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『最弱』の汚名は返上する。~不遇だなんて、言わせない~  作者: パタパタさん・改
第一章『アルテイン編』
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第一章61 『ロデリー=オーニアスト』


 ロデリー=オーニアストという男を紹介しよう。


 ロデリー=オーニアスト、愛称は”ロデリー”として親しまれる彼は精神病院で数年間働く前は、パーティアス民主国の”外”を探検する冒険者パーティの一員であった。


 属性は風であり、能力量は人並み以下。だがしかし生まれつきの敏感肌なせいもあってか、”外”では主に洞窟や密林などの何重にも重ねられた構造の中の索敵能力に優れていた。勿論能力量の大きくない彼の持つ『空気感知(エアロセンス)』は、風が流れてこない地域では極端に効果作用範囲が狭く、索敵能力にも関わらず、モンスターと遭遇してからその効果を発揮することが多い。


 だがそんな能力を持つ彼はパーティの他冒険者から好かれていた。


 索敵能力意外に属性能力的利益のない彼はいつも荷物持ちであり、常に前線で索敵能力の使用をパーティから求められていた。そんな彼を見て、彼の能力的価値を知る者であれば、その扱いは非常に妥当だと言えた。


 ――「可哀そうに、無能なロデリーの行進だよ」


 ――「索敵能力も強くないし、荷物持ちがパーティの中でやれる唯一の仕事だなんて」


 ――「もうお情けで入れて貰ってるようなものだよな」


 皆は、彼を叩いた。


 だが彼はそんな理不尽な言葉にも耐えた。なぜなら、この前線は仲間が託してくれたものだからだ。


 彼の仲間は言う。


 ――「全く、みんなしてロデリーの素晴らしさを分かっていない」


 ――「弱かろうが強かろうが、属性能力を索敵に使える奴なんてこの国にほとんどいないんだぞ」


 ――「言ってもあいつら懲りないから良いのよ!あんなの言わせておけば良いのよ!」


 ――「彼の良いところはそこだけじゃありませんけどね」


 彼はパーティから好かれていた。それは何故か。それは彼が口の回る人物だったからだろう。


 彼の所属するパーティはパーティアス民主国の中でもかなり上位に入るほどに有名なパーティだ。だが、彼が入る前はいわゆる『先駆け部隊』と言う、良くも悪くも戦場に先駆けるパーティとして名を馳せていた、脳筋パーティであった。対するモンスターの脅威度を認知せずにひたすら突っ込んでいく精神性を持ったパーティだったためか、パーティメンバーの入れ替わりは他のパーティに比べてずっと激しかった。その原因の一つに、当時の冒険者採用試験の内容がモンスターとの戦闘のみだったということもあげられる。


 今では学校の教育課程において、どのような場所で、どのようなモンスターが現れるか、手負いモンスターの脅威や魔獣や魔龍の脅威、そしてモンスターとその特徴について学ぶことが義務化されているが、彼の世代は戦勝国の悪いところが出たのか、どこか冒険者はモンスターを倒すのが仕事とされている風潮があった。勿論、モンスターを倒すことに特化してしまった当時の冒険者の殉職率は非常に高く、その原因のほとんどが後先を顧みずにモンスターに突っ込み、犬死したことだ。


 当時はそういった風潮があったからか、誰もモンスターの特性や環境の変化について知ろうともしなかった。無論、彼の所属する前のパーティもその影響の元にあった。


 そんなわざわざ死にに行く職業が”冒険者”とも言われる世の中で、そのパーティの空気を一新したのがロデリーだった。


 ロデリーは口の上手い男であった。


 そして何より、彼は読書家でもあったため、モンスターについての特徴や環境の変化などについての知見は豊富だった。


 彼がパーティに入ったのはわずか十五の冬だった。


 ”外”の衛兵をしていた両親が死に、その生きざまに感銘を受けたロデリーは必死に二年間の研鑽を積み、冒険者となった。そして最初に入ったパーティが、彼の冒険者人生の幕を閉じる最後のパーティだったのだ。


 彼が入った直後に彼は驚いた。


 入るための内定をもらった際は、そのパーティの長を務める人からパーティメンバーはおよそ十五人居ると聞いていたにも関わらず、いざ入ってみれば合計で八人しか居なかったのだ。モンスターとの戦闘で多くを失ったのだと、後に彼は聞いた。


 だからこそか、彼は事前に調べ上げた知識を元にパーティメンバーが如何にして生き残りやすいかを研究し、数々の脳筋冒険者を口の上手さで撤退に持ち込ませたり、またはそれでもモンスターの巣に入ろうとする頑固者を理論武装で論破したり、パーティにモンスターの脅威やモンスターの生物としての知識を授け、パーティメンバーの生存率を大幅に上げたのだ。


 そして入れ替わりの激しいパーティの最終メンバーが、ロデリーを含んだ強者パーティ、と言う事だ。彼らはロデリーに感謝していたし、なによりロデリーの存在がパーティには必要不可欠だったのだ。


