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『最弱』の汚名は返上する。~不遇だなんて、言わせない~  作者: パタパタさん・改
第一章『アルテイン編』
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第一章64 『ご都合展開のカラクリ』

 「課長と診察なんて珍しいことですね」


 「僕ぁ課長の後ろからの圧が強すぎて胃がすり潰れそうなんですが・・・」


 「あ゛ァ? なンか言ッたかオイ」


 「い、いえぇ!!なんでもありません!!」


 壁に付けられた燭台の明かりが点々とあるだけの暗闇の中、オレは物珍しそうな顔でオレウスを見た。中間管理職だからなのか気が休んだ表情は見せず、常時剣呑な空気感を漂わせており、それを察知したエルドーラが身震いしていた。


 オレはそんな地獄みたいな空気を和ますために言葉を発する。


 「課長、似合いますよね白衣。名医に見えますよ」


 「仮病の患者も精神病になれる病院の名医ッてか? ヤブと闇とマッドかよ。回復先が天国たァ夢がねェな。まァ、似合うッてンならありがとォだな。オレ様も白衣は嫌いじゃァねェ」


 「え、でも一昨日「白衣ッて着心地悪ィなオイ!」って課長言ってたじゃないですか」


 「なンか言ッたかクソ医師ィ、あ゛あ゛ン???」


 「ひぃぃえぇぇぇ!!!言ってません!何も!言ってません!!」


 オレの世辞に一瞬顔がほころんだかと思いきや、次のエルドーラの余計な言葉にスッと目を細めてドスの聞いた口調になった。


 「(なんで自ら墓穴堀りに行ってんだこいつ・・・)」


 自爆特攻なら尊敬に値するレベルの殴り言葉だったが、相手が相手だ。残念ながら攻撃は不発に終わり、持って帰ってきたのは逆鱗と言葉の圧力だった。


 余計に空気が悪くなる三人だが、オレはなんとか言葉を零す。


 「そろそろ次の病室ですよ」


 「・・・おォ」


 「ひぃッ!!!」


 オレウスが口を開く度にエルドーラがビビっていた。


 ・・・ビビりたくないなら最初から何も言わない方が良いのではなかろうか?


 オレはそんなことを思いながら、エルドーラに続いて病室に入った。


 

 A A A 



 「随分手慣れてましたけど、経験があるんですか?」


 オレがそう聞くと、糞男からはぎ取った糞を詰めた袋を背負ったオレウスが口を開く。


 「オレ様がまだ一端のチンピラだッた時に闇市に行ッたことがあンだよ。そン時に出会った野郎共はもォやばかッた。人の死肉イッた目で貪ッてやがるし、虚ろな目で重力に逆らッてる奴もいた。あァいうのを見てッと、「あァ、コイツ等も同類なンだなァ・・・」ッて頭にフィルターがかかンだよ」


 「同族嫌悪ってやつですね。類は友を呼ぶ。この場合、ヤバい課長にヤバい患者とヤバい看護師と医者が集まってる感じですが・・・」


 「あ゛ァ?次の宗教への貢ぎ物、テメェがなるかァ?」


 「あ、いえナンデモアリマセン」


 「なんか怖いんでやめてください」


 オレでも目で追いつけない程に早い掌返しに、意識の外からくる余計な言葉の数々にオレウスのSAN値が削れていく。どんどん顔が人を殺しそうな悪人面に変わっていくオレウスに恐怖し、惨事が起きる前にオレはエルドーラに声を掛けた。


 「エルドーラさん、お願いですから要らん口出しはしないでください」


 「要る口出ししかしてないんだけどなぁ・・・」


 「課長、やっぱりこいつ貢ぎ物にした方が良いんじゃないですかね?」


 「あれッ!!?僕今課長に売られてる!?」


 オレがエルドーラの方を摑んでオレウスに尋ねると、オレウスは「そォだな・・・」と首を縦に振りかけて、そのまま止まる。少し思考した結果、オレウスは首を横に振った。


 「・・・いや、こンな不純物みてェな野郎なンざカルト宗教団体(あっち側の人)も欲しがらねェだろ。せいェぜェ患者脱走時の肉壁だな」


 「良かったな。まだ生きていけるみたいだぞ」


 「え、何それ全然嬉しくない」


 顔が固まるエルドーラをよそに、オレはオレウスの発した言葉にある「闇市」について考える。


 闇市、と言うのはこの国がまだ戦時下にあった時に当時から禁止されていた自警用武器や、今も時折問題になっている壁内で出現するモンスターが売られていた市のことだ。世間に嫌気がさしたり、何らかの罪で監獄に入っていた罪人達がたむろしている場所だと言うのは授業で習ったが、そんな市があったのはものの数十年前の話だ。警察騎士団や近衛騎士団の取り締まりや大抗争によって数が減り、最終的に自然消滅したのだ。


