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『最弱』の汚名は返上する。~不遇だなんて、言わせない~  作者: パタパタさん・改
第一章『アルテイン編』
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第一章50 『精神病院隔離病棟施設』


 イドがオレを抱えて空気を飛ばして連れてきた場所はパーティアス民主国の最南端にして、壁の中に湖がある特殊な構造をした地区『ケーフ』だった。


 この湖は”外”と隣接しており、過去から時々ここから水生モンスターが現出したり大量の魚が迷い込んだりするそうで、南区の地域の中では一番産業経済が発展しているところでもある。


 全体的に妙に塩分を含んだ湿り気がある、オレの鼻には合わない匂いが街中に広がっていた。


 「こんなところに精神病院なんてあんのかよ・・・」


 町の人間は明らかに船乗りだと言わんばかりに、その身体から水産業の香りがする上、ガタイの良い体つきに手にはモンスターを狩猟するための大きな銛が握られていた。


 町全体はオヴドール区と比べればさほど発展はしていないように見えるが、爺ちゃんの家の周りと比べると割と発展してると思われる。


 「確かに電灯もねーところだけど、身体的な病院と精神的な病院はあるぞちゃんと。今から行くのはその中の一個だよ」


 そんな説明を受けながら、イドはオレを脇に抱えて最南端の、それも壁際に設立されたかなりデカい病院へと脚を運んだ。


 「(壁際って、なんかなぁ・・・)」


 しっかりとした白い建物で、壁ガラスからは綺麗な女性や白衣を着た男性があくせくした様子で働いているのが分かる。


 だがしかし設立している場所にどうしても意味を見出してしまうのが悪い癖。何かに勘付きかけたオレはいつの間にかイドに抱えられたまま精神病院の奥方へと連れてこられた。


 周囲の目が気になったが、ロビーに居た人間は全員して人一人抱えた人間をイドだと認識した瞬間、「あぁいつものキチガイか」と納得して日常に戻って行った。


 「おいイド、お前普段からどんな言動してんだ? 今さっきの「なんだジォスか」って声がすげぇ聞こえたんだけど。後普通アングラな所と言えば裏口出入りとかするもんじゃないの?普通に堂々と玄関から入って来たけど・・・」


 「たこ焼きでマヨネーズを喰う? 何言ってんだお前。精神異常者のフリは別にしなくて良ーんだぞ」


 「なんかオレの知らないところで話が飛んでいるッ!?」


 しっかりと頭のネジが数本とれた返しをしてくるイドに降ろしてもらい、オレは連れられてきた道を見返した。


 こんなところに来て大丈夫かと思う気持ちと、これから禁域に脚を運ぶのかと思うと少し躊躇する気持ちが芽生えた。


 「大丈夫だルナ。ここは一見普通の精神医療施設に見えるが、ロビーに居た患者とか看護スタッフはカルト宗教の一員だからな。この病院の元締とカルト団体が仲良くって、悪魔的改造手術の被検体を上げる代わりに普通の精神病院のフリをしてくれる重度の信者を貸して貰ってるんだぜ」


 「なるほろ。ってかヤベェなそれは!! 被検体っておいおい・・・」


 そんな犯罪行為をする中継地点にオレを働かせるのかこのキチガイは。


 「犯罪に加担なんかしねーぞ! 言っとくけど」


 「あーそこは大丈夫だルナ。”あいつ”自身ルナにそーゆーことは出来ねーと思うし、なにより被験者引き渡しに関しては最重要項目の一つだから、まずぽっと出のルナには無理な仕事だろーな」


 「余計行く先が不安になるんだが・・・」


 「いーから行くぞ。こっちだ」


 「ちょまッ!?」


 なんかイドの知り合いってだけで、かなり重症なロリコンを想像してしまったオレが足を止めて引き返そうとするのを先読んでか、イドがオレの腕を摑んでとんでもない力で引っ張って来た。


 数秒意識が追い付いたかと思うと、今度は何の前触れもなくイドが丁寧な装飾を施された黒塗りんドアに向かって砲弾のような蹴りを炸裂させたのだ。


 ―――ッッッドン!!!


