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『最弱』の汚名は返上する。~不遇だなんて、言わせない~  作者: パタパタさん・改
第一章『アルテイン編』
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第一章16 『違和感』

 「今日はパルクールと斧の応用をしよーと思う」


 夏休み15日目にして、最初にイドが言ったのはそんな台詞だった。


 「応用?パルクールと斧、どういう応用なんだよそれ」


 オレがどういうことをするのかと問いかけると、イドは「簡単なことだ」と前置きして、


 「パルクール。――体を使っての移動中に、身体の動きと連携して斧を叩きつけることだな」


 「なにそれ、めっちゃ簡単そうなんだが?」


 イドの口から出た言葉に、オレは毎日の地獄の訓練と比較して大分マシなことに多少驚きつつも、胸をなでおろして安堵した。


 「(毎日毎日、ドーパミンの制御だの、目の筋肉を電気で弛緩させるだの、罠だらけの森をパルクールで避けて進むだのとハードな事ばっかりしてきたからな・・・。今日のは割と簡単そうだな)」


 「って思うだろー?」

 

 「勝手に人の心を読むな」


 「いや、指紋に出てたからそれを読んだまでだ」


 「顔ではなくッ!!?」


 イドの読心術には流石のオレも参ったするほかない。相変わらずよく分からん奴だ。


 困惑とも驚愕とも取れる、そんな顔をするオレを目の前にしてイドは当然のように言う。


 「んじゃ、早速実践をやろーか。ルナは実践を通して物事を理解するタイプだし、さっさと斧持っていつもの場所からスタートな」


 「おう!」


 「ほー、まだ舐め切っているよーだしな、ちょっと現実を見させてやるか」


 オレの威勢の良い声に、イドはまるで悪者のような口の歪ませ方をしたのだった。


 

 A A A 


 

 オレ達の班が森の中に投入されたのは、シトライトの説明が終わってからすぐだった。


 3m以上はある網目状の柵の中に放り込まれ、試験官の試験開始の合図が為された。


 「これから模擬試験を始める!森の中には数人の冒険者が息をひそめて監視をしているため、不正行為を行ったら一発で分かるので、そういったことはしないように!―――それでは、模擬試験を開始する!」


 その号令と共に、開けられた柵から生徒が森の中へと破壊されたダムの如くなだれ込んでいった。


 波属性の生徒の数は約200人近く。決して少なくないこの数がなだれ込んできた事態に、柵の入り口近くに居たイノシシ型の獣がその圧力に押されて、怪我有りにも関わらずに”逃げる”を選択して一目散に走り去った。


 そんな目に見えるイノシシのモンスターの逃走に、ほとんどの生徒が目を付けたのは当然の流れで、


 「あの手負いは俺のもんだ―――ッ!!」


 「いや、俺のだ!!」

 

 「私が先に見つけたのよッ!!!」


 「邪魔だどけよ!俺が取る獲物だぞ!!」


 「皆仲良くしようよ!ま、僕には関係の無い話だけど」


 人がまるで軍隊アリのように、一つの敵に対して数の暴力を取る。

 

 「み、・・・醜い・・・・」


 血走った生徒らの目を見ていると、自然とそんな言葉が出ていた。同じ人間ではない、というか同種の生物として認識したくなかった。

 