 「(だとすると普通にオレウスもクリッカーと同じで数十年生きてるって事になるのか?いやでも見た目オレより少し年上くらいだし、もしかして『呪胎』者とかか・・・?)」


 オレが少しオレウスに疑いの目を向けると、オレウスは少し首をかしげながらうわごとに口を開く。


 「はァ、久々にダンケルタンに戻りてェなァ・・・。かれこれ五年は帰ッてねェ・・・」


 「―――ッ!?」


 小さい声でもここは誰も居ない無機質な廊下だ。声は反響し、オレウスの口の中で終わるはずがオレの耳にも届いてしまった。


 「え、ダンケルタン?」


 ダンケルタンと言えば人の”能力量”を抽出・凝固・液状化して事業のエネルギーに使うと言う、電気属性の発電とはまた違った科学力を持つ産業王国の事だ。


 最近は”人みたいな機械らしきもの”を製造してると習ったが、それがどうにも人の心を宿すとか宿さないとか、そんな都市伝説があるらしい。


 「(人みたいな機械、か・・・。この人五年も帰ってないって言ってるし、聞いても答えられないかもな・・・)」


 正直なところ授業では触りだけをやっただけだ。それに”人らしき機械”も国が情報公開しているだけの狭い情報だけだ。本場の人の聞かないとなにも分からない。だがオレでも、端っこの情報を知れば大方予想はつく。無論、悪い方面もいい方面もだ。


 「(”人みたいな機械”が、人の代わりに人の世話をするのか。工場とかは導入しそうだよなそういうの。でも逆にそれで仕事とか奪われそうだよなぁ・・・)」


 考えるが、やめた。知らないからこそ勝手に想像は出来るが、変に想像を膨らませすぎると無駄な先入観を持ってしまう。そして現実が歪曲して見えるのだ。


 「(いつかイドかアルテインと一緒に行ってみたいな、ダンケルタン)」


 真実を知りたいか、そこまで大それた理由ではないが、オレはいつか行ってみたいと思った。


 

 A A A 



 五室目を黙々と終わらせて階段を降りるところだった。

 

 ふとオレは気づいたことがあった。


 それはほんの偶然と言ってしまえばそれで終わりだが、実に都合がいいのではと問われると首を横に振りがたいのも事実だ。


 この世にも”運命”という言葉があるように、おそらくそれも運命なのかもしれない。


 だが聞かないで自己完結するのは良くないことだ。そんな奴はイドだけで充分である。


 「なぁ、課長、聞きたいことがあるんだ」


 「ンァ? なンだァ・・・?」


 面倒くさそうに頭を掻きながらも、質問者がオレだと分かると目線も向けてくれるオレウスだ。


 オレはオレウスに用がある。今用が出来たのだが。


 「『終末番号(シリアルデッドエンド)』の時、なんでロデリーがやられた時、すごい良いタイミングで来たんだ? すっごい狙ったようなタイミングだったろ」


 「あァ、それか」


 オレが問いかけたのは、オレの苦悩などの始まりの原因である『終末番号(シリアルデッドエンド)』の一件のことだ。


 あの時、逃がしたロデリーがオレを庇い意味分からん遺言を吐き捨てて倒れ伏し、その迷言に反論を入れた直後にオレウスがシラフでやって来たのだ。


 そして『終末番号(シリアルデッドエンド)』の瞬殺である。


 これを出来過ぎた偶然と言えるのだろうか。あまりにも物語のような運命の出来具合である。違和感を持たないのがおかしいと思う。


 少しの沈黙を挟み、オレウスが回答を口にした。


 「オレ様はあン時、七階層を見て回ッていたンだ。あの妙に頭がキレる『終末番号(シリアルデッドエンド)』、名前は確か、バークだッたはずだ。バークはここに来る前は民主国の西部の方で連続怪事件として”裏”で名を馳せててよォ。あまりにも難解なアリバイ工作やトリックを使うし、警察騎士団に追いかけられてもサラッと逃げられるしで、頭がかなり良いッて分かッた。そンで、なンかの拍子で『終末番号(シリアルデッドエンド)』になッたところをオレ様達が回収した」


 「ほーん、あの『終末番号(シリアルデッドエンド)』にそんな過去が・・・」


 「だから、もしかしたらあのクソ野郎は、捜査攪乱のためにどッか深い層に隠れてンじゃねェかと踏んだンだ。それで七階層を探して、六階層を探した。でも居ねェ」


 「でしょうね」


 「だから、”組織の頭”ッつゥ敵認識じゃなくて、”外”のモンスターッつゥ敵認識にして、もォ一度考えた。そしたら答えが出た。――――あいつは、六階層か七階層の病室に入り込ンでンじゃねェかッてなァ・・・」


 「すご・・・・!!」


 オレは『平面の集中力』で分かったことなのに、普通の思考回路でそこにたどり着くのは天才過ぎんか?ってか、『終末番号(シリアルデッドエンド)』が”外”のモンスターと同等の知能を持ってるとかマジかよ。診察したくねぇ・・・。


 今は細胞として生き続けている瓶詰めされた『終末番号(シリアルデッドエンド)』だが、この病院には他の『終末番号(シリアルデッドエンド)』が数人いるらしい。


 そんな『終末番号(シリアルデッドエンド)』も、特に無害だと分かっている患者以外は課長やミドル、ヴォルツが診察しているとのこと。


 「そンで調べてッたら六階層から金属の破壊音が聞こえたもンだからよォ、行ッてみたらお前とロデリーが居たッて訳だ」


 「な、なるほど・・・」


 種明かしが終わり、オレウスはさっさと次の部屋に向かっていく。


 対してオレはそれが腑に落ちたようで、落ちないような、喉に引っかかった魚の骨のような心残りがあった。だが、


 「(まぁ、・・・いいか)」


 少し思うところはあったが、なんにせよ今こうして生きているのはオレウスのおかげである。


 あまり詮索するのも野暮だろうと踏み、オレは二人の跡を追った。

 


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