表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『最弱』の汚名は返上する。~不遇だなんて、言わせない~  作者: パタパタさん・改
第二章『ニーナ編』
135/178

第二章42 『たとえ力を持っていても』

 荘厳たる部屋の空気は、たとえ外が夕暮れで生暖かくとも寒く思える。

 

 パーティアスの議事堂に連れて行かされた時ほどではないが、どうにもこういう国の頂点が集うところというのは息のし辛い場所であるのはこの国でも同じなのだろう。

 

 これ見よがしに赤やら金やら銀の装飾が立ち並び、有名な画家が描いた絵画が何枚も貼られており、ガラスも細工が施されているここは一種の王室だ。大理石の床、そこに張り巡らされた絨毯、数段に渡る階段を超えた先には数人の銀色の騎士を背景に一人の貴人が椅子に座っていた。

 


 ――ダンケルタンの王宮。



 今、オレ達がいるのはその玉座だ。

 

 勿論、オレ達は頭を垂れている、――わけではなく、だ。

 

 「オイ、この椅子固ェぞ。普通の椅子はねェのかよ普通の椅子は」


 「そこの白髪、国王陛下に対し無礼であるぞ!」


 「あァ? 国王に媚びへつらうくれェしか脳のねェ死にかけは黙ッてろ!」


 「しにかk・・・・・・」


 「・・・オレウス。苦しいとは思うが終わるまで我慢してくれ」


 椅子に、座っている。それもオレウスだけじゃない。オレも、アイストースも、ウルティガも。

 

 すべてはオレウスの脅しである。


 「(というか国王がオレウスに引き気味ってのがやばい。オレウスまじで何者だよ・・・)」


 仮にも権力の頂点たる男がこれである。余計オレウスがただの一悪党と解釈できなくなっている現実にオレも理解が追いつかない。


 軽い舌打ちをし、オレウスが椅子に座りなおす。やけにけばけばしい椅子だが、座りにくいといえばそうだ。なんか尻がごわごわする。


 ちなみにだがアイストースは完全に目が回っている。普通なら頭を垂れるであろう玉座で椅子に座って国王と相対しているのだからこれはこれで仕方がない。


 オレが再び姿勢を直すと、本物の国王であるブロシュートが口を開いた。


 「少し話が脱線したが、つまりイネール山の地下遺跡に一連のモンスター襲撃事件を引き起こした輩が拠点を構えていた。でもその輩の基地はそこだけじゃなく、他にもある。それでもってその輩を手配した人物は本人達も分かっていないと」


 「そォだな」


 「それで、その地下遺跡のある山に今日会ったばかりの一般市民を連れていき、一般市民の静止を振り切って輩に特攻をかまし、またもや私の命令を無視したということか、ウルティガは」


 「そォだな」


 「ちょっと待った! 色々誤解が出ている!!」


 うんうんと頷いていたところを怒声が穿つ。声の主はもちろんウルティガだ。


 こちらとしてはどこにも間違いはなかったはずだが、本人は納得いっていないようだった。


 「・・・・一応、ウルティガの言い訳も聞いておこうか・・・」


 「「一応」ってなんですか「一応」って!? “僕”はたまたま商店街で聞き込みをしていたところ、グルティカを相手取ったという話を聞きつけ、その生徒二人を見つけ、三人で昨日聞いた怪しい連中のいる山を散策すれば武力面と安全性は大丈夫かなーって考えて一緒に行っただけです! 勿論女子生徒もいましたから敵と克ち合ったら逃げるように言いましたし、大丈夫だと思ってましたよ! でも急に敵の反応があったら捕まえに行くのが普通じゃないですか! もしかしたら国王の名前を出せば情報を包み隠さず話してくれて、“僕”らに全面協力してくれて、お縄にもついてくれる可能性もあったわけですし! まさか正義感の強い二人に捕獲を止められるとは思いませんでしたがっ」


 包み隠さずに腹の内までべらべらと語る姿はまさに正義の名に取りつかれた亡者のそれだった。何を隠そう、この男も思想が飛んでる人間であったのだ。


 これには血縁者のブロシュートも頭を抱える始末だ。


 「向こうがどういう目的か分からないんじゃぁ、こっちが「国王」を出したとしてもそれが向こうにとっての有効打にはならないかもしれないじゃないか。国家転覆を目論む輩だったら、国王がわざわざやってくるなんて飛んで火にいる夏の虫じゃないか」


 ブロシュートは「それに」と付け加えて、


 「そもそも正義感が強く、たとえグルティカを相手取って五体満足でいられるほどの腕の持ち主だとしてもまだ学ぶべきことの多い生徒だ。そんな子らをそんな変な噂の出る山に連れていくなんてよくないことだと、そういう考えはなかったのかね?」


 「うぐぅ・・・」


 「たとえ世界を揺るがす力を持った魔王に対抗できる力を持った子供がいたとしても、大人が率先して戦い、子供に戦場を見せない。子供の知らないところにするのが大人の役目だ。それは君に与えた「国王」の肩書を使う者の義務なのだよ。分かっているのかね?」


 「はい、義兄様・・・」


 今さっきまでの威勢の良さはどこへやら。すっかり意気消沈したウルティガは何も言わずに椅子で小さくなっている。


 それはさておき、オレは少しブロシュートの言葉にロードが言っていた「子供が戦闘技術に対して学べることが少ない」の意味を見た。


 たとえ力を持っている子供がいるとしても、戦わせてはならない。


 それはつまり子供の前では笑顔を絶やしてはならないということだろう。


 二千年と数百年続いてきた戦争を二人の人間が集結させて平和にした。だからこれからは少年兵のような存在を出さないようにする。それが国王の信念についた結果、こうして肥大化した思想ができたのだろう。


