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『最弱』の汚名は返上する。~不遇だなんて、言わせない~  作者: パタパタさん・改
第二章『ニーナ編』
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第二章44 『触らぬ神』

 オレウスに注意された次の日、無駄に意味深な昨夜だったのに今日という日を迎えるとまるで遠い過去のような、割とどうでもいい気分になる。


 そんなオレだが久々に武装生徒会(ユニバース)に顔を出しに行くと、あっという間にほかの部員達に絡まれた。


 要因は、もうわかる。確実にグルティカ相手にしたときの話とオレウスと、本物の国王に会った話だ。


 「ゼクサー君! ぜひともグルティカの容姿を教えてくれないか? 大きさとか、声とか・・・」

 

 「アイストースさんと一緒に討伐したんだって!? 本物のモンスターはやっぱり強いのかい!?」


 「本物の国王に会ったと聞いたけどどうだったんだい? 後、イネール山に住み着いていた賊を一人で壊滅させるってゼクサーのお父さんは何者なんだい?」


 「あぁもううるせぇなお前ら! 壁際に押しやるな! 散れ! お前ら散れ! 肺が圧迫されるだrぐぇっ」

 

 目の前の部員は目をキラキラさせながらオレに詰め寄り、壁のシミにせんとばかりに圧力をかけてくる。容赦がないとはまさにこのこと。言ってるそばからオレの肺が圧迫されて変な空気が出た。


 「やっぱり白いのか!? 触手は? 触手はあったのかい!?」


 「グルティカをも翻弄する身体技術・・・、ぜひとも教えてくれないか!」


 「ゼクサーのお父さんは国家公認の傭兵かなにかなのか!?」


 こいつら加減を知らない。好奇心は猫をも殺すとはよく言ったものだが、好奇心で殺されそうになっている身にもなってほしい。こいつらオレのあばらをミシミシ言わせて来るんだが?


 もうちょい押されたら骨が折れるだろうなぁと、酸素のぎり届かない肺と一緒に血管も意識も途切れそうなオレが悟りを開いていると、ふと「こらこら」と目の前の部員達に声がかかった。


 その声はやけに気障っぽく、だが同時にどこか誠実さをにおわせる。


 「君達、確かにゼクサー君は稀有な経験をしているけど、質問攻めするのはよくないことだ。情報は逃げないさ。一旦ゼクサー君から離れて、順番に聞いていきなさい」


 「「「はーい」」」


 どうやら質問されることには変わりはないようだ。しかしその人の言葉に部員達は不満な様子も見せずに従い、それぞれが元の場所へと戻っていく。多分明日あたりになったら前と同じように順番に聞いてくるのだろう。


 空気を吸い、息を吹き返したオレに今さっきの人が近づいてくる。にこやかな笑みと長身、そして騎士みたいな洗練さと結婚詐欺師のような気障な態度はその色白な銀髪の好青年の印象をより強くする。


 「やぁ、話は聞いているよ。相変わらず君は破天荒だね?」


 「好きで破天荒してるんじゃないんすよ。何が悲しくて好きでグルティカと戦闘しなきゃならんのですか」


 「はっはっは!」

 

 「笑わんでくださいよ、ロード先輩・・・」


 ―――ロード=グリティニア。温厚な性格の五年生で、この武装生徒会(ユニバース)の部長的立ち位置にいるイケメン優男だ。


 そんなロードは「ふっふふふ・・・」と何とか笑いを耐えながらオレの肩を叩く。


 「いやぁ、なんか親から聞いた噂話と全然違うもんだから、つい、ね・・・ぶっふw」

 

 「噂話て・・・」


 「聞いた話じゃ、屈強な制服を着た男がグルティカを捕まえて腕力で真っ二つに引き千切ったとあってね、最初誰だと思ったよ。その場に居合わせたというアイストースに聞いてみたらまさかの君だ! いやぁ、想像と現実が違いすぎてね・・・、はっはっはっは!」


