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『最弱』の汚名は返上する。~不遇だなんて、言わせない~  作者: パタパタさん・改
第一章『アルテイン編』
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第一章58 『外出』

 「悪ィな、ちょッと仕事の関係で外出しなきゃ行けなくなッてよォ。済まねェな、荷物持ち手伝ッて貰ッてよ」


 「いえ、別に構いませんが・・・・」


 「丁寧語、敬語、謙譲語を使うのは止めろォ。聞いてて嫌な気分になるからな・・・」


 「ご、ごめんなさいッ!」


 「かしこまる必要もねェッてのによ、変な奴だなオイ」


 晴天のあくる日、オレは課長のオレウスに呼び出され二人で街中を歩いていた。


 完全に私服かつ肩さげバッグを一つ抱えさせられ、黒いフード付きトレンチコートを着たオレウスの後ろを付いて行く。仕事はオレウスの課長権限で今日だけ剥奪されましたとさ。


 そんなわけで、俺達は一見若手政治発言者と荷物持ちみたいな面持ちで街中を練り歩いている。


 無論、そんな客観的に見て不審者としか思えない野郎共が市内をパトロールする警察騎士団に怪しまれないはずもなく、


 「おい、そこの赤髪の男と白髪の男、止まれ!」


 「そのデカい荷物はなんだ?んん??」


 大声が聞こえたかと思えば曲がり角から見計らったように二人の男が飛び出して、オレ達に指を突きつけてきた。


 白を基調に赤と青のラインの入った服を着て、腰には剣、手錠が据えられている。黒い手袋をした彼らはこんな喧嘩売ってくるスタンスを取っては来るが、これでも国の番犬的立ち位置にある『警察騎士団』という職務の人だ。


 警察騎士団と言うのは言わば近衛騎士団の劣化版。市民の安全を守り、職務質問を行うこと自体は近衛騎士団と同じだが、活動範囲が王都だけでなく貧民街や田舎を含めた全体であることや、その地域の影響をもろに受け、民度が低下しやすいといった違いが見受けられる。警察騎士団自体がかなり大規模な組織だからこそか、あまり細部まで指導が行きわたらなかったりするのは仕方のないことなのだ。


 それで、ここ南区『ケーフ』の民度はどんな感じかと言うと、ちょっと良くない。


 言い方が悪かった。例えるなら、気づいたら服のポッケに他人の煙草の吸殻が入っている感じだ。つまり悪い。


 そんな善人でも悪人になりかける『ケーフ』でパトロールする警察騎士団はどうかと言うと、やっぱり民度が低かった。


 「(帯剣してる剣の柄を握ってるあたり、血気が盛んなのが見て取れるな・・・)」


 ちょっとでも怪しい動きを見せたら斬る!という、市民を犯罪者扱いしてる警察騎士団の連中を見て、オレは溜息をつく。


 気づけば今さっきまで居た人の気配がまるきり無くなっていることに気づいた。どうやら、この区で最高の権力を握る恐怖は警察騎士団のようだ。そんなチンピラみたいな警察騎士団の男がじりじりとこちらに近寄っている。オレウスの背中が細いせいで全く大丈夫感がない。


 今ならダッシュで回れ右すれば撒くことができるだろう。だが、今のオレは重いバッグを背負った身だ。中に何が入っているかなんて気にしてはいけないことだが重すぎる。重すぎて普通に逃げ遅れる未来が見える。万事休す。


 さて、どうしようと考えていた時だ。


 ぼそっと、白髪のオレウスが呟いた。


 「失せろ」


 ―――一言だった。


 たった一言、その言葉が何を意味していたのかは分からない。だがその悪意に染まった言葉は牙を剥き、オレウスを中心に世界の首筋を冷たい刃物でスッと撫でる。


 悪意だった。それも、かなり濃縮された悪意。


 それがオレウスの口から発せられたのだ。


 どれほどの人生を歩めば、こんな鈍感なオレでも息を詰める程の悪意を感じさせる言葉を放てるのだろうか、とオレが畏怖の念をオレウスに抱いているとだ。


 「ひぃッ!!こ、コイツ、ヤバいッ!!」


 「お、応援を!応援を呼んで来いッ!!こんなの、もうモンスターだッ!!」


 警察騎士団の男共が冬の水辺に顔面を入れたかのような真っ青っぷりを見せていた。唇は青白く、頬に青い血管が浮き彫りになっていた。


 業ッと何かが二人の恐怖心を曝け出させたのか、警察騎士団の連中は阿鼻叫喚の声を上げて四方にとんずらを噛ましたのだった。


 もうそれはそれは、漫画でよく見るチンピラの逃げ方のようにあっけなく、「うわぁあぁあ!!」と本気で叫んでいて滑稽だった。本人らはそうではないのかもしれないが、見てる側にとってはちょっと面白wwwかったwww。


