第一章23 『お手紙』
「属性は子育てと同じ、ねぇ・・・」
オレ、パパになった覚えはほとほと無いんだがなぁ・・・。
確かにオレの中で発現した属性って訳だし、ある意味俺がママなのかもしれんし、でも男だからパパかもしれんし、あまりはっきりしないんだよなぁ。
「(もうこれは中間を取ってパマパマってことにするかね・・・?)」
属性との共同成長の講座を聴いた後、帰って来たオレはベッドの上でそんな事ばかり考えていた。
イドの言葉には残念ながら、大体の言葉に意味がある。
悲しいかな、ただの宇宙人語じゃねぇんだ・・・。
多分、恐らく、十中八九、今さっきの講座にもそれなりに意味がある。で、その意味を考えるとどうしてもオレの中で燻る”電気属性”を擬人化せねばならぬ上、オレはパマパマと言うことになる。
かなり早い子育て講座だったわけだが、得られぬものがないという訳ではない。
「電気属性が、オレを生かせるように勝手に技を習得した、か・・・」
そう考えればあの灰獅子の咆哮に対する耐性?覚醒状態ってのも分かるし、予知に近い行動察知能力も合点が行く。
「電気属性に、意思ねぇ・・・」
イドは属性の事は”もう一人の自分”だと考えれば楽だと言っていたが、オレが二人だなんて考えるだけでもなんか、違和感がある。
結局子と親と言う関係性に落ち着いたわけだが、オレとしてはもうちょっと丁度いい例え方がないもんかと思ってしまう。
「(いやなぁ~、確かにそういう例え方が合ってるのは間違いねぇんだよ。問題はオレの意識の問題なんだよなぁ~)」
ずっとオレの所有する駒、とは違うけども、そうやって人間的な扱いはあんまりした事がない。やはり愛情的なものが必要なのだろうか。でもそれだとオレの属性に対する接し方がなぁ~ッ!でもそうやってオレが属性の扱いにしぶりを見せるといつか暴発しちまうんじゃないかなぁ~!(半泣)
多分急にパマパマになった奴ってこういう複雑な気分なのだろう。
心中お察しします。マジで心の行きつく先がどこにもなくって困る。
「とりあえず属性云々で迷ってても仕方ねぇ・・・・。寝るか・・・」
大切なのは心機一転だ。人って生物は焦れば焦る程”とりあえずちょっと休んで考える”ってことが欠如する傾向にあると思う。『今日中にやらなきゃならん奴』以外の『クソむずい課題』ってのは、案外そうやってリラックスをしてから考えればわかることもあると言うもんだ。
「(大丈夫だ。きっと、明日のオレが何とかしてくれるさ)」
オレは完全に明日のオレ任せにして、そのまま仰向けになって意識を落とした。
A A A
翌日は学校だった。まぁ勿論の事、オレは学校の生徒から目の見えない陰口を言われながら学園生活をし続ける。
登校?するに決まってんだろ。何で陰口&嫌がらせにしか脳がない陽キャ二軍みたいな奴の為にこっちが生贄にならんといかんのだ。
「では、今日も特にと言って用事はない。あぁ、後そろそろ学年合同決闘大会があるから、参加したい人は人事部まで連絡入れとけよー。それでは、解散!」
先生の声が響き渡った直後、生徒がそれぞれ自由行動へと移行する。
今日もまた終礼まで嫌がらせのオンパレードだったな・・・。
オレは自分の属性が発現してからずっと、嫌がらせを受けている。
嫌がらせと言っても大したことはされていない。
机が無くなったり椅子が無くなったり、トイレで水をぶっかけられたり財布から金を抜き取られたり、後何があったっけ?あ、靴箱にゴミ詰めたりとかあったな。
でもまぁ最初はビビったけども、机椅子に関しては空き教室から持ってくりゃ良いし、トイレはこっそりと上から別の個室に移動すればいい話だし、財布には偽札入れてるし、ごみに至っては別の奴の靴箱に入れてるからノー問題だ。
そしてまぁ、大体そういうことをしてくる奴に目星がついたわけなんだが、それが今クラスの左端、――ベランダ方面の隅で固まってる陽キャ二軍どもだ。
一軍の陽キャはことなかれ主義のクソイケメンと女王様とそいつらの取り巻きが居るのだが、そいつらは残念ながら他クラスの生徒だ。確か、アルテインと同じクラスだったはずだ。
