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『最弱』の汚名は返上する。~不遇だなんて、言わせない~  作者: パタパタさん・改
第一章『アルテイン編』
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第一章32 『チンピラ』

 イドに言われた通り、オレは早朝のいつもの時間帯に寝台から脱し、制服に着替えて学校に登校した。


 親父から「今日は帰らない」と置手紙があったが、大体親父は出張先で夜を明かす為、実質手紙なんて無いのとほとんど何も変わらない。


 「(あらためて考えるとオレの家庭異常すぎんだろ・・・)」


 家にいるのが大体子供だけって危険じゃなかろうか?そうでもない?分からねぇな・・・。


 オレが小さい頃は爺ちゃんや婆ちゃんが代わる代わるで来てくれて、家には大体二人居るって状況が続いたものだが、流石のオレも学園生だ。一応家事全般に無能性を遺憾なく発揮する親父から、「男女参画社会だからこれくらいできないとな!」と言われて、大体こなせるようになるまで努力してきた訳だが、


 「よくよく考えてみればオレの両親どっちも家事全般で来てねぇじゃねぇか・・・」


 母さんが家事をしているところは見た事ないし、親父は単純に料理がゲロマズ。掃除しようもんならゴッキーにビビり散らかし部屋に引きこもる。


 そんな無能×無能の両親に育てられて・・・、いや、育てられた思い出はないな。


 何にせよ、オレが家事全般ができるようになった事によって、オレは疑似的な一人暮らしができるようになった。っていうか、親が帰らなさすぎなんだが。


 「仕事仕事って、そう言って逃げてるだけだと思うオレが居るな・・・」


 前まではずっと「本当に仕事」なんだと思っていたオレが居た訳だが、最近の出来事を振り返ると、ただ単純に親のエゴ通りに生まれなかったオレに会いたくなくって家を空けていると思う。


 「みんなして”親の期待に応えないのが悪い”って言うけど、んなもんオレの知ったこっちゃねぇからな。そもそも問題がお門違い過ぎる」


 遺伝子操作だなんて原子属性しか出来ねぇ芸当だし、そもそも問題、国際法で”原子属性による遺伝子組み換え”が禁止されてるから遺伝子でどんな子供が生まれるかなんて運任せだ。それに理屈並べて人叩く奴の気が知れん。


 ―――っと、


 オレがそんなくだらないことを考えている間にも脚は勤勉に動き、慣れた街道を歩いていき、いつもの風景に目の端に涙が溜まる。


 「(着いちゃったかぁ・・・)」


 デカい城みたいな白塗りの門を抜ければ、そこはオヴドール学園だ。


 今日も残念ながら無事に登校できてしまった。今日だけはマジでこの世界に入りたくなかった。今日ほど学校が隕石で潰れねぇかなと思った日はないかもしれない。


 毎日あんまし変わらない生活が待っている学園だが、今日は一味違うのだ。


 その理由として挙げられるのが―――、


 「もしもの確率だけども、アルテインと顔合わせたくねぇ・・・」


 昨日の一件でオレは肝心な場面で意識を落とした。そのせいでオレは喧嘩にしっかりと負けて、アルテインと関わることが理論的に無理な状態となった訳だが、感情的な方面で言うとまだまだ関わりたい気持ちがあるという矛盾する感覚がある状態。


 こんな状態で移動授業の時にすれ違い程度で顔を合わせようもんなら、オレは何かを言いたくって、でも何も言えなくってという感情と言葉が行き場を失う事となる。


 お互い会釈程度の仲だったんだからあんまり変わらんだろ。・・・と、オレの中のオレが言ってくるがそんな簡単な話じゃねぇんだよ。人間は矛盾を司る生物なんだよ・・・。理論で納得できても、感情じゃまだ納得できない時があるんだよ・・・。


 「くそ、常時平面の集中力を使ってたらアルテインの行動を事前に察知して、回避行動がとれるのによぉ・・・。クソぉ、電気属性(もう一人のオレ)よ。今一度、その集中力をぉ・・・」


 アルテインと微妙な空気にならないためには、先にこっちがアルテインの行動を全部把握していればいいわけだが、それが出来るのは電気属性(もう一人のオレ)だけだ。オレはまだまだ未熟なので残念ながら電気属性(もう一人のオレ)に頼りっぱなしということになる。


