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『最弱』の汚名は返上する。~不遇だなんて、言わせない~  作者: パタパタさん・改
第一章『アルテイン編』
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第一章25 『信頼ある奇襲』

 直前まで平和だった森に衝撃波が生まれた。


 斧撃と波の砲弾のぶつかり合い。


 喧嘩と言うにはお互いに放つ技が殺意マシマシだし、殺し合いと言うにはお互いに殺意が足りなさすぎる。


 最初はオレの斧撃を放つ寸前で、アルテインの波弾が発動。直後に目から読み取った視覚情報ですんなり避けることはできたが――、


 「くッ!木々が邪魔で、狙いが定まらない・・・ッ!!」


 森の中を自在に動き回るパルクールを使うオレに対して、アルテインは波弾を発射できずに歯噛みする。


 だが、そんな光景が目に見えるオレもまた、


 「近寄ると、・・・接近戦だと、すぐさま動けるアルテインの方が、優勢だ。迂闊に近づけねぇ・・・」


 木のくぼみを利用した疑似空中移動に、猿渡、体重移動、縮地走法を駆使して木々の間をランダムに潜り抜けながら、オレはひっそりと呟く。


 先に攻撃を仕掛けた方が圧倒的確率で不利になる。完全に千日手だ。


 向こうもおそらく同じことを思っているのだろう。


 「距離を置くと、必中確率は遠のくな・・・」


 オレの脳裏にあるのは”あの技”の発動だ。


 限りなくオレの限界まで”制御性”を駆使した結果、”線”にはなったが”太線”としてその技は形を持った。


 「(実戦で何とかしろ!って・・・・。勘弁してくれないかね。修行内容ハードなんだよ・・・)」


 時折急な方向転換をしたり、急にその場で止まったりと、アルテインの攻撃の手に混乱をぶつけながら、オレは脳を二分割して考える。


 「(今現在はオレの方が木々に囲まれている分まだ優勢。だが、そろそろアルテインもしびれを切らす頃合いじゃないか?そうなると、ここ一体を粉砕する音波を放つか、いや、流石にそれは早計か・・・?なんにせよ、アルテインの目を見て次の攻撃に備えるんだ)」


 正直なところ、もしもこの森一体を吹き飛ばす音波が放たれでもしたら能力量に限界が来てアルテインがぶっ倒れるが、同時にオレもぶっ飛ばされてぶっ倒れる可能性がある。


 相手が正義感の強いアルテインだからこそ、そういうことをした後に起こることくらいは想像が付いているはずだ。オレへの迷惑ではなく、森を消し飛ばすことによる森林破壊に関してだ。


 段々とオレを”捕まえる”ことから目的と手段を変えようとする目をするアルテイン。少なくとも何か別の事をする前兆であることは間違いない。


 だが、その別のことが何なのかさっぱりだ。


 「変に近づくのは自殺行為だが、はてさてどう来るか・・・。何か確かめる方法は・・・」


 おそらくアルテインに煽りは通じない。


 これは勘なのだが、灰獅子を相手に電気属性の脳内部室の操作なしであの場に立ててたことから、相当肝っ玉が据わっていると見た方が良い。


 それに倣って、そういう耐性のある人ほど煽り耐性があると、オレはそう思っている。


 「だから、煽り以外の方法で・・・。―――ッ!!」


 なんとか言葉を交わすか目の動きを追って―――、と言うところで、オレの目が異常を観測した。


 ――アルテインの目の動きだ。


 スッと目が細められ、ちょっとした遺憾とも形容し難い残念そうな感情と、そして同時に瞳に攻撃色の輝きが見えた。


 「(――――ヤベェッ!!)」


 途端、オレの脚が最大限のバネを発揮し、危機感知本能に従って手短にある大木を蹴飛ばし、アルテインから距離を取った。


 「――――――」


 アルテインが何か短く呟いたのが見えた。


 刹那、オレが蹴っ飛ばした大木が、その太い幹をズレさせて地面にその巨躯を沈ませたのだ。断面は綺麗な木目が映し出されており、まるで鋭い大鉈で斬り飛ばしたように滑らかな切り口だった。


 一歩遅ければ、オレの身体はあの刃の餌食になり臓物のカーテンを作り出していただろう。


 「(――――ッッ)」


 想像してそれを確認した瞬間、オレの電気属性が覚醒する感覚を覚えた。

 

 ・・・集中力が広い平面となるイメージが出来上がる。


 そこに電気を纏わせて投げ網のように世界を覆っていく。同時並行にオレの全身の神経がむき出しになった。


 ――完全状態。


 生物の危機的警報が鳴った時を境に、電気属性(もう一人のオレ)が独立した技を展開したのだ。


 この状態であれば、次の敵の攻撃を、目を見ずとも分かるのだ。それどころか周囲の障害物、敵の存在を目を瞑って認知できる。


 だが、回避しやすくなっただけの話だが。


 「――――遠距離攻撃、・・・・波の斬撃か?・・・器用だな。指向性を付与するどころか、波属性そのものの力に新しい”形”を設定して、力を流し込んでるのか・・・?」


 おそらく、イドの言っていた”制御性”。その一部である”想像力”が刃を形どってるのではなかろうか。


 ―――と。


 察知した。


 手を右上斜めから、擦り叩く感じで。


 

 ―――パンッ!


