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『最弱』の汚名は返上する。~不遇だなんて、言わせない~  作者: パタパタさん・改
第一章『アルテイン編』
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第一章15 『試験準備説明』

 「ではでは、これからルナの悪口大会を始めたいと思います!」


 「・・・・・は?」


 夏休み二日目。


 いつもの私有地にて、オレの耳を疑う言葉がイドの口から出てきた。


 静かな日差しが森の一角、湖を照らし、緑と茶色に変色した水面を照り返す。山の一部でもあるこの森は盆地でもあるため、涼しい風が木々を通り抜けてオレの身体を優しく撫でる。


 だがしかし、そんな現実は優しくなかった。


 「いまから俺がルナの悪口を言って、煽りまくるので、ルナはそれを耐えてください」


 「なんでオレがやられる側・・・・」


 二日目からハードすぎやしませんかね?昨日は物理的に、今日は精神的にやるんですか。そうですか。


 「意味が分からねぇ・・・・、なんで急に悪口大会・・・」


 展開の速さとイドの思考について行けずに固まっていると、イドが軽く説明してくれた。


 「電気属性の制御性を鍛えるんだよ。悪口で煽り散らかすから、ルナはその悪口を耐えるんだ。手が出たらアウト。簡単だろー?電気信号を制御してセロトニンを分泌するんだ」


 「それで何で悪口なんだよ。他にも別の方法あっただろ・・・・」


 オレが呻くように呟くと、イドはさも「当然だろー」と言った様子で答えた。


 ――――デルシオンの声で。


 「そっちの方がゼクサーも悪口耐性を鍛えられるし、煽り文句も増えるってものだよ!あっはっはっは!そんな簡単なことも分からないだなんてバカだなぁ!・・・・”母親に似なかったねぇ”」


 「――――――なぁッ!!?」


 その声の本音は驚きか、それとも怒りか。


 一瞬、イドがデルシオンに見えてしまった。


 「怒り半分、驚き半分っつったところかなー。・・・・悪口慣れしてるって過去回で言ってたが、そーでもねーみてーだったな。流石に一か月くれーで人が悪口で慣れることなんかねーよ」


 「過去回ってなんだよ・・・・・・」


 なんだかかなりメタい話をされた気がするが、そこは余り関係ない。


 オレは今さっきの小技についてイドに問いかけた。


 「なんでイドがデルシの声出せてるんだよ・・・。会ったことねぇだろ」


 「なんで男子が男子の声を出せねーんだよ?」


 「ん?」


 「え?」


 なんかオレの問いの意図と、イドの答えの真意がかなりズレていた気が・・・。


 こてっと首をかしげるイドの分かって無さを見て、オレは質問の意図を変えることにした。


 「んで、どーやってそんな声出せてんだよ。お前のその男らしい声と、デルシの高い声じゃ天と地の差があるだろ」


 「あー!それか。―――ルナの脳細胞の結合、電気信号を盗聴したんだよ。あとは違和感なくなじませる。分かるだろー?」


 「いやはや、全く分からねぇ」


 オレは不理解の果てに両手をあげて降参のポーズをとる。やっぱイドはモンスターに指定すべきだと思いました。キチゲイモンスターって、なんか居そうで怖い。


 キチゲイモンスターの生態を考えていたら、ふとイドが話をもとの路線に戻してきた。


 「そーゆーわけだから、ルナには悪口と煽りを耐えるためにセロトニンの分泌を促進してもらう必要があるんだ。親を引き合いに出して悪口言うやつらを相手にしても、手がでねーよーにな」


 「どっから話が繋がったのかはさておき、そうだな。変に煽ってきても煽り返せるようになれば、一石二鳥だな」


 オレとしては揉め事は出来るだけ起こしたくない所存だが、相手がそういう風になりふり構わずそういう煽り悪口を言ってきた連中には手が出るか、出来るだけ話を切り上げるか、もしくは冷静にキレるかのどれかだ。


 「(今さらながらに、煽り返すって方法は頭から出てこなかったなぁ・・・)」


 過去を思い返しながら懐かしく思う。


 そんなオレにイドが勝手に心の準備もしてない状態で先制攻撃を仕掛けてきた。


 それも、今度は聞きたくもねぇあの忌み女の声で。


 「そうやってご両親の愛にも報えずに自分のことばっかりかゼクサー=ルナティック。どれだけ周りの期待を裏切れば気が済むんだ。斧?脚?ふざけるのも大概にしたまえ。貴様の宿業は両親と周囲、私の期待を裏切り、誰も望んでいない革命を起こそうとしている事だ。分かっているのか?人様がくれた愛を蔑ろに、汚名返上と逃げるのか?謝罪もなにもせずに、愛にも報いずに、そうやって逃げるのか、そうかそうか、貴様はそんな奴だったのか。全く・・・・がっかりだ」


