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『最弱』の汚名は返上する。~不遇だなんて、言わせない~  作者: パタパタさん・改
第一章『アルテイン編』
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第一章65 『未知へのアクセス』

 「よールナ! 起きたなー、よく寝てたぞ。どーだった、精神病院は?」


 「んぇ、・・・・。――――は?」


 久々の野生的な声が耳の中で咀嚼される。飲み込む前に反射的に眼が開き、直光が瞳を突き刺す。精神病院ではないのは明らかで、その光景が情報と化して脳がそれを処理する。


 結果として出てきたのは疑問の声だ。


 オレの目から見た景色は殺風景な白色の客室ではなく、晴天を隠すように木々が生い茂る森の中。背中の感触はベッドのようなふかふか感覚ではなく、柔らかみの少ない硬さだ。


 そして即座に理解する。


 ここは、―――イドと出会ったいつもの場所なのだと。


 オレはゆっくりと背中を起こし、オレに声を掛けた人物を見やる。


 湖をバックに隆起した大木の足に座っている男だ。惜しげもなく筋肉の滾った上半身裸体で、黒髪に黒目灰色の目のオッドアイ。そして隠していないガチホモの香り、間違いない。こいつは変態だ。それもかなり犯罪すれっすれの。


 「やぁイド、久々だね。・・・三週間ぶりくらいかな?」


 「あー、そーだな。昨日の夜にお前を迎えに行って、それで戻って来た。丁度日付が変わる頃合いに来たからな。お別れが言えなかったのはしゃーねーんだ。お別れをすると、泣き出しそーな面倒くせーのが数人いるからな」


 「あぁ・・・」


 イドの言葉になんか納得してしまった。確かに、オレが消えるとなると地獄の底まで追いかけてきそうな執念深い奴に一人程心当たりがある。下手すると二人は居るかもしれない。


 「オレウスにはなんて? 色々世話になったんだ。あの人にくらいはお別れ行っておきたかったんだ」


 「「定刻通り引き取りにやって来た。またなんかあって来た時はよろしく」って、言っておいた。あいつも「次はイド無しで会いたいな」って返してたよ」


 「本音駄々洩れだなオイ」


 オレウスの本意にオレは少し共感した。初対面からして態度最悪なイドに会いたいと望むような奴は居ないだろう。しかも声音からして皮肉が込められている様にも聞こえる。嫌そうな返事なのに、ここまでイドが笑顔でいるのが変だとしか思えない。頭から飛ぶネジが無いのだろう。


 オレは立ち上がり、カラダの変化を見る。


 寝間着が普段着になっているのを見るに、誰かが着替えさせたのだろう。イドじゃないといいな。


 そしてもう一つの変化があった。それはここが客室ではなく森だから言えること。壁にかけてあった”あれ”がない。


 「あれ? 斧と脛具は?」


 「あー、ちゃんと持って帰って来たぞ。今はお前の家の部屋にある」

 

 「ならよかった」


 イドの即答に安堵する。イドが新しく創造してくれた斧は最初こそ使い勝手は悪かったが、今では新しく使いやすい武器である。忘れてきたとなればとってこなければいけないし、イドに同じ元素で構成された同じ形のものを渡されてもしっくりこないだろう。


 想いは重いのだ。それがなんであれ、数学的には計れない重さがある。


 オレはいつもの普段着の状態でイドと対峙する。


 そして最初に口にした言葉は――、


 

 

 「ただいま、結構凄かったよ。あそこ」


 「おー、おかえり。見たところ、存在的精神力が強くなってるな・・・。やっぱちょっと頭のおかしー人らの中に突っ込ませたら、環境に変化できるのは人の強みだな」


 

 

 ケラケラと笑い、少し長い帰還の返事にオレは”いつも”に戻って来たのだと確信した。


 

 A A A 



 「これからイドには電磁石になってもらいます!」


 「おう! 相変わらず意味は分からねぇけど、説明とやり方実戦練習を頼むぜ!」


 オレがここに戻り、すべきことはイドから事前に言われている「”電磁石”になって、金属を操作する」ことである。電磁石がなんなのかは説明は貰ったが、イドの説明がイドにしか分からない言葉だったがために解明できずにいるのだ。


