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『最弱』の汚名は返上する。~不遇だなんて、言わせない~  作者: パタパタさん・改
第一章『アルテイン編』
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第一章30 『もう一人の自我』

 最初に視界を開けた時、映ったのは木製の柱に支えられた白塗りの天井だった。


 無駄な装飾はされておらず、それでもって何故か見慣れた風景でもあった。


 首を上げると、身体は寝台の上に放り出されており、掛布団が乱雑ながらもかけられていた。


 ――どうやらオレは寝かされているようだった。


 「(じゃぁ、どこだここは・・・)」


 首を巡らせると頭の真上に銀色の燭台が置かれており、その近くには柄が中々に特徴的な色柄のオヴドール学園の上着が畳まれて置いてある。


 そしてこの部屋の雰囲気だ。


 少なくとも他人の家に近い感覚を覚えるが、他人の家程「ここは自分の家ではない」と言う感覚がない。


 自分の家にしては何かと住みにくく、かといって他人の家程くつろげないと言うことはない。


 多分、宿屋みたいな感覚だ。


 だとするとここは宿屋と言うことになるだろうが、オレは本能的にここが自分の家のだと勘付いた。


 だとすればおかしな話だ。誰かがオレをここまで運んだと言うことになるが、一体どうして?アルテインはどうなったのだろうか?そもそもあの後気絶したオレはどうなった?此処まで来る経緯がどこかにあったはずだ!と、すればどこに・・・?


 「・・・・うっ」


 様々な疑念が頭をよぎり、とりあえず身体を起こそうと腕を立てる。瞬間、とんでもない倦怠感がオレを襲い、再び寝台に身体を埋めた。


 全身が痛い。でもそれ以上に、心が重い。


 全身が、オレが、全く自覚のない痛みが重い足枷となって、寝台でグダるオレを縛り付ける。


 だが、それでも動こうとしたオレはあることに気が付いた。


 丁度オレに掛けられた布団の上に、一通の手紙があったのだ。


 白い封筒に黒い印の入った手紙だった。

 

 「んだ、・・・これ・・・」


 誰からだろうか。少なくとも手紙の形からしてアルテインじゃないのは確かだ。


 何とかまだ動く腕を使って掛布団の上にあった手紙を取る。


 非常にサラサラした触り心地の紙質に、黒い、・・・何だこれ・・・。紙とはまた違ってツルツルしてて、なんか裏がぺとぺとする変な封が付けられた手紙を眼前に持ってくる。


 「宛名は、オレだよな・・・・。じゃぁ、差出人は誰だ・・・?」


 『To』という記号?文字?の後にはゼクサー=ルナティックことオレの名前があるものの、表にも裏にも差出人の名前はない。


 「(とりあえず開けるか・・・)」


 このまま元あった場所へと戻そうかと思ったが、残念ながら元あった場所が場所なので戻してもあまり状況は変わらない。


 「・・・・・」


 なのでもう開封して見ることにした。


 黒いねばねばは簡単に爪で剥がすことができ、その封筒から出てきたのは折りたたまれた紙だった。


 オレはその折られた紙を開き、中身を見る。


 そこには大きな文字で綺麗に、


 

 ―――天井を見よ。


 

 と。


 「・・・・。―――――ッッッッ!!!!!!????」


 まさかッ!?と思い、ほとんど反射で首を傾けるも―――。


 「・・・・い、居ないよな。流石に・・・・」


 一瞬イドが天井にでも張り付いているもんだとばかり思っていたが、どうやら違ったみたいだ。・・・だがイドなら平然とそう言う事やりそうではある。


 流石にヤモリと化したイドを見るとか言う、今世紀最大の怪奇現象に遭遇することはなかったオレは半分安堵、半分残念の気持ちで視線を手紙に落とs――、


 

 「やっほー」


 

 「・・・・・・」


 

 急募、オレと布団の隙間から顔を覗かせてくるヘンタイの駆除をしてくれる方。


 リアルに眼が合ってしまい、願ってもないのに何故か時が止まる感覚を覚える。思考と心音と色んなものが急に止まった。原子も絵面の酷さに腰を抜かしている。


 オレと視線を合わせたまま数秒が経過した時だった。


 「ばぶーばぶー、パマパマのミルク欲ちいでちゅうぅぅぅぅぅ~!!」


 「・・・・・・」


 「でゅふ!パマパマの汗の匂い最ッッッ高ォ!!すうううううぅぅぅぅぅ、ぶべえばぁぁぁぁぁああああああッ!!のどごしぃぃぃぃいいいいいい!!」


 あまりの気持ち悪さにハッと自我を取り戻したオレは、すぐさまテーブルに置いてある燭台を手に取る。大丈夫だ。ヘンタイはオレの服に顔を擦りつけて「うほー」とか言っている。やるなら一撃で仕留めなければ・・・。


 と、力を込めて持っている鈍器を振り下ろそうとして――。


 「いっつ・・・ッ!!」


 力を入れ、それが手首の指。――正確には右手に伝わった直後として、電撃のような鋭い一瞬の痛みがオレの力みを露散する。


 そして主に右手で支えてた燭台がそれを期に手から滑り落ち、イドの後頭部へと迫り落ちる。


 「――あ」



 ――ぽてっ。



 「「・・・・ん?」」


 今何か、とても金属と頭蓋とで出る音ではない音が鳴った気が・・・。


 勘違いと呼ぼうにも事実イドは不思議そうな顔をしながら頭をさすっており、布団に落ちた燭台は傷一つもなく血もこびりついていなかった。


 文字通りまるで軽い者がぶつかったような音だったのだ。


 「・・・・・・」


 「おいなんで俺今、『こいつホントに人間か?』みてーな目されてんだッ!?」


 「逆に今の展開でお前を『人間として見る』ってことができると思うかッ!!?」


 むしろ最初からイドが人間でないなんかそういうのだと思っているまである。


 イドが目をひん剥いて叫ぶが、オレはそれに対して正論でぶん殴る。


 だがやはり、イドには正論の攻撃も曲解で解釈される。・・・爆弾もついてだが。


 「俺、人間だからな。人間から生まれてんだから人間に決まってるだろー。確かに中には宇宙人とか件とか狼子供とか産み落とした奴はいるけれども、俺はしっかり人間らから成り立った存在だから俺も人間なんだよな。なんなら可愛い嫁さん貰って一児の父でもある」


