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『最弱』の汚名は返上する。~不遇だなんて、言わせない~  作者: パタパタさん・改
第二章『ニーナ編』
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第二章43 『隠したがり屋』

 「で、なンだッたッけ? カギ? なァに意味の分からねェこと言ッてンだオイ」

 

 かちゃかちゃと金属音が響く。


 ほの暗いような、そうでもない明るさが走る食堂でドスの効いた声がオレ達の手を止めた。


 「あ、それ今聞くんだ?」


 「あァ、今聞ィとかねェとあのつまンねェギャグを返されると思ッてなァ・・・」


 「つまんないギャグ・・・・」


 オレの問い、返される言葉にアルテインが難しい顔をのぞかせる。瞳からはあのクソしょーもないギャグを聞いて笑いたいのをこらえているようにも見える。カレーを掬うスプーンは震えており、ぷっくりとふくらんだ唇の端からは笑いを我慢する息が漏れている。

 

 何を隠そう、アルテインは下ネタに弱かった。しかも超絶初歩的な下ネタに、だ。


 ・・・いや、下ネタに弱くなった。というのが正しいだろう。


 オレと出会うまでアルテインは、ドメヴァ―の実験のために俗世に深くハマるようなことなどなくドメヴァ―に家族の一員として見てもらえるように励んでいた。しかしオレが介入した結果、アルテインとここまで逃げる羽目になり、さらにはそこでも序盤では新生活に慣れるために”下ネタ”とかいうジャンルにあまり触れてこなかった。

 

 しかし、こうして部活に入り、中々いい神経してる友達を作り、オレ達と家族として団欒することでアルテイン本人が俗世に深く入り込むことになったのだ。


 そしてそんなアルテインのツボにはまった下ネタというのが、


 「つまんねーことないだろー。発音似てるだろーが。タンマタンマとタマタマって」

 

 「クソイド、テメェッ!!」


 「うぉい! 待て落ち着け! まだ「このタマタマがなんのタマタマなのか」を言ってねーだろーが!」


 「言うも言わねェも、テメェが言うンなら答えは決まッてンだろが!」

 

 「おいおい、その言ー方、俺が最初からタマタマは金〇って言おーってしてたのがバレてたのか!? おいおい、勘弁してくれよ。エスパーかよ。生命の源って言ったらなんかやらしーだろ。察しろ」


 「ごぶふぅっ!」


 「あ、アルテイン―――――ッ!!!」


 耐えられなかったのか、アルテインが口に手を当てて大きく噴き出す。耳まで真っ赤で、その様はさながら男子小学生のブツを見てしまった女子の反応だろう。だが男だ。残念。


 「(ちなみにアルテインのツボとなる下ネタはタマタマと金〇と珍子だ。誰得だろうか、この情報)」


 個人的にはアルテインが下ネタで笑うように精神が人間に近寄りつつあることに嬉しさを感じるべきなのだが、男の娘がそんなことを笑いのツボにしていいのだろうかという観点に置いては少し思うところがある。


 「もういっそのこと、天然要素を抜いてド下ネタを言いながら踏みつけてくるタイプの男の娘の方がオレとしては振り切ってて良いんだが、中途半端だ・・・」


 「ん? どうしたのゼクサー君」


 「ん、・・・・あぁいや、独り言だよ」

 

 「おーい、ルナ! お前いつからMになったんだよ! お前生粋のSだろーが! しかもドS! なーにMに寝返ろーとしてんだおい!」


 「だ―ッ! 黙れ! お前に性癖の話はされたくねーんだよ! 後、夕食時にそんなことを言うな!」

 

 「テメェ、あれほどオレ様がいるときに下ネタはやめろと言ッたよなァ? 燻製にしてやろォかあ゛ァン?」


 オレが怒号を発し、オレウスは片手にナイフを持ってイドの首筋に当てている。そしてアルテインはなんてことない表情でカレーを咀嚼している。もう下ネタの笑いは通り過ぎたらしい。


 なんというか、カオスだった。


 「まー、落ち着けよオレウス。ギャグはさておき、質問に答えよーか」

 