 「そんな芸当出来る方がモンスターじゃないっすか。無理ですよ。そんな荒業」


 「できないのかい? そういう”技”みたいなの」


 「出来たらそれは人ではない何か」


 「ふっ、確かに・・・」


 ロードは軽く含み笑いをして、改めてオレに視線をぶつけてくる。それはどこか、少し情熱的であり、期待のような眼差しであった。少なくとも、オレはノンケだ。そういう趣味はないし、一途だ。なので次にロードの口から出る言葉にはオレもさすがに身構えた。


 「この後、暇かい?」


 「いや、暇じゃねぇな。アイストースと帰るし」


 嘘である。アイストースは用事があるとかで先に帰ったのだ。しかしロードは少し首をかしげて、


 「おかしいな。アイストースさんは今日は来ないと連絡を受けたんだけど。・・・暇でしょ」


 「あー、いやぁ、アルテインと帰るかなぁって・・・」


 「今日は演劇部の活動日じゃないからね。アルテイン君は留守番をしに帰ると、ゼクサー君に伝えてと頼まれたんだが・・・、やはり暇だろう?」

 

 まさか第二の手までしっかりとつぶされているとは思わなんだ。というか、いつの間にアルテインとロードは連絡を取り合ったのだろうか。オレはアルテインに武装生徒会(ユニバース)に入ったなんてこれっぽっちも言った覚えはないし、ロードのことも言った覚えはない。


 ここまでしっかりと追い詰めてくるとは驚きだ。これにはさすがのオレもぐうの音も出ない。なので「うぐぅ」と苦鳴を漏らしておいた。


 「大丈夫じゃないかな? 君の予定は今日はないんだろう?」


 何が大丈夫なのだろうか。好色漢に放課後誘われるとか大丈夫が死んでいる。予定はなくとも誘いに乗りたくない。だってこんなにも気になる女の子ができたときの男子の顔をオレに向けてくるんだからたまったもんじゃない。


 オレがやや引き気味の姿勢を取ると、ロードは何となくかオレの意図を察して手を振る。


 「あぁいや、そういう気があるとかじゃないんだ! 決してとって食おうとは思っていないとも! そういうのはもっと段階を踏んでからだと親に教え込まれているからね! ・・・単純に、私個人の事情なんだよ」


 「じゃぁなんで頬が桃色なんだよ。もう完全にその気があるじゃねぇか。やだぜ。オレはアルテインに一直線だからな」


 「それを他人に対して堂々と宣言出来る君の胆力がうらやましい限りだが、決してそういう意味じゃないんだ。・・・これは少し、”あの人”にも関わることなんだよ」


 「”あの人”・・・?」


 慌て、落ち着き、そっとロードの口から放たれた単語がオレの鼓膜を打った。反芻するオレにロードは少し申し訳なさそうな、それでいてまっすぐな視線をオレに向けてくる。


 「あぁ、君も知っている”あの人”だよ」


 目は見えないが、それでもその言葉にはまぎれもない信念らしきものがあった。


 

 A A A 


 

 結局オレはロードと一緒に学校を出た。


 ロードのオレへの思いはさておき、”あの人”という単語がオレの頭に残ったからだ。


 誰をさしているのかは分からない。だが、少なくとも言葉からしてオレも確かに知っている人であったのは間違いない。デートの誘い文句とかではないと、そう確信したのだ。


 そんな意味深な言葉を残されるのだから行かない選択肢はない。


 それはそうと、だ。


 「モテるんすね、先輩って・・・」


 「仕方がない。家系的な問題と、自分の容姿の問題だからね。ま、すごくモテるんだよ」


 「嫌味だなぁ・・・」


 学校から出るまでの廊下、下駄箱、玄関、学校敷地内でロードとすれ違う女子の大半はロードに話しかけていた。明らかに頬が赤いのが多いので宗教の勧誘とかではない。ガチの恋する乙女達だった。そして下駄箱には十枚前後の”お手紙”が入っていた。まぁ、なんのお手紙かはもうお分かりだが。


