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『最弱』の汚名は返上する。~不遇だなんて、言わせない~  作者: パタパタさん・改
第一章『アルテイン編』
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第一章27 『線』

 ”複数属性(マルチスキル)”。


 普段なら一人につき一つしか花開かない”属性”が、遺伝子などの関係で属性が二つ以上発現する人の事を指す。


 例を挙げるならデルシオンや、両親だ。


 デルシオンは火と水。


 親父は火と水と風と光。


 母さんは波と原子。


 基本的には大体二つ属性が発現すればラッキーくらいだが、親父みたく四つ同時とかだと「待って尊いマジ無理」みたいな衝撃を受ける。


 だがオレの視界が捉えたアルテインは――。


 火、水、風、光、そして波の全五属性の力がアルテインを中心に渦を巻いていた。


 「マジかよ。まだ隠し玉があったってことかよぉ・・・ッ!!」


 現状の、現実が、オレに今まで以上の残酷さを目に焼き付けてくる。

 

 俯いたアルテインを見てオレの脳裏をよぎった言葉が口から漏れ出た。


 それは一種の嫉妬や憤怒、羨望が混じっていて、


 「オレの持ってねぇもの全部持ってる奴じゃねぇかよ・・・」


 能力量の高さも、属性の多さも、指向性の操作も、全部だ。


 オレが持ってねぇ全てを、アルテインは持っている。


 才能も努力量も、何から何までが圧倒的に違う。


 正に、本来オレが辿っていたような理想の姿だ。


 「クソ、オレの上位互換的な存在か。・・・”もしも”の世界の体現者かよ。腹が立つ」


 灰獅子戦で見たが、アルテインの属性の鍛錬の賜物はオレの努力全部を上回る程の、オレが出来なかった全てで出来ているのだ。


 だが、そんな上位互換的存在のアルテインには無かったものが一つ。


 ――オレは見つけてしまったのだ。


 「そんなに沢山の属性に、圧倒的な能力量に、細微な指向性の付与。オレの持ってねぇ才能全部持ってるってのに、お前、・・・なんで笑ってねぇんだ?」


 俯いた華やかな、女子顔負けの文字通りの美少女。――否、美少年だが、何故か伏せた顔からは笑い声の一つも聞こえない。


 圧倒的なまでの力。ずっと隠し続けて、オレが勝ちを認識した瞬間に実力を解放。オレに一発ぶつけた上に、オレが絶句する程に恵まれた体質を持ってして、オレの前に平然と立っているのに、何故か嗤う声も哂う声も、何も聞こえない。


 オレの疑問に答えたのは、たった一本の華奢な腕だけだった。


 上げられた腕が、伸ばされた指が属性を行使しようとして――、


 途端、オレの平面の集中力(レーダー)が力の向きを捉えた。


 「―――来る!」


 確信した瞬間、アルテインの指の向きがオレに向いたのと同時に赤、青、黄の属性の力が破壊を抉る力を纏って渦を巻きながら、その死の大口を開けてオレを呑み込まんとする。


 が、それと同時にオレのむき出しになった全神経が平面の集中力(レーダー)を読み取り、反射的に攻撃射線を断絶するように、攻撃対象箇所に一番近い左の斧を割り込ませる。


 だが、だ。


 力の奔流が描く、赤、青、黄の三色光撃の軌道に突き立てた斧は、その力の大きさに耐えきれずにオレの腕を巻き込んでそのまま反時計回りにぐるりんと三回転した。


 「あ、―――がッッッ!!!!」


 現在分泌されているアドレナリンでは誤魔化し切れない激痛に視界がかすみかけ、視界が真っ白い真っ赤に染まる。一か所から湧き出る尋常ではない熱量がオレの身体を一瞬で蝕み、支配する。


