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『最弱』の汚名は返上する。~不遇だなんて、言わせない~  作者: パタパタさん・改
第二章『ニーナ編』
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第二章60 『半分赤鬼・半分変態』

 深い、深いまどろみの中に意識がおぼれている。


 水面から自身の身体は遠く、搔かなければ上へは行けない。


 しかし水を掻く手は出なかった。ただ沈んでいく光景だけ、周囲の水の壁が上がっていく光景を見ているだけだった。


 沈んだ先に何があるのか。水面に輝く日の光が全身を照らす。それでも、手は出ない。


 「――――」


 誰かの声がした。


 聞いたことのある声で、聞いたことのないような声がオレを呼ぶ。


 「――――、ゼクサ――――」


 大きい声。しかしオレはどうにもその声に応える気力がない。


 気力がなかったから、あと単純に煩い声に水面が揺らぐから。


 とりあえず、


 「むにゃぁ、あと、六時間・・・・すぴぃ」


 「明日になるわッ!!」


 「ぐぎぃぇあ゛!?」


 返答し、声の主をおとなしくさせようとすると、怒号と共に耳に激痛が走った。


 断末魔とも取れる声に意識が覚醒する。完全覚醒した目は攻撃の主とも取れる人物に目を向けて―――、


 「あれ? アイストース・・・?」


 「おはよう、というかこんにちはゼクサー。―――良い学校終わりだね」


 そういって、声の主、もといアイストースが絶望と取れる地獄の発言を嚙ましたのだった



A A A



 「・・・やべぇ、オレどれくらい寝てた?」


 「一時間目から五時間目までしっかりとだね。移動教室の時はうとうとしながら移動してたよ。昼ご飯も“私”と一緒に食べてたし・・・、記憶にないの?」


 「うん、記憶にねぇな」


 完全に覚えていない。というかそんなことがあったのか、その証拠がアイストースしかいない現状だから信じるほかないのだが・・・。


 「昨日何か疲れることでもあった?」


 「・・・・うーん、そうだな。あったと言えば、あったな。割と気を張るようなことが」


 「へぇ~、どんな?」


 「アルテインとのデート」


 「そ、それは・・・確かに、・・・そうか?」


 「疑問形になるなよ。男と男のデートは駄目だってか? オレはアルテインを一人の男とも女とも見てねぇぞ。一人の伴侶としてみてるから、嫁さんの機嫌取るのは未来の旦那として当たり前だろ」


 「えぇ・・・」


 「引くなよ! なんかオレだけ浮いてるような奴じゃねぇか!」


 「ゼクサーの場合、浮いてるというか光ってるというか・・・」


 売り言葉に買い言葉。使いどころは違えど、アイストースとの仲は未だ健全なもの。これでお互いがお互いに隠していることがあるのだから人は分からない。


 「(信頼、か・・・。その観点から言ったら、オレもアイストースのこと信頼もしてねぇよな)」


 オレはまるで普通の生まれの人のようにアイストースに語っているが、実際はパーティアスの伝説の冒険者と呼ばれた両親の間に生まれた勇者の息子だ。今こそその家名は捨ててリベリオン家となっているが、下手を打てば身分はこの国の王族に匹敵する可能性がある。


 新しい生活と割り切っているのもあるが、それを含めてもアイストースにはまだ言っていない。


 言う必要がないと言えば、そうなのだが今の生活があるのはその家庭環境のせいだともいえる。過去を引っ張って生きているという点に関して言えば、アイストースと同じ立ち位置だ。


 だとしたら同じような境遇の人間に自身の在り方を言わないのは、信頼していないということ。信頼していると思っていたが、信頼していなかったということになる。


 「どうしたのゼクサー・・・。そんなに疲れるデートだったの・・・?」


 「―――いや、ちょっと考え事してただけ。それで、放課後どうするよ。ロード先輩んとこに顔出しとく?」


 思考を一旦切り離し、オレはアイストースに親指で下の階を指す。


 アイストースの目が見えないからアイストースの眼がどうなっているのかは分からないが、確実に本人に負担になることは分かり切っている。一度事情を中途に知っているロードに情報を流して解決策を練るというのも悪くない手だと思った。


