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『最弱』の汚名は返上する。~不遇だなんて、言わせない~  作者: パタパタさん・改
第一章『アルテイン編』
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第一章47 『身体の神秘』

 「しっかし、本当によく分からねーよなルナって。人類の神秘みてーな話なのかもしれねーけどさ」


 「?」


 午後八時半の夜中、いつもの山の中で熊肉を焼いていたイドが熊肉の焼き加減を見ながらオレに話を振って来た。夏休みが過ぎて一か月過ぎるか過ぎないかの季節なのに、どうしてか空気は肌寒く、熊肉を焼く火がオレの毛穴一つ一つに暖を与えてくれる。


 オレは真横で天然水を茹でながら、イドが作った塩と醤油と熊の骨で出汁を取りながら首をかしげる。


 「それって人間性とか、性格的な話?」


 「そーだとしたら、俺程までに人として完成した人間は居ねーよなー」


 「イドは一回人としての常識を学んでこい」


 「ひでー」


 ケラケラと笑いながら火をつつき、イドがふとその手を止める。急に人の気配が無くなった火の音が耳障り、オレが横目で見るとイドが変に真顔でオレを見ていた。


 「いやいや、なんでそーゆー話になる? 俺は最初からルナの話をしてたんだぞ?」


 「あれ? そうだっけ? 途中から自画自賛して無かった?」


 「ん? 俺は最初からルナの身体の神秘についての話をしてたんだよ」


 「そうそう、それだよ。で、オレの身体がどう神秘だって?」


 いつもの主語と述語と目的語が変わりまくるイドの話に突っ込むのは野暮だと分かった上で、オレは敢えてイドのコロコロ話題に付いて行く。


 目が冗談を言う目ではないことだ。


 勿論、イドの場合は冗談と本気の区別がつきにくいからオレも適当に相槌を打つつもりだったのだが、今のイドからは『冗談』が消えていたのだ。


 オレが焚火を強火のまま維持しながらイドの次の言葉を待つ。


 ――――。


 息を吸う音が聞こえた。身がこころなしか少し縮んだ気がした。


 そして―――、


 

 

 「ルナってさ、俺と出会う前に『翼』生やさなかった?」


 

 

 ――――は?


 急なイドの謎発言に困惑する。


 「・・・・は?」


 夜中の薄暗い二つの光が灯される山の中で、オレの声が木霊した。


 

 A A A 


 

 「『翼』・・・ってなんだ?」


 オレが思うに、ただの”翼”ではないだろう。イドはもっと別の”翼”のことを言っているのだ。だがしかし、残念ながらオレにはそれがなんなのか分からない。


 「(でも今の口調だと、オレがハトポッポだった時があったはずだ!って感じだし、そもそもオレはクルッポーじゃねぇし・・・)」


 結局行きつく先は、「どゆこと???」だ。


 オレが視線でイドに説明を仰ぐと、イドは「えー」と不満顔で息を吐いた。


 「え? 分からねーの? 『翼』だぞ『翼』。あれだぞ、鳥の付属パーツだぞ? 見たことあるだろー?」


 「え? それだよね? その『翼』だよね。手羽先になる部位だよね?」


 「そーそー、人が持つ潜在的な力を解放するその『翼』で間違いねーよ」


 「あれッ!? 待てイド、今全く前後と関係の無い『翼』の話題が入らなかったか?」


 「は? 最初からルナの身体おかしーよなって話だっただろが。何勘違いしてんだ?」


 「?????????」


 更にオレは混乱した。オレとイドで『翼』への解釈が間違っているようだ。


 ”?”で頭がいっぱいなるオレはイドに尋ねることにした。


 「ちょっと混乱した・・・。イドがオレの身体がどうとか言うのと、『翼』とどう関係があるんだ?」


 「え!? 今さっき散々説明したじゃねーか!! さっきの一時間何してたんだッ!!?」

 

