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『最弱』の汚名は返上する。~不遇だなんて、言わせない~  作者: パタパタさん・改
第二章『ニーナ編』
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第二章幕間《妄想の代価》

 「最近、国王直近の部下のクロテント派が結構荒れてるらしいね」


 「なんかお忍びで城下町に来ている最中に闇討ちにあったらしいわ。クロテントご本人は存命だけど、部下は全員殺されて、臣下は行方知らず」


 「確かクロテント家の三男? 四男? が学校ごと消失したとか。闇討ちした奴と同一人物って話もある」


 「陰謀論叫んでるやつをこの前見かけたけど、本当にこの国は終わってしまうのか・・・?」


 不安がる声。面白半分の声。からかう声。今まではそこまで気に留めるほどのことでもなかったのに、今では町通りを歩くたびにそんな話題ばかりが聞こえる。


 「アルバルト先生も外出ればいいのに・・・」


 私は”約束”以外では決して外に出ようとしない、「薄暗くてじめっとした部屋で一人になるのが好き」とか言ってる心理士あるまじき発言をするあの男を思い出す。


 今の国内情勢は荒れ気味だが、それでも外に出た方が良いということもある。


 「身体を動かしたり、太陽光を浴びて免疫力の増幅、そんな習慣あったら今みたいに引きこもり大人気心理クリニックの先生にはなってないか・・・」


 少し考えてみたが、流石に太陽の下ひゃっほーいするアルバルト先生は想像できなかった。アンドロイドの身体になって思考力とか色々伸びているはずなのに、それだけは想像できなかった。くやしい。あまりのくやしさに握りこぶしを作って胸によせ、上目遣いで目端うるうるしちゃう。


 ・・・・・。


 「だーめだ。これで先生は落ちない」


 馬鹿らしくなったのでやめた。何が悲しくて虚空に向かってあざとさアピールしているのだろうか。


 それはそうと、うちの先生は不思議なほどに女に対しての免疫力が高い。


 この前デート(という名の薬局への薬の買い出し)で美人局に出くわしたが、先生は「僕は一途なんだ。君よりも見れる人がいる」とさらりと払いのけたことがある。私が思わず「うぐ」と言ってしまう美人だというのに、先生の目は死んでいた。いや、今も死んでいる!


 「まぁそこが格好いいんだぁ~~! 新鮮な魚みたいな虚無虚無した目つきとかマジで刺さる」


 そこだけじゃないけども! 良いところはそこだけじゃないけれど!


 一瞬アルバルト先生の好きなところが胸の内からあふれてきそうになったがなんとか抑制する。


 主観的に見れば片思いの異性に対する想像を膨らませて興奮する白衣女子だが、客観的に見れば薬袋片手に頭おかしい行動をする白衣女子に映るという不思議。ぜひとも自重すべきだ。


 周囲の人々はあふれんばかりのクロテント派の話題で持ち切りなわけだが、私としてはそれよりも大切なことがある。


 「ふっふっふっふ、あと三週間~~」


 私的特別イベントの期限が刻一刻と近づいているということだ。


 きっと本人も覚えてないだろうし、否、絶対に覚えているはずがないだろうし、そんな一大イベントなんて年を取るにつれて失くなっていくだろうし、そもそもあの根暗に友達が居たのかどうか・・・。


 「それでもそれを出来る空間に私と先生が居れば十分なのです!」


 出来ればゼクサーとその彼女? 彼氏? と、あの殺人経験者みたいな怖い人も誘いたいまである。


 後者は間違いなく先生引くだろうけど。


 そんなふわふわした思考をしていれば時間はあっという間に過ぎるのだ。


 まぁ、生前は毎日地獄だったから正直毎日が遅く過ぎる感覚だったけど、この体になってからは割とサクサクと時間が過ぎている気がする。


 「はっはっは、ゼクサーには感謝だ! 年上の身として弟は流石に呼びたいな!」


 どれもこれも、今の生活があるのは間違いなくゼクサーのおかげだと言える。もう永遠にあの森から、己の闇にひたすら憎悪と嫌悪を向けるものだと思っていた。


 そこに迷い込んだ邪悪の権化、悪意の化身ことゼクサーに助け出されて成仏した辺りから私の第二の人生は好転した。


 「人生っていうか、アンドロイド生っていうか・・・。ま、細かいことはなんでもいいか!」


 正直この体は多少不便なところがあるが、それでもかなり便利だ。トイレの必要はないし、力強いし、属性の力を多少使えるし、なんなら肉体ありきの目でゼクサーとアルバルト先生を見れている。


