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『最弱』の汚名は返上する。~不遇だなんて、言わせない~  作者: パタパタさん・改
第二章『ニーナ編』
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第二章71 『記憶力の限界値』

 それは唐突に起こったことだった。


 昨日は授業終わりに国語の補講を喰らい、著者の心の無理解に苦しみ家に帰った後は泥のように眠った。


 そこまでは覚えている。


 では、この景色はなんなのか。


 天井は開かれ、どこまでも広い青空があり、どこからか生物特有の足音や断末魔が聞こえる。


 「(どこだここ・・・)」


 さわやかな草の香りから野原に居ることは分かったが、オレは野生児に退化した覚えはない。だからここで寝ているのはおかしいのだ。


 ゆっくりと立ち上がり、そっと辺りを見渡す。周囲には草原があり、向こうの方には山が見える。視界のずっと端では巨大な何かが巨大な何かを追いかけて過ぎ去っていった。


 「やっぱどこだここは」


 改めて自身の身体を見てみると寝巻は剥がされ、オヴドール学園の制服に肩パッド、脛具に斧が装備されている。完全に外面は戦闘用だ。


 「夢・・・にしては出来過ぎてる。風もずっと本物だ・・・」


 虚空で手を動かし、風を感じる。生暖かい風だ。ちょっと湿度も感じるが、季節を感じる。前から風を感じると同時に首筋にも風を感じた。夏を思わせる湿った風ではなく、完全に生暖かい、まるで春のような風だ。


 「妙に気持ちいいな。夢じゃなさそうd」


 「ふー」


 特に何も思ったことはない。なんとなく後ろを振り向いただけだ。


 それがまさか最悪の気づきになるとは思いもせずに。



 ――イドがいた。


 

 イドがキス顔で息をひゅるると吹いている。今度は頬にかかった。間違いない。さっき首筋にかかった生暖かい風はコイツの息だ。


 認識した途端オレは絶叫した。


 「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!?? 変態いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!???」


 「うわお、あぶねっ」


 火事場の馬鹿力と言うべきか。反射神経が唸りを上げ、これまでにない速度で斧を引き抜き、風を切って目前の変態の首を斬り飛ばさんとその猛威を振るう。しかし直前で気づかれ、変態が身体をのけぞって斧の軌道から逸れたことで斬撃は見事空ぶった。


 無論それだけで終わるわけでもなく、斧の引き抜きと同時に展開した『平面の集中力(レーダー)』と地面を蹴り上げて安全な間合いまで跳躍移動した。


 そしてやっと現実らしい現実を脳が理解し始める。


 「あれ? ・・・・・変態(イド)? なんだよ急に。びっくりするだろ」


 「びっくりするのは俺定期。しかしまー、相手が俺じゃなかったら今のは満点だな。褒めてやろー」


 「お前じゃなくとも今のは間違いなく地域で妖怪扱いされるタイプの変態だぞ。回覧板に載るタイプだぞ」


 「言うほど回覧板に載るか? 俺ん時は古書に怪異として書かれてたが。『江戸の怪異・樹海の男堀り士』って」


 「もっとダメじゃん・・・」


 げんなりと肩を落とす。間違いなくイドだと確信したが、確信したくなかった。


 「で、どうしてイドがこんなとこ居んの?」


 まさかこんな訳の分からんところでイドに出会うとは思わなかった。否、イドなのでどこにでもいると考えた方が良いのだが、起きたばかりの脳ではそこまで理解が及ばない。


 イドはなんて事ないように、冷静に、単純に答える。


 「久々にルナを鍛えに?」


 「なんで疑問形」


 「時間があるから?」


 「・・・・」


 顔を手で覆い、ため息を吐く。ここまでしっかりと適当な奴もそう見ない。すごい簡単なノリで答えてくるくせに何一つ分からないとは大したもんだ。


 「何を鍛えるんだ・・・? 身体能力とか? 毎日ランニングしてるし反射神経とかも割と大丈夫だし、電気属性だって毎日」


 「いや、まだ足りねーんだ」


 「―――!」


 無意識に顔が強張った。ピキリと硬くなった頬を撫でるようにオレとイドの間に冷たい風が吹き過ぎていく。


 「ルナの運命はここで終わるなと叫んでいる。亡命して、それで終わりじゃねー。オレウスはお前のことは武器だと思ってるが、それを活用することはないよーにとなるべく鍛錬のことに口を挟んでこねーんだ」