 「あン?」


 「お前らの理解力に合わせて運命を解釈しなかった俺が悪かったな。まー、もうーちょっとわかりやすく言えば、・・・・こーか?」


 どうやってしっかりとした言葉を発しているのかは分からないが、カレーを口に運ぶスプーンを止めて、動かしていた口を収まらせる。ごくんとカエルのように内容物を飲み込んだイドは一旦口を拭き、言葉の続きを言う。


 「・・・変異個体アンドロイドが、今回の騒動のすべてのカギだ。その変異個体アンドロイドが身内だっつーことだな」


 空気が止まった。否、考えが追いつかずに思考が停止したのだ。アルテインも、オレも、オレウスも。


 「は、アンドロイド・・・?」


 「そーだな。ま、まだ身内と呼べるかどーかは分からんが」


 なんとか絞り出した問いにイドがカラッと答える。


 言っている意味が分からない。まるで家族の中にアンドロイドがいるような、今から家族になるような言い方だった。


 「言―方もなにも、そー言う言―方だったぞ」


 「心を読むなよ・・・」


 イドのあっけらかんとした物言いにオレはげんなりと肩を落とす。アルテインはどうにもしっくり来ていない顔を、オレウスはとりあえず聞きの顔をそれぞれしている。それに合わせてオレもまた「とりあえず聞いてみるか」と座りなおす。


 また静かになった空間、イドの語りだけが口を開く。


 「これは俺がゲイバーに入り浸り、ちょっと世界観測を行っていた時に分かったことなんだが、どーやらクロテント一派はこの国の崩壊を目論んでいるみてーだ」


 「「「!!?」」」


 「そー驚くのも無理はねーか。オレウスの組織もクロテントがなにか壮大な事件を起こして国王を失墜させるとまでは踏んでるみてーだが、そこまで行ってねーだろ。まさか掘り返してきた古代文明の超科学技術を逆手に取られるとは思わなんだ」


 「・・・それと国の崩壊、何が関係してやがンだ?」


 「オレウス君、君の生まれのこの国は外界を隔てるための“何か”があるよね?」


 「―――ッ! まさか・・・・!!」


 ガバッと跳ね起きたオレウスが、隣で脚を組むイドに詰めかかる。それをイドは「まーまー」と手で制す。そしてオレ達の方へと顔を動かして、


 「野郎ども、この国の“古代文明の時代からあった「世界最硬の壁」”を崩落させるつもりだぜ」


 これ以上ないくらいの、いじわるそうな笑みを浮かべた。



 A A A 



 「世界最硬の壁」と、そういわれるダンケルタン王国の黒鉄のそれは王国全土を囲い、すさまじい厚さと高さを誇るほかに、他の国にはない特徴を持つ。


 原理不明の攻撃能力で、壁に傷を加えると超高熱の光と風を数分発する迎撃能力。


 イズモの攻撃で王国正面の壁を消し飛ばしたにもかかわらず、ものの一日で元通りになる自己修復機能。


 王国の古代兵器でも威力と衝撃を吸収し、無効化する受け流し能力。


 以上の三つだ。


 少なくとも、有史ではイズモの攻撃以外では一度も倒れたことのない壁だと記載されていたはずだが、―――。


 「それが崩れるのか・・・」


 「説明サンクス。その通り。まー、崩れるかもねって話で、スイッチが使用不可だったり書き換えられていたりすりゃ不発になるけどな」


 「スイッチ・・・書き換える・・・?」


 またもや聞きなれないカタカナ語だ。かなり広く浸透しているが、カタカナ語はイズモ発祥だ。イズモは「伝説」と囃し立てられる前に異次元の文明と技術を世に広めた男でもある。ニホン語による言語の多様化に加えたカタカナ語の応用。顔文字や象形文字という美術、イソップ童話やらニホン昔話という童話子供の教養分野、料理分野でラテの作り方を広めてきた万能超人だ。

 