 オレの要望にイドはコクリと頷き、虚空から黒板を引っ張り出してチョークで何かを描いていく。


 「いくらルナが電気属性の成長が早いとはいっても、これはかなり精密な制御性が必要とされる。だからまず動かしていくのは其処らに散らばっている万能金属からにする」


 「万能金属?」


 オレが首を捻ると、イドは「聞ーたことねーか?」と問いかけて、黒板に黒い点々を描き出していった。


 「――砂鉄、な。黒くって、小せー金属だ。地面掘って磁石を当てると引っ付いて来る。例えば、こーゆー風に」


 イドはそう言い、片方の手から赤と青で分けられた磁石を取り出した。


 何をするのかと思いきや、イドは軽く地面をこすり、磁石をオレに放り投げてきた。


 慌てて掴み、磁石の先端を見るとイドの言っていた”砂鉄”らしきものが磁石の赤を覆い尽くすように張りてついていた。


 「これが、”砂鉄”・・・? 随分と小さいな。これが万能金属って・・・」


 オレの目に移るそれは万能と呼ぶにはあまりにも心もとなく、吹けば飛んでしまいそうな小ささだ。いや多分吹けば飛ぶだろう。少なくとも欠陥が大きすぎて万能とは言えない。


 オレがイドに疑いの目を向けるが、イドはなんてことはなく、「広い眼で」とオレの視界の狭さをたしなめてきた。


 「いーか、ルナ。砂鉄ってのは小さい鉄の事だ。集めて溶かせば鉄になるし、更に細かくして一定の条件下にあれば粉塵爆発だって起こせる。それに小さいからこそ、戦闘中に相手の意表を掻くことができるんだ」


 イドはそう言って、黒板に絵を追加していく。


 「電気による制御性を持ってして形を与え、更に動きを加えれば高速回転する剣とか鞭とか作れるし、黒い服に付けておけばもしもの時に役に立つ。砂鉄も投げれば目つぶしできるし、運よく口の中に入れれば内側から敵の重要部分を破壊できる」


 人体の断面図を描き、肺と胃から砂鉄が飛び出す絵を描き上げるイドに若干引きつつも、オレは感嘆の声を漏らす。


 「小さいからこその利点。戦闘中に敵は小さなことに気づきにくいから、そこを狙って目つぶしとかか・・・。でもイドの言い方だと、回転している状態で身体に巻きつけたら、攻撃した敵側がダメージを受ける、とかができるのか・・・」


 「あー、そーだ! ちゃんと考えられるじゃねーか。割とその方法が最強かもな」


 イドがグッと親指を立てて笑った。一応、そういう小技ができるらしい。


 ある程度形から入れたら次は本命の問題だ。


 「んで、どうやってやるんだよ。前にイドに教えて貰ったけどよく分からねぇんだ。存在をコイルに見立てて電気を通すってなんだよ」


 「何それ、俺そんなこと言ったっけ? 自身の存在を磁場にするって言ってなかったっけ?」


 「言ってねぇよ! なんで記憶無くなってんだ!!」


 「まーまー落ち着け、慌てるな。心臓を止めろ」


 精神病院で鍛えたとしても、イドのこの調子には腸が煮える思いになる。記憶が無くなったり、誤字脱字したり、単純に意味分からんかったり。


 「(何故かオレが悪いみたいな言い方なんだよなぁ・・・)」


 不思議とオレが悪い方向で話をまとまらせて来る力がイドにはある。煽りスキルがとんでも高いが、肝心な相手が煽られたことに気づかない事がほとんどだ。気づけば話が脱線して独り歩きしているのだから。