 「そこでなんでオレウスが・・・」


 「それはまーまだ早いとしても、ルナには新しい電気属性の技を身に着けるべきだ」


 「新しい、技・・・」


 歯茎を見せながら、殴りたくなるくらいの良い笑顔でイドはオレに親指を立てる。


 オレは手を顎に当てて少し思考する。


 「(オレの今の電気属性の技っつったら大まかに言えば、錯覚、空間把握、雷撃、砂鉄による小物武器生成・・・ってところだな。攻撃寄りだし、必要なのは防御や回復、はたまた妨害系になるのか・・・?)」


 「ぶっぶ~~~~~!! 違う! 残念だったねぇ~~!」


 「あぁ? 違うのかよ。むかつくな」


 ふぐの如く両頬に空気を入れてこちらを煽るイドに舌打ちをする。針があったら突いてやりたいが、イドの煽り文句には慣れてきた。腹立つけど。


 しかし違うとなれば何があるのか。


 むんむんと考えていると、ふとパーティアスに居た頃の記憶がよみがえってきた。


 確か、イズモが広めた“えすえふ”というジャンルで電気を使った超兵器が出てきたのだ。電磁加速とかよくわからない法則と原理で銃弾を飛ばす、滑腔砲の一種―――。


 「――レールガン!」


 「おっと、惜しーが違うな。そもそも電磁砲をお前の身体でやるとお前の四肢がちぎれるからやるなら『悪意の翼』の制御性を高めてからな。後単純にルナの能力量はそこまでないし、攻撃技じゃねーよ」


 「えー、できないのかよ。無限に再生を続ける生物兵器の口に銃口を差し込み、そのまま壁もろとも大穴を開ける! みたいなのは」


 「最初中学生の方かと思ってたがあの男が持ち込んだのはそっちか。なんにせよ無理だぞ。技術的にパーティアスでもダンケルタンでも不可能だ。中学生の方でも無理だ。反動で四肢がもげる。あとそこの世界とこっちの現実じゃ原理が違う」


 「ひぇ!」


 中学生が何を意味するかは知らないが、あの巨大な大砲を撃った場合、現実では反動で身体がばらばらになるらしい。


 想像し、血の気が引くオレにイドは手を振る。


 「そんな高レベルなことは求めてねーよ。まだ早い。今回やるのはデバフだ」


 「でばふ・・・?」


 「相手を強制服従させて、脳の動きを操作する」


 「はぁはぁ、なるほどね。―――――は?」


 思っていたよりもずっと楽そうなのが出てきたと息を吐き、その言葉の意味を一言一言をかみ砕く。そして疑問の声が出た。


 「どーしたよ。そんななんとも形容しがてー顔して」


 「いやだって、脳を動きの操作って、子供の頃父親に見せられた漫画で出てきた胸糞漢の設定にそっくり・・・」


 突発的に思い出したのは遥か前、十歳の時だったか。あらゆる女性の脳をいじくりまわして奴隷にするとかいうクソ漫画に出てきたチンピラ男に、今イドの言った「脳の操作」能力が付けられていた。主人公のメガネ男子の彼女もその胸糞漢の毒牙にかかって・・・、と人の不快感を浮き彫りにするような男だった訳だが。


 「オレは純愛至上主義だぞ!?」


 「知ってるよ。全く、あの男は年端もねー男に何見させてんだよ・・・。それはそーと、何もあぶねーことをする技じゃねーよこれは」


 「というと?」


 イドはどこからともなく白ボードとペンを取り出す。そして何やら描き始めた。


 描かれたのは人、否、その中の脳の部位だ。大脳、小脳、細かく視床下部を丁寧に仕上げ、しわも描いていく。


 「これは動物の脳だ。今回は人間よりのデザインだが、モノによってはその形は様々だからこれだけにはとどまらんぞ」


 「あ、あぁ、それで?」


 オレの困惑交じりの問いにイドは大きく、意地悪い笑みを浮かべる。


 「生物学の授業を開始する。地球が解明してきた脳の構造と、その脳から出る生態電気とそれが働く部位、海馬の仕組みを全部覚えてもらう!」


 「」


 

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