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『最弱』の汚名は返上する。~不遇だなんて、言わせない~  作者: パタパタさん・改
第一章『アルテイン編』
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第一章44 『実質モンスター』

 イドの作った地下通路を這いずり、歩き、上った先で―――、


 「おせーぞルナ。遅すぎたから今日狩るはずだった飛竜、先に俺が狩っちゃったじゃねーか」


 引き締まったダンディと言えるその頬をぷっくりと膨らませ、筋肉ムッキムキの腕を組んで、イドは真後ろに飛竜の亡骸を収める形でオレを待っていたようだった。


 傍から見れば飛竜獲ったどーした原始人に見えるのだが、オレが驚いたのはまた別の所。


 イドの後ろにある飛竜の亡骸だ。


 オレは図鑑でしか見たことはないが、体長は約10m以上の巨体だと聞いている。だが目の前の飛竜の亡骸は、その倍はあった。


 緑色の鱗。黄土色のラインが入っている白い角。どれをとってもデカすぎる。


 竜というよりは”悪魔”という印象の方が似合っていると、そう感じる飛竜の死体。だがそこまで大きいのも”外”という修羅の環境下でなら妥当だと判断できる。


 オレが感じたのはその頭の後ろだった。


 「なんで身体がねぇんだ・・・?」


 オレの目線の先、ぐったりとただの有機物と化した飛竜の頭。その先が見当たらない。頭を支える部分が全く持って見つからないのだ。


 確かに頭はでけぇ。だけどもそれで生物が成り立つはずがないのだ。


 終始今はない飛竜の身体を見ていると、それに気づいたイド捕捉を入れる。


 「あー、それな。反粒子崩壊エネルギーをぶつけたら、被爆耐性無かったのか頭以外消し飛んでよー。最初は翼だけ燃やして、飛竜との陸上戦をルナに体感して貰おーと思ったんだがよー」


 「???」


 余計疑問が湧いただけだった。


 そもそも反粒子がなんなのか分からない上、それを崩壊させたエネルギーをぶつけ・・・は?え? 被爆耐性?舐めんなそんなもんオレにも無いわッ!! 翼を燃やす?それはもう飛竜じゃねぇんだ。ただの竜なんだよ・・・。


 色々思う事はあったが、イドの言っていた肉食モンスターの対象はこれだったのだろう。


 だとしたら困ったことだ。


 「今日狩るモンスターどうすんだ・・・」


 一応”外”だ。イドがその気なら別の肉食モンスターを探して、それを狩ることになると思うが。


 そんな感じの事になるかと、オレがそう思っていたが、イドはと言うと、


 「ん? 別に今日狩るモンスターはモンスターだが、どーした?」


 「は?」


 突然のイドの言語不得意にオレの拍子抜けした声が響く。そのオレの分かって無さに何を理解したのか、イドは「あー、そーか」と納得する。


 「別に飛竜はおまけだよおまけ。今日狩るモンスターのおまけ的な立ち位置だったんだよ。先に飛竜と戦わせて、身体があったまったところでメインディッシュみてーな?」


 「いや知らんがな」


 さらっと言われる戦闘内容。下手をすればオレが飛竜の餌となるところだった。


 「(つぅか、オレとしては飛竜と戦うってだけでもうお腹いっぱいだわ)」


 いくら羽が無いと言っても、腐っても竜だ。それにこの大きさとなればオレの斧撃も脚も効かなかっただろう。


 だが、こうともなるとオレの前に残っているのはイドの言っていた”メインディッシュ”だ。飛竜がおまけと言うことは、その核たるモンスターは相当な奴なのだろう。


 飛竜より強いモンスターと言えば、ここらへんだと何が居るだろうか?・・・と、オレが思考していると、イドが手を振って言う。


 「そんな身構える必要ねーよ。飛竜程強くねーし、ちょっと素早くてちょっと攻撃力高くて、ちょっと防御力高いだけだから。急にルナにそんな”外”を生き抜いてきたバケモノをぶつけるわけねーだろ。はっはっはー!!」


 「お前今の発言と状況に矛盾が生じてんぞ」


 オレの突っ込みも空しく、イドは「矛盾あってこその人生!」とか意味分からんことを言いだし、後ろに控えさせていた飛竜の頭を担ぎ上げる。数百㎏はあるだろうその巨躯をなんの迷いもなく担ぎあげるのには本当に尊敬の念を送りたい。・・・筋肉のバケモノめ。


