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『最弱』の汚名は返上する。~不遇だなんて、言わせない~  作者: パタパタさん・改
第二章『ニーナ編』
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第二章52 『仕立て屋』

 ―――仕立て屋。

 

 銘打たれた看板は店の全体像の中でも特に異質で、尚且つよく目立っていた。


 看板なのだから目立って当たり前だという人もいるだろうが、この看板は店の壁やらから見ても間違いなく新しすぎる。雑踏の商店街の中に佇む店の一つ、きっと他の店と同じで昔からあるはずなのに、どこか浮いた新しさを感じる。


 息つく暇もなく、オレはアルテインを店の前で待たせて木で作られた扉の取っ手を掴む。ギィと金属と木の掠れる音がして、遅れて玄関の鈴が鳴った。


 「はぁ~い」


 若々しい、おばさんというにはお姉さん一歩遅れみたいな声が響き、明るい照明がオレを迎える。色付きの窓ガラスからでは見えなかった内装がここで明らかとなった。


 「(全体的に明るい内装だ・・・。でも飾ってるのはあくまでも服だけか、壁紙も白いし、床もカーッペットがひかれているけど木製・・・。服の種類は・・・すさまじいな)」


 オレの視界に映るのは輝かしい貴族服だけでなく、庶民的服も合わせた仮面舞踏会のような服屋だ。王族の着るような上等な服から、商店街で普通に買い物をするような庶民的な服、そしてそのどちらにも属さないピエロみたいな服装までピンキリだ。


 多くの服に目を奪われていたオレは一瞬だけここに来た目的を忘れそうになった。あまりにも黒騎士のイメージを具現化したような男心をくすぐる服があるのだから。


 「お客さん、あいにくだけども今は準備中なんだ。看板にはまだ書いてないけど、今はまだ準備中だよ。ただ見る目的ってんなら構わないけど、予約とかは今の時間帯受け付けてないよ」


 そうして幻想のような空間でうつつを抜かしていると、恰幅の言いおばちゃんに声を掛けられた。いや、おばちゃんというには若く、だがしかしお姉さんというにはお姉さんではない(失礼)貫禄を感じた。木で例えるなら年輪が発展途上というべきか(やはり失礼)。


 長いこと使ってきた痕跡のある作業着用のエプロンに身を包んだその女性は綺麗に巻かれた赤髪を揺らしながら、一瞬オレを見て何かを思案し―――、


 「あら? もしかして最近あったモンスター襲撃事件の渦中に居た子じゃないかしら?」


 驚愕した。


 こちらは名も明かしておらず、どうやってアイストースの話まで漕ぎつけるか、どうやって話を切り出すかで悩んでいたというのに、彼女はオレの名は知らずとも姿見は知っているようだった。


 アルテインを外に残して「後はまかせとけ」と言ってしまった後悔が今この瞬間に杞憂に変わった。


 「オレを知っているのか・・・?」


 「名前までは知らないね。でもアイストースちゃんと一緒になってモンスターを打倒していただろう?」


 「あ、あぁ・・・」


 まさかのアイストースまで知っている。いや、服屋に至っては過去にアイストースが服を仕立てて貰ったことがあると言っていたから旧知の仲だと思っていたし、今もまだ覚えているとほとんど勘で来たのでこの反応は大助かりだが、期待していなかったので驚いた。


 オレの反応を見て、その店主らしき女性は顎に手を当てて問う。


 「さては君、今日ここに来たのは服を見に来たんじゃないね?」


 「・・・・・・・・・・」


 「無言は図星というんだよ君。・・・用事は何かな?」


 長年の仕事による勘なのか、それとも女の勘なのかは定かではないがこちらを見透かしたような問いかけに、オレは虚を突かれたように口ごもる。咄嗟の返しが出てこなかったのは隠したところで・・・、という考えがあったからだろう。


 図星と言えば確かにそうか、と変に冷静に理解しながらオレは息を吸って吐く。


 アイストースに関係することは、どうにも触れてはいけないような感じがする。


 ――――まるで、禁忌そのもの。人の感情のむき出しになった肉々しい部分だ。


 だから慎重に言葉は選ぶ。


 「アイストースのこと、知ってるのか?」


 「知っていると言えば、知っている。あそこの家のメイド服とアイストースちゃんの服と、その弟君の服は私が仕立てたもんだからね。国民庶民だけでなく、貴族御用達しの仕立て屋だよウチは」


 「・・・じゃぁ聞くけど、アイストースの家って最近何かあるのか?」


 「何かって?」


 「・・・・・」


 「嘘だよ。これは君には酷な質問だったね」


 「え」と、どうにか言葉をつなごうとするオレに仕立て屋の女主人は鼻で息を吹いて肩を落とす。


 相手はアイストースのことを何か知っている。しかしどこまで知っているのかは未知。だからこそ客の評判を落とすような真似はしないのが吉。どこまで踏み込んだ発言をするかで、返ってくる答えは大きく違うことになると知れ。