 と、音がおいて行かれたことに気が付き、慌てて衝撃に追いつく音がオレの耳をつんざいた。


 何をしたのかと、思うよりも早くイドがオレの手を引き穴の開いた壁の中を歩いていく。


 手を引かれ、急な展開について行けないオレは次々と切り替わる場面に呼吸さえもし忘れていた。

 

 が―――、


 

 「―――っ。・・・すっげ」


 

 オレの視界に見えたものは部屋だった。それも、こじんまりとした部屋でありながらも壁と床には豪勢な装飾品が飾られており、天井には電気式の照明が付いている。かなり小奇麗な部屋だった。


 漆黒を強調していながらも節目節目には赤いラインや黄色が散りばめられており、部屋の角には部屋には合わない動物の小物が置かれていたりする。どこかの工芸品なのかもしれないが、部屋奥でソファを独占している人間に聞くのは何か憚られてしまう。


 金の腕置きに紅色で染め上げられたソファはどう考えても一般人では手が出せない代物だというのが分かる。というか、部屋にあるソファもその間に挟んだ長机も全てが調度品なのが分かる。


 金の暴力。


 そう言って差し支えない部屋の豪華ぶりに目を奪われていると、イドがオレに奥のソファに座るように親指を指す。


 「し、失礼します」


 「居るんならちゃんとドア開けておいてくれよ。あー、後ドアの方は邪魔だったから吹っ飛ばして粒子分解して空気にしといたから感謝してくれて構わねーよ」


 オレは目の前の人物に頭を下げて座るも、イドはさも自分のやったことが神の御業と神格化しており、謝る気配も見せないでソファに座る。


 目の前の人物は此方に向き直り、肩にかかる程の白髪を揺らして赤く黒く染まった鋭い瞳を此方に向けた。


 「・・・テメェが連れてくるッつッてたからどんなキチガイを内包した奴だと思ッてたがァ、・・・見当違いだッたみてェで何より。――中々の”業”を宿した奴じゃねェか。改めて気に入ッたぞオイ」


 「あーありがてーなそりゃ。まー結婚する時は一旦俺に話を通せよ」


 「んんん???待てイド。どゆこと? オレまだゲイじゃねぇし、結婚のお見合いに来たわけでもねぇんよ???」


 「話がズレまくッてンぞオイ。そこのガキが困ッてるだろォが」


 「んあ? あーそーだそーだ!! 完全に忘れてたぜッ!!」


 「勘弁してくれよ・・・」


 げんなりと肩を落とすと、目の前の青年が話の指揮を執り始める。イドに話の棒を渡すと散々な目に合うのはこの人も分かっているようだった。


 「まァ、まずはお互いを知らねェとな。オレ様ァ先にジォスに事情を聞いてるから、テメェの名前も分かるンだが、テメェはオレ様の名前を知らねェンだ。こういう時は先に名乗るのが筋ッてモンだろ?」


