第二章39 『奇妙なメンバー』
「なるほど! パーティアスのところでは定期的に冒険者になるための模擬試験が行われて、そこで本物のモンスターと戦えるのか! 確かに、それならゼクサー君が敵の攻撃に敏感になって、攻撃をかわしやすい理由になるな!」
「いやまぁ、それもあるけど攻撃回避とかは属性頼りなんだよな・・・。勿論、たいていは動体視力で何とかなるけど、”灰獅子”とかになってくると目に見えないくらい速いから属性技を使うんだよなぁ・・・」
「何ッ!? 属性技が使えるのか! しかも敵の攻撃が分かるとなると、やっぱり『空気感知』とか『熱感知』、はたまた『振動感知』、いや、もしかしたら『水脈感知』とかなのか!?」
「いや『平面の集中力』です・・・」
「なんだそれ! 聞いたことないぞ! つまり今言った属性技ではない属性か! なんだ!」
「あんたグイグイ来るなッ!!?」
迫りくる顔面から目を逸らすも知への探求心が収まらないのか、国王はまるで友達感覚、例えるなら『武装生徒会』の部員の如くオレに質問の嵐をぶつけてくる。
「確かゼクサーは電気属性だったよね?」
「をぉい! お前もお前か! いちいバラすな!」
「何! 電気属性なのか!? 確か電気属性が実践で使えるようになるには相当の年月が・・・、どういう方法を使ったんだ!!」
「あぁもう、散れ! お前ら散れ! 目の前でうっせぇし、いちいち個人情報晒すなバカ!」
「「わぁ!?」」
手を振り回し、興奮する二人を威嚇する。
オレは「つぅかよ」と区切り、アイストース、国王の順に視線を傾ける。
「オレばっかり情報出すのはフェアじゃねぇだろ。お前らの属性とかできる属性技とか教えろよ」
どう考えてもオレばかりが情報提供しっぱなしだった。アイストースと国王は聞きっぱなし、これではオレが損をしているように感じてしまう。オレが当然とばかりに胸を張って言うと、もうオレの国王への話し方に不満を持つのを諦めたアイストースが、ずっと「聞き」の姿勢に入っていた国王がそれぞれ顎に手を当てて「確かに」と返答する。
「”私”は風属性です。でも属性とかは授業以外では鍛えたことなくって、属性技とかは・・・」
「”僕”は火属性と水属性だ。火属性は火の玉、水属性は高圧水鉄砲が出せるよ」
アイストースが申し訳なさそうに手を挙げ、国王は自らの掌に火炎を出現させる。それを見たアイストースがさらに驚く。
「えッ!? 国王は複数属性なんですか!? いいなぁ・・・」
「そんないいもんじゃないよ。複数の属性を同時に使おうとすると、頭がいっぱいいっぱいになっちゃうんだ」
「そうじゃなくって、使い分けることができることがすごいんですよ! 国王はやっぱりすごいなぁ!」
アイストースが興奮気味に国王に詰め寄る。「ブロシュート様」とか「ブロシュート」とか言うもんだと思っていたが、それは本人の尊敬の念が許さなかったようで、「国王」呼びに落ち着いたみたいだ。そして、詰め寄られている国王はタジタジだ。半歩後ろに下がり、若干冷や汗が出ている。国王にとって、こういう風に国民に迫られることが珍しいことなのだろう。
オレはそっとアイストースの肩を叩く。
「おい、国王引いてるぞ」
「え? ―――――あ!」
ずざぁ!と、自身の失態に気づいたアイストースが国王から距離を取る。そしてすぐさま頭を下げた。
「すいません国王陛下、つい複数属性ということに驚いて友達みたいに接してしまい・・・・」
「うわぁぁ! やめて! 友達として接して! あとお忍びなんだから!」
国王が今にも自殺しそうなほどに混乱するアイストースに頭を上げるように声を掛ける。友達、少ないのだろうか・・・。
国王に一抹の不安を抱いたが、よく考えたらオレ達が友達になればいいので実質あってないような問題だろう。
「(てか、そんな大声で叫んでたらお忍びもなんもねぇんだよなぁ・・・)」
商店街がいつも通りうるさくて助かった。国王の悲痛な叫びもあっさりと騒乱の中へと掻き消える。というか、もともとの声に男性のような野太さがなかった。それも関係してるのかもしれない。