 「アルテインも男女問わずに手紙下駄箱に入れられて困ってたけど、先輩も相当っすね」


 「いやいや、彼は私の四倍はくだらない量を貰っているよ」


 「ご謙遜を。ってか、先輩もちゃんと全部持って帰るんすね」


 オレがこういうのも、ロードは手元に手紙を持ったままだ。アルテインも同じく手紙は全部持って帰り、どういう仕事能力をしているのかは分からないが、いつの間にかすべてのお返しの手紙を書きあげてそれぞれの下駄箱に返している。


 ロードも同じなのだろうかと問いかけてみた。


 「やっぱりラブレターの返事とか書いて持ち主に返したりするのか?」


 「そう、だね・・・。まぁ可憐な乙女の恋文(ラブレター)漢達の決闘申し込み(ラブレター)で返事は変わるけどね・・・」


 一瞬ロードの目からハイライトが消えた。というか、後者のラブレターがなんかすさまじい。言い方がなんか疲れていた。


 「なんすか漢達の決闘申し込み(ラブレター)って・・・」


 「・・・・・・・どうやら私の肉体美にハートをぶち抜かれた男子生徒、それも完全に《アッー!♂》方面の男達がこぞって私との”体験”を求めてくるんだ」


 「えっ」


 なにそれ怖い。そんなのの恋文まで丁寧に返事するとかロードが聖人すぎやしないか?


 「しかも内容が内容で、「丸太小屋」とか「お墓の前で」とかの単語が出てきたり、「私は決して同性愛者ではないが」と前置きがされていたり、至極まっとうに「ヤらないか☆」と書かれてあったりで、女子の恋文よりも語彙力と文章力が豊富なもんだからついつい見入ってしまうんだ・・・」


 「夢女子(漢版)とか、先輩前世どんな人生歩んできたんすか・・・」


 「本当だよ。私はただの獣系腐乱死体愛好家(ネクロフィリア)だというのに・・・、ヒトは対象外なんだけどな・・・・」


 「え」


 「え」


 ん? 今なんつったこいつ? 今とんでもねぇ性癖暴露が通り過ぎた気がしたんだが、気のせいか?


 げんなりと肩を落として隣を歩くロードはどう見えもただの好青年だ。まさかそんなやべぇもんがあるはずがない。・・・あるはずがないよな? そうだよな?


 オレが「まさか」とロードを見ると、ロードは別の方向を向いていた。失言に顔を背けているわけではないようで、何かに釘付けになっているみたいだった。


 「そろそろ着くよ」


 ロードの視線の先を探していると、ロードから声がかかった。


 いったい何を見ていたのかと聞く前に、本人から答えが返ってくる。


 「もう帰っているものだと思ったけれども、どうも寄り道をしていたみたいだ」


 「?」


 オレの家から少し離れた高級住宅街の中を歩きながらロードの歩みは遅くなる。ガタガタとその横を馬車が駆けていったのを見送る。割とゆったりと移動していた馬車に抜かれるくらいにロードは遅く歩いていた。


 「本来は交流のある腐れ縁の私がなんとかしなければいけないんだが、”あの人”と私では歳的問題で対等な関係性で言えないんだ」


 まるで自分自身の在り方を悔いているような、そんな物悲しい表情をするロードの足元がふと一つの豪邸で止まった。そこはついさっき通り過ぎた馬車が停まっており、鉄柵の中へと誰かが入っていく姿が見える。


 「ここ、どこっすか?」


 「あぁ、そろそろ話しておこう。”あの人”の友人であるゼクサー君に」


 くるりとこちらに振り向き、「しぃーっ」と人差し指を口元に当てる。大きな声を出すのは駄目だということかと、オレは大きく頷く。


 オレの反応に満足したのかロードはそっと小さな声で、囁くように言った。


 「ここは男爵家、・・・アイストースの家なんだ」


 


 

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