 「いーからさっさと名乗れよ。見て見ろゼクサーを。お前が怖すぎて震えてるぞ」


 「(オレが震えてんのはお前が扉蹴飛ばしといて、持ち主に対して偉そうな態度を取れるところなんだよ馬鹿野郎ッ!!)」


 「どッちかッつーと、ジォスの横暴な態度に震えてンじゃねェのかそこのガキは。まァ、いいか。掘り下げても、無駄だ」


 と、イドへの理解を諦め、少しイライラした表情で。そうでありながらもオレに対してはひどく紳士な態度で名を名乗る。


 「オレ様はオレウス=ドラグノート。この精神病院隔離病棟の統括をしている課長的立ち位置の悪党だ」


 オレウスは「んで」と言葉を区切り、オレへと向き直る。


 「テメェがゼクサー=ルナティックか。赤髪の金眼電気属性となァ、覚えたぞ。一生忘れねェからなオイ」


 「は、はい・・・ッ!!」


 「おい馬鹿、怖がらせてどーすんだよ。歳的にはお前の方が兄貴だろーが。兄貴が弟泣かしてどーすんだよ」


 「チッ、・・・すまねェなゼクサー」


 「ちゃんと顔を見ろ顔を! 後「チッ!たかだか三下の癖に偉そォに・・・引き潰しすぞゴルァ!」なんて物騒な事言わねーの!! 弟は兄貴を見て育つんだぞ! 兄貴の口が悪くてどーする!!」

 

 「クソイドがァッ!! オレ様がいつそんな事言ッたッてンだあ゛ァッ!!?」


 「オイお前、いくらなんでもイクラよりもカズノコを優先的に見るとはどういう育ち方をしてきたんだ!? 何度も言ってるだろーが! 急にケツに物入れると脱腸するから、きちんと小さいものから始めろよってよー!!」


 「・・・・・・・・・・」


 ブチギレ討論開幕にオレは終始無言を貫くしかなかった。


 

 A A A 



 ひとしきりイドとのキチガイ討論をし終えると、イドは「んじゃ三週間よろしく」と言い残し、その場から消えた。文字通り。ふわっとイドが空気になった。


 「・・・・・」


 完全において行かれてるオレを白髪の男、――オレウスがイドの居た空気を見ながら言う。


 「イドの十八番の『座標移動(ファストトラベル)』だ。もう居ねェから見てても意味ねェぞ」


 「うわひゃいッッ!!?」


 軽く肩を叩かれ、思わずのけぞるとオレウスはこれ見よがしに不機嫌を顔面に露わにする。オレウスを見ると男性にしてはかなり華奢な体つきをしていたのが分かった。だがしかし、その身体から出てくるオーラは間違いなく、世界を敵に回してもおつりがくるほどの”悪意”に満ち満ちたものだった。


 反射的ンい距離を置くオレは即座に冷や汗を垂らしながらも思考を加速させる。


 げぇ!! なんか気に障ったのか?? どうする、どうする・・・??

 

 「(とりあえず謝り倒して、それでも無理だったら・・・。取り敢えず相手の反応を窺って、え・・・・・?)」


 ――ふと、オレはあることに気が付き身体を強張らせる、も。


 「あァ、すまねェ・・・。拒絶された時の癖がでちまッた。つい昔の記憶が出てきちッまッてよォ」


 「???」


 素人相手以外で役に立たないファイティングポーズを取るオレに、オレウスが頭を下げてはみ出していた悪意を収める。今さっきまで周囲に充満していたオーラが見る影もなくオレウスの中へと戻っていく様を見て、オレはゆっくりと拳をしまう。


 オレが戦闘態勢を解いたのに安心したのか、オレウスはゆっくりとオレの前を歩き、「ついてこい」と手招きする。


 不審に思いながらもオレがオレウスの後を追うと、オレウスはどこか憂い顔で、だがオレを視界に入れた瞬間顔を引き締めて言った。


 「今から本来の職場に案内する。看護師は悪名高い奴ばかりだが、全員一定の美学を持ッてッから、それを侵害しねェ限り敵対してくることはねェ。仕事も一からキチンと教えてくれるし、家族みてェに、引くほどいい奴が揃ッてる」


 「    」


 「ようこそ、ゼクサー。ドラグロイ精神病院隔離病棟施設へ。悪党が全員ただのクソ野郎じゃねェ事を、周囲の悪意ある眼から耐える力を教えてやる・・・。そして、」


 「そして?」


 「テメェは、オレ様の家族だ。他で危害を加えられたらちゃんと言えよ。オレ様がしッかりと〆てやらァ・・・」


 そう言ってオレウスはニタァ、と薄く笑った。



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