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『最弱』の汚名は返上する。~不遇だなんて、言わせない~  作者: パタパタさん・改
第二章『ニーナ編』
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第二章33 『真っ当な偏見』

 何が起きたのか、一瞬分からなかった。


 オレ達に向かって大顎を開き、こちらを喰らわんと飛び掛かるグルティカの上顎と下顎がずれたのだ。きっとやられた本人もよく分かっていなかったのだろう。思い出したかのように血が噴き出し、真っ二つに卸されたグルティカが内臓を撒き散らかしながらその場で息絶えた。


 現実感がないとはこのことだろう。


 目の前まで迫っていた死が唐突に消えたのだ。


 「なにが・・・」


 驚嘆をつぶやくアイストース。その疑問に答えるように、天の言葉が降りてきた。


 「大丈夫ゼクサー君!?」


 「あ、アルテインか。納得だわ」


 店のベランダから飛び降りると、グルティカの屍に近寄る影が一つ。アルテインだ。息も切らさずにこちらに近づく彼はオレの安否に少し表情を曇らせる。アルテインの瞳を見れば、オレの額に血がついていた。


 それを人差し指ですくいあげる。皮膚が切れた形跡がない。それに少し獣臭い。


 「これはそこで真っ二つに卸されたモンスターの返り血だ。オレは怪我ねぇよ。多分そこにいるアイストースも」


 「アイストース?」


 知らない単語にアルテインが首をかしげる。オレはそれに後ろにいる卸されたグルティカの死骸を指でつんつんしている女子を親指で指し示す。


 「すご、本当に死んでる・・・」


 「あれ喰らって生きてたらオレが『雷撃』撃ってたかもな」


 いまだ目の前で起こった光景に理解が及ばず、語彙力のない言葉を発するアイストースを見て、「この人か」と頷くアルテイン。こくりこくりと艶めかしい肌が揺れるさまを見て、オレはほっこりと変な気分になっていたが、ふと思い出した。


 アルテインは友達と遊びに行ったと聞いていたが、今はアルテインが一人。はてさて残りの三人はどうしたものかと疑問が浮かび上がる。

 

 「あれ? アルテイン、友達はどうしたんだ?」


 「おーい、アルテイン君!」


 「やっと見つけたー!」


 静まり返った商店街。その奥から三人の男女がアルテインを呼んで走ってくるのが見えた。髪色や服装からして、おそらくアルテインの友人だろう。三人とも全力疾走だったのか、アルテインの近くまで来るとぜーぜーと息を吐く。


 「ったく、いくらなんでも早すぎるだろう! 陸上部の俺が一瞬でおいて行かれたんだが!?」


 「急に走り出してどうしたんだよ・・・」


 「こんなに走ったの久々・・・」


 三者三様、全員しっかりと疲れているようだ。どこから走ってきたのやら。その三人に比べて、アルテインはぴんぴんしてる。というか、普通の人間がつかれる距離を平然と走ってくるあたり、アルテインの人外っぷりがよくわかる。


 「ってか、なんでこっちに来たんだ? かなり離れてただろ。どうやってオレが交戦してるってわかったんだ?」


 「んー、よくわかんないけど、行かなきゃな―って。・・・勘?」


 「オレに聞くなオレに」


 アルテインの意外な答えにオレはげんなりと肩を落とす。なんだかイドの下位互換みたいな理由だ。しかしそれで助かっているのも事実だ。


 「まぁ、サンキュな」


 「うん! ゼクサー君なら大丈夫だと思っていたけど、間に合ってよかったよ」


 「くっ、眩しい!」


 くったくのないアルテインの笑顔にオレは思わず顔を逸らす。プルンとした唇に綺麗なまつ毛、白い肌が一層アルテインを輝かせている。これはもうご飯三杯どころか三合イケるレベルである。


 「――――もう、いいかな?」


 今日ご飯のおかずはアルテインの笑顔でいいかなと本気でくだらない、くだらなくもないことを考えていると、ふと嫌気をさすような言葉が俺の思考を遮った。


 陸上部に所属しているとかいう男子だ。茶髪の、いかにもいい環境で育ってきましたと言わんばかりの品の良さが裏目に出た煽りを繰り出してきた、一般的なクソのような男子だ。