 ――「ロデリーもまだ死なねぇらしいじゃねぇか」


 ――「囮役で、荷物持ち。そんなあいつが生き残れてるのってパーティメンバーが強い奴ばかりだからだろ」


 ――「人の力に頼りっぱなしってカッコ悪いな・・・。いつか捨てられるんじゃねぇの?」

 

 ――「むしろあいつが裏切りそうだけどな。見て見ろ、パーティに対して嫌悪の目ぇ向けてるぞ」


 だが、他の冒険者達からは彼の存在価値を理解されなかった。


 でも、それでいいと思っていた。


 皆が居るから、それでいいと。自身の存在価値は自身のパーティが証明してくれていると信じていたのだ。


 だが、そんな儚い想いはすぐに崩れることとなった。


 ――「逃げてくれロデリー、駐屯地まで直行してくれ!」


 ――「ここは俺達が食い止める!!」


 ――「ここは任せて!応援をお願い!」


 ――「ロデリーさんが戻ってくるまで待ってますからっ!!」


 『スコル12.28』。それが事件の名前だった。


 本来ならば何千年前に絶滅したはずの”スコルの獣”が、どういう原理か地上に出現し、パーティアス民主国の”外”を探索する複数の冒険者パーティを襲撃した事件だ。そしてこの事件で全長十五m弱の”スコルの獣”が討伐されたものの、冒険者側にも多大な損害を与えた。


 ロデリーもまたこの事件に巻き込まれた人の内の一人であり、パーティメンバー全員を失ってしまった悲惨な冒険者人生の幕引きでもあった。仲間や他の冒険者が”スコルの獣”の足止めをしている間、ロデリーはその異様な巨体に逃げたい思いがあった。だが仲間の前で逃げることは出来ないと、周囲の冒険者の士気に圧倒され、撤退を促すことも出来なかった。


 だが、ロデリーをよく知る仲間が彼に応援要請の役を任せたのだ。


 ロデリーにとっては悪魔のような申し出だった。


 ――「分かった! すぐに応援を呼んでくる!」


 仲間を戦地に置いていくことに罪悪感がかすんだが、”スコルの獣”の前では恐怖心が勝ち、ロデリーは仲間の申し出を受けて仲間を置いて救援要請に脚を走らせた。


 否、彼は逃げ出したのだ。


 一歩でも早く、目の前の恐怖から脱するために、駐屯地に救援を頼みに行ったのではない。駐屯地まで逃げたのだ。


 この後、ロデリーの通報を受けた駐屯地は当時から最強だと謳われていたゼクサーの父であるイズモに討伐要請を出し、”スコルの獣”は”外”を隔てる壁の一歩手前で討伐された。


 ”スコルの獣”が討伐された後、ロデリーは被害調査として仲間が食い止めていた場所へと赴き絶望を目の当たりにした。


 あえて多くは語らない。だが、相当悲惨な光景で、特にロデリーの仲間は損傷がひどく全員が全員、ロデリーの元へと”スコルの獣”を向かわせないようにしていたことが分かった。


 その時のことを、ロデリーは今でも覚えている。


 何故あの時逃げてしまったのかと、延々と自身の決心に嫌気がさす。

 

 そんな彼の背中を世間は標的にした。


 ――「あそこまで危険なモンスターなのにあいつが生き残れたのには訳があるはずだ!」


 ――「まさか仲間を囮にしたのか・・・!?」


 ――「あいつを冒険者業界から追放すべきだ!」


 ――「無能が生き残るなんてありえない!!」


 原理不明なモンスターの降臨に加え、冒険者業界の多大な損害、そしてそこには他の冒険者から良くない噂を流され続けている張本人。”外”の管理責任追及の良い肩代わりを国は見つけたのだ。


 国はロデリーにモンスターを何かしらの方法で召喚した疑いをかけ、自身の仲間達から荷物持ちの扱いを受けていたことによるありもしない憎悪を動機付け、冒険者界隈に莫大な損傷を与えたとして即刻ロデリーを国主催の冤罪裁判にかけて逮捕し、何から何まで仕組まれた結果に人生の終止符を打たれて、―――。


 そこで終わるはずだった。


 ――「テメェがロデリー=オーニアストかァ?」


 ――「誰だよ」


 ――「国主体の冤罪事件に絡めとられて、国家転覆罪で明日公開処刑だッてなァツイてねェ。テメェが望むなら、ここから出してやるァ。代わりにウチで働いてもらうがなァ、どォする?」


 国の持つ最高の刑務所の独房。そこでロデリーは、自身の愚かさによって仲間を先に死なせてしまったことによる罪悪感で打ちひしがれていた。だが、運が良かったのか、刑務官に変装したとある男から勧誘を受けた。