 「すまねェな。ちょッと身内に喧嘩売られたのが癪でよォ、『悪意』の方向性を絞らなかッた」


 「んえ?」


 くるっと振り向いて頭を下げるオレウスに、謎単語と謝られる経緯が分からずにオレの頭の中で呆然と困惑が入り混じる。


 が、その疑問を追求する余地はなく、オレウスがさっさとオレを置いて再び街中を歩き始めた。


 「え、ちょ!?」


 「さっさと行くぞ。オレ様もこの格好は目立つから長居はしたくねェンだよ」


 「なんで着て来たしッ!?」


 「あァ、オレ様自体お洒落とか興味ねェンだが、ゼクサーと一緒だからな。少しカッコつけてェッてのは父性の一環だとでも思ッてくれよ」


 「!?」


 人の鮮血のような真っ赤な瞳をオレにずらし、ふっと笑うオレウスの口から飛び出した単語にオレは一瞬気を抜かれたように棒立ちになった。


 「(ん?父性?いや不正の間違いだろ。そんな急に父親でもない赤の他人、ってかオレより二、三歳年上の青年じゃん。そんな男がオレと一緒だからカッコつけたくてお洒落してるってことなのか?いや、そんなはずはない。いくらイドの紹介先だからって、イドと同じ”気”のある奴なはずがない)」


 急なお父さん宣言に頭の上に「?」マークを浮かべながらも、オレウスの後ろを付いて行く。


 そしてそこから五分ほど歩いたところだった。


 「ここだな」


 「到着ですか?」


 オレウスが足を止めた先にあるのは一軒の飲み屋だった。古くもなく新しくもなく、丁寧に掃除が行き届いている様を見るに、店主店員は綺麗好きなのだろうか。二本の木の柱に白い土の壁。煉瓦も使われていた。扉は木製で、ガラス張りではなかった。


 「珍しいな。ケーフって結構潮風に当たって、錆びてたり砂が付いてたりするのに」


 「店主が代々やってることだからな。きちんと掃除して、ガタが来たところは新しい部品に取り替えるし、色も重ね塗りしてちょっとやそっとじゃ落ちないようにしている」

 

 「へー」


 「さッさと取引済ませるぞ。いィ加減、ゼクサーに重い荷物持たせてることに後ろめたさを感じてきた」


 「持たせてんのアンタなんですがッ!!?」


 オレの突っ込みも空しく、さらっと無視され白い髪を揺らしながらオレウスが店の中に入っていく。オレも慌てて付いて行き、店の中へと脚を踏み入れた。


 中はかなりシックな感じであり、土と木で作られた壁に壁につけられた燭台が慎ましく光っているのが眼に入った。机は全部で四つあり、カウンターテーブルと普通のテーブルには四つずつ椅子が置かれていた。開店前なのか、誰も居ないがとても寂しいとは思わなかった。


 「まだ準備中だよお客さん、って、業者の方か。声かけしてくんねぇと分からねぇってばよ」


 チリンとベルの音が鳴り、店の奥から人影が現れる。


 オレ達を出迎えたのは茶色い髭とボブの頭をした大きい身体のおっちゃんだった。目が見えなくとも、なんとなく仕草でオレを不振がっている様子だった。


 が、オレを紹介することもなく、オレウスがオレからバッグを外して店主らしき大男に渡す。


 「中身は?」


 「肉の缶詰が十個。内三個は内臓だから保存はしっかりと。後は出汁用の豚骨缶詰が四個。鶏ガラは三個。後はお得意様用のサービス缶が一個。確認して貰ッて構わねェよ。上の方から言われてるンでね」

 

 「野菜缶は?」


 「この前、野菜は缶に入れると化学反応起こして変色するって案件があッたからな。麻袋の中に入れてンだ」


 「あぁ、この前缶から麻袋に変更するって連絡事項貰ったな・・・。すまね、忘れてたぜ」


 「以上か?」


 「あぁ、以上だ。代金はカウンターに置いてある。漏れがないか確認してくれ」


 大男の物言いに、オレウスが店の中のカウンターテーブルに置いてある代金を手に取り、書類と確認する。

 

 オレは一瞬「缶詰・・・?」と思ったが、多分何かしらの隠語なのだろうと思い、突っ込まないで置いた。おそらくホントに缶詰でも多分中身は違うのだろう。野菜は人の皮膚とか髪の毛だったりと考えれば妄想が止まらないからだ。


 「えェッと、高級会合用鍋パセット一つ。三十二万五千クラン。追加の高級肉缶三個で二十一万クラン。あァ、ちゃンとあるな・・・。ンで再来月にはいつもの奴だな」


 「おう!たまには少しくらいお客様割引とかしてくれよ」


 「馬鹿。産地直送で必着で高級缶だぞ?人件費考えろ。東の産地から直送だ。電車代もバカにならねェンだよ」


 軽口に軽口で返すオレウスと店主の話し合いに、いつ終わるんだと突っ立って待っていると、ふと思い出したかのようにオレウス話を区切る。


 「そろそろ戻らねェと、上司が五月蠅ェ。代金も受け取ッたからなァ、お暇するぜ。行くぞ」


 「え、あ、はい!」


 トレンチコートを翻し、オレに外に出るようにと顎で促す。オレは軽く会釈をして外に出ると、その後ろからオレウスも出てきた。


 スッとした整った顔つきに赤い眼、そして肩までかかる白い髪を揺らしながら着崩れたトレンチコートを着直す様は最近の若者のような、若々しい雰囲気があった。トレンチコートの中は白いシャツ、下はジーンズなことにお洒落を感じたのは言うまでもない。