 「ぶッ!!?・・・お前結婚してたのかよ!!??」


 なんなら一児の父だった。マジかよお前。それにしては結婚の指輪も入れ墨もねぇが・・・。


 少なくともイドの奥さんは大変そうだ。こんなガチムチキチゲイの奥さん、・・・これを選ぶ奥さんも奥さんだな・・・。多分相当な腐女子か女性の皮被った同じキチゲイだろう。イドの奥さんとなると、普通に体は女性で心が男子でゲイってのが居そうで怖い。


 オレがまだ会った事もないイドの奥さんにげんなりしていると、イドからの続きの発言が。


 「まー、ここの世界だとオレまだ独身だし?まだ年も15だから結婚年齢でもねー。そもそも別世界での俺の話だからそんな憐れみの目を向けるんじゃねーよ」


 ぶっ飛び発言に更なる爆弾が投下されて、遂にオレは理解を手放すことにした。異世界的な云々の話なんてオレにはよく分からんし、なにより話が進まない。イドのせいで話の本筋がズレまくる。そして二度と元の次元には戻ってこない。


 オレは早々に見切りをつけて、「それよりも」と言葉を挟む。


 「なんでイドが此処に居るんだ?てかなんでこんな手紙をわざわざ。最初から天井にでも引っ付いてりゃまだこっちも反応のし甲斐があるわ」


 「おん?何故って当たり前だろ―?久々に父役から離れてお前の母性にばぶばぶちゅっちゅしつつ、あわよくばパマパマの《アッー♂》ミルクを飲ませて貰おーと、・・・あーいや冗談に決まってるじゃないですかやめろ武装すんな」


 またもや話が逸れ、尽きることなき煩悩がオレの質問に素直に答える。


 だが流石にオレが左手で燭台を握ったあたりで、「あ、やべ」と、イドがすぐさま方向転換をした。


 「まーあれだ。天井に居ると思わせて実はすぐそばに居るみてーな?・・・ほら、男子ってボディタッチされたら、そいつの事気になっちゃうじゃん」


 「それ女子相手だけだぞ。ノンケなオレにとって、上半身裸体の変態に抱き着かれたら感じるのは恐怖だけだ。・・・んで、なんでここに居るんだ?」


 「あーそれか?そりゃお前、オレがお前を此処まで運んだ張本人だからな」


 「・・・・!!」


 早速と言っていいほどオレの中の疑問が解消された。


 どうやらイドはオレを此処まで運んできたようだ。


 「(すげぇ感謝してぇけど、当の本人がこれだから感謝したくねぇ・・・)」


 多分あのまま森で放置されてたら、オレは完全に野獣の餌になっていただろう。餌になっていなくとも、五体満足に動くことすらできなかったはずだ。


 それに関して言えば「ありがとう」と言うべきなのだが、イドがこれなので言いたくない気持ちが勝る。それに、それ以外にも聞きたいことが多すぎる。


 「そう言えば、アルテインの事なんだけどさ・・・」


 「喧嘩の勝敗?」


 「いや、それはもう分かってるから大丈夫だ。いや、オレが聞きたいのはそれじゃなくってさ。”複数属性(マルチスキル)”についての事だよ」


 オレの脳裏に未だこびりついているのは、アルテインが”複数属性(マルチスキル)”を発動した時の状態だ。”複数属性(マルチスキル)”を持っていなくても、あの時のアルテインの動きには多少なりとも違和感があった。


 というか、違和感しかなかった。


 「”複数属性(マルチスキル)”って人の人格が変わる機能とかついてんの?なんか複数の属性を操作することに脳が限界を迎えて、半分廃人状態とかになったりするもんなの?」


 オレがそう尋ねると、イドは首に手を当てて少し考えながら言う。


 「この前、オレはルナに”属性の対象化”を教えただろー?」


 「あぁ、言ってたな」


 イドが言うのはオレがアルテインとの決戦に備えている時、属性との関係性について悩んでた時にイドが言った事を指していると思われる。


 ――「すげー簡単に言えば、もういっそのこと”電気属性”を”もう一人のオレ”って対象化して定義づけることだな。親子云々とか相棒云々ではなくって”もう一人のオレ”だと、そーゆーもんだと思えばいーんだよ」


 ざっくりした説明だったわけだが、オレは一応、この定義づけによってなんとか”電気属性”との距離をある程度決められることができたわけだが、それがアルテインとどう関係あるのだろうか。


 オレが説明の続きを求めると、イドは「それがな」と言って、


 「つまり、アルテインもまた”属性”を”もう一人の自分”として定義づけをしている。――つまり制御性を磨いた属性ってことだな」


 「」


 「平たく言えば、―――そう!」


 イドが布団をめくりあげ、寝台の真隣に立つ。


 そしてビシィッ!と、人差し指をオレに向けた。


 「ルナと同じで、属性が”自立してアルテインの意志を守るよーに動いた”ってことだ!!」


 

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