだ静電気レベルの電流を発することが出来るだけだ。未強化状態。これを如何にして強くするかにかかってるんだ。

 

 オレは空になった机を背に、堂々と教室を後にした。


 

 A A A 


 

 オレが家に帰ると、奇妙な光景を目にした。


 親父が必死の形相で息を切らして、扉を背に向けて座ってたのだ。相変わらず目は黒いぐちゃぐちゃの線が何本も入っててよく見えないが・・・。


 「何してんだ親父。どけてくれねぇと入れないんだが?」


 「おぉっ!ゼクサーか。・・・今は止めとけ、母さんバーサーカー状態だから」


 オレに気が付いた親父が端的に家の状態を説明してくれた。


 母さんのバーサーカー。オレはその姿を見たことはないが、親父は人生上何度かその暴走状態を見たことが、というか巻き込まれたことが何回かあるらしい。その歴戦の結果故、親父は母さんのバーサーカーモードには口を出さないことが最善策だと確信したらしい。


 オレが生きている間であったバーサーカーは、オレが生まれた直後らしい。赤子を産むのには母体に負担がかかりそのストレスで暴走状態になったと聞いたが、多分実際はオレの性別確認が済んだ直後だと思っている。


 しかし何でまた”今更”なのか、オレには見当が付かなかった。


 「どして?」


 「あぁ、何かな・・・。どうやら奥様サークルの年下さんに”家庭”に踏み込んだ発言をされたらしくってな。・・・・”年下”に”逆らわれた”ことが逆鱗に触れたみたいで・・・・」


 「あぁ・・・・」


 言い直した、そんな感じが含まれた発言だと思った。


 「(多分、その”家庭”とやらに踏み込まれた発言が気に障ったんだろうな・・・)」


 そしてその”家庭”とやらの根本はオレだろう。自信過剰とか言われそうだが、最近の母さんがキレる要因と言えばそれしか思いつかない。


 オレが納得の声を上げると、親父がげんなりとした顔で言いやがった。


 「全く、はぁ・・・・。ゼクサー、あんまり母さんを怒らせないでやってくれよ。迷惑かかるの母さんだけじゃなくて、俺もなんだから。はぁぁぁぁ・・・・・」


 「―――――――」


 その言葉の真意は何なのか、何処にあるのか、少なくとも”怒っている母さんにボルテージの上がることは言うなよ”と言う意味ではないのは明らかだった。


 もっと別の悪意を含んだ意味合いがあるのだ。


 そんなにオレの事嫌いですか、そうですか。


 その悪意に気づいてしまった原因は、ここ最近投げかけられてきた言葉の数々だ。一見、文字に起こしてみれば何の変哲もない文章。なのにどこかの部位に毒が塗られている、そんな言葉。


 オレが親父の言葉の真意を考えあぐねていると、憔悴しきった親父が立ち上がりオレに背を向けて街の方に歩き出した。


 「そういうわけだから、夜くらいに出直してくれ。俺は今日は家には帰らない」


 「じゃぁどこで寝るんだよ親父」


 「飲み仲間と酔い潰れてくる。俺もちょっとやってられないんだよ・・・」


 こっちにまで聞こえてくるほど大仰な溜息を吐き散らかして、親父は伝言を投げ捨てたまま家を後にした。


 親父の背中すらも見えなくなった辺りで、オレもまた愚痴をこぼした。


 「何が”やってらないんだよ”だよ。やってられねぇのは、オレの方だクソッタレ」


 家には、・・・・入れねぇ。多分放射線とか、莫大な熱量が、何重にも重ねられた超音波が飛び交っているはずだ。そんなの家じゃねぇ、死地だ。それで壊れない家も家だが・・・。


 仕方なく、オレもまた家を離れる。


 行先は、―――決まった。


 「山、行くかなぁ・・・・」


 

 A A A 


 

 オレが向かったのは、ガキンチョの頃に何度も幼馴染と遊んだ場所だ。


 「思い出の場所、だなぁ・・・」


 山に入ればすぐに見えるのが開けた原っぱだ。


 オレは過去の幼馴染とのじゃれ合いをしみじみと思い出す。


 いつもいつも勇者ごっこ。オレが世界を滅ぼすボスモンスターの下っ端役で、論理という剣を振り回す勇者マテリア、その御一行の餌食に・・・・・・、


 「・・・・・・・・うん。思い出なんて、無かったわ」


 前言撤回。思い出なんて無かったわ。思い出すのは毎日毎日「勇者役をやりたい」オレを謎論理で論破して泣かしてくるマテリア。そして悪乗りするデルシに、悪役を買って出てくれた”途中で勇者側に寝返るボス役の”ヒルディア。ミルティアとウガインは勇者マテリアの忠実なシモベ・・・。