 オレは心の中で電気属性(もう一人のオレ)属性()頼みして、平面の集中力を解放してもらおうと思っていたが、


 ―――どうやら、神様はそんなオレの思考をしっかりと先読みし、最悪の盤面を築き上げてくれ多様だった。


 それが分かるのは直後の事で―――、


 オレが学園の生徒用玄関に入った時の事だった。


 

 「今日こそはかかるんじゃねーの???これさぁッ!!」


 「昨日はなんか休んでたよね。人生楽勝みたいな?腹立つよね」


 「ここいらで一回潰しとかないと、あの電気属性絶対アタシらのこと舐めてるよ」


 「だっしょー!!机椅子隠しても財布盗っても無反応だし??今日は机の中に他女子の体操服入れといたけどwwwかかるかなぁ??」


 「げー!!それはやばすぎ!流石に退学やねぇか!!?だとしたらおもろ過ぎワロタ」


 

 ――ウチのクラスにいる陽キャパリピウェーイ系二軍のイキリ野郎共。


 そいつらがオレの上履きの底に針を刺している情景に出くわしてしまった。


 

 A A A


 

 玄関内に居る他生徒は皆して見ていない振りをしていた。


 そりゃそうだ。みんながみんな英雄気取りって訳じゃねぇんだ。「やめろよ」を誰かが言ってくれるのを待ってるし、なんならその誰かさんの仲間には入りたくないとか言う完全に他人様モードを貫く始末。恐ろしいのは、オレを見てニヤニヤし始める野次馬共だ。


 「(お前ら関係ねぇだろッ!)」


 とは思いつつも、あいつらは最初からオレをエンタメ目的でしか見てねぇからな。こっちが突っかかってものらりくらりと躱されるだけだろう。


 なのでまぁ、消去法でこの場を解決に導くことができるのはオレだけだ。


 オレの登場によって幾分か悪意に満ちた空気が薄まった気がする玄関の中、オレがゆっくりと歩いて、おしゃべりと嫌がらせに夢中な頭ジャンキー野郎共の背後に近づく。


 「(こいつら気づいてないのか・・・?)」


 割と普通に背後に近寄れたが、この頭イロモノ集団、全く持ってオレの存在に気づいていないようでおしゃべりに夢中だ。


 オレはそんなパリピ共の端っこに居る、頭を青く染めた野郎の肩を叩こうと手を伸ばして――、


 

 「そこの男女、何をしているッ!」


 

 「「「「「ッッッ!!!??」」」」」


 オレが青頭の肩に指先が触れる直前にて、良く響く凛とした声音が野郎共の耳をぶっ叩いた。


 悪意の蔓延する玄関に透き通る風が流れ込み、淀んで固まった異物が押し流されていく。


 エンタメに興じていた奴らもすぐさま道を開けて、何事もなかったかのように上履きに履き替えてその場から退散していった。


 ―――と、オレはそんな事よりも気になったことがあった。


 「(この声、聴いたことある声にそっくりだな・・・)」


 この完全完璧女子みたいな可愛らしい声に格好良さが付け加えられた声音。少なくともオレには覚えがあった。


 オレがその正体を悟る前に、その声の主がパリピ共の目の前に姿を現した。


 「全く、どういうつもりなのかは知らないが、人の所有物に針を突き立てるとはどういう神経をしているんだ!!」


 短髪ふわふわの銀髪に、照り返す日の光に潤いが際立つ白い雪のような肌。紫と黒と白を混ぜた瞳に琥珀色の光を宿し、女子よりもずっと華奢な体つきが男子の如く熱を放ち、二の腕がほんのりと桃色に染まっている。


