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『最弱』の汚名は返上する。~不遇だなんて、言わせない~  作者: パタパタさん・改
第一章『アルテイン編』
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第一章35 『塩辛鶏肉パン』

 オレが遅刻ギリギリで登校。


 委員長の席が無くなっており、委員長は白目で痙攣状態。


 オレの机には他人の体操服袋。


 金髪女が怒り狂っており、それを茶髪が必死に止める。


 全員が呆気に取られている状態の中、先生にかなりの状況理解能力を要したのは言うまでもない。


 だからとりあえず先生はなるほど一番手っ取り早い方法を選んだのだ。


 「ゼクサー=ルナティック。後で職員室に来なさい」


 どうやら先生も”電気属性を発現したオレのせいでクラスの風紀が荒んでいる”と言うこじつけで、オレを犯人に仕立て上げたいようだったのは言うまでもない。


 流石にオレが遅れて登校と言うカードを切っていれば、こういう状況下になっても元凶はオレでないと思ってくれるとかと踏んでいたが、やはりそうではなかったようだ。


 流石の先生だ。しっかりと状況の理解を放棄している!なんなら冤罪を吹っ掛けられたまである。素晴らしい!どこに証拠があるのか教えて貰いたいくらいだ!!


 クラスの混沌模様はオレが電気属性発現する前からであり今更感が強い。だが、先生的にはこのまま犯人捜しをするよりか、自分から見て”電気属性”で浮くオレを事の発端として扱った方がこの混沌を相手にせずに済むと考えたようだ。何?このクラス、先生もクズなの???


 しかしながらオレは究極的被害者だ。勿論、ここでノコノコと先生の説教に身を甘んじる気はない。


 しっかりと反論するのがオレのポリシーだッ!!


 「職員室でないと先生としての威厳が保たれないからですか?」


 「ッ!!?」


 「この場でちゃんとした証拠出して『お前が事の発端だ!』とか言ってくれればこっちも納得ですが、わざわざ職員室に行かなければならない理由がありませんね」


 「一端の生徒がッ!偉そうにぃッ!」


 「一端の教員がッ!偉そうにぃッ!―――こんなのでどうでしょう?」


 「!!!!!!!!?????」


 オレが先生の言葉を真似して、声音も変えながら似ているかどうかの確認を取る。


 そんな舐め腐った態度に先生の顔もまたゆで蟹の如く真っ赤になり、ついに声にならない怒号を発し、そのまま数秒その場で停止していたかと思えば踵を返して教卓の方へと歩を進めた。


 「(おいおい、委員長どうすんだよ・・・。ぶっ倒れたままじゃねぇか)」


 何故か知らないが、先生はぶっ飛ばされて意識朦朧の委員長をほっぽりだし、何事もなかったかのように朝礼を始める。その先生の異様さに恐れを為した生徒が十数人が先生の通りに挨拶をして着席していった。


 「――では、連絡をいくつか・・・」


 暴力で事を解決することもできない。かといってオレは先生に対して怯んでない。混沌の極みみたいな状況を理解したくないし、犯人探しが面倒くさい。


 色んな要因によって出た答えは”なかったことにする”だったようだ。


 無茶苦茶自分勝手だが、オレに被害が出ていないためまだ健全な答えだと言える。


 オレは正当防衛行使した被害者だし、そもそも原因はこのクラスの風紀の乱れだ。いくら”電気属性”とはいえ、それを理由に人に嫌がらせをしていいという道理はないし、あらゆる事件の原因をオレに当てはめるのは不合理でならない。


 「(というか電気属性は普通に戦える属性だし。あんまり目立った攻撃方法は無い訳だけどそれでも組み合わせによっては”複数属性(マルチスキル)”を打ち破る力はあるんだよな・・・)」


 やはり偏見はよろしくない。そう思いました。


 「再来週までに、参加したい人は総受付の人事部に連絡入れて、参加申し込み用紙に記入しておくこと。―――以上だ。何か委員会で連絡とかはないかな?」


 先生の不気味過ぎるいつもの真顔に誰も何も言わない。


 せっかくだし、オレが何か言ってやろうかなと思ったが流石に泥沼合戦を見る気力がこのクラスには残っていない。失神の委員長に、「フー!フー!」言う金髪女を止める茶髪クン、何もせずに突っ立ってるだけのパリピ三人衆。


 どう見てもクラスの主戦力は機能していない。そしてこのクラスの中で現在最もヤバい発言をしかねないのがこのオレとなる。


 だとしたらそれはもう単純で、先生の発言と同時にクラスのほとんどの生徒がオレに視線を向けてきた。眼が見えないからこそ、その真意はエンタメか、それとも火の粉を出すなという警告なのかは分からない。だがなんか疲れてそうだな、とは思った。


 なのでオレは特になんもねぇなぁ、と首を横に振る。


 その対応に肩の力を抜いた者もいれば、あからさまに嫌な口の歪ませ方をしてくる者もいた。


 だが先生としては何もないことは安寧そのものだったようで、「そうか、では朝礼は終わる」と言い残し足早にクラスを出て行った。そんなにこのクラスに居たくないのかよ。・・・気持ちは分かるけれども・・・。


 放置された混沌のクラスにオレは溜息を吐き、そしてふと視界の端でビクビクしているものを見て、殊更に思った。



 「(委員長、どうしようかなぁ・・・・)」


 

 オレからして左の壁で、まるで脊髄抜き取りで〆られた甲殻類のように身体をカタカタさせている委員長。


 こいつの処置に悩んだ。


 

