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『最弱』の汚名は返上する。~不遇だなんて、言わせない~  作者: パタパタさん・改
第一章『アルテイン編』
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第一章21 『事後報告』


 模擬試験のあった日の真夜中。


 普通ならいい子はもうおねむの時間だ。だが、オレの家には誰もいない。だからこそ、門限なんて贅沢なものはなかった。


 街中は電灯が点いていて、酒飲みがあっちやこっちやで千鳥足をもつれさせて騒いでいる。だが、それとは正反対に森へ続く道は何もない。ぼうっと、火の光が硝子を照らす家が数件あるだけ。


 まるで今日が誰かの命日であるかのようなーー。


 そんな静けさと恐いくらいに何もない森の中を進んで、オレは一人の男と待ち合わせをしている場所へと足を運ぶ。


 茂みを分けて進入禁止の張り紙のあるフェンスを乗り越えて、着いたところはオレの心の拠り所だ。


 オレの全てが始まった場所でもある。


 「やーやー、お疲れーい!」


 しみじみと物思いにふけるオレに威勢の良い声が労いの意を込めてオレの耳を打った。


 背後に大きな濁った溜め池のある大きな大木、その隆起した根っ子に鎮座する人物が約束の相手だ。


 「イド、約束通り来てやったぞ」


 オレに電気属性としての、そしてオレ自身の戦いかたを教えてくれた張本人。師匠に当たる存在だが、オレはコイツに払う敬意は持ち合わせていない。


 夏といえど夜は人の背筋を撫でる程には寒い風が舞う中、その男は上半身に何も身に付けず、その割れた腹筋、血管蔓延る太いしなやかな腕を惜しげもなく晒している。社会的な常識を曲解している、“自称“一般的な良識のある市民のジォス=アルゼファイドだ。


 「敬意無しとか妥当な判断だな。オレもまずはおホモ達から始める人だから、変に上下関係とか作りたくねー。最低限人を敬う心があればそれでよし!だよな、ルナ?」


 「あぁそうなの?知らんけど、そうじゃない?」


 オレとジォスはお互いに愛称で呼びあっている。ジォスがイドで、オレがルナだ。


 閑話休題。


 軽い紹介はここら辺にして本題に入ろう。


 オレがいつもの位置。・・・イドと2mくらいの距離あるところにある、夏休み中にこさえた丸太に腰を下ろした。


 「さて、模擬試験はどーだったかな?周りの反応はどんな感じだったかな?」


 開口一番、イドが聞いてきたのは正に今日の試験のオレの手応えだ。


 「天候が快晴過ぎて正直やばかった。森にも誘えないし、手負いは出るしで最悪の戦況だったわ」


 「それで“新技“か?発想でそこに行き着くだなんてルナやべーよ」


 一瞬息が詰まりそうになった。オレが模擬試験中に“新技“を開発したのが何故かイドにバレているのだ。だが、そうやってオレの記憶を簡単に読み取ってくれるイドにはもう驚かない。流石、指紋とか足跡とか素粒子云々の動きがどうので分かるイドだ。


 「次はなんだ。汗の成分か、産毛の生え方か、何で“新技“の存在を知ったか・・・・もう驚かないぞ」


 「いや、今のは完全に俺の冗談だったんだが・・・・」


 「」


 声からしても、目の動きからしても全くもって“嘘“を感じさせないイドの言葉にはオレ開いた口が塞がらなかった。・・・マジかよ。


 ほんの一人の、・・・一匹の生物の冗談に看破されてしまったオレの切り札。無茶苦茶に色んな葛藤や状況を踏み越えたオレの感情そのもの。完全に自慢する機会も全部ふいにされてしまったオレの気持ちは何処へ・・・。


 ジト目で肝心な“新技“紹介を潰したイドを見ると、居たたまれなくなったのかスッと顔を背けて口笛を吹き出し始めた。あ、コイツ反省してねぇな!?


 オレの感情が沸騰しかけた時、無茶苦茶に上手い一人オーケストラしてたイドが言葉を向けてきた。


 「そーいや、新切り札の話の前に一つ。ルナ、お前模擬試験失格になって追い出されただろ?」


 「ーーーーー」


 イドが今日一番に触れてほしくなかったところ、その核心に触れてきた。


 模擬試験の結果として、オレは身分証明を偽り参加したとして失格。そのまま追い出されてしまい、灰獅子の手柄はアルテインに渡った。受け付けにいた副団長がニヤニヤしていたのを思い出すに、おそらく権限でも何でも使ってオレは受け付け素通りの問題児に落とし込んだのだろう。


 最初っから電気属性が波属性の試験場に入ってるのが間違いなんだが仕方ない。それくらいしか方法がなかったのだから。


 「まー、急に下に見ていた奴がしゃしゃり出てきて、波属性でも倒せなかった奴を無傷で倒したとなると、やっぱり素直に称賛はできねーよな。なんか分からんけど、その高笑いの鼻をへし折りたくなるよなー」