「(国王だったりアイストースだったり、ダンケルタンの人間は人間として違和感がないと生きていけないんか)」
思い返してみればオレがここで出会った人は大抵おかしい人間ばかりだ。
ネテロはこの世に達観してるような感じがするし、アルバルトは人を見る目が怪物級だし、オベロンとザックはまとめてクソだし、治安維持団体は盛りサルだし、ニーナは・・・、ニーナは違うか。ありゃ一種の病気だ。アンドロイドの時点で人間じゃないからセーフだ。
「類は友を呼ぶとはいうが、まさかな・・・」
ふと頭の隅に残っていたクソイズモの諺を口の中で音にしてみるが、オレはふんふんと首を振る。オレはおかしくない。類友ではない。なんか、出会いに恵まれていないだけだ。
改めてオレは普通の人だと認識した直後、アイストースがオレに声を掛けてきた。
「ゼクサー、今から国王と一緒に情報収集をしに行くんだけど、一緒にどう?」
「おん? 急に話飛んだな? どうしてそうなったんだ」
オレがあたおかな野郎どもを思い出している間に談合が進んでいたらしい。アイストースが行き遅れたオレに丁寧に説明をする。
どうやら昨日ここで情報収集をしていたら、事件当日に黒づくめの怪しげな連中の出入りがあったらしく、その怪しげな連中をつけていくとイネール山へ続く道を行ったという情報があったそう。
「それで一人じゃ心細いからオレ達も一緒に行こうと?」
「そゆこと!」
「いや自信満々に言われてもなぁ・・・」
首筋を掻きオレは面倒くさげに国王を見る。
「それは国王直近の兵士にでも頼めよ。治安管理局でも数人借りられるだろ。そこに頼めよ」
いくらお忍びとはいえど、国に王は一人だ。絶対お付きの兵士がいるはずだ。まさかこんなほんの少ししか修羅場に遭っていないような若者が一緒に行く必要は皆無である。というか、アイストースも混じっている時点でアウトだ。完全に。
国王はオレの反論に一瞬言葉を失うも、「ふふーん」と胸を張る。
「言っただろう! ”僕”はお忍びなのだよ! 監視役の騎士を撒いて、いつまでたっても解決しない連続事件の真相を自ら解きに来たのさ!」
「つまりお前は仕事を放っぽりだして王城から脱出してきたバカ国王という認識でいいんだな?」
「あッ! なんで急に”僕”を見る目が変わるんだ!?」
「自業自得だな」
涙目の国王を一蹴し、完全にゴミか何かを見る目になるオレにわめく国王。国王らしからぬ言動だが、アイストースは「う~ん」とうめき、国王に問いかける。
「こ、こっそり護衛とか、つけてないんですか?」
「見つけられ、追いかけられはしたが、撒いた」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やっぱり、バカなんですかね?」
「あれっ!?」
慈悲ある心だったが、からっとした国王の返事にアイストースもあきらめる。やはり国王、バカなんじゃないか? 護衛まで撒くなよ・・・。
「安全が確保できないんなら、オレは参加せんぞ」
「え、そうなの!? ・・・どうしよう、”私”、行くって約束しちゃったよ・・・」
「おいおい、何やってんだよ・・・」
諦観の念を浮かべた矢先、アイストースがとんでもないことを言った。さすがに国王相手に約束を破るのは駄目なのか、こちらに「一緒に行こうよ」という謎の圧さえ感じる。
流石に国王と銃使いを山に行かせるわけにはいかない。オレの経験上、山に行っていいことがあった試しがない。例えば怨霊と戦闘とか、怨霊と戦闘とか、いくら悪意を抜いたらクソ美人だったとしても命を取り合った場所でもある。クロテント一派がいるかもしれないし、逆に霊関係のがいるかもしれない。
「(このままオレは帰って、明日の朝刊に『イネール山で死因不明の死体二人発見』とか出たら後味が悪すぎる)」
色々諦めたオレはそっと息を吐く。
「わぁーった、分かったよ。オレもついていく。お前ら二人だとなんか心配だ」
結果として、オレは二人についていくことにした。