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『最弱』の汚名は返上する。~不遇だなんて、言わせない~  作者: パタパタさん・改
第二章『ニーナ編』
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第二章65 『騎士』

 ジォスは傭兵団を使って男の戦いを、ゼクサーは無人武装騎竜との戦いを、そして地下ではアイストースの戦いが巻き起こっていた。


 数分前からの金属音と発砲音の応酬。


 アイストースの持つ拳銃から放たれる弾丸が灰フードの男の剣によって弾かれる音だ。


 アイストースの用いる武器は基本的には殺傷用ではなく、非殺傷。当たれば金属の殻が割れ、周囲数十㎝に催涙ガスを散布させるもの。大型害獣を撃退するために作られ、使われたそれは人間に対しても有効となる。


 しかし当たらなければ意味はない。


 「煙・・・わずかな刺激臭。なるほどしかしマスクをしている俺にはほとんど効果がない上、そういう銃器とお前は相性が悪いように見えるぞ」


 「!」


 灰フードの男はまたもや剣筋によって、催涙弾を割れる前に叩き飛ばす。その鍛え抜かれた身体から繰り出される剣劇は特殊弾による弾幕を難なく弾く。ところどころ体の一部に被弾しているが、弾の都合上顔面にクリーンヒットしない限り効果が出ないため実質ノーダメージである。


 「おそらくそれは非殺傷用の催涙弾だろう? 軽く吸って俺が倒れない当たり、おそらく毒性は低い。勿論吸い過ぎては体に毒だが」


 「くっ」


 アイストースが歯噛みし、さらに追加の発砲。しかしこれも弾かれる。


 「そもそも、お前は銃器の扱いがなっていない。狙いは正確だがずっと動かないで撃ってるもんだからフェイントがフェイントとして機能していない。フェイントで相手に余暇を与えるのはよくない」


 「・・・・!!」


 長々と説明を入れる灰フードの男。彼のその態度にはアイストースも不快感を禁じ得ない。それに、


 「傭兵なんでしょ? そんなに堂々と自分の敵に欠点を告げていいの?」


 アイストースの中で傭兵とは報酬さえ支払われれば、敵を命がけで殺そうとする輩だ。決して敵ともなる相手に注意を促したり、銃器の扱いがなっていない等と注意するものだとは思わない。


 まるで戦う気がないのではないか、とすら思える彼の在り方にアイストースは異を感じたのだ。


 それをなんとなく理解したのか、灰フードの男は「あー」と頭を掻く。


 「勘違いはしないでほしいわけだが、地上の奴と俺は雇われた内容が違う」


 「内容が、違う・・・?」


 「そうだ」


 アイストースの困惑の声に、灰フードの男は頷く。


 「俺の雇われた理由はあくまでも国王の入った鳥籠の護衛だ。だからお前相手に剣を振る理由はないのだよ」


 「それは・・・ッ!」


 それは、敵として認識されていないということだ。


 腐ってもアイストースの精神は騎士道を引きずっている。だからこそ敵すら認識されていないという事実は一種の侮蔑に受け取られる。


 女の子であろうとする前に、その前提が未だに未練がましく夢を引きずっている。


 アイストースの掌におさまる銃器の握る力が強くなる。一騎士として戦えないことに、敵として見られていないことに安心感どころか口惜しさがこみ上げてくる。


 「俺の目的はあくまでもそれだ。それに俺自身女子を相手するのは精神に反するし、なるたけ傷つけたくはないのでな」


 「傭兵で、何を今さら・・・」


 「そう言われると耳が痛い。でもお前さん、弱いお陰でまだ未来があるんだぜ。さっさと武器を捨てて貰えないか?」


 「捨てるとでも?」


 「そうだよなぁ」


 アイストースの反抗的な態度に、灰フードの男は「たはは」と笑う。鳥の頭のような不気味なマスクを手で直し、剣先を地面に落とす。


 未だ攻撃の意思はないとする傭兵にアイストースの怒りは煮えたぎる。今にも飛び掛かってしまいそうになる。


 