女王様はむっちゃ良い人だとは聞いているが、此処のクラスを統治してないので、必然的にここのクラスの二軍陽キャが一軍と言うヒエラルキー頂点に君臨することとなる。
んで、その二軍(一軍モドキ)は隅の方で固まりながらオレの方を見ながら大きな声で悪口大会をやっていた。
「昨日アイツ見たわ~」
「え、マジどこで!?よくもまぁぬけぬけと通りを歩けられるよねぇッ!!」
「いやさぁ!模擬試験なんよ出会ったの!!いやぁ~~、最初人違いかなぁ~って思ったんよなぁ!」
「でも本物だったと???え、でもあそこって電気属性の班とか無かったよなぁ!?」
「ちょちょ!オイラの台詞取らんでよ~!そうなんよ!なんか他の班に乱入したらしくってさあ!」
「わ、それマジヤバ」
直後その二軍の中心人物に居るなんか色々ヤッてそうなジャンキー臭プンプンの女が叫んだ。
「それって犯罪じゃーん!犯罪者が居るの!?マジアリエナイ!」
口元に手を当てて「きゃー!」と叫ぶ。眼が黒塗りで見えねぇせいで本意は分からないが、多分あの顔は本気で頭がパァになってる証拠だ。
「(相手してても意味ねぇな、あれ。変にかかわると面倒くせぇ・・・)」
あの金髪黒女が叫んだ瞬間、一気に周囲の空気が変わったのを肌で感じた。
元々悪かったんだが、更に悪意が満ちたと言うかなんというか、少なくとも「オレの味方をしたら今度はお前の番だァ――ッ!!」と言う空気が少なからず出ていた。
それでクラスの皆は誰も味方に付いてくれない。まぁ付いて貰ったら貰ったらで困るんだけども。
オレはそんな地獄みたいな空気に耐えてやる義理はないので、早々に席を立ち、帰る準備をする。一旦荷物を置き、その後イドといつもの訓練をするのだ。
反抗でも従順でもなく中間。その立ち位置から動かずにいてくれればいいんだが、どうにもこうにも人間ってのは難しい生き物で、狙われまいと、わざとオレに嫌がらせをしてくる奴が居る。
「貴方達二軍の仲間ですよ~、狙わないでね~」と媚びへつらうゴミメンタルしてるクソ共だ。
そう、例えばオレが荷物持って教室を出ようとすると、すかさずそこに片足突っ込んでくる馬鹿男。
こけさせて惨めな姿を拝もうとでも考えたか。
でもそういうの含めてパルクールの練習として使うことにした。
「よっと」
「え」
オレは教室の扉の壁に左足を付けさせて、そのまま軽くジャンプしてひっかけを飛び越える。
まさか飛び越えるだろうとは思っても見なかった男子は、びっくりした顔で思わずのけぞった。
急に来る障害には慣れたもので、灰獅子の一件があって以来、オレの動体視力は格段に跳ね上がっていた。瞬間的な状況把握能力に即座に判断を下す脳みその合わせ技によって、オレの反応速度は灰獅子戦の時の半分くらいの出力があった。
「(残念だったなぁ!お前らの行動は最早手に取るように分かる!遅い、遅すぎるんだよぉッ!)」
なんか漫画でよく見かける三下の鑑みたいな奴の言葉を捨て台詞として心の中で叫びながらオレは教室を離れた。
多分こんな生活を卒業するまで延々と続けるんだろうなと思うと心が痛くなったのは、内緒だ。
A A A
オレは誰よりも早く屋敷に帰ると、ポストに何かが投函されているのが分かった。
「親父への手紙か・・・?」
普段ならメイドさんの仕事だとは思うのだが、ポストに残ったままの所を見ると今さっき投函されたのだろう。
ポストを開けて中身を見て見ると、手紙の後ろには”印”が押されていない。どうやら親父や母さん宛の正式な手紙ではなく、むしろ軽い飲み会とかの、そっち方面の手紙だろう。
だがここでオレは気づいた。
ふと何気もなく封をされた手紙の右下。宛名を書くところに、だ。
――ゼクサー=ルナティックと。
「―――??」
疑問が湧いてくるが、問題はそこだけじゃない。
裏面にもあった。
「アルテイン・・・・」
手紙の後ろには差出人の名前が、
――アルテイン=エルダーデイン。
その名があった。