 オレは「んで?」と、話が逃げないように捕まえてイドに次の言葉を求める。


 するとイドはオレに人差し指を立てた。”御指名”という意味ではなく、おそらく”五指の内どれでも”という意味なのだろう。指であれば何でもいいようだ。


 「?」


 とりあえずオレもイドの前に人差し指を突き出す。


 「全身のコイル化は急には無理だからな。まずは簡単な部位集中でやってみよーか。今回は人差し指だが」


 「で、どうするんだ?」


 「俺の言った通りに頭の中で想像して。行動も真似して」


 「?」


 そう言いながらイドが指を下に向けたので、オレもまた下に指を向ける。


 「頭の中で想像しろ。――今、俺の指には電気を帯びた糸がグルグルに巻きついている、と」


 「・・・今、オレの指には電気を帯びた糸がグルグルに巻きついている・・・」


 「まるで《アッー!》した時に、指全体に絡まる白濁の生命源のy」


 「あーはいはい分かりましたから」


 「聞いてねーだろッ!!?」


 「うん」


 イドの口から不穏な言葉が飛び出た瞬間にオレは鼓膜をそっと閉じた。《アッー!》がなんなのかは分からない。だがまぁ、そっち方面の言葉なのは明白だった。


 オレは再び集中し直し、糸がグルグルと指に絡まり、電気が流れていく感覚を想像する。


 がんじがらめになった指に電気が流れるように、トンネルの中に水を通すように、雷の性質を帯びた能力量が糸となってオレの指をグルグルに巻きつけていくように。


 「うーん・・・うーん・・・」


 「ルナ、ルナ、指が上がってるぞ。下に降ろせ下に。出来るだけ地面に近づけろ。もーむしろしゃがんだ方がいーだろ」


 「・・・よっこいせ」


 芝生とも言えない草の生えた地面に胡坐を掻き、オレはギリギリまで地面に指先を近づける。


 傍から見たらなんかの儀式かと思われるくらいにはシュールな光景だが、イドも笑わずにオレの指先を見続けている。オレの意志とは裏腹に指先は無反応であり、周囲の地面も特にこれと言った反応も見えない。


 「(五分経過・・・、反応ねぇ・・・)」


 流石に疲れてきたのか指先がプルプルと震え、オレの額から汗がしたたり落ちる。


 これにはイドも難しい顔をしながらオレに提案をしてきた。


 「ルナ、一回俺がルナの属性能力と脳みそを超特異次元に接続して、一時的に”電磁石”能力を授けるってのはどーだ?」


 「超特異次元?」


 オレが首を捻ると、イドは顎に手を当てて説明の仕方を考える。そして納得いかないような顔のまま答えを出した。


 「これに関してはルナに分かるよーに説明するのは難しーんだが、簡単に言えば、この世界の管理機関みてーなもんだよ。あらゆる世界の規則と叡智が詰まった支配系図書館みてーなもんだよ。それが超特異次元だ。漫画でいう所の作者の頭の中。そいつの頭に接続して特定の叡智を共有するんだ」


 「世界の神の頭に繋げるってこと? オレの頭を?」


 「神よりも賢くて強いけどな。つまりはそーゆーことだ。んじゃーさっさと繋げちまうか」


 「相変わらずオレの許可なしかよ。・・・・、――――ッ!!?」

 

 オレが呆れ声でイドの身勝手さにため息を吐いた。


 吐いた。―――瞬間だった。


 「――――え」


 頭が急にさっぱりしたような、急激に知らない情報が虚空から飛び出したような、動物の死体からガスが生まれるように、いままでなかったはずの情報源がポンッと出現したかと思うと、濁流のように、ダムの壁に開いた穴のように、情報の大波が噴出してオレの脳内で暴れまわる。


 「な、なんだこれ・・・!? こんな、なんだ? オレの知らないことが・・・!!?」


 突然の脳内大災害にいちいち情報を理解する処理能力が追い付かないが、確実にオレの知らない、聞いたことすらない言葉が羅列し、その言葉を咀嚼する暇もなく次々と押し寄せてくるのだ。