 ――その瞬間だった。




 「!」


 「!?」


 地下テントが大きく揺れた。


 パラパラと天井の土の欠片が落ちてくる。


 お世辞にも上部とは言えない地下テントの中。それが大きな揺れをするということは、だ。


 「古代兵器に何かあったな・・・。音からしてまだ動いているが大打撃を喰らったようだ。これはここに居るのは不味い、か」


 灰フードの男はちらりと、マスク越しにアイストースを見る。


 アイストースは一瞬何が起こったのかを理解できていない様子だったが、すぐさま目の前に敵がいるという現実に引き戻されて警戒心を再度張りなおし、銃を構える。


 それを見て灰フードの男は軽く息を吐き、


 「不本意なんだぜ。俺は」


 「は、―――――か」


 少し残念そうに肩を落とす灰フードの男の姿が、アイストースの前で消える。


 何が、とアイストースが身構えた直後として腹部に衝撃が走り、アイストースの思考が身体ごと吹っ飛ばされる。


 「ごふっ」


 壁に激突し、落ち、その場で身体をくの字に曲げる。意識の外側からの攻撃に対処できずに思わずせき込む。


 「な、にが・・・」


 痛みに視界は明滅し、意識が混濁しつつも今さっきまで自分の立っていたところを見る。


 「恨んでくれるなよお前さん。悪いのは俺を雇った奴だ。逆恨みは勘弁な」


 そこには片足を上げた灰フードの男が居た。直後、その脚で蹴りを入れられたのだと理解する。


 「・・・・ぐっ」


 「おいおい、立たずに気絶してくれればいいのに。どうしてそうなるのか。普通の学生なら一撃で意識を持っていく威力だったんだぞ?」


 「生、半可な身体の鍛え方は、していないつもりだ・・・」


 ぶっと口に酸っぱいものがあふれてくるが無理やりをそれを飲み下し、再び銃器を構えて銃口を灰フードの男に向ける。しかし今さっきの衝撃が身体に残り、指が震えてまともに距離が定まらない。


 いくら鍛えていても、両親にバレないように隠れて鍛えていたものだ。そこまでの耐久性は残念ながらない。


 しかし、だ。


 「君のその蹴りの仕方、なんとなく見覚えがある」


 「・・・・・そうか」


 発砲音。銃口から放たれる弾丸はまっすぐに灰フードの男の額に吸い込まれて―――、


 「だから狙って撃つまでが長すぎるんだよ」


 「しまっ、――ごぁッ!!」


 軌道がもはやバレバレの銃弾。それを男は頭を下げることで回避。そのまま突進し、拳を今度こそかいしんの一撃としてアイストースに腹部にねじ込み、内臓を圧迫する。


 「おぇぇぇぇっぇぇぇぇ!!がふ!」


 その場で跪き、胃の内容物をその場にぶちまける。口の中に酸っぱいものがいきわたり、のどの弁が機能せずに、それを上回る不快感があふれ出る。それだけで終わらず、男はその場で両手をついて吐くアイストースの後頭部を踏みつけ、吐瀉物にアイストースの顔面を沈ませる。


 それだけにとどまらず、男は剣を入れた鞘でアイストースの横腹を思い切り殴りつける。


 アイストースの身体がまたもや吹っ飛び、受け身すら取れずに、まるで蹴飛ばされた小石のようにその身体を地面に数度バウンドさせ、土煙と共に倒れ伏す。


 「ま、だ・・・・」


 「倒れないのか。困った。さっさと気を失った方が楽だというのに、しかし手負いは怖いな」


 アイストースの掌に武器はない。それでも男はアイストースを見逃す気はさらさらなかった。


 まるで熱した鉄を押し付けられた激痛が横腹から響く。激痛が脳を支配し、アイストースが立つのでさえやっとだった。しかし、その瞬間を男は見逃さずその整ったかに拳をねじ込み吹っ飛ばす。さらに空を切るアイストースの全身を蹴りが殴打する。