 「やっぱ着慣れねェなこれ。オレ様が着るよりも肩幅のデケェゼクサーが着た方が様になるンじゃねェか?」


 「じゃぁなんで着てるんですか・・・」


 「丁寧語も辞めろ。すりおろすぞ」


 「急に口が悪いッ!!?」


 ぶったまげていると、だぼだぼなコートを一心に握りしめたオレウスが「ついてこい」と歩き始める。


 またもやオレもその後を追いかけ始めた。


 

 A A A 



 「昼飯奢るぜ、ゼクサー」


 「――――!??」


 脚を止め、またもや店の前で止まるオレウスの発言にオレは混迷する。


 「どしたんすか急に。奢ったから一生病院で働けみたいな奴ですか」


 「馬鹿、身内にそんなこと出来てたまるかッてンだ」


 実際にしそうな顔をしているオレウスが慌てて反論したが、あまり信用がない。精神病院のアングラを司っている課長と来るとなおさらだ。


 オレが半歩後ろで引いていると、オレウスが必死に言葉を選びながらオレに何かを奢らせようと必死になる。


 「まァ、あれだ。・・・なんだ、その、て、手伝ッてくれたお礼、的な奴、・・・かなァ?」


 「いやオレに聞かんでもろて」


 「いや、そのよォ。やッぱオレ様も同じ性質で育ッた人間だからよォ、どォしてもゼクサーをそッち側の人間にしたくねェンだよなァ。だからなンつゥか、その、主従的な関係じゃなくて、なンだ?その、対等でありてェッて、思ッてンだよな・・・」


 「オレ様以外死ね!」みたいな威圧的なオレウスには珍しい、少し頬を染めながら指で頬を掻く仕草にこまごまとした物言いだが、オレの中で訳すとこういうことになる。


 仕事柄上司部下みたいだけど、仲良くなりたいから部下に一杯奢って関係をよくしてみたい。


 と言うことになる。なるほど、そう考えたら、目上の人に対する言葉遣いをやめろって言われたことに理由が付く。「先輩」と「後輩」で分けたくないのだ。そんな溝のようなものをオレウスは違和感に感じていたのだろう。


 「(だとしたらここで拒否するのは、なんつぅか、オレウスの良心を無視してる感じがするしな。ここは乗って置くかな。奢られるなら、昼飯代浮くし)」


 「餌で釣るとか犬かよって思ったけど、まぁ奢ってくれるんなら有難くいただきますよ」

 

 「分かッた。苦手なもんあるか?食えないものとか・・・」


 「ないですよ。オレ、基本的に好き嫌いとか、アレルギーとか有りませんから」


 「オケ。おススメ買ッてくらァ。ちょッと待ッてろ」


 そう言い残し、オレウスが風よりも早く店の扉を開けて中に入って行った。そして直後に店内から怒号と金属がひしゃげる音がし、店の屋根何かが超高速で突き破り、勢いを緩めずに彼方の方角へ飛んで行った。そして静かになる店内。


 「は?――――はッ!??」


 外で待っていたオレはその急展開に気を取られ、即座に持ち直す。


 強盗か、喧嘩か、少なくとも今さっきの出来事からして事件だ!と、判断したオレは腰に装備した熊皮製の鞘からイドの創造物の斧を抜き取り、両手に装備した状態で店の扉を開けようとして――、


 バンッ!


 と、オレの触れた扉が開け放たれ、とある人物が顔を出す。


 「チッ、何が「嬢ちゃん、俺と夜の上下運動しないかい?」だふざけンな。ゼクサーとのデートならまだしも、誰があンな筋肉質金髪男とやンだよ。―――と、ゼクサーか。どォした斧なンて持ッて」


 「オレが聞きてぇよ・・・」


 オレの目の前に居た人物、オレウスが小さい紙袋二つを手に持って平然とした表情でオレの戦闘態勢に問いた。


 オレは「なんでもね」とだけ答え斧をしまう。何というか、なんか分かった気がする。つまりオレウスを女子だと勘違いした馬鹿がナンパし、それにブチ切れたオレウスがそのチンピラをぶっ飛ばした。というあたりだろう。道理で「テメェの目は節穴かァッッ!!!」って声が聞こえたのか・・・。


 妙に納得し、戦闘態勢を解いた事になんの違和感も持たなかったのか、オレウスは紙袋の一つをオレに手渡して言う。


 「おススメの観光地がある。そこで昼飯食うぞ」


 「・・・・あぁ」


 有難く紙袋を受け取り、閉じられた袋の隙間を覗き込む。


 中には蒸気と一緒にパンに包まれた焼肉が入っていた。


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