 そう自身に言い聞かせて無言になってしまったオレに、女主人は近場に置いてある椅子を引っ張り出してオレに「座りなさいな」と着席を促す。そしてオレが座った後に自分も座り、対面の構図となった。


 「・・・君は、アイストースのどこまでを知ってるのかな?」


 「どこまでとは?」


 「わたしゃ、アイストースのことは家庭も含めて知っているよ。友人関係も。その友人に、君が居ることも」


 「・・・・。アイストースの性別、心の性別、問題は親にある、そして最近アルテインが疲れていること、周りは知っていて手を出せない、助は出せない、それでいて原因が分かっていない」


 「―――そこまでは分かっている」と、言うと、その女主人は「へぇ」と息を吐く。


 「アイストースちゃんは、君にはまだ自身のことを言ってないと聞いたけども?」


 「それは、調べたら分かった。というか最初から違和感だった。アイストースが“私”という時にわざとらしい違和感があったし、時々見せる行動力も男子顔負け。でもってどう見たって眼か心の病気なのに毎日学校に通わせる親・・・。明らかにおかしい。だから調べたら、すぐに分かった」


 半分嘘を織り交ぜた返答。おそらく数々の客を相手にしてきたであろう女主人にこれが通じるのかは期待していなかった。しかし本人はそんなことはどうでもよかったらしく気にも留めないで言う。


 「君はなんで知りたいのかな? アイストースちゃんは助けを乞うてきたのかな? この世には知らない方がいいってこともある。変な気を起こさないように、ね?」


 なんで、何を知りたいのか? 問われるまでもない。女主人はこう言ってくるが、オレの仲での答えは決まっている。


 「友人だからだ」


 「友人が助けを乞うてきた時に動くのは三下のすることだ。目ぇ腫らして、それでも言ってくれるまで待ってるで、動かねぇのは友人のすることじゃねぇ。何も知らないで中途半端に知って、そのまま待ってて、原因も分からねぇまま自殺されたら悔やんでも悔やみきれねぇ!」


 「オレは親がクソだってのが嫌でも分かる。オレだって同じ道をたどってきたんだ! あん時はオレの意思と周囲の助けがあったから、オレはこうして今ここにいる。でもアイストースは違う。自分の意思もはっきりしてねぇし、周囲は助けを乞われるのを待っている。これじゃぁアイストースが死んじまう。分かる。分かるよ。分かるとも。きっと同じ状況だったら、オレは自己責任の冤罪で自殺してた! 今のままじゃ絶対良い方向に話は進まねぇ! オレは先人としてあいつに手を差し伸べて、友人としてあいつの意思を促さねぇといけねぇんだ! ずっと不健康な友人見てたらこっちにも感染る! その前に原因を把握して、解決策を練らねぇといけねえんだ! スォードもロードも助けを願われるまで助けることを諦めている! ダメってことをダメって言えねぇ! お家柄とかじゃねぇ! 他人のタブーに触れてしまうってのを恐れてるんだ! あの二人は動かせねぇ! あの信念がある限り人が何か言ったところで変わらねぇ! ―――だから頼む! 教えてくれ! アイストースの疲れの原因は何なのか、どうしたらアイストースの意思を決定させられるか、教えてくれ!」


 気づけばオレは椅子から立ち上がって、女主人に頭を垂れていた。


 ここで必要なのは飾った言葉ではなく、本音。きっとそれが求められている。目が見えなくとも、目を見て、言った。言い切った。


 許しが出るまで顔を上げないと、恥の全てを吐き出してオレは頭を下げ続ける。


 許しは、―――。


 許しは――――――――、












 「頭を上げなさいな」



 出た。



 A A A 



 「あたしゃ情けないよ」


 「あたしゃこれでも多くの人間を相手してきた。良い客から、値切ってタダにしてこようとする悪い客まで、沢山ね」


 「だからあんたも同じかと思ったよ。好奇心で人の禁忌に触れる奴だと。人の眼ぇ見てるのに見てないような感覚がある奴を信用は出来ないからねぇ。―――でも、違ったみたいだ」


 「あんたはアイストースちゃんと同じだけど、違う。ちゃんと友人として何とかしようとする子だ。相手の親と対峙する事なんて怖くないと、そう言っている目をしている。そこに気づけなかったあたしゃ、まだまだだったみたいだねぇ」


 ひとしきり自らの心中を語る女主人は改めてオレに首をもたげる。


 「下手すりゃベネズェト家という男爵家を敵に回しかねないからね、基本口外はしない性質だけど、君になら話してもいいかもしれない」


 座らされたオレは女主人を見る。


 そして、


 「あたしの知るアイストースちゃんの全てを話そう。きっと、君が行動を起こすときに大きな役に立つだろうさ」


 そうして、女主人はオレにアイストースという人物を語りだした。


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