 明らかに違うのは制服の袖に青色の『風紀委員』と銘打たれた腕章をつけていることだけだ。


 ――アルテイン=エルダーデイン。


 彼女のような彼が、オレの知らない”彼”となってそこに立っていた。


 「(声こそすっげぇ凛としてるけど、地声混ざってるからかこれアルテインだよな・・・?)」


 疑わしい気持ちもあるにはあるが、そんなオレの心情はさておき、アルテインがオレの目の前にいるパリピ五人を指さす。


 「今ならまだ弁明とやらを聞いてあげるけど、何か言い残すことは・・・?」


 アルテインの瞳に深い怒りが沸き上がっていた。


 見ているのは、・・・どうやらパリピだけのよう。


 ふつふつと煮え上がる怒りを前に、五人がどのような弁明をするというのか。


 もしかしたら寛大なアルテインの慈悲で大目に、――いや無理だな。終わったなこいつら。


 アルテインの目のガチさに、オレが目の前の惨状の中心部に居るパリピ共に手を合わせる。


 そしてパリピが放った言葉は―――。


 「い、いやぁ・・・。―――これ、俺のだから!だから何にも問題ないんすよね!!」


 「いやぁ、ただの悪ふざけって奴で???自分のでやってるからなんも問題は無い訳で・・・」


 「つーかさぁ!よく人の事を見ないで注意とか何様な訳???腹立つんだけどぉッ!!?」


 完全に火に油、というか粉塵を着火する言葉を吐いた。


 一瞬口ごもったのを見て、謝るのかなぁと思ったオレが馬鹿だったようだ。


 一気に内輪の話に持って行き、それに賛同し、更に悪意を煽る発言をする始末。少なくともこいつらは筋金入りのクソ共だということが確定した。


 そしてそんなクソ共に対して、アルテインはその眼をスッと細め、その指先をクソ共の足元に向ける。


 「じゃぁ、名前確認しますか。貴方はもう既に上履きを履いてます。その手に持つ上履きが貴方のものであれば、その履いている上履きは確実に”誰かのもの”と言うことになります。これは、学園内と言えど、――窃盗に当たります。なので、貴方の誤解を解くためにもその上履きを―――」


 「お貸しください」と、業ッと膨れ上がる憤怒に差し出された手。


 その手を見た瞬間、クソは何を思ったか。クルッと上履きを後ろに放り投げようとして――。


 「―――は」


 「―――あ゛?」


 オレとバッチリ顔を合わせることになった。


 刹那の時、クソが上履きを放り投げる手が鈍った瞬間を見て、オレは青頭を押しのけてその腕を強く掴み上げる。


 態勢が悪かったのもあって、オレはその手首を斧の柄を握り潰す程の握力で掴み、無理やりに態勢を整える。


 「ぐああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」


 「五月蠅ぇ、さっさとその上履き返せ」


 「ちょっ、暴力とか最悪なんですけどぉ!!残念属性の癖して暴力とか人間として終わってるって感じ~~!!」


 隣で金髪女が叫んで喜ぶが、オレはそんなのお構いなしに、緑頭の手首を引き絞るように握りしめる。


 「ちょまッ!折れる!折れる!は、離すから!離すから!!」


 ――メギメギィッッ!!


 危うい音が鳴り始めた辺りでやっと緑頭が上履きを手放す。


 オレがそれと同時に上履きを拾い上げて、針を抜いていると、その光景を見守ってくれていたアルテインが口を開く。


 「それは君の物で間違いないかな?」


 「あぁ、間違いねぇよ。この前水かけられてびちゃびちゃのままなんだよ。だからこれはオレの」


 針を抜き終わり、とりあえず上履きの中も確認して上履きを履くオレの返答に、「そう」とアルテインが首肯する。


 それからその眼を五人に向ける。


 「――言い訳を聞く理由が無くなった。君らは風紀委員の審査の元、厳重な処罰を受けることになるだろう。・・・最も、裁可はボクにあるからね。これからの行いには注意した方が良いよ」


 笑いもしない声で、静かに、そしてかなり大きく燃える怒りが言葉となって、クソ共に逃げ場のない一撃をお見舞いする。


 「な!はぁ!!?知らねぇしそんな事!!残念属性なんだから弄られて当然でしょ!!生きてて無駄になる奴なんて弄り散らかす方が正義でしょ!!電気属性何て所詮罪人なんだから、アンタの目腐ってんじゃないの!!?」


 「ユミアス、其処ら辺で終わらせとかねぇと親にまで連絡行くよぉ!!ここは寛大な御心で許した方が・・・」


 「やめとけ。いくらあっちが悪いからって、ここで叫んでたらこっちが悪者に見えちまう」


 「腕痛いんだけど!!アザになってるし、ふざけんな!!こっちは名家の出なんだぞ!!」


 「あっちのほうがお前より名家だよ馬鹿!返り討ちに合って、社会的に終わるぞ!!ここは綿密にあの不遇人間を潰す計画を立てた方が良い」


 それぞれが内部崩壊を起こしかけながら、喚きごとを叫び散らかし、最終的には「覚えてろ!」となんか三下感の溢れ出る捨て台詞を吐いて、金髪を引っ張る形でその場から脱兎のごとく逃げた。


 「覚える前に、ゼクサー君に手出ししたことを君らが覚えておくことだよ」


 ポカーンとするオレに、横に居たアルテインが自慢げに胸を張って何かをぼそりと呟いたが、オレには良く聞こえなかった。


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