第二章幕間《被害妄想系傲慢型超広範囲八つ当たり拡散核地雷男子》
「あのさぁ、君は一体何を考えているわけ? 僕が迷惑するって言ってあげているのにまるで聞きもしない。それで刃を向けてくるってことはつまり最初から会話の意思なんてなかったって判断になるんだよねぇ。何? そんな醜い様相にしてあげたのに口が欲しいとか冗談言わないでよ。これ以上僕の精神を削るのやめてくれないかなぁ?」
僕の高貴な靴の裏に踏みつぶされ、汚い汁を出しながら痙攣する醜い”人間だった”生物はそのまんまるの黒い瞳に何を映したのか。最後に僕を汚い視線で見つめた後、ゆっくりと事切れた。
「これで八つ目か。やれやれ、僕は平和主義者だというのにどうしてこうも君たちは好き好んで僕を巻き込むのか。王国の崩壊? そんなこと、僕が母親に怒られることと比べれば優先度は明らかだ。最近の人間は自分の世界が全ての世界の認識だと勘違いしているから困る。もっと他人を思いやる気持ちを持つってことが出来ない訳かなぁ?」
しかし一人で呟いても意味はない。原子属性で遺伝子干渉を起こした”人間だった”生物の亡骸を踏みつけながら、僕は懐から地図を取り出す。
「ここも潰した。・・・あと三つか。この調子で潰して行って、最後に個人的に怪しいところを軒並み制圧していけばすぐに帰宅できそうだ。気持ち一週間くらいかなぁ・・・。怒られるのはすでに確定してるけど、今後怒られないための予備として残って問題解決に勤しむのが正解かな」
発掘途中なのか、遺跡内を歩きながら僕は改めて今後の動きを考える。
遺跡だからか、元々は高度な文明があったのだろうその場所は風化と共に土の色を顕わにしている。ここからどのようにして戦争時代に猛威を振るったとされる破壊兵器を今の時代に顕現させたのか、実用化までに踏み切ったのか気になるところではあるが、残念ながら今の僕は旅行しに来たわけではない。
それよりも気になるところがある。
「そもそも、なんで拠点構えてるところが軒並み発掘途中の遺跡内部なんだ?」
最初に通り魔行為をしてきたあの集団の実質二番手みたいなやつに国の崩壊計画の全容を聞き、その中枢を担う傭兵団の拠点をこうして潰してきて回ったわけだが、あることが引っ掛かった。
それが傭兵団の拠点が遺跡だというところだ。
それも一つ二つじゃない。その全てだ。
「僕が思うに普通は山の中とかじゃないのか? 隠れるって言ったら・・・?」
盗賊、傭兵集団、なんにせよ国に仇なす集団が事を起こす前に隠れるところと言えば人目につかないようなところ、平たく言えば人が近づかないようなところだ。
「確かに一般人がわざわざ発掘中の遺跡に行く意味はない。立ち入り禁止の張り紙があったし、わざとらしく地雷も埋められていた。僕みたいな多少地雷を踏み抜いても大丈夫で、明確な意思がある人間じゃないと通らない領域なはずだ。それに」
それに、こういうものは定期的に発掘が行われるはずだ。だとしたら作業員が傭兵集団を見つけるのではなかろうか。
「サバイバルとかそういうのには詳しくないから何とも言えないけど、この焚火跡にコップのサビ方に擦れた足跡は多分一か月くらい前からここに居るはずだ。だとしたら少なくとも二回は作業員に見つかっているはずだ」
ここに来る前に通った封鎖されていた道の張り紙には、いつこの道を通行することが出来るかという日程が詳しく書かれていた。逆にその日程にない日は作業日だということになる。
そして大体一か月前からこの場に傭兵団がとどまり続けていたと考えると、張り紙に掛かれていなかった日程を鑑みると少なくとも二回、下手すると三回は遺跡発掘の作業員を鉢合わせることになっていたはずである。
「その日だけピンポイントに居なくなるなんてこと、流石に非現実的だ。火の後始末はもとより、価値ある遺産に描かれた落書きなんてどうやって消すというんだ」
おそらくは兵器利用されていたのだろう古代遺物。その四角い背中に簡単な地図のようなものが描かれてある。
「中枢を担うのは王国各地に点在する遺跡に拠点を置いた傭兵集団による追い込み。それを潰しただけでは意味がないのか・・・。傭兵集団を潰すだけでは終わらないと考えていたが、まさかまだこれは氷山の一角、その先端なのか・・・」
考えてみればいい。
こんな一般人には見つからずとも、国からの作業員にはバレるような環境で一か月も滞在している。
それがもし、”バレている”ことはもうすでに確定事項だとしたら・・・?
「作業員と傭兵団はグル・・・。いや、作業員を出している”元締め”にこそその元凶があるとしたら・・・?」
それなら、どうだろう。
王国の王の側近が自ら傭兵団を手引きしているとするならば。
つまり――――、
「もしかして、敵は外部からのテロとか、民間の反逆軍とかではなくて、むしろ内側からの崩壊を狙っている王国の反逆者・・・」
だとしたら、だ。
それが辿り着く答えだった。
だから、
それ、は・・・・、
「まさか、国ぐるみで僕の人権を侵害しようとしたっていうのか!? 王国そのものという立場を利用して、国民の慈悲を乞い、憐れみを乞い、脛をかじって生きてきたゴミが、その立場を利用して僕を貶めようとしているってことか! どこまでも、どこまでも・・・ッ! 僕をコケにしやがって・・・! 名酒を奪われ飲まれ、さらには無駄な話を聞かせられ、せっかく取り寄せたツマミは踏みつけられて通り魔はされる。せっかく高貴なこの僕が作業用に捻りつぶしてあげようと思ったら地雷を踏み抜いて爆音に耳がやられかけた。それが全部、全部、王国の差し金だったということか! ふざけるなよ! 僕が、僕という人間が、これ以上少しも貶められて、笑いものにされて、酒の肴にされるいわれも道理もないッ!! 僕という儚い命が持つ、刹那の生きる権利すら、王国の前では無視か。絶対に潰す。潰してやる・・・! ・・・連帯責任で国崩しなんて僕の考えが甘かった。まずは僕を貶める計画を作った空気を消費するだけの能無しを一人ずつ公開処刑して、その人間を作った親族、友人、恋人、関わった人間の全ての四肢を切断して生きている状態でモンスターの巣にでも突っ込んで、その浅ましい姿を写真に残して、今までの清算を国王に任せようじゃないか。わざわざ僕らの国に顔向けに来たあの国王なら少しの慈悲くらいあげて然るべきだ。きっと僕の悲しい処遇を鑑みてそれなりの代価を支払ってくれるはずだ。それよりも僕の悲惨な処遇を寄越したゴミとその下僕に下った蛆共に対する代償が先だ。夢も希望も生きる意味すら奪われて、それでいて更に僕から何かを奪おうとするその卑しくて傲慢な奴らにどんな制裁を下すのが有意義か。もっとも苦しみ、骨の髄まで焼いて、狂えない程の罰を与えるのが賢明だ・・・。覚悟しておけよ。僕に不快感を与えたことがどれほど世界の損失に繋がるか、身をもって知るが良い・・・!!」