 そして情報の海に呑まれ、意識の中で意識をもぎ取られる。


 景色が変わった。


 白、いや黒? 目だ。目の形をした世界がこちらをじっと見ているのだ。透明色の世界が眼の形をして、――手が動かない。足もだ。目は動かせない。いや、眼も見えていない。口も動かない。何も聞こえない。何も触れられない。皮膚がない。動かせない。筋肉がない。そもそも立ってるのか座ってるのか定かでないし上も下も右も左も分からないし呼吸もしてるのかわらないし息を吸ってる感覚もない心臓も動いていない妙に爽快感があるし臭いも分からない脳みそに直接情報が流れ込んでいるでも疲れたとも思わないし悲しくないし憤怒の気持ちもないし嬉しくもないしでも感情が無い訳でもないし何も分からないこともないし夢なのか現実なのか分からないし空気あるの?分からないどうしたんですかどうもしませんよ何か使命があったのですか思い出せないし元気なんだっけ?とりあえず欲しいのがあったのでは渡しておきますね使用制限は一回だけですね分かりました分かりませんどうしてそこまでするのか調べるのです分かるまで正しいものなんてわかりはしないないのです全ては無であるべきなのですさざ波の音がザーザーしていますね海ですね空ですよ違うこれは音ではないのです貴方なのですよね確かそうでしたと思いますがどうなのでしょうかいやはやまだまだこちら側ではなさそうなのでこれくらいしかしてあげられることはありませんが勘弁してください友の為家族の為恋人の為でしたっけ貴方は自分の為そしてこの子は貴方のステータス違いますかそうですか言う事はよく聞くでしょう聞かないのですか伸ばしてあげられるところはのばしてあげましょういいですかこの子は貴方を求めていますが貴方はしっかりと見て上げているでしょうかこの子は賢いこの子は動きます生きているのです意志があるのでしょうかあるのですね分かっていましたがこの子は何処へ向かうと言うのでしょうか悪意はあった方が良かったのではないのか違うのですかですがそれを経た先にあるのは何なのでしょうか共存なんて最初からどうでもよかったのでしょう違う共依存なんでしょういいのですそれがいいのですですが独立ははたしてそれだけの意味なのでしょうかおそらく貴方はまだ気づいていないもっと翼はまだまだ伸ばすときではないのでしょうもっともっともっともっともっと孤独に悪意を欲しがるのですほしがらなくてもきっと世界が動いてくれるでしょう世界と言っても揶揄ですよあなたが思い描く世界ではないです私はもっと変なものですどこかに属している訳でもなくそこにいます貴方の隣のにずっといました気づいてくれませんでしたか良いのです世界は貴方を見ていますずっとずっと見ています勿論ストーカーではないですちゃんとトイレの時やお風呂の時やプライベートな時はみませんので大丈夫です次はいつ来てくれるのでしょうかあいつとは違い貴方は随分と配慮があると思うのです私は全てを見れるのでだいじょうぶですがくそがいえすいませんつい貴方の記憶の中にあいつがいたのでゆるせないんですよ私はもとより性別はないのですがあいつに男に変えられていろいろされたのではらたってるんですよなおしてくれたからいいというものではないのですそろそろ時間切れでしょうか言葉がまとまってくれなくなりましたねこまりましたもうすこしはなせたらよかったのですがあなたをここでずっとしばりつけておくはよくないですねつぎはよんまいのときにきてほしいですねいまはにまいですがこんどはよんまいがいいですねでもにまいのままでもいいのですよわたしはあなたとはなせたらそれでいいのですせいちょうしてくれていればもっとうれしいだけなのでかんぜんにわたしのおもいですよほしいもののけんげんはいっかいのしようでかしだしましたしようするとじどうててきにわたしのところにもどってきますではまたちかいうちにあいましょうじゃあねあいしていますよ


 

 A A A


 

 「―――これが、」


 ズアッ!と、カラダの感覚が世界に再定着した確信を覚え、オレは頭の中にある共有した「最高の状態の”電磁石”」をオレの身体を媒介に発動させる。


 権限を発動した瞬間、オレの身体、それを形作る存在的魂。それに幾重ものコイルが巻かれる。そしてオレの能力量を上回るほどの莫大な能力量がそのコイルを辿って――、


 突如、オレの立つ地面を中心に地面から黒い粒子が束を為してオレに向かってくる。


 オレはその黒い粒子、――砂鉄の塊に”形”を与える。


 まずは高速回転する砂鉄の剣だ。


 オレの意思の通りに砂鉄が動き、剣の形を取る。柄は回転しておらず触り心地は悪いがしっかりと持てる。


 「見た目虚空から剣が出てくるって感じだよな・・・」


 さて、威力の方はどうかなと思いながらオレは砂鉄の剣を地面に振るう。


 途端、――。


 ギャルルルルルゥゥゥゥッ!!!