 ゴキッ! と、嫌な音がアイストースの胸から鳴った。


 「感触はあばら四本。もう激痛で立ち上がれないだろう」


 地面を転がるアイストースの口からは血の混じった泡が零れ落ち、鼻からは際限なく血があふれている。


 意識朦朧、身体から悲鳴が聞こえ、全身が痙攣している。


 それでもまだ、恐ろしいことにアイストースは諦めてなどいなかった。


 その理由はなんであるか、それはきっと次の手が答えであった。


 今度こそ意識を刈り取ろうと拳を振り抜く男。しかしその一手はアイストースの見事な搦め手によって受け流され、逆にその勢いを利用し、カウンターの拳を男の頬にねじ込んだ。


 女子の拳にしてはクリーンヒットだったのか、男は数m吹っ飛ばされる。


 「何が―――」


 頬に手を当てて腫れていることに気が付き、いったい何が起きたのかと状況に理解が追いついていない男にアイストースはゆっくりと告げる。


 「その体術、王国騎士道で習うものだ。息を吸って、一気に相手の懐へと飛び込んで攻撃する。――どこかで見たものだと思っていたが、そういうことか」


 「お前さん、いったい・・・。いや、たとえそれが分かったところで逆に搦め手なんて・・・」


 「できるよ」


 アイストースの確信に灰フードの男は口を噤む。


 「『武装生徒会』はあらゆる先頭に関する知識を深めて、それに対処する動きとかも研究する。勿論、王国の騎士が習得する体術への対抗策とかも。国が学生への戦闘関連の知識を開示しないから自分で調達しなきゃいけないんだけどね」


 アイストースは「それよりも」と話を区切り、灰フードの男を見る。


 その目には確かな怒りがあった。


 「一国の国民を、国を守る騎士がなぜ傭兵に身を落とした!!」


 「――――」


 問いかける。詰める言いように返されたのは無言であった。その反応が、騎士たる貴人の誉れなのかと、そうではないと否定するアイストースの逆鱗がついに限界を迎えた。


 「貴公、騎士を辞し傭兵という日和見に身を落としたその咎。傭兵に身を落としてなお騎士の教えを、技を使うか・・・。その愚行、見逃すことなど到底出来ん」


 声音が変わり、目が変わり、気配とたたずまいが豹変する。


 ごうっと今までの女々しさが嘘のように無くなり、その場にただ一つの闘志が形をもって立ち上がる。


 「――――お前さん」


 あまりの変わり身に男が目を見開く。


 無言。


 そしてアイストース、否、騎士は腰につけられたものに手を当てる。


 

 「―――貴公」


 

 抜かれたるは細身の剣。一振りの、変わった紋章の入った剣である。


 二つの竜巻が折り重なったような紋章に銀の柄。白銀の剣がその手に握られる。


 途端、その剣に彫られた紋章が緑に光り、剣身に風が宿った。


 渦巻く竜巻の刃は正にかまいたちそのもの。それが今や敵を打つための力としてこの世に顕現する。


 騎士を貶める愚か者に制裁を下せと、力が彼の意思に応え、大気が震える。


 「剣の覚悟を示せ」


 騎士アイストース=ベネズェトが剣を振るう。


 






―――刹那、地下テントで暴風が発生した。


誤字報告ありがとうございます。

まさかそんなところを間違えているとは思わず、見過ごしていました(漢字変換ミス)。

読者様にはご精読にあたり迷惑をかけ申し訳ありません。

今後はより一層入力ミスに気を付けていく所存です。


(それでも「誤字ってんじゃん。作者ダサ~!」って誤字脱字を見つけた際は問答無用に誤字脱字報告をぶち込んでください)


今後とも今作をよろしくお願いします。


以上、パタパタさんでした。

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