 「・・・・まぁ、そうだな」


 ちょっと分かる気がするのは昔の自分が六属性を束ねていたらという、イフの世界で客観的に見たらの話だ。


 ずっと守ってもらってばっかの奴が、最近まで最弱の烙印を押されてた奴が急にその才覚を見いだして、オレに出来ねぇこと軽々とやったら、そりゃ殺意の一つや二つ湧くだろうな。


 だが、その才覚を努力と経験と過去から見出だした当事者にとってはとばっちりだよなぁ。でも引きずり落としたい奴の気持ちを一概に悪いとは言えねぇもんな・・・。


 下にある者は下にあるべきという観念が既に出来上がっているのだ。


 だから、それに反する存在は違和感に感じる。


 「(仕方ねぇ感情なのはそうだけどなぁ・・・)」


 オレがなんとも言えない気持ちを抱いていると、イドが「いやいや」と手を振った。


 「あいつらはただ単純に考えることを放棄して、つまらねー幻想をいつまでも離すことが出来ない只の赤子だ。外見が育っておる分赤子より醜いんだがな。おっとこれは赤子に失礼だったな」


 さらっと人類の核心に触れかねない発言を噛ますイドに、不意の言葉に動けないオレがいた。さらにイドは続けて言う。


 「ルナは、一度あの幻想に浸かっていた奴だから分かる。その視点は大切だけどよ、その慈悲はいらねー感情だ。それは、赤子が可愛いから育ってほしくねーって言ってるも同然だ」


 「・・・・・・・・・・・・」


 オレはその突き刺すようなイドの言葉に口をつぐむ。これ以上の深入りはダメなようだ。


 その代わりといってはなんだが、イドはそれなりに誉め言葉も用意していた。


 「でも、実際よ。手柄は渡ってもアルテインはそんな功績に納得しねーだろーし、単純にルナの凄さを認めてたんじゃねーか?」


 その問いかける台詞にオレはあの灰獅子を相手取って満身創痍になったアルテインを思い出す。


 アルテインはオレが思ってたよりも正義感に熱い男子だった。オレをあの場から退場させるときも、オレの目線で物を言ってたし、知らないふりすりゃ良いのに、わざわざ他の生徒を助けようと一人で灰獅子に挑んだ。


 それに、あのときの。・・・オレが灰獅子に勝ったときに見せてたあの驚きの瞳には絶対嫉妬とか嘘とかの感情は一切入ってなかった。


 「・・・・そうだな。確かに、そうだ」


 「その一粒の驚きと、それをくれた人は大事にな」


 オレがあのときのアルテインの顔を反芻しながら頷くと、イドもまたうんうんと頷いてくれた。


 

 A A A



 少し感傷に浸った後、イドとオレは改めて新技の話題に入った。


 「んであの“新技“。ーーー電気信号のハッキングはどーだった?」


 ハッキングという言葉に聞き覚えはないが、電気信号という部分は合ってるため、一応首を縦に振った。


 オレが模擬試験の時に灰獅子相手に使った技。それは単純な攻撃指示の変更。簡単に言えば、電気信号の一部分の書き換え。


 思い出すのはどういう変更の仕方をしたのかだ。


 「(オレが灰獅子の首に引っ付いてる。そんな感じの想像を頭に中に流し続けたんだ)」


 ぶっつけ本番でやったためか反動も集中力もかなり強かった。そんな印象しかなく、顔の回復がすんでペチャンコになる前に洗脳をせねばと、必死だったのもあって、今のオレの口から出てくる言葉はこれしかない。


 「むっちゃくっちゃに、辛かった。死ぬのが恐すぎて数秒が長く感じた」


 「だろーなー」


 敵の眼前で背中をさらすという自殺行為。正直慣れないことをしたせいで寿命が減りかけた。いや、実際減った。だけどその分の功績はあった。物的な功績は奪われてしまったが、その経験はオレの精神に多大な影響を与えてくれるだろう。


 ・・・と。


 精神繋がりで思い出した。


 オレはイドに疑問の口を開く。


 話すことは、初めて灰獅子の雄叫びを聞いたときの身体の反応だ。


 本来なら見も心も縮こまって動けないはずなのに、何故かオレには効かなかったのだ。これには流石に思い当たる節がない。咆哮耐性なんてつけた覚えがないからだ。


 更には頭がキレるだけではない。目を瞑ってても、何故か灰獅子の次の行動が分かるようになった事だ。もはや一種の予知に近い能力だが、オレはしがない電気属性。イドみたいな生物を超越した真似は出来ないのだ。


 オレが口を開いた時、何を言いたいのか分かったらしいイドが返答をした。


 ・・・最も、オレの耳が捉えたのは”答え”なんて大層なものではなかったけど。


                

 「あーあれか、ありゃルナが意識的にやったもんじゃなかったのかよ?」   

    

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