 「ぐぅ、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」


 咆哮し、痛みを完全に知覚する前に、右脚をわざと地面から離れさせて体重移動し、間一髪で三色光撃を避けることに成功した。


 素通りした属性の塊は真後ろに控えていた大木のど真ん中に穴を開けて、勢いを沈黙させる。


 「(痛みは、無理やりに―――!!)」


 抑え込むッ!!、と。


 痛みを紛らわせるために出る多量のアドレナリンの分泌を、電気信号の操作によって意図的に増やし、痛みの全てを熱量にする。


 だが、ここでまた変化が起きた。


 平面の集中力(レーダー)が消えたのだ。


 分かったのは直後だ。平面になっていたオレの集中力がどんどんその面積を狭めていき、周囲の物体の動きに関する情報が全く頭に入ってこなくなったのだ。


 「(どういうことだこりゃぁ・・・・)」


 電気属性(もう一人のオレ)に何かしらの異常があったとしか思えねぇ。


 それよか、どんどん周囲の情報が頭に入らなく、――認識されなくなっていく感覚が頭を席捲する。


 実際オレの耳には周囲の音も聞こえないし、頭の中も周囲の状況を鑑みようとしない。それに視界も同じだ。・・・視界が狭まっていく。

 

 ――――いや、狭まった分だけアルテインにより焦点が当てられるようになったのだ。


 アルテインの表情は見えない。


 でも、アルテインの動きと、属性の動きは良く見えるようになった。というか、もうそれしか見えなくなった。


 「・・・・・」


 「なんも言ってくれねぇか。・・・何にも言えないのかもな?」


 オレの問いかけには反応なし。身体に触れさえすりゃぁ、脳内物質をいじくって対話ができるかもしれねぇが・・・。


 「なんにせよ、まだ正式に名乗ってくれてねぇんだ。驚かせても、まだ核の部分に迫れてねぇんだ。だから、まだ本音で会話するダチだとは認めてねぇってわけか・・・」


 それはそれで気が重い話だが、結局”勝つ”のだからその話は後回しだ。


 「(目的に集中しろ、オレ)」


 目を瞑り、肺の中にある空気を丸ごと入れ替える。


 「・・・・ふ――。 」


 頭が、全身が、限りない熱に支配される感覚を覚えながら、全身の神経をアルテインの一挙手一投足に集中する。


 捉えて、離さない。瞬きすらも惜しい。


 どんどん熱が増していき、どんどん現実と身体の認識がズレていく。


 「さぁ、―――行こう」


 アルテインが右手の指を動かす瞬間、オレもまた動き出す。


 脚と地が離れていき、そしてバネが空気を踏む。


 アルテインしかいなかった世界に四色の破壊が顕現する。


 赤と青、緑と黄。合計四種の光撃がオレの四方を囲む。八方塞がりなありさまに、更に目の前からは波の砲撃。――音波砲が空気すらも認識できない程に振動させて、オレの頭を吹き飛ばそうと迫り来る。


 火の魔弾が、水の竜が、風の爪が、光の蛇が、音波の剛腕が、確実にオレを仕留めるためにその鋭い殺意が形をなして飛び掛かる。――が、


 「能力量は馬鹿大きいせいで断ち切るのは不可能。だが、軌道をズラして――」


 オレは右に握っていた斧を風の刃に打ち付け、その衝撃を受け流すように光の破壊光線に向ける。


 それと同時に加速を付け加えた左脚を振り上げて水の竜を火の弾丸へと蹴り上げて、属性同士を対消滅させる。


 そして残った音波砲はそのまま上半身を極限まで下げて回避する。


 五属性の技の相殺と回避を成功させると、若干俯いたままのアルテインの頭が動いた。


 どうやら”何か”の感情に頭が反応したらしい。


 だが、オレの勢いはそれだけじゃ止まらねぇ!


 おそらく外れたであろう、一本虚空を彷徨っている左腕。上腕二頭筋で振り上げ、左手の甲がアルテインの銀髪頭を捉えた瞬間に、左肩を筋力で押す。


 ――ゴッキィィィィンンッッ!!