 

 乾いた音が鳴り響くが、空気の振動すらも電気属性(もう一人のオレ)の集中力の平面の中ではオレの領域だ。

 

 故に、オレは左上に跳躍することで、音波の斬撃の直撃範囲から逃れる。


 三枚おろしになる攻撃を掻い潜った代償として、オレのパルクール技術が披露出来る範囲が狭くなったのは痛手だ。


 それにまだ、このままではオレの勝ち目が薄い。


 「さて、どうするかね・・・。ひとまず、次の攻撃終わりに、か・・・?」


 独り言をぼやきながらも、相手の混乱の本根である脚は止めない。草木をかき分け、枝から枝へと跳躍する脚にはまだまだやってもらうことがある。


 オレが木々の隙間から見るアルテインは、繊細な指向性を必要とするだろう波の斬撃を放っても疲れた様子はなく、むしろオレを見逃すことに目を疲れさせていたように思える。時々忌々し気に此方を見るその眼をやめていただければ、全然怖くないんですけどねぇ・・・。


 何にせよバンバカと斬撃を無鉄砲に射出してくるアホではなく、しっかりとオレと戦いながらも周囲の森林環境とかどうでもいいことを気にしてくれる理性が残っていることに感謝しつつ、オレは視覚、聴覚、触覚から感じ取る全ての情報を次の一手に繋げるように頭を回す。


 「(次の攻撃の予兆・・・、――――脚部を狙っての斬撃の放出!)」


 アルテインの目を見た直後、その眼に映る微量な光の反射から木々の間から見えるオレの脚を狙っていることが分かった。


 オレの脚を攻撃して止まったところに音波砲をぶつけると言う算段なのは丸わかりだ。斬撃が放たれた瞬間に跳躍して回避すればいい。後はタイミングだ。一秒ズレるだけでオレが致命傷を受けることになる!


 慎重に、尚且つ脚は活発に動かしてアルテインの目を観察する。


 「(跳躍はまだ早い!次の手鳴らしは、・・・・・1、2、3、――4ッ!)」


 アルテインの掌が水平に重ね合わされ、音がはじける。


 だが、恐ろしいのはそれが不可視の斬撃に変わることだ。


 世界から音が消える不可視の刃が生み出され、オレの走っている木々を、そのどっしりと構える数多の緑を背負った巨体が根元近くからずっぱりと関係を断たれる。


 だが、この時こそが好機なのだ。


 「――ふッ!!」


 平面に広く世界を覆ったオレの集中力と電気属性の力の前では、そんな光景もオレの庭で起きることのように手に取らずともだ。故に、どこから木々が、枝が、葉っぱが落ちてくるのか、どの角度で倒れるのか、どれくらいの速さで倒れてくるのかの全てがはっきりと分かる。


 だからこその、――奇襲だ。


 倒れてくる木々と葉っぱのせいで、アルテインの視界にオレは映らない。手の向きからして、左右のどちらかから出てきたところを斬撃で叩き切る考えでいるのだろう。首もしきりに左右を行ったり来たりしている。


 だが真実は違う。


 オレは跳躍して斬撃を回避し、倒れてくる大木をパルクールの壁走りの用法で上へと昇る。


 オレが狙っているのは倒れる木々を駆けのぼって上から奇襲を仕掛けることだ。


 そうなると重力加速や垂直抗力で威力は上がるが、空中に身体が放り出されるから無防備になるのではないかと。


 それもこれも全部分かった上での、行動だ。


 「(むしろこれ以外は、今は考えつかねぇ!!)」


 斜めに下降する木々の上を転々としながら走り抜け、幹から生え茂る枝を全て避けきって、木々の天井を越えた未開域に足を踏み入れる。


 一瞬しか成り立たない天に近い木々の頂。風が吹き抜ける、と言うよりか下から葉っぱと共に舞い上がってくる上昇気流に全身を流されそうになりながらも、そこからアルテインを見下ろす。