 「お前の『今までの経験から語る、科学的に男子を気持ちよくさせる方法!』の講座を受けてたんだよ! 何で記憶飛んでんだ!!」


 「あれ? そーだっけ? 俺ルナに話したのって、『うんこの形から男子の受け攻めと弱点を理解する方法』について教えてなかったか?」


 「そもそも話が飛んでるんだよバカヤローッッ!!」

 

 手に持っていた薪を思い切り火を囲う石に打ちつける。こいつ、話を聞かなさすぎる、というか、聞き違い過ぎる、というか、こいつの頭の中であることない事ヒストリアしてやがるせいで、話がズレまくる。


 そして最後に話がズレる原因をオレ認定するんだからイドは・・・。


 オレが深く溜息を吐くと、「ったく、もう一度説明してやるよ」とイドが面倒くさそうに熊肉を刺した棒を裏返す。


 「本来、人は一人じゃ生きられねーんだ。家族、友人、兄妹姉妹、はたまた全く知らねー赤の他人とかと一緒に生きる。人は群れる生物なんだよ。皆が皆、皆と依存し合ってるんだ」


 「・・・・」


 「だから、人の行動源は大抵無意識の底に『みんなの為』って言葉が働いている。属性も同じ。『周囲の為』、『みんなの為』、『世界の為』って言葉で動いてるから、人は無意識的に力を出し渋っているんだ」


 「出し渋っている・・・?」


 「そーそー、”自分の為”じゃなくって”他人の為”。分かりやしー例だと、募金とかだな」


 「募金?」


 「根底を『他人の為』にしてるから有り金全部はたいて募金しよーとか思わねーじゃん。それが属性も同じだってことだよ。根底が相手依存だから、どれだけ『自分の為』を飾っても力は100%出されねーんだ」


 一息つき、イドが火の勢いを強くする。


 「『翼』ってのは、初顕現の時に属性能力者の背中から”翼”が生えたように見えた事から来てる訳だが、この『翼』には”独立”の意味が含まれているんだ」


 「独立・・・・」


 「そー、独立。一番近い関係である”家族”から脱して独立するってことだな」


 「独立して何の意味が」とオレはイドを見る。イドは「それでも分からんか」と若干呆れたような眼をオレに向けた。


 「精神的かつ物理的に、親離れか子離れした際に人と属性の意識は『他人の為』から『自分の為』となる。これはつまり、全ての事象に対して潜在的な力を全部”自分の為”に出すってことなんだよ」

 

 「んで?」


 「『翼』は発動した人によって総じてあらゆる恩恵を受けることとなる。今まで『他人の為』だったのが『自分の為』に変化した反動だがな。んで、この中には能力量増加、指向性・制御性の繊細さ強化、身体能力・動体視力強化ってのがある」


 「ふーん」


 オレが関心したと相槌を打つ。『翼』にそんな意味や効能があったとは驚きだ。そもそも、そういう存在があったということに、そしてそれがイドの冗談ではないということに。


 だがイドはと言うと、ぼうっと空を見上げていた。


 「・・・おかしーんだよ」


 ――と。


 「何が」と聞く前に応えは返って来た。


 「ルナの成長速度がおかしーんだ。男子を見れば、その男子の全てが分かる俺が見てもルナの人生の中に『翼』が発動した形跡がねー」


 「・・・? それって単純にオレが沢山練習したからとか、そういう話じゃねぇのか?」


 オレが疑問に思いながら尋ねてみる。オレはあの時、イドの指導で気絶するまでずっと鍛錬してきたのだ。パルクール中の攻撃や『雷撃』なんてのもイドの指導とオレの必死さが生み出した賜物だ。


 それが”おかしい事”なのか?