 腕力とアルテインの頭を支えに、外れていた骨同士が繋がる音がオレの腕の中で反響した。


 「あがッ、おぐぅ、・・・うおおおおおおおおおおおお!!!!」


 痛みが神経を伝わり、全身の骨に、血管に刺激を与える。それでもオレはその痛みすらも拳に込める熱量に変換し、喉が張り裂けてしまう思わんばかりの怒号を解き放ち、骨が繋がる衝撃と共に新たな拳の衝撃をアルテインの頭に炸裂させた。


 拳に生々しい髪の感触に、頭蓋骨に一発入れた事による痛覚がオレの頭の中で熱量に変換されて、行動力が沸騰する。


 「顔をおおおお!上げろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」


 誰に向けて言ったか、それは分からないがオレは腹の底から声を出し、根性で当てた拳を更に奥へと突き立てる。


 くるん、と。


 そんな大きな力ではなかった。が、拳が届き俯いたアルテインの顔が曇天のもとに晒される。


 ふわふわする銀髪が舞いながら此方をやっと見てくれたアルテインの顔を見て、


 オレは凍り付いた。


 「―――ッ!!?」


 思わず息が詰まるオレに、アルテインはぼーっとした顔で此方を見る。いや、見ているのか?これは、見ていると言うのか?


 ――色のない目をしていた。


 真っ白だ。真っ白い、穢れ一つない真っ白な瞳が、オレを見ている。


 白目、ではない。本当にただただ瞳が白いのだ。


 「――――ッ」


 刹那として、オレの心がざわめくような感覚がオレの背筋を滑らかに触れてきた。オレの恐怖心が優しく、それでもって強くあの瞳に握りしめられる。


 心臓が止まってしまうそうになるほど、そこに居る存在を”アルテイン”だと認識できなかった。


 「                     」


 「!」


 唇が動き、わずかながらも何かの言葉を作り出す。


 動きがあいまいで唇の動き方が変過ぎて、一語しか聞き取れなかったが、それを加味しても、アルテインだった”奴”は確実に此方の存在を認知しているのだ。


 もう、見すらしないで攻撃をしてくることはなくなったのだ。


 「モンスター以上の存在価値って認めたか、いや、まだ興味を引き出した程度か・・・」


 そもそも今のアルテインの状態が分からない以上、今さっきの行動から鑑みて、”本人の意思”的なものが無いように感じる。


 「(アルテインだったらもうちょっと頭を使った攻撃をしてくるはずだ。こんなばかすかと能力量を無駄遣いする奴だとは思えねぇ・・・)」


 まるで操り人形みたいな状態だ。糸の所有者の意志にだけ反応するように、アルテインの動きがやけにぎこちない。


 「”糸の所有者”が誰なのか、よく分かんねぇが、つまりは”糸”を切れば良いってことか。もしくは、糸を離させるか」


 言うのは容易いが、いざ動くとなるとかなり難易度が高い。だって今度はアルテイン本人じゃなくって、アルテインを動かしている誰かなんだから。


 「(考えてても仕方ねぇ。身体も頭も言葉も全部使って、体当たり方式で全部使ってみるしかねぇッ!)」


 オレの中で更なるアドレナリンが爆発し、瞳の白に別の色を見出す。


 ――攻撃の合図だと分かった瞬間、オレはアルテインの身体から一目散に後ろに飛ぶ。


 アルテインの身体を蹴ってしまったのは申し訳ないが、その攻撃の予兆は確実性を秘めていた。

 

 「(右足、左わき腹、右腕、、左頬、鳩尾!)」


 当てられる部位を身体一個分ズラすことによって五色の破滅がオレの身体の真横を素通りする。


 そして今度の目は―――!


 「(三色光撃! 狙われるところは頭!)」


 近づくことを最善手とする以上、無駄な攻撃にいちいち反応する暇はない!今度はあの脳天に大威力をねじ込んで正気を取り戻させる!