 「大いなる力には大いなる責任が伴う。だからと言って、それが歳も少ない子供が血みどろの戦場へと駆り出していい理由にはならないんだよ。―――私達の代で、終わらせなければならない」


 ブロシュートが残した言葉は一言一句、オレの記憶に残った。



 A A A 



 帰りの道は国王がそれぞれ馬車を手配してくれて楽だった。

 

 しかしいざ家に帰ってみると大変だった。

 

 「わぁ! ゼクサー君おかえり!」

 

 「おう、たでーま」

 

 「・・・・おう」

 

 エプロン姿のアルテインが出迎えてくれた。日が暮れ、明りに照らされた玄関でふわふわの銀髪天使がオレの目ん玉に癒しをダイレクトに注入してくる。やべぇ直視出来ねぇ! あまりの可愛さに目つぶしを喰らったオレが「うぎゃぁぁぁ!」と断末魔を上げていると、隣の道からもう一人、声を上げてオレ達の前に立ちはだかった。

 

 「よー! お帰りだぜー! ひょー! うほほ――い!!」

 

 「「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!?」」

 

 「おいこらなんでアルテインと俺とで反応が違うんだよ!!」

 

 ぷんすかと怒れる声の持ち主は、(本人除く)全員が認めるド変態。ジォス=アルゼファイド、略してイドだ。いつもなら蛮族スタイルな彼だが今回はしっかりと、“前から見れば”服を着ている。しかしそれが余計変な想像を生み出してしまうのだが。



 ヤツは、―――裸エプロンだった。



 それも色白の筋肉がエプロンの隙間から見え隠れしている。いったいどこの層向けなのか分からないが、気分は眼球に腹パンを喰らった感じだ。


 「おいおい、アルテインはちゃんと服の上からエプロンという防御高めだが、俺はサービス精神あふれる防御力ゼロなエプロンなんだぞ! あ、まさか信じてねーな! ちゃんと目に焼き付けとけよ。ほれ、一回転―――」


 「「やめろバカ、ブツ切り飛ばすぞ!」」


 ここでもオレウスと被った。それほどまでに見たくないのだろう。まぁ、オレも見たくないが。


 誰がイドの引き締まったケツなんて見たいのか。少なくともこの家の中には居ないだろう。


 「というか、なんでお前そんな無駄なサービス精神発揮してんだよ」


 「おー、そのごみを見る目。やっぱりアルテインも俺と同じにすりゃよかったかもな。総合評価がよくなる気がする」


 「たとえアルテインがテメェと同じ格好をしても、テメェがそン中で一番浮いてンだよ。言わせンなそンなこと。あと、質問に答えろ」


 「えー、そっかー。疲れたルナのために、癒し枠いるよなーって話をアルテインとしてだな?」


 「あれ? ボクは「ゼクサー君が受け付ける“せーへき(?)”についての講義を受けて、“ばにーがーる(?)”とかのコスプレプレイ(?)が一番刺さる(?)って教えてもらったんだけど・・・」


 「「オイこらお前・・・ッ!!」」


 何純粋無垢な男に教えてんだそんなこと。教育どころか人生の一生を決める運命に悪い影響が出ちまうだろうが!


 声にならない怒りがこみ上げ、オレとオレウスがそれぞれ唸るような声音でオレウスに詰め寄る。


 「ねぇねぇゼクサー君、結局“せーへき”って何かな?」


 「あぁ・・・、人の悪癖みたいなやつだよ。無意識の悪い癖さ。本人も気づいていない時があるけども、指摘したら駄目だぞ。どれくらいタブーかって言うと、人の顔の良さとかだ。アルテインだって「女の子みたい」って言われたらいい気しないだろ。それと同じ。触れちゃいけないやつだ」


 「そ、そうなの・・・? 確かに「女の子みたい」って言われるとあまりいい気はしないね。・・・あ! でもゼクサー君に「女の子みたい」って言われたらうれしい、かな・・・。あはは、変だよねボクって」


 「いえもう全くもって変じゃないと思いますはい」


 ほがらかに、はにかむような笑みを向けるアルテインにオレは即答した。だめだ、これ以上見てたら鼻血とか涎とかいろいろやばい。・・・じゅるり。


 無意識にアルテインの可愛さに舌なめずりしてしまったオレは後で極刑として、オレは天使の隣で仁王立ちする蛮族に問いかける。こいつが絡む場合、たいてい碌なことが起きないと相場が決まっているのだ。


 「で、イドはなんでいるんだ?」


 「この衣装でゼクサーのハートを撃ち抜くという名目で」


 「丁重にお縄につけ変態」


 「おーい、オレウスさん? その手に持った有刺鉄線はいったい何を縛るためのものなんですかねー???」


 気づけばオレウスがどこから取り出したのか、有刺鉄線を持ってイドににじり寄っていた。これにはイドも「タンマタンマ!」と叫んでオレウスの半ギレを制す。


 「俺が来たのはちょっとした情報を手に入れたことなんだよ!」


 「ほォ、情報とな? ・・・最新のBL漫画が出たとかだッたらどォなるかわかッてンだろォな?」


 「あー! そこは安心してくれて構わねー! 何せ、国の一大事だしな。そこは弁えてらー!」


 「国の一大事だと・・・?」


 有刺鉄線を取り下げるオレウスの疑問にイドが大きく頷く。ついさっきまでの怒りがなくなっており、新たに静かな憎しみがあふれている瞳をのぞかせる。


 「なにその荒事」


 オレもアルテインも、イドのふざけた格好を忘れ耳を貸す。


 「聞―て驚け」


 すぅっと息を吸い込んだイドが続きの言葉を吐き出す。


 不吉っぽくない言い方で、不吉なことを。



 「―――どーやら、身内になる奴が今回のカギになるみてーだ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