 ――まだ、首を左右に振りながら警戒をし続けているようで、こちらには気づいてすらいない。


 「っし、いっちょ行くか」


 ある意味一種の賭けにもなる。


 オレの生命とアルテインの性格と、目を引き合いに出した勝率100%の賭けに乗り、オレは空気に乗る。


 脚のバネが弾かれ、衝撃が爆散する。


 空中に放り出されたオレは一点で一時的に停止し、そのまま真下に、――アルテインの居る所へと落下する。


 これでその場を離れられると普通に落下死する残念な結末になりかねない上、何も言わないでいるとオレが死に、アルテインが下敷きになって死ぬ。一応落下速度の減速方法や受け身の取り方は習ったが、今の状況下、オレがバカにしか見えない。


 それだとカッコが付かなさすぎるので、ここは大一番だ。


 「アルテイ―――ン!!! オレを、見ろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッッ!!!!!!!」


 「―――――――ッッッ!!!??? ・・・はぁッ!?」


 空気と喉が張り裂ける程の怒号を上げて、アルテインにこちらの存在を認知させる。


 びっくりしすぎて瞳孔が最大限に見開き、口をパクパクさせる。


 奇襲の意味がなくなった。――――残念!奇襲は”これ”じゃねぇッ!!


 「―――馬鹿なの!? 的だよ完全に!」


 「全くその通り過ぎて反論できねぇッ!」


 アルテインはもはや今さっきまでのクールさが消えており、此方の勝手な命の駆け引きに素が出ていた。可愛い。


 だが容赦はなく、すぐさまアルテインは盛大に頭の上で手を叩きやがった。


 直後に噴出するのは不可視の刃、―――否。


 「(狙い通りだ馬鹿目ぇ! オレがこれを狙ってたんだぁ――ッッ!!)」


 オレが好機に心の中で歪に口元を三日月にする。


 

 オレの眼前に躍り出たのは、斬撃ではなく、波を固めた砲弾だったからだ。


 

 A A A 


 

 アルテインが波の砲弾を出すのは目に見えていた。


 なぜなら、刃は線であるが故に簡単に空中でも回避できてしまう上、目の動きからして離れれば離れる程その指向性に欠落が浮かび上がって、属性の力が露散する弱点が内包されていることが分かった。


 それに比べて、砲弾の場合は熟練の影が有り、灰獅子戦でも空中に、それも結構距離があったのに威力はほとんど射出時と変わっていなかった。


 オレとアルテインの距離は15m以上だ。


 だとしたらオレの場合、どちらを撃つかは明白であり――。


 「(それが叶ったってだけだ!――だが、これが敗因だぜアルテイン!)」


 こちとら、高所からの落下とそれに対する受け身の取り方は熟知済み。


 なんなら落下速度を落とす方法だって何べんも練習した。


 ――「落とすばっかじゃなくって、落とされる側になって見るのもまた一興だぜ?」


 イドの馬鹿みたいな一言が脳内で再生される。


 ――「お前の斧は何もモンスターを斬り裂くだけってだけじゃない」


 ――「ものがものなら、属性で固められた力だって斬り飛ばせる!」


 ――「”あの技”の強化の次は、それをするぞ。でもってその男の娘の落とし方もきょうかしよーか」


 ――「何、簡単だ。迫り来る属性を最高に嫌な奴の顔面だと思って、思い切りその斧を振るーんだ!罪悪感湧かねーし、ルナ自身の力も強化される。ストレス解消にもなるぞ!一石二鳥じゃねーか!なんならそのノリでルナの汗もぺろぺろっと、しちゃおーぜ」


 頭の中でイドの言葉がフラッシュバックする。今日の放課後までオレを鍛えてくれたキチの言葉が再際される。


 だから言おう。――――この言葉を。



 「お前が一番ストレスだわあああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」



 不可視の破壊を司る波の砲弾にガチホモキチガイのイドの顔が彩られるように、そのオレの汗を隙あらばprprしてくるあの気持ちの悪い顔面を叩き割るようにと、斧を合わせる。


 刹那、あの上半身裸体の変態のガチホモキチガイの顔がバッと脳ミソ全域に映し出され、オレの手に握られた斧の柄がミシリと嫌な音を立てる。だが、振り上げられたド正論と力の一撃は快哉を呼んだ。


 ―――ザシャァッ!!


 と、不可視の一撃とイドの顔面が斧によって真っ二つとなり、形になっていた指向性が丸ごと空気に露散した。


 「―――な、ぁ」


 今度こそ素の驚きが顔面から溢れ、声となってオレの耳を打つ。


 そんな可愛らしい驚愕の表情を取るアルテインににんまりと、一本取ってやったと笑いかける。


 オレの奇襲は、成功したと。


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