 返事は即答だった。


 ――「あぁ!頼むよ、僕はまだ死にたくねぇ・・・!!」


 結局死への恐怖が断然強かった彼は、罪悪感すら飛び越えて、檻の中からとある男の手を取った。


 そして彼は世界から姿を消し、精神病院の看護師として新しい人生を歩み始めた。勿論気分は常時最悪で、精神病院の患者と比べれば仲間の見殺しの方が何十倍と重くのしかかる。ロデリーはその過去の重さ故か、初めての精神病院のでの勤務も激務ではあるものの精神の頑丈さに至っては周囲の看護師からしてみれば、浮いて見える程で、笑顔と口が絶えないとのこと。


 ・・・その笑顔が作りもので、口だって過去の重さを露見しないようにと開き続けているだけなのも知られずに。


 しかし彼は新しい多くを得たのだ。


 ――「ロデリー、折り入って言いたいことがあるんだ。・・・君のその周囲の目を気にしない浮いたような態度と優しい心に僕の恋心がくすぐられてしまった。どうか、迷惑でなければ共に墓に入ることを前提に結婚してほしい!」


 女性看護師に告白したものの振られ、落ち込んだ友人を励ましていくうちにゲイに目覚められて、彼を一人の男として見るようになった黒髪メガネ男子のメルティオス。


 ――「ぼくさ、ロデリーさんのその作り笑いとか苦しいのを隠す冗談とかホント生理的に無理なんだよね。・・・言いたくなったら、いつでも聞くから。それ以外でお世辞とか言わないで」


 彼の本心をいち早く見抜き、それでなお皮を嫌うエルメット。


 ――「あらぁ、私の悪口大会で盛り上がってるのねぇ?怖いってねぇ、ひどいわ。私傷ついちゃったわ。傷ついちゃったから、私の悪口言ってた人の血管の血液から水分を一時的に抜き取ってあげる」


 クソサイコパスなミドル姉さん。


 それに加えた数々の同業者たち。そして―――、


 ――「オレは、トール。トール=リベリオン。オレとしては普通に接してほしい。変なわだかまりを作って仕事に支障を来たすとか格好悪すぎて、『業皇』様に合わせる顔がないからな」


 同じようで違う雰囲気のある男、トール。


 彼は沢山の出会いを手に入れた。だがそれもここまで。


 ――「頼むロデリー、生きて、伝えて。『終末番号(シリアルデッドエンド)』が逃げ出したって。僕は君を逃がすために、ここであいつを食い止める」


 メルティオスの言葉に駆けだす脚。後ろを振り向いたら『終末番号(シリアルデッドエンド)』がメルティオスの背中を貫く様子が見えた。


 罪悪感が嗤っていた。死への恐怖を抱えて逃げるロデリーを哂っていた。


 そして今度は彼だった。呆然としていたロデリーを引き寄せ攻撃を躱し、そして今度は逃がそうとする。


 ――「ロデリー!!さっさと救援を呼んで来い!!オレじゃ抑えることは出来ても鎮圧することは無理だ!今すぐ課長とかヴォルツさんとかミドルさんを呼んで来いッ!!今すぐ!!」


 彼が吠え、ロデリーは罪悪感に駆り立てられるも死への恐怖が勝り、またもや罪悪感から逃げる。応援要請の大義名分に貼り付けにされて、彼はまた逃げ出す。逃げる、逃げる。


 ロデリーは残念であった。だが、残念にはなりたくなかった。


 ロデリーの人生は不遇だった。でも不遇でありたくなかった。


 彼は罪悪感から永遠に逃げることは出来ない。足枷のように罪悪感が脚根っこを摑んで離さない。運命が彼をいじめるのだ。生への追及、逃避、忘却、だがそれも彼の一つの言い訳に過ぎなかった。


 逃げずに死ぬか、逃げて生きるか、そのどちらかしかない。


 ロデリーは走っていた。走り続けていた。脳裏には彼らの姿がある。そしてまた一人、追加されようとしている脳裏のメンバー達、そして薄れても存在する彼と、未だ空席だが誰かが座るであろう影が一つ。


 ロデリーは不遇な男で、そして残念な人生で、人の優しさに罪悪感を覚える人間だ。


 彼は走る。


 走って走って走って走る。彼の意思を無駄にしないために、今度こそは裏切らないように。


 彼は走って――――!!


 


 「今度は、僕が失う番だ」




 A A A 



 ロデリー=オーニアストは口が回る、知識の豊富な風属性冒険者である。


 今まで二度も逃げて来た。今でも死への恐怖に罪悪感が勝ることはない。


 ロデリー=オーニアストの人生は不遇で、残念だった。


 だからこそ、彼は人生の運命に牙を剥く。運命に中指を立てて、走り出す。来た道を逆走する。


 逃げて来た罪悪感にタックルを噛ますように、今まで逃げて来た過去にオサラバと。


 恐怖はあった。でも、置いてきた。罪悪感はあった。でも、「〇〇〇」苦しさに比べればどうってことはなかった。


 ロデリー=オーニアストは少し男に気がある、ただのノンケだ。


 そして彼は今日、「不遇」と「残念」を捨てた。


 

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