 「おかしーんだよ。だって考えてみろよルナ。地上から空まで高さは120㎞。雷雲の中の電子が下に落ちてくる『落雷』現象を意図的に”制御性”だけで、向きを変えて圧縮までしてるんだ。普通の人がやったら平気で数か月かかるんだぞ? それをルナはほんのニ、三週間で完成させたんだ」


 「――――ッ!!」


 「でもってパルクールもだ。いくら過去にやったことあるからって、数年間やって無かったら身体がまた慣れるまでに数日はかかるはずだ。それをルナはほんの数時間でパルクールができる身体になった。どー考えても、これはおかしーだろーが」


 「        」


 「この世界が俺に追いついてねーから、最初は俺の単純な見落としか、単純にルナの習得能力が高いだけかと思ってたんだよ。――でも、流石にそれで何とかなるレベル話じゃなくなった」


 「」


 無言になるオレにイドは自身の推察を決定づける証拠を投げつけた。


 「――『平面の集中力』だ」


 「――――――」


 「『平面の集中力』は神経逆立てたら出来る代物じゃねーんだよ。神経逆立てて、能力量と属性で練った限りなく薄い線で作られた網を世界に投網するように投げて、能力量が途切れねーよーに気を張って、初めて完成するものだ。めちゃくちゃな集中力が必要なのに、ルナはそれしながら動いてただろー? もーこの時点でおかしーんだよ!」


 イドの断言にオレの肩が震える。確かに、そこまでの時間がかかるなればオレがここまで来ている理由が分からない。パルクールも、『雷撃』も『平面の集中力』も、もっと時間がかかるのだと、もっと時間をかけなければ普通は習得できないのだと、


 更にイドはオレに詰め寄る。じっとオレだけを見る視線に、自然とオレは目を逸らしてしまいそうになる。何も後ろめたい事はないのに、だ。

 

 「どー考えたって、数か月単位の話を数週間に圧縮するなんて芸当、『翼』を発動したことのある奴じゃねー限り不可能なんだよ」


 断言し、オレの瞳を覗き込んでくるイドに思わず身をよじらせる。


 「分かんねぇよそんなこと! オレだって人生の中で『翼』なんて生やした覚えねぇし、何よりオレまだ『翼』の発動条件満たせてねぇじゃんッ!!」


 もしオレが人生の中で知らず知らずの内に『翼』を発現させていたとしよう。だとすれば確かにイドの言う通り、オレの成長速度は『翼』の恩恵によって格段に上がっていると言える。


 だが、だ。


 そもそもイドは『翼』の発動条件に何を言ったのか?


 ――「精神的かつ物理的に、親離れか子離れした際に人と属性の意識は『他人の為』から『自分の為』となる」


 と。


 なれば、オレはこの発動条件を満たせていないのだ。


 「精神的には、自立してるかもしれねぇ! でも、物理的に自立はしてねぇじゃねぇかッ! オレはずっとあの家に住んできたし! 親父だって一日に一度は家に帰ってるし、時々家で会う! これは物理的な自立は出来てねぇじゃねぇかッ!!」


 「そーだよ!そーなんだよ! だからおかしーんだよ! 分かるか? 俺はルナが『翼』を発動してるなら一発で分かるのに、ルナは『翼』を出した形跡がねぇ! それなのに、ルナの成長速度は『翼』を発動した人間そのものなんだよ!」


 声を張り上げ、疑問がまっすぐにオレの耳を突き刺す。


 「・・・・・」


 どうにかその問いに答えたいとは思うものの、無いものを引っ張り出せと同じくらいに難しい。


 オレは残念ながら答えを持ち合わせていなかった。思い当たる記憶もないのだ。


 ただそれはイドも理解しているらしく、オレが伏し目に横に首を振るとイドはオレから再び元の立ち位置に戻った。


 「確かにな。万が一の可能性もあるかと思ったけど、そーか・・・。手掛かりナシか。じゃー、辞めるかこんなしょーもねー話題」


 「え? 良いの? あんなに知りたがってたのに?」


 「いーわ。この話題はルナが『翼』を発現した時にでもまた掘り返すわ」


 少し残念がりながらイドは熊肉の焼き加減を見て更に凹む。どうやら焦げていたらしく、裏返したときにほんのりと炭のような匂いがオレの鼻孔を撫でた。


 

 その日の熊肉は、こころなしか味がしなかった。

 

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