 A A A



 昼食の時間になった。


 ちょっと色々あったが昼食の時間だ。


 毎時間の休みになるたびに金髪女の舌打ちが聞こえたり、わざと机椅子をひっくり返されたししていたが、それに関しては今度は金髪女の机椅子を焼却炉にぶち込んで知らんぷりを決め込んで終了。


 委員長はなんか複数人の生徒が運んで医療室に運んでくれたようで、そのまま早退し終了。


 先生に「昼休み生徒指導室で二人で話し合おう」という紙を渡されたが、生徒指導室の鍵を先生のバッグに放り込んでおいたので、後で「生徒指導室は開いて無かったですハイ」と言っておけば終了。


 クラスの空気が一段とエンタメ重視と問題を起こすな重視とで明確に区分けされたが、オレはオレなのでそのまま終了。


 色々あったが、無事に解決したので何も問題はない。


 次同じことがあれば、しっかりと毅然とした大人の対応(キチの思考回路活用)をするまでだ。


 「よくよく考えて見りゃ、オレが古い価値観に縛られていいようにされるのをみすみす見逃していい訳がねぇよな・・・」


 食堂のおばちゃんから総菜パンを買い、屋上へと続く階段を上りながらオレは自身の過去を振り返り、自身の事なかれ的思想を反省する。


 どうやら属性だけでなく、オレの精神性が他者の言うようホントの”残念”だったようだ。


 これなら確かに上辺だけでは「相手にしていないだけ」とか、「大人の対応をしている」とかと自分を正当化できるが、心の奥を見て見れば何処からか「残念人間」と聞こえるようで―――。


 「全く、格好悪いよなぁ。オレが変えようってんのに、オレが変われない奴なんじゃぁよ」


 だからこそ、オレは今日で踏ん切りをつけたのだ。


 不当な理由で嫌がらせをするというなら、それに徹底的に反撃をすると。オレに手を出したことを後悔するくらいの反撃を、重い一撃を噛ますのだ。


 もう二度と、オレが「まぁいいか」と諦めてはならないと、そう言い聞かせるために逃げ道すらもバッサリと斬り潰したのだから。


 世界に対する反逆の牙を研ぎ、オレは屋上へとたどり着く。


 扉を開ければそこは生徒たちの無法地帯。だが今日に限って誰も居ない。そりゃそうか、だって暗雲があるもの。如何にも雨降りそうなところでわざわざ飯を食おうとする馬鹿は居ないよなぁ。


 だがまぁオレとしては約束の場所として設定された以上、来ない訳にも行かない。


 「(それになんかまぁ、暗雲の中の昼飯なんて、縁があるんじゃないかってくらい奇遇なもんだしな)」


 放課後にすらなってないのにとても空が深かった。天に近い場所だから、というのもあるだろう。オレはそんな曇天の中、給水タンクの土台に腰を下ろして背中を鉄製の壁に預け、買ったばかりの総菜パンの包みを開けて中身を取り出す。


 合計で五種類の中身の違う総菜パン。オレが選び、口にしたものは舌ざわりから察するにあれだ。――塩しょっぱい鶏肉の蒸し焼きだ。


 この鶏肉は仕込の際に腐敗防止か大量の塩で味付けをされており、保存食としては真面だが普段から食べる味ではないと学徒の間ではもはや常識と化している種類のパン。


 オレもあんまりこういう極端にしょっぱいものは無理だ。無味のパンでも抑えきれないくらいに塩が効きすぎている。


 「舌が痛ぇ・・・」


 もはやこれは一種の兵器ではなかろうか。戦時下にこれを喰った兵士が舌の痛みにもだえ苦しみ、戦争に負ける・・・。そんな想像ができるくらいにはしょっぱいものだ。


 「うげぇ、初手から嫌なもん引いちまった。・・・どうする、これ・・・?」


 まだオレの手には半分以上もの塩辛いパンが鎮座している。


 オレの性質上、一度舌をつけたもんは完食する。お残しは死刑の思考だ。


 普段はこんな『五色パン』なんて独特なものは食べないという思考だというのに、どうしてこれを選んでしまったのだろうか、と、軽い罪悪感と自己への疑問で胸がいっぱいになっていた時だった。


 ―――コツンっ。


 と、屋上を繋ぐ扉の先から音が聞こえた。


 オレは首をもたげて音の主を確認しようと目を移す。


 ――そして、


 「ここかぁ―――――ッッ!!!!」


 蹴破られる勢いで扉が開き、ふわふわの銀髪が姿を現わせる。だが、勢いよく開いた扉が壁に激突し反発作用でその男の娘の全身をぶっ叩いた。


 「きゃあああああああああああああ!!!???」


 急な登場からの流れるような退場の仕方に、オレの目が一瞬止まった。


 仕方がない。これが普通の反応だ。


 オレが驚きに固まっていると、今度はちゃんとゆっくりと扉が開かれ、雪のような素肌を持った美少女男子が顔を覗かせる。おでこを強く打ったようで、若干半泣きだ。


 「馬鹿か、お前・・・」


 あきれ返ったオレの言葉に、その混沌とした目を持つ男子は顔を紅くしながら小走りでオレの元に走ってくる。手にはよく分からない絵の入った布包みが握られていた。


 「ば、馬鹿じゃないし! たまたまぶつかっただけだし!」


 「そうだな。アホ過ぎて可愛かったわ。こっちの時が止まるくらいには」


 「それを”呆れる”って言うんですぅッ!!・・・でも、『可愛い』は嬉しいな・・・」


 「『可愛い』で喜ぶ男子・・・」


 素直な感情を表現するこの男子こそ今回の約束の地で会うオレの疑問を解消してくれる存在。


 怒ったり嬉しがったりと感情の処理が凄まじい男の娘、アルテインだ。


 

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