 

 と、何かがねじ切れるようなそんな快音を立てて地面がバックリと無くなった。文字通りに、何かがかみついたように、だ。


 引き千切る、と言うよりかは噛み千切るという表現に近いかもしれない。


 それほどの地面を抉る一撃だったのだ。


 「つよッ!? ・・・・怖っ」


 斬り裂く攻撃とは違ってこの攻撃方法ばかりはなにかと生々しい、生物相手にやりたくはない攻撃だ。


 オレは少し息を呑み、剣の形を解く。


 「今度は回転無しで、普通の剣で・・・」


 頭の中で細部までの構想を創り上げ、形の中に砂鉄を入れる。


 今度は回転のない両手剣になった。


 「ちゃんと、持てる。地面突き刺しても、サクッていう。・・・大丈夫か・・・」


 砂鉄の剣も元に戻し、今度はイドからついさっき言われたことに対する思いつきを実行する。


 ――「それに小さいからこそ、戦闘中に相手の意表を掻くことができるんだ」

 

 意表を掻くと聞いて、オレの中で思い浮かんだものはこれだった。


 「(構想を練り上げて、細部の方は緩く電気を通す形で・・・)」


 そして装飾も決めたところで砂鉄を惹きつけ、砂鉄の波の中に自身を投じる。砂鉄が倒れるオレを呑み込み、オレの全身に設定された形に入り込む。


 そして―――、


 「これが、――――オレの武器」


 「おー、すげー」


 砂鉄を足場に砂鉄の塊から顔を出し、背中を出し、全身を地上に顕現させる。


 ――俺が羽織っていたのは全てが黒のトレンチコートだった。


 オレが想起したものはオレウスと二人で出かけた時にオレウスが来ていた黒のトレンチコートだ。細部まで行き届いた十字架の装飾やボタン、×印のアップリケがすべて砂鉄で出来ている。そして関節部分や風に吹かれやすいところは電気属性の能力量の調整で接合を緩くしており、密度も弱点部分以外は薄くしている。至高にして最高の砂鉄系攻防万能鎧型トレンチコートだ。


 オレはその場で一回転し、拍手するイドに指を振る。

 

 「こいつは一見ただのコートに見える、がぁ!違う! こんなこともできるんだ!!」


 オレが手を天にかざすと、不意にオレの着ていたコートが崩壊し、掲げた掌に新たな形を取る。


 ――斧である。


 それも刃の部分が高速回転している殺傷能力がえげつない斧が。


 「すっげー! トランス〇ォーマーかよ!!」


 「とらんす、なんだ? ふぉーまー? よく分からねぇが! 戻れ!」


 オレが叫ぶと、斧も分解され、再びオレの身体にトレンチコートととして装着される。


 「これがあれば、一見攻撃手段がないように見えてすぐさま相手の意表を突くことができるって訳だ!」


 「ただーし! それが自分の力だけでやろうとすると一年くれー必要になるってのが玉に瑕だ!」


 「あ、・・・・そっか」


 唐突なイドの暴露に現実に引き戻された。その反動か、オレに纏わりついていた砂鉄が剥がれ落ち、元の砂鉄の束に戻る。どうやら使用期間が終わったようだ。今さっきまでの感覚が無くなっている。


 オレは脱力し、スッと横目でイドを睨む。


 「(もう少しあの感覚を楽しみたかったのに・・・)」


 オレ達は再び”電磁石”の鍛錬を始めることになった。


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