 が、アイストースは首を振る。


 「今日は、良いかな・・・。代わりに商店街に寄りたいんだけど・・・」


 「ん、良いぜ。また買い食いでもするか。オレも昨日はアルテインに夢中でシャーベットの味がアルテイン風味になってたしな」


 「味に集中できなかったって言えば良いのに、どうしてそう誤解されやすい発言をするのか・・・」


 呆れ声を出しながら、アイストースが自身の額を抑える。しかし「買い食い」には賛成の態度か手持ち鞄に入っている財布の中身を確認する。


 「んじゃ、行くか」


 「ん」


 オレが学生鞄を持ち、クラスを出ようと歩を進める。後ろからアイストースのついてくる音がする。


 足取り、歩き方、どれを取っても女の子にしか見えないのに、どうにも疼く違和感はオレの心根を揺らした。


 ちなみにアルテインは今日はずっと他のクラスメイトと一緒に行動してましたとさ。南無三。



 A A A 



 「あれ? ルナじゃねーか。どーしたよ。サークル入ったんじゃねーのかよ」


 「げ、変態」


 「え、誰?」


 相変わらず騒々しさを忘れない商店街で、中央の噴水広場近くの椅子に腰かけた時だった。


 イドに出会った。


 不幸なんてものじゃない。こんなのと師弟関係だなんて口が裂けても言えるわけがない。いわば災厄、いわばこの世のバグか何か。


 少なくとも、今この瞬間にでもダッシュで逃げたくなる相手だ。


 「え、ひどくね? これでもルナとは死線を潜ってきた師弟関係だと思ってんだぜ。それが開口一番変態って俺も傷つく心は持ってるんだぜー?」


 「じゃぁ服を着ろ。その上半身裸体の蛮族スタイルは見てるこっちが辛いんだよ。そんなのに師弟扱いされているオレの身になれ」


 オレがバッサリと切り捨てる発言をするとイドは「えー」と不服そうな顔をする。


 そういう彼の見た目は以前とこれっぽっちも変わっていない。上半身裸体で下だけ隠した蛮族スタイル。そして全身に余すことなく筋肉がついており色黒。これで捕まっていないのだからこの世界もいよいよである。


 「ゼクサー、この人知り合い?」


 「いや、こいつ人じゃねぇから知り合いでもないな。この化け物知り合い? って言われたら頷かざるを得ない」


 「化け物って・・・」


 「言い方ひどくない?」と改めてアイストースがイドを見る。イドもイドで怪訝顔をするアイストースを見る。


 若干の沈黙の後、先に口を開いたのはイドであった。


 「一瞬女子なのか男子なのか分からなかったが、なるほど女装男子か。アルテインと言―アイストースと言―、ルナは業が深いよな」


 「何の話だよ・・・。つぅかオレお前にアイストースのこと言った覚えないんだが・・・。まさかまた心を読んで・・・」


 知らないうちに他人の思考を丸読み。それができる男だからこそ、オレは自然と構えるがイドは「あーいや」と手を振ってそれを否定。


 そして、


 「そんなもん、わざわざ心読むより見た方が早―よ。男は見ればそれだけでその男の全てもがっ!?」


 「ちょっと黙っててくれね?」


 平気で人の禁忌に触れようとしてくるイドの口を物理的に封じて、その先の言葉を喋らせないようにする。それだけでイドは何事かをなんとなく察したのか、「失敬失敬」と言葉を区切る。


 どうやらアイストースは、・・・大丈夫だ。よくわかっていない顔をしている。今さっきのイドの失言も分かっていないようなのでセーフとしておこう。


 「なるほろ。そういう経験からか・・・、こりゃーちょっと配慮が足りてなかったな」


 顎に手を当てて考えるイドは少し、どこか憐れむような眼差しでアイストースを見る。一瞬で過去を見抜くイドが人外なのは当たり前として、オレはため息をはいてアイストースの名を呼ぶ。


 「アイストース・・・」


 「ん? 何?」


 「ちょっと嘘言ったわ。あの変態はオレの師匠的な立ち位置で、名をジォス=アルゼファイドっていう。ちょっと見ての通りの異質っぷりから仲間だと思われたくないのは、察してくれ・・・」


 「つーわけで、ルナの師匠のイドだぜ。よろしくな、アイストースちゃん」


 「あ、は、はい・・・。ちょっと、距離が近いというか・・・」


 「はっはー、気にするなって。俺は純愛思考だからな。取る真似はしねーよ」


 がははと笑うイドからそそくさと距離を取るアイストース。そっとオレの後ろに隠れてぼそりと呟いた。


 「確かに、常時こんなテンションでそんな格好だとゼクサーの気持ちも分かる気がする」


 「だろう・・・?」


 盾にされてる時点でなんともだが、なんとなくオレとアイストースの距離が縮んだ気がした。


なんとか頭痛がおさまりましたので、再び投稿していきます。

よろしくお願いします。

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