 「ったく、もしオレが六属性を持ってたらあの集団の仲間入りだったんだろうな・・・・。そう考えると恐ろしい・・・」


 もしもの考えを巡らせながら、オレは近場にある雑木林の中に入った。


 そして直後に木々の向こう、――イノシシモンスターの逃げた先から爆音と共に巨大な空気の波、そして生徒数名の歓喜の声と憤怒の声、悲痛の声が響いた。


 「うわ、やっべー。ついてかなくて良かったー」


 多分一匹の獣を狩るために、一度に多くの波が発動されたのだろう。


 巨大な波は十数m離れているオレの隠れている木々を揺らす程なのだから、恐らく発信地は惨状になっていることだろう。


 空気が振動して、景色がぼやけて見える。


 オレはそんな哀れな生徒たちに行きつく末を見ながら、――ふと背後からの気配を察知した。


 耳は案外良い方だと自覚しているが、この足音はバレバレだ。


 「あそこは今頃血みどろの生徒が何人も・・・・。――――っと」


 地面を蹴る音が聞こえた直後、オレは逆手に持った斧を振り抜き、背後を取った敵に一撃を叩き込む。


 「ガッ!?」


 何かの悲鳴が聞こえる寸前、オレは隠れていた木の幹のくぼみに足を引っかけて跳んで宙返り。そのまま一撃を入れたモンスターの背後に着地する。


 「―――手ごたえ、アリだったな」


 目を向けると、そこには大きな二つの牙を持った狼、――ガルムが。


 ―――脳の重要機関を根こそぎ斬り飛ばされて血みどろに沈むガルムの姿があった。


 「――――ぅ・・・・・・ん」


 喉の奥から何かがこみあげてきたが、それを無理矢理飲み下す。


 夏休みの間、イドが”外”から取って来た瀕死のモンスターにトドメをさして、死体を解体するという訓練を行った事がある。


 見た目凶悪なワーウルフから、愛らしい見た目のジャッカローブ。どうやって捕まえたのか分からないツチノコなど・・・。


 正直、顔を背けたくなったしなんなら最初は完全に吐いた。


 だが、イドは黙々と作業をしていたのを思い出す。


 「”外”は弱肉強食の世界だ。やることに慈悲は要らない。だが、顔を背けてはならない。吐くのは個人の自由だが、顔を背けるのは死への冒涜だ。――と、そう言ってたな・・・」


 どういう意味なのかはまだ分かってないが、恐らく宗教的な感じの話ではないのは確かだった。


 「いつ見ても慣れねぇよな・・・・」


 多分、慣れてしまってはいけないのだろう。その時こそ、イドの言っていた「人間性の欠如」と言う奴なんだ。


 オレはガルムの死体をそのままにして、森の奥へと進んだ。


 

 A A A 


 

 「―――――」


 「グゥオaッ!!?」


 三時間ほど経った頃だ。


 オレは森の中を蹂躙していた。


 今さっきの自分自身への考えも今ここではしてる暇さえなかった。


 「―――ふッ!」


 夏休みの経験が生きているのか、斧を振る手、モンスターと状況を把握する目、障害物を突破する脚、セロトニンの分泌で精神安定を保っている電気属性。その全てがフル稼働していた。

 

 枝を切り落として障害物の製造。

 

 木の幹を踏みつけて、疑似的な空中移動を果たしつつ、攪乱した直後に敵の真上から斧を振り下ろして迎撃する。


 更に逃走の最中に見つける木々の鋭い破片や、棘のついたツル植物を見つけて、障害物にしたり避けたりする。


 「――――ほれほれ、鬼さんこっち側~~!!」


 「グゥオオオオオオッ!!」


 現在追いかけてくるのは仲間を失ったひときわ体格の大きいガルムだ。


 ガルムは狼型のモンスターだが、基本的に行動する際は仲間を引き連れて行動する。その知能の高さと統率力、そして時折人の知覚をも超えた連携で相手を追い詰めてくる。


 だが、その仲間はもう居ない。


 手負い&仲間を失った恨みで完全に我を喪失しているガルムには、ひとまず退散するという考えが思い浮かばなかったらしく、仲間を殺滅せしめたオレに牙を突き立てるべくその眼に血を走らせている。


 オレは減速、急加速を繰り返し、斜め上に太い木の枝があることに気づく。


 「―――おし!」


 「グワゥオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!」


 突然の急減速にガルムが勝機を見たか、理性無しに突っ込んできた。


 その瞬間更に急加速をして、両腕で真上の枝を摑み、枝を中心に体を勢いに乗せて一回転。


 突如目標が消えたガルムは勢いを殺せずに目の前の大木に顔面を打ちつけた。


 そして一回転して地面に着地し、目を回して泡を吹くガルムに反撃の余地を与えずに斧で一刀両断する。


 「―――――――ッ!」


 一瞬、良心がオレの脳を掠り、手元が震えたがオレはその勢いを止めずにガルムの生をこの世から解放する。


 無抵抗な相手に此処までやるのは心が折れかねないが、なんとか耐えた。変に慈悲を与えても、奴らはオレを見逃してはくれないのだから。


 「(それにしても、むっちゃ返り血が付いたな。洗えば落ちるんかなこれ。新しいの買うしかないかな。・・・・それにしても肉食の血って、こんなに臭うもんなの?)」


 物思いに浸っていると、ふと、森が騒がしくなった気がした。いや、森はいつも騒がしい。だが、今の森の震えは明らかに違和感があったのだ。


 「――――森の外か?」


 森を中心に、ではない。


 耳を澄ませてみれば、森の外の方から空気の波が伝わってきているのだ。


 今は模擬試験中だ。モンスターを倒すために属性を行使する者がいるのは当たり前。なのだが、


 「今さっきまでこんなに五月蠅かったか?」


 確かに残り時間が少ないために全力を出そうとする生徒もいることだろう。

 

 だが、それにしては何というか・・・・。


 「・・・・何でこんなに一部分から鳴ってるんだ?」


 波の発生地点はずっと一方の方角からだ。そこを中心に空気の波がこれでもかと周囲にばら撒かれている。


 「・・・・何が起きてるんだ?」


 見てないからはっきりとは言えないが、少なくとも異常事態であることは明白だった。


 そして、

 

 そして――――、


 オレの独り言の声に呼応するかのように、大地を揺るがす咆哮が空気を斬り裂いたのは直後の事だった。

 


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