 「輪廻転生? とはまた原理が違うっぽいけどゼクサーをむぎゅーってやれるし、先生と手を繋げるのでノー問題! 気にしたら負けなのさ!」


 というわけで、スキップスキップランランランする恋多きアンドロイドは、陰謀論ざわめく町内を軽い足取りと高鳴る胸を動力源にかろやかに駆けていく。


 いつも通り商店街を抜けて近道、というところでふと私を見つめる目があることに気が付いた。


 ――人ごみの中、私を見つめる視線が一つ。


 「うん・・・?」


 アンドロイド特有の目は人と違って、常時記録されていき、頭の中でその記録を見直すことが出来る。それに視力もかなり良く、数㎞離れた小石でも見つけることが出来る。


 その権能を以てして、私はその脚を止めて記録だよりに人ごみの顔を識別していく。


 本来ならば先生から「最近アンドロイドの病気が流行ってるから寄り道はだめ。後女の子なんだから夜道とか路地裏とか行ってはいけませんよ」とのことで、まっすぐ帰るのが定石だけど今の目線はどうにもこちらに害為す気配を宿してはいなかった。


 むしろ逆。


 「あっちは私のこと知ってる風だったな・・・」


 アンドロイドは人間味を持たせるために、作成段階であらゆる知識、計算能力を付与される。そして特殊な電波装置によって新たな事柄に関することをデータとして恒久的に受け取っている。そのデータは記憶装置に保存されるわけだが、その中にはアンドロイド作成に関することもある。


 「アンドロイドの身体は元々は誰かの死体だった。アンドロイドにする過程で内臓を機器に入れ替えて血管をチューブに、骨を金属にして色々する。今の視線的に私の身体の元の人物を知る人なのかもしれないし・・・」


 割とアンドロイド関連の事件でそういうことは少なからず起こる。「誰誰、どこどこの人は死んでいるはずなのに全く同じ外見をした人が街中を歩いている」といったような、アンドロイドと元の人物を重ね合わせてトラブルを招くことがある。


 今はアンドロイド。しかし昔は誰かのそばに居た一人の人間。失った過程によってはトラウマを呼び起こしてしまうこともある。


 私は人ごみをかき分け、記録の中にある人物を今目に映る人々の顔と照らし合わせて、高速で答えを算出する。


 そして―――、


 「見つけたぁッ!!」


 「うわっ!?」


 学生の制服、その袖をとっ掴んでその行動を無理やり止める。すらりと伸びた脚に膝までかかるスカート、そして鼻腔から感じ取れるふわふわした匂いに驚いた際の声音からその人物が女子であることを識別する。


 学生の見た目からして、この身体の生前の友達とかだろうかと予測を立ててその子の顔を再度よく見る。


 甘い栗毛に、黄色い瞳。全体的にふんわりとした印象を持つが、使われている香水からしておそらく貴族の子だろう。


 「あ、あなたは・・・!」


 「ごめん! 今さっき私のこと見てたから、何か誤解を生んだかと思って・・・」


 「誤解・・・?」

 

 「私アンドロイドだから、生前の身体の人の関係者が私を見ると変に思うかなって、もしかして私のこと知ってたりします?」


 「ニーナさんでしょ? アルバルトメンタルクリニックに雇われているアンドロイドさん・・・」


 「へー、この身体の子の名前ニーナっていうんだ。・・・・・・・・え」


 思わず似てるなぁとか思ったが、ちょっと待った。


 今この子は「アルバルトメンタルクリニック」と言ったのだ。


 幻聴ではない。機械の誤作動でもない。確実に、「アルバルトメンタルクリニック」といったのだ。


 だとするなら、今さっきの私の壮大な思い込みは―――!


 自覚した瞬間、顔に一気に熱が走る。耳まで湯気が出そうになるのを抑えるが、それでも混乱する。


 「もういっそのこと殺してくださぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいいいいいッ!!!」


 「ど、どうしたんですかニーナさん!?」


 恥ずかしすぎた。流石にお客さんを見間違うのはヤバすぎる。


 この行き場のない感情は波となり、私はその場で倒れ伏しごろごろと転がる。


 恥ずかしい! 恥ずかしすぎる・・・! 勘違いして色々な妄想した私が馬鹿みたいだ。


 

 はぁ、・・・死にたい。



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