 「んだとテメェッ!!勝手にがっかりしたのはテメェの方だろうがーッ!!」


 瞬間、間髪入れずにオレの怒号が森中に炸裂したのは言うまでもない。



 A A A



 模擬試験会場。


 そこでオレは(勝手に乱入してきた)という名目で、会場の班を探す。


 属性によって試験内容が変わるらしいのだが、肝心の電気属性の班はなかった。想像もしていたし、覚悟もしていたけど、・・・やっぱりか。


 社会全体で、電気属性=国の中でしか役割がない。という認識になっているのだと、改めて感じた。電気属性だけ班がないとか言う特別仕様。


 「(特別って銘打たれると、なんか凄そうに感じるな・・・)」


 ただし悪い意味での“特別仕様“だが。


 「しゃぁねぇし、なんか適当なところにでも入るかね・・・・おん?」


 うちの学校の生徒が何人かそれぞれの班にいるようだは、模擬試験には他の学校の学生だって参加するし、割と別の属性の班に入ってもバレなさそうだな。と、そう思いながら首を巡らせていると、ある一点の班が目についた。


 波属性の班だった。


 確かイドの話だと、電気属性は電気を波として放出することが出来るらしい。それを人は電波と呼んでいて、“でぃーえす“だったか“すまーとふぉん“だったかがそれを扱えるとか・・・。


 なんにせよ、その“電波“ってやつが電気属性に含まれているなら、オレは実質波属性の資質を持った人、ということになる。ある意味、電気属性って波属性より大分希少なのではなかろうか?違うか?違うな。

 

 一瞬、電気属性も火を起こすことはできるとイドが教えてくれたことがあったが、火を起こすとなると、今のオレの能力量や操作性からしてかなり遠いらしいし、火をつけられる言っても、着火材はかなり絞られるそう。それに火属性の班にはデルシオンが居る。今、後ろ姿が見えたので間違いなくアイツだろう。


 「あんなのに絡まれたら録なことにならねぇ」


 最早一種の確信に近い、デルシオンへの評価を脳内で下し、オレは迷うことなく波属性の班に入った。


 数人ほど、うちの学校の生徒が居たが、その他の学校の生徒の方が総合で数えると多いため、オレの正体がばれることはないだろうと踏んだのだ。


 

 A A A 



 照りつける朝日がオレの肌から水分を出していたときのことだった。


 「集合時間の十時を回ったので、これから夏の模擬試験の事前説明を開始する!」


 山の一角の広場、大勢の班の前に一人の男が他の冒険者を引き連れて声を発した。瞬間、今まで騒いでいた生徒の心の緩みが鞭打たれたかのように静まり返り、だらだらしていた空気がピリッと張り付いた。


 照りつける太陽光がさらにその固まった空気を後押しし、暑苦しかった空気が更に暑くなる。


 こうも暑いと男の話に全力を注ぎたくなるが、肝心の男も結構頭に筋肉が詰まってそうな暑苦しい奴だった。二重で暑いとか、勘弁していただきたいものだ。


 「私は国から派遣された調査員斡旋統括理事会のシトライト=ワルツールだ。これから言うことをよくきくように。冒険者、もしくは調査員に成りたい者は同じくして“外“を仕事場にする。故に、ここで私の言うことをよく聞いておかなければ大ケガをすることとなり、最悪の場合は死に至る事もある。過去には模擬試験中、私の言うことを聞かずにモンスターに骨にされた生徒もいた!」


 ーーーーーーーッ!!


 目が黒いぐちゃぐちゃで覆われているため、その発言の真偽は疑わしい。だが、その発言が生徒達の空気をより一層ピリついたものにしたのは確かだ。


 危うくオレも呑み込まれるところだった。それほどに、そのシトライトとか言う熱血系の国の血統種犬にはカリスマ性があったのだ。


 「だが、ここで私の言うことを聞いていれば大ケガをする可能性は非常に低くなるだろう。それでは早速説明を開始する!」

 

 非常に低くなっても可能性は健在らしい。絶対なんてないと分かっていても、そういう話し方はなにかどうにも納得できない真実みたいで、オレとしては胡散臭い男という印象に落ち着いた。


 オレの思考などどうとでも、と、シトライトが試験の説明をし始める。


 それをまとめるとこんな感じだ。


 ここから先に下級の傷だらけモンスターをたむろさせ、属性の数だけそこを大きく囲った場所がある。そこが試験場。


 それぞれの班に監視役と採点役がおり、何かしらの事故で死にそうになったときは助け船を出してくれる。助け船が出された人は問答無用の0点扱い。

 

 試験時間は四時間。それ以降にモンスターを倒しても点数には入らない。


 外部のモンスター(他の試験会場のモンスター含む)を倒しても0点扱い。


 最高100点満点評価。あくまでも一人行動を中心に採点するので、連携を取っても点数には入らない。


 倒し方は人それぞれだが、わざと人を悪用する行動を起こした者は0点扱い。


 以上だ。


 少なくとも、属性の云々について言及されなかったのは幸いだ。属性を使ってモンスターを倒せと言われたら、その時点でオレは詰んでいた。


 話が終わると、シトライトは最後の激励を発する。


 「これからお前らの勇姿を見届けてやろう!しっかりと励むがよい!諦めない、その姿勢こそがモンスターと戦う上で大事なことだ。我々には悪しき獣を倒すという正義の使命があるのだから!」


 正義の使命。そりゃ御大層なこった。そんな高貴な意志なら頼りにしてしまいそうだ。・・・役に立たない点以外は。


 最後の最後まで暑苦しい締めくくりをして、勝手に満足したシトライトが満面の笑みでその場を去る。


 こうして、オレの模擬試験は本格的に幕を開けた。


 

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