 移動するのか、「ついてこい」と言ってその鍛え抜かれた筋肉の背中を惜しげもなく見せながら草原の中を歩きだす。オレもまたその後ろを着いて行った。


 今日も今日とていい天気だ。『雷撃』の撃てない天気なだけあって、戦闘には不向き極まりないが。


 そうして心地いいい風を感じながら1㎞ほどを歩いた頃だった。


 「ルナ、そろそろ今日のサバイバル内容を教えておこーと思う」


 イドが今日のメニューについて話始める。オレは少し胸をドキドキさせながらイドの声に耳を合わせる。


 「(いったいどんな無理難題を押し付けられるというのか―――)」


 

 「今日狩るモンスターはなー、――――熊だ」


 

 A A A


 

 熊。熊と言えば、昔爺ちゃんが格闘して倒して、家まで持って帰って来たあの”熊”だろうか。


 「そーだな。その熊で間違いねーぞ」


 「人の心を読むな。と、後ホントにそっちの熊なのかよ!? なんかのモンスターの隠語とかじゃなくって!? あの熊さんで間違いないんだなッ!?」


 「何を慌ててるのかは知らねーが、そーだな。シャンシャンの近縁種だな」


 イドが肯定したのもあり、オレの今日の相手が熊だと確定した。なんでや。


 「なんで熊なんだよ。あれか? ときたま武勇伝で聞く、『ワシは昔熊に出くわしての~』みたいな思い出作らせようとか、そういうことなのかッ!!?」


 「ばっか、そんな程度の武勇伝作るんなら、『俺は昔精神病院の隔離病棟で勤務してたことがあってな~』の方が数倍強者感出るだろーが!!」


 何故か別の方面でキレられてしまった。解せぬ。


 「(ってか、熊より精神病院勤務がヤベェって、価値観狂ってんじゃねぇのかッ!?)」


 「まー、大会の二か月前になったら、友人の伝手を辿って精神病院のかなりアングラなところに三週間くらいお前を預ける予定だからな。そこは安心してくれていーぞ」


 「何も安心できる要素がねぇッ!! ってかどういうこと!? オレそんなとこに行かされるの!?」


 「大丈夫! ちゃんと給料も支払ってくれるし、患者さんとのふれあいコーナーにも参加させてくれるってよ!! 聞ーたことだと、どーやらガチホモジジイが沢山いるらしーんだ。ホントは俺が行きてーんだが、ここは未来あるルナに託そーとな・・・」


 クッと、飛竜の鱗で涙を拭くイドにオレの突っ込みが間に合わない。


 どうやら何を言っても、オレが精神病院に臨時勤務することに変わりはないようだ。マジかよ。急に死にたくなることをブッ込んでくるなよ。オレにだって色々準備する事があるのに・・・。


 ―――と、なんか話がそらされている事に気が付いた。


 オレはすぐさまイドの「そーいやこの前ゲイバーに」という言葉を遮り、迷いなく突っ込む。


 「なんで熊なんだよ!!? もっと別のモンスター居ただろッ!!」


 オレがまさか全く話に沿ってない突っ込みをするとは思わず、イドが目を見開く。


 相当びっくりしたようで、肩にかけていた飛竜の頭が滑り落ちそうになっていた。半分記憶になかったのだろう。そういう目をしてやがる。


 だがやはりはイドだ。蘇った記憶を読み漁り、激おこなオレを片手で「どーどー」と収める。


 「いくら熊っつっても、”外”の動物だし、今回狩る奴はその中でもかなりの修羅場をくぐった奴だ。あらゆる戦場を潜り抜けてきた熊なわけだが、こいつは鉾撃と剣撃にとんでもなく強い皮膚を持っている。下手すりゃ折れる。そのくせ頭は良ーから冒険者への人的被害が後を絶たねーって訳だ。こんなもん、実質”モンスター”みてーなもんだろー?」


 「それを今回、倒すと?」


 「そーだ! 俺達の手で、この負の連鎖を断ち切ってやるんだよ!」


 グッと拳を握るイドに筋肉が唸る。これほどまでに今日ほどイドを恰好良いと思ったことはないだろう。くッ、馬鹿カッケェじゃねぇか・・・ッ!! 


 ここまで男前なイドが永遠に続けばいいのにと、そう思ってしまう自分が居る。


 なんにせよ初めての二人の共同戦線だ。気を引き締めねぇとな・・・。


 「まー、俺はあくまでもルナの補助だ。基本戦闘はルナに任せる気でいる」


 「おいこらさっきの友情と感動を返せ」

 

 最後の最後までイドはやはりイドだったようで、とても格好が付かなかった。


 

 まぁ、そんな茶番はどうやらここまでで―――。


 

 「ルナ」


 「うん?」


 急に真剣な表情をしだすイドが小さな声でオレを呼んだ。手にはおそらくは戦士専用の物だと思われる完全戦闘用の斧が生成されており、その柄をオレに向けていた。眼からは「今すぐ受け取れ」と言っているのが分かり、オレはなにも言わずにそれを左右の手で握りしめる。