 「あいつがボスモンスターじゃねぇかよ・・・」


 湧いてくるのは何とも言えない空しさだった。こんなのを思い出として保存してたオレが馬鹿みたいだった。


 オレはその広場を通り過ぎ、山奥へと向かった。


 

 A A A 



 山奥には進入禁止のテープが張られたフェンスがあった。


 だがオレにとってはこの先がベストポジション。オレの心休まる場所だった。


 「今はオレの部屋でわんわん泣けるから良いけど、ここは昔っからお世話になりっぱなしだな」


 フェンスを乗り越え踏み越え行った先にあるのは大きな溜池だ。その近くには大きな大木が有り、歪んだ根には大人一人が余裕で入ることのできる隙間がある。


 「昔っから、一人になりたいときは此処で身を丸くしてたなぁ・・・」


 根っこの隙間を見ながら、オレは掌を大木の幹に当てて懐かしさを感慨深く感じる。


 だが、ふとオレは何か違和感を感じた。


 根の間の隙間。地面から根が隆起した構造だと言うのもあり、隙間はとても暗い。そんな暗闇の中、その根っこの隙間でもぞもぞと動く何かが、オレの視界に映りこんだ。


 「うぇッ!!?」


 変な声が漏れた。・・・・いや、オカシイ。いやおかしくない?そもそも何で此処に人が、いやそもそも何で人だと確信した?別の生物だって可能性だってあるわけで、別に人だってオレが此処に入ってるんだから他の人だって此処に入ってくる可能性があるわけで・・・・???????


 何か、凄まじい勢いで頭に情報が入り込み、凄まじい速度でオレの脳の処理を軽く超えた混乱を押し付けてきた。


 「????????」


 まるで嵐のように、混乱と情報の錯乱を残して過ぎ去ったオレの頭にはハテナマークが大量に浮かんできた。


 なんだこのセルフ情報拡散野郎は。


 とりあえず、薄暗い地面の中もぞもぞと動いている人らしき人に声を掛けた。


 誰だろうか、この土地の所有者だったらダッシュで逃げよう・・・。


 「あの~、何してるんですか・・・・?」


 「うにゅら?」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 急募、人語ではない人語を話す人の捕獲をしてくれる方。


 オレは一瞬、何を返すべきなのか迷った。


 うにゅら? 聞きなれない言葉だ。どこかの民族が迷い込んだ? いや、もしかしたら空の果てからやって来た異星人って可能性も・・・。


 ぐるぐると頭を回して、次の展開を予想しているとまたもや隙間の暗がりから声が聞こえた。今度は今さっきのような無機質の声ではなく、やけに雄々しい毛で―――、



 「あー、そーか。こっちの言語はこの言語なのか。しまった。男子の残り香嗅いでたらついつい・・・」


 

 人間、では―――ある。


 そしてついで聞こえたなんか犯罪臭のする台詞。男子の残り香嗅いでた・・・? ヒェッ!!


 「・・・・・っ」


 「あ、身構えんなお前。やめろ心の中で変な声を漏らすな」


 「・・・自分が怪しくないとでも言いたげな台詞だなオイ」


 「そりゃそーだ。俺は健全な男子だ。善良な一般市民だぞ舐めんな」


 「・・・・」


 あぁ言えばこう言う。


 どこに身が付いているのかは分からないが、オレの心の声を平然と読んでくるあたり只者ではないのは確かだ。


 不審者って可能性も捨てきれな、―――いや、不審者じゃねぇかコイツ。


 オレは警戒を怠らないまま、その隙間に居る男?に再度声を掛けた。


 「何者だ・・・?」


 

 オレはまだ知らない。この問いかけなんかせずに逃げていたら、変なのに目を付けられずに済んだと言うことを。


 そして、


 コイツに関わってしまったことによって、オレの人生が苦難に満ちたものに変わることを。

 

 

 「―――俺が何者か、知りてーか? ・・・・良いだろー。俺のタイプのドストライクゾーンを突っ切るお前には、俺の名を教えよーじゃねーか」


 「・・・・・」


 突如、根っこの隙間から人影が飛び出し、オレの警戒していた神経を軽く掻い潜って根っこの上に立つ。


 「―――!!?」


 意識が追い着き、オレが反射的に顔を上にあげる。


 ――まず見えたのは黒い髪に、黒と灰色のオッドアイ。


 そして筋骨隆々の筋肉上半身。・・・服着てねぇのかコイツ!?


 毛皮で作られた上着の腕を腰に巻き、その下からは筋肉で埋まったような筋肉質な足。裸足だ。


 そして、その男は、いや変態は親指を自分に向け、形の良い顔に牙の歯を見せて、言った。


 

 ―――「ジォス=アルゼファイド」だと。

 


 

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