 正直な話、オレは個人的にはカタカナ語にそこまで精通している訳ではない。


 カタカナ語はその独特な格好良さや言い回しが流行って世界中に広まった訳だが、何にせよ元・親父が作った言葉だ。それ以外の良い言葉が見当たらなかった時に役立つが、日常的に使おうとは思わない。だから今まで意欲的にカタカナ語を学ぼうと思ったことはなかった。


 「いやー、カタカナ語は元々日本語の派生みてーなもんだからイズモ発祥じゃねーなそれ。後、スイッチは電源みてーなやつだよ」


 オレの個人的な思考にイドが反論し、そのままスイッチの意味も言ってくれた。「電源」を意味するらしいが、なんとコメントすべきか迷う。とりあえずここで次に備えるための発言と言えば、だ。


 「その電源があいつらの手にあるのか?」


 「いや? まだまだ。というか、あいつらも探してるんじゃねーかな」


 「探してる・・・」


 「まーその電源が、今オレウスの組織が探している“アンドロイド”にあるんだけどな」


 「「えっ!!??」」


 オレとアルテインが驚いた目でオレウスを見る。オレウスは何か危ないことをやっているのではないかという認識がオレとアルテインにはあったが、まさかそんな危ないアンドロイドを捜索する仕事だとは・・・。

 

 オレウスは軽く舌打ちをすると人差し指で自身の頭をたたく。


 「本来なら、こォいうのはガキには言わねェンだが、事が事だからな。確かにオレ様の組織はあるアンドロイドを追ッている。それも人間病のな」


 「・・・・人間病・・・」


 アルテインがぼそっとこぼす。


 人間病と言えば学校で軽く触れたが、アンドロイドが人間のような感情を持ち、酷使する所有者に反逆する事件のすべての元凶だ。一種のバグか病原菌ウイルスコードのせいだとも言われているが、そんなアンドロイドを追っていたというのか。


 「でも、確かアンドロイドは有名な会社の厳重な工場で生産されるんでしょ? だったらそんな病気が入り込む隙なんて無いでしょ」


 「まァ、アルテインの言うことはそォなンだが、実際にあッたンだよ。何者かがアンドロイド生産工場に侵入し、アンドロイドを数体盗むッつゥ未遂の事件がなァ」


 吐き捨てるように、忌々しくいうオレウスにアルテインが振り向く。「そんな情報知らない」と瞳は言うが、オレウスの職業上、調べればそういう情報は簡単に出てくることに納得しているような部分もあった。


 「なんで隠してたんだろ・・・」


 「アンドロイドは今ではかなり有名な商品だからだな。生産には国の許可が必要で、生産会社には莫大な生産基金や報酬が出る。だから未遂でもそーいう事件があると信用を失っちゃうんだよなー。だから会社側は隠したがる」


 「しかも問題はそこで病原菌ウイルスコードを注入された個体が居たにも関わらず、検査による出荷時期変更から出る噂を恐れて、検査をまともにしなかッたことだ」


 「・・・検査ってそんなに時間かかるの?」


 「あァ、アンドロイドは機械で、生もの。それも古代文明の技術を使ッてンだ。生ものだッたら消費期限の表示貼り替えでいくらでもごまかせるが、アンドロイドはざッと完成品から検査したら一か月は下らねェ」


 「・・・」


 「そんな月かけて検査して、購入者が「なんかあるんじゃないのか」とか疑えば終わりだ。検査なンてしたらどこから情報が洩れるか分かッたモンじゃねェ、だろォ?」


 「た、確かに・・・・?」


 イドとオレウスの説明に、アルテインが納得しかける声を出す。少し悪への知識が深まったところで、オレウスは釘をさす程度にオレ達二人に告げる。


 「病原菌ウイルスコードの特性は主に自身を含め、周囲に異常な電波を発する。これに当てられたアンドロイドは『棺桶』の中にある自我を抑制するためのプログラムが外れて“人間病”を発症する。お前ら二人は人間だから大丈夫だが、」


 「周囲にそんなアンドロイドが居たら、まずオレ様に伝えろ。今のところは、それだけだ」


 ―――と。


 

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