 「(どーしたってんだよ。急に)」


 「何かが、西南から俺達を見ている。距離は200m。何も気づかねー振りして無防備を晒せ」


 「それって今さっき言ってた熊か?」


 「分からねー。オスだったら分かるんだが・・・」


 「雄だった分かるが」とは言ってくれるが正直オレには雄でも分からねぇ。そんな視線なんて数百mも離れてたら分からんし・・・。


 そう思いながらもオレは戦闘態勢を整え、脳内物質の中のセロトニンだけ容量をいじり、どんな動きにも対応できるように冷静さを全身に伝える。


 斧を握りしめつつも、動きには鈍さを入れて、普通通りのイドの話に耳を傾けて突っ込みを入れる。だがイドもオレも全く持って話に集中はしていない。周囲に危機感を張り巡らせている。


 そして―――、


 「動き出したな。距離180m。西南から少しずつ近寄ってくる」


 「普通に小走りを始めた距離150m。視線的に狙いは無防備晒してる俺だ。体長3m」


 途中「あ、こいつだ」とイドが軽く呟き、オレもまた全身の気を周囲に張り巡らせる。一瞬の空気の変化にも気づけるようにと。


 そして距離はどんどん近づいて来る。


 「距離100m。まだ振り返るな。カウンターを狙う」


 「距離60m。俺が『疲れた』っつったら西南方向に斧撃噛ませ」


 「距離30m。ここで飛んで突っ込むつもりだ」


 そして―――ッ!!



 「そろそろ休憩するか。俺、t


 「ふんっ!」


 「uかれた――」と台詞が終わる直前として、オレの肌が、感覚が、その”気配”に気づく。その反応に従い、オレは事前動作なしで斧をスナップを効かせて振り上げる。


 振り向いた視界には聖典を覆い隠す黒い影。その中に確かな獣臭さと白い牙。そして黒の瞳に映し出されるイドの姿。


 少し早かった――! ・・・・と、思う間もなく斧の先端が黒いモンスターの額を、左目から右口辺りまでに赤い線が走り抜ける。


 ――――その後約一秒。


 「ヴォオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!????」


 痛烈な叫び声が世界に響く。


 完全な奇襲とは行かなかったものの、完全に意識外だった奴の攻撃に目を白黒させる熊が絶叫する。


 その直後、


 「ぶっとべー!」


 イドの脚が熊の腹に突き刺し、そのまま熊をぶっ飛ばす。音を置き去りにして。


 「なんだ今のッ!? 常人から出て良い出力の蹴りじゃねぇぞ!!」


 「仕方ねーだろ!まだ世界が俺に追いついてねーから、素の火力出すと世界が弾けるんだよ!だからこーして斥力二倍反転&重力無視&風圧無視&体重無視の調整した蹴りを喰らわせてんだッ!!」


 さらっとすごい事を言い、そのまま熊のぶっ飛ばされた方向に飛竜の頭をぶん投げるイド。奇襲に奇襲を重ねた連携攻撃を加え、オレもまた斧を構える。


 まるで線の上を沿っているかのように回転もなく軌道変換する飛竜の頭。それが煙に巻かれた熊の場所に着弾し、さらなる粉塵、そして衝撃により震動を地面に伝える。


 何から何まで無茶苦茶なイドだが―――、


 「構えろルナ! 粉塵の左右に気を配れ!」


 その声と同時に茶色の粉塵。その左から黒い塊が唸り声を上げて粉塵を突き抜ける。


 「(――――ッ!!)」


 絶叫上げてこちらを睨むモンスターの全貌がオレの視界に映りこんだ。


 全身が黒茶色の毛で覆われており、体長は約3m強。かなり鋭い爪と牙に、鍛え抜かれた体つき。眼からは此方への敵愾心が見て取れる。飛竜の頭が直撃したのか、背中には飛竜の鱗がついていた。


 唸り声は上げているものの、その瞳には「怒りに任せるふりをして油断を誘う」と、明らかにいパン人よりも格上の考えが映し出されていた。


 オレは直感する。


 ――こいつは明らかに”動物”の枠組みを超えていると――。


 途端、オレの全身の神経が逆立ち、一層斧を握る拳が硬くなる。


 これが、強者の感覚か―――。


 「っしゃー! ガンバレルナ! 不味くなったら時間停止でもなんでもしてやるからー!」


 「なんか怖いんでやめてッ!?」


 イドの危ない援護宣告に締まらない返事を返す。


 だがそれを決起として――、


 「グヴォオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!」


 モンスターよりも怖い動物が、知性の怪物が剛腕を振りかぶってオレの戦場に躍り出る。


 

 ―――戦闘、開始。


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