 「アルテイン君も用が済んだのならお買い物の続きをしよう。そのモンスターは死んでるんだろう? なら早いとこ、こんなところから離れよう」


 「おいおい、オレがアルテインに癒されてることの何が気に入らねぇんだよ。仲良くしようぜ」


 「断る」


 にこにことふるまってやると、その男は平然とした顔で拒絶する。こいつもこいつでオベロンみたいな思想強めの奴のようだ。すっぱりとしすぎた拒絶にアルテインも困惑顔をしている。こちらが「なんで?」と聞く前に、彼は淡々と理由を語った。


 「ゼクサー、だっけ? 君の悪い噂は沢山聞いている。公爵一家の息子を論破するほどの狂気と過激な思想に呑まれ、治安維持団体の男を襲おうとし、さらには電気属性。前者二つは噂と片付けることもできるが、最弱として有名な電気属性は明らかな、人類としての欠陥だと思うのだよ。分不相応な君にアルテイン君をどうこうする資格はない」


 「ちょ、確かに電気属性は”最弱”の大外れ。だけど、人の遺伝性を非難するのは純血思想の差別主義者と言ってることが同じだよ」


 「ゼクサーは冒険者を目指しているのだろう? ならば戦闘どころかあらゆる面で使えない属性を持っている時点で、身分をわきまえていないのと一緒だ。人様の迷惑を全く考えない、それを人類の欠陥だと言っている」


 流石に彼の発言が見過ごせなかったのか、もう一人の男が諫めるもまるで歯が立っていない様子でさらにオレを中傷する男。しかしこちらとしては言われてもなんとも思わない。当てが外れすぎているのだ。


 「しかし、悪い噂が立つ時点で、その人間には何か表には出せないような、怪しいことがあるんだ。そんな人間は信用したくないし、友人を近づけさせたくもない。たとえ、義理の兄弟だとしても、だ」


 そしてそのまま、オレとアルテインの間に腕を割り込ませる。


 思想は強いがあくまでもそれは善意。友人を大事にするという真っ当な考えからできているものだと分かる。瞳が何を考えているかは分からない。だが、この男は社会的というよりかは自分の信念に則った発言をしているのが分かった。その証拠に「普通に考えて~」や「常識的に~」という言葉を使っていない。


 総合するとオベロンとは違う意味で話が通じないタイプだ。


 「(言い返しても良いけど、この感じだと言っても信じないか、そもそも聞かないかのどっちかだ。なら放っておくのが一番かなぁ・・・)」


 思考を放棄しない手合いであるならば言い分を理解してもらえる確率は高いが、この場合だと確率はどっこいどっこいだ。なら、無駄な刺激はしないが吉である。


 そう、合理的に考えれば、だ。


 しかし合理的を捨てた男はここで反旗を翻す。


 「ザック君、ボクのことを友人として見てくれるのは嬉しいけど、あの噂はほとんど嘘だよ。それに、ボクはゼクサー君の電気属性で救われたことが何回もある。全然”最弱”でも”外れ”でもないよ」


 口を開いたのはアルテインだ。


 友人の言葉にザックと呼ばれる男は少し唸る。オレの言葉は通じなくとも、友人の言葉であれば多少なりとも聞く耳を持つようだ。なんとも都合の良い耳だ。


 ザックはアルテインの台詞に額に皺を寄せる。「でも電気属性・・・」と言葉を紡いで反論を探していた。


 直後、アルテインに更なる応援が付いた。


 「”私”はそこのモンスターに襲われそうになったところをゼクサーに助けてもらった。それどころかあのモンスターの攻撃全部避けて、”私”を担ぎながら逃げ回って時間稼ぎしてくれたんだ。電気属性だからって冒険者になれないなんて道理はないし、あの判断力は冒険者顔負けだよ」


 「男爵家のアイストースさんまで・・・・・」


 更にザックの額に皺が寄る。


 「・・・分かった」


 そして重い口を開いた。出たのは理解のある言葉だった。


 「第三者がここまで言うなら、認めざるを得ない。噂は、噂だ。・・・・俺としてはとても不快だが、すまないゼクサー。偏見と噂で君の人格的を決めてしまったこと、申し訳なく思う」


 深くザックが頭を下げる。


 その意図はオレの顔を見たくないのと、素直な謝罪の気持ちの現れだろうか。瞳が見えなくとも言葉が心情を強く反映している人物も珍しい。オベロンと比べてだいぶマシだが、個人的にはあまり受け付けない。しかし、ここでその謝罪を受け取らなければこの変な空気から脱することなどできない。


 そんな中、オレなりにいろいろ考えて口を開く。


 「まぁ、表面だけでもいいから仲良くしようぜ」


 そんな珍しい人間だからこそ、オレは及第点で彼の偏見を汲んだ許しを提示してやった。


 

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