 目的を決めた瞬間、オレは自身の脚のバネに打たれたように走り出した。


 息をしてる暇も、瞬きしてる暇も、全部がもったいない。


 その一心で、飛来する属性の塊を頭をギリギリで避ける。


 それだけにはとどまらない。


 「(縦一列に五色!)」


 「(火と水と風と光の弾幕!)」


 「(アルテイン中心に波の波動!)」


 攻撃を避けるたびに次々と、アルテインの白い瞳に攻撃の情報が映し出される。


 それをオレは少しの動作で回避しつつ、脚の加速度を上げる。最早、脚だの腕だのの感覚はないに等しい。走ってるのはオレの脳だけだ。


 言葉を紡ぐ暇も、斧を振り上げる時間もなにもかもが惜しい。惜し過ぎる。


 オレの跳ね上がる熱量と打って変わって、空はオレの熱を冷ましたいのか、低く唸り始めて雨を降らす。


 大粒の雨は熱を吸いこもうとオレの肌に引っ付くが、次々と熱を吸い込んだ雨水がオレの肌から消える。


 オレの熱はまるで”線”のような集中力に全てつぎ込まれていた。


 「(あと2m弱。ここで一気にケリをつける!!)」


 もう一秒もかからないと、そう踏んでいたオレは斧をしまおうと斧を腰部分のパッドに入れようとして―――、


 「は」


 突然、地面が大きくえぐれ、態勢を整える暇なくオレは見事に上空にぶっ飛ばされた。


 

 A A A


 

 「―――――!!?」


 目を覚ました。――というか、再び呼吸のお世話になったのはオレが空に落ちている時だった。


 咳するためのタンだの血反吐だの空気だのが空気抵抗で無理矢理喉奥にねじ込められる。


 真下を見れば、森の一部分、アルテインの周りの地面が隆起したようにめくれ上がり、緑の肌の皮膚下を見せていた。


 アルテインは此方を見上げながら、大きく右腕を振るう。


 「(五色の破壊光線。威力は、――まさか、・・・全能力量を注ぎ込む気かッ!?)」


 オレの確信する予兆が大当たりを示し、オレの視界に映る大地が色褪せる。


 極彩色の破壊の奔流がオレの居る上空事叩き潰そうと、アルテインの持つ力の全てが結集し、圧縮されて行き、そして虹色の光の球が、渦を巻き大地を崩壊させるエネルギーを持った宝玉が世界に顕現する。


 撃たれれば、オレの身体は塵も残さず消えることになるだろう。


 躱そうとしても、オレの性格上逃げないし、現状逃げられない。


 「・・・・・」


 オレの頭を通り抜けたのは灰獅子戦の時の記憶だ。


 吹っ飛ばされて、身体の骨や内臓、血管を揺さぶる大打撃を受けた灰獅子。倒れても再び起き上がるその回復量。あの一撃を受けても死に絶えなかった頑丈な身体。


 オレには無い。そんな力。状況が同じでも、迎える結末は多分違う。


 だからこそ、今度はオレ自身の力でこの一撃を消し飛ばす。


 最高にして最強の位置へと至り、そのままエネルギーを伴ってオレは下降する。


 そんな自由落下するオレを迎えるのは温かい抱擁でも、死を迎えてくれる自然の大地でもない。


 力だ。


 オレの存在を許してくれない力の奔流が、その顎が、光の牙を持ってしてオレの人生に終止符を打たんとする。


 それにオレは全力で迎え撃つ。


 「天候も、覚悟も、状況も、なにもかも最高じゃねぇかッ!!」


 ”線”の集中。


 オレは斧を両手で握り、眼前へと突き出す。


 こんな状況下なら百でも千でも撃てるが、オレは一発しか撃たない。


 この一発に、百も千もの力を収縮させるのだ。


 打つために必要な秒数は最短四秒。だが、もう一秒も惜しい。


 虹の極光は既にオレを飲み干さんとその大口を開けて迫ってきている。


 

 「撃ち抜けえええええええええええええええええええッ!!」


 

 腹の底から声を絞り出し、集中力を、熱を、魂を、存在の力全てを”線”へと叩き込み、完全な”形”を作り出す。


 突如、膨大な能力量を誇った属性の大顎を、白にも黄色にも似つかわしくない一筋の”線”が世界の全てを穿って、穿って、穿って、穿って―――!!



  崩壊の宝玉を、その核を、根本からぶち抜いた。


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