第一章26 『最悪』
「アルテインの音波砲を斬り飛ばすぅ?」
「なんだその信じてねー馬鹿にした顔は。突拍子もねーこと言ってるって顔だなオイ」
アルテインとの戦前、森の中でそのまま朝を迎えたオレはイドの今日の開口一番に首を傾げた。
―――「ルナの斧撃と脛撃は速さこそ加えて、間合いが取れれば大抵の属性攻撃を斬り飛ばすことができる。そう、アルテインの音波砲なんかちょいちょいのちょいだ!」
そう言って、丸太の上で目を覚ましたオレに向かって親指立てて言ったときは、遂に疲れすぎて変な事言うイドの幻想が見えたのかと思ったが、どうやら現実のようだ。残念ながら。
イド曰く、オレの脚と斧撃は大抵を斬り飛ばすことができるんだと。
「そんな分けねぇだろ。斧撃と脛撃に何を求めてんだ」
オレが真っ向から否定の言葉を投げつける。
だってそうだ。考えてみろ。火が、水が、風が、光が、そして波や圧や原子が、人を殺せる力を携えて迫ってくるんだ。そんなもの、斧だの脛だので返り討ちに出来る訳がない。
威力の低い発現時ならまだしも、模擬試験みたく空気や森を余波で揺らすような技を人が武器で同行出来る訳ないじゃないか。
オレはそういうことを言いたいのに、そういうことを言おうとしたのだが、イドによって先を越された。
オレの口から出る属性への恐怖心を先回りして、イドがオレに否定を否定する反論を用意した。
「確かに、ルナの言う事は最もだ。だがな、案外コツを摑めば”属性攻撃”ってのは簡単に破壊することができる」
そう言って、腰に手を当ててオレの眼前に人差し指を突き出した。
「コツってのはな、”指向性を断ち切る”ことだ」
A A A
「っしぁ!!」
「馬鹿な! ボクの音波砲を切り伏せただなんて!!」
アルテインの驚愕にオレのガッツポーズが唸った。
”指向性の切断”。
指向性とは目には見えないものだ。
力の向きを調節するための線だとか、なんか色々と諸説はあるらしいが、何にせよ人々に元々備わった能力だと言っていた。
「(イド曰く、属性を特定の地点へと運ぶための運搬経路。地図みたいなもんだと言ってたけどな)」
結局最後までその真意はよく分からなかった。
だが、その簡単な”指向性”を見つけるための方法として、イドに伝授されたのが――、
――「一方通行なストレート攻撃だったら、その矢印をたたっ斬るようにすれば大抵の属性攻撃は、能力量の行きつく先を見失って、本来の破壊を全うできなくなる」
――と。
波の斬撃は波紋が広がるように、一方通行性がない故斧撃での迎撃が可能かどうかが見込めなかったので逃げるに徹することになった。
逆に音波砲で言えば、一直線にオレの腹部に向かって進んできたので、斜め線を入れるように音波砲に斬り込みを入れた。すると案の定、音波砲はオレに直撃する前にその動きを止めた。
その結果、途中で斬り飛ばされて方向性を見失った能力量はどうなるか。
答えは簡単だ。
「数コンマ遅れて、爆発四散するッ!!」
実際は行きつく先を失った能力量がその破壊の形を保てず、全方向に力をばら撒く現象『属性迷走』が起こるのだが、何にせよこの爆発が大切なのだ。
「――うわッ、と」
本来なら身体に結構負荷のかかる減速方法があるのだが、この爆発に身を任せつつ、上手く身体を捻らせることによって・・・。
「―――あ」
アルテインの叫び声と、オレが大木の幹に足を着かせる音が重なる。
「(っと、このように爆発によって落下するオレが弾き飛ばされるので、近くの大木を着地地点にすると簡単に、アルテインを驚かせたまま安全に着地をすることができます!)」
心の中で解説を施しつつ、奇襲&オレの行動の急展開さについて行けずにその場に立ち尽くすアルテインを見る。
まだ現状を上手く呑み込めていないようだ。眼からオレの存在が認知され切っていない。
勝負を決めるなら、ここだッッ!!!
幹から枝、枝から幹、幹から地面へと軽い足取りで降り立ち、そのまま姿勢を低くしてアルテインに向かって走り出す。
オレとて鬼ではない。勿論、ぶん殴る時は斧の柄で殴る。後はヒヨった瞬間に羽交い絞めにすればいい。
「(ちょっぴりと美少女な顔つきしてる可愛い男子を殴るのは心が痛むが、命には代えられねぇッッ!)」
一部層から刺されそうな発言だが、オレだってあの斬撃に腹裂かれたくねぇし、なんなら音波砲で全身の骨やら内臓やらを揺らしたくねぇッ!!
バネの筋肉を駆使して、一瞬にしてアルテインの目前へと迫る。
だが、
「――――しまっ」
「っと、あぶね」
直後、我に返ったアルテインが反応し、俺めがけて波の斬撃を放つ。
が、目から攻撃の前兆が分かったオレはそのまま高く飛んで斬撃を回避する。
手の動きがなかった辺り、純度100%能力量だったのだろう。音がならなかった。
そんな斬撃はオレの頭を狙って放たれたようだが、オレが回避したことによって地面が弧を描いたようにめくれ上がり、雑草が切られて宙を舞う。
「―――なッ!?」
避けれるの!?と言わんばかりの目を此方に向けてくるアルテインに、オレは今度こそアルテインの懐に入る。
「貰い―――ッ!!」
脳を揺さぶるアッパーカットをお見舞いしようと、斧の柄を握りしめて刃のついていない金具部分を振り上げる。
「あ・・・・・」
理解と認識と対抗する手が追い付かず、アルテインの顎を斧の金属部分が掠り―――!!
アルテインに一撃を!
そう思った瞬間、”何か”の衝撃がオレの身体を空気に呑ませてぶっ飛ばしていた。
A A A
目を覚ましたのはぶっ飛ばされ、大木に身体を打ちつけられた直後だった。
一瞬で意識を刈り取られ、すぐの痛みで現実に回帰した。
倒れた自分自身の身体を引き起こして、オレは周囲の状況を『レーダー』で再観測する。
すると、反応があった。
「何があっt、――――――え」
何事かとオレの目でも確かめて、その事実が有りえないと首を振る。
だがしかし真実はオレの目と『レーダー』が確かに捉えている。
「まさか、いや、ありえねぇッだろぉ、が・・・・」
オレの目、――視界には信じがたい光景があった。
火の赤。
水の青。
風の緑。
光の黄。
そして波の波紋。
五色の光が、それぞれが一人の少年に、アルテインの周囲を漂っていた。
なんで属性がいくつもあるんだ?
なんで属性が光を纏ってアルテインの周囲を回ってるんだ?
なんでアルテインがそんな力を隠し持っていたんだ?
なんで今になってそんな力を出してきた?
何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故何故何故何故何故?????
混乱に混乱が重なり、絶えない疑問が頭の中で渦を巻く。
平面の集中力、完全状態のオレが出せる結論はコレだけ。
オレは痛む全身を無理矢理持ち直させて、顔を俯かせたアルテインに怒鳴る。確証がほしくて、ただの勘違いであってほしくて、これ以上不利になりたくなくって。
「アルテイン、お前”複数属性”だったのかよ!!!」