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『最弱』の汚名は返上する。~不遇だなんて、言わせない~  作者: パタパタさん・改
第二章『ニーナ編』
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第二章31 『合掌』

 「普段からあの部活ってあんな感じなのか?」


 「そうだね。昔の戦記が見つかれば、それが本当に実現可能なのか調べるし、モンスターの図鑑が見つかれば、絶滅していてもしてなくても、対面した時の対処法を模索する。勿論、ほんとにその方法が試せるかデコイを使って実践したりする」


 「すご・・・っ」


 前を行くアイストースについていき学校の正門を抜ける。どこへ向かうというのか、まったく見当もつかない。


 「(ずっとあそこに居たら息が詰まりそうだけど、アイストースと二人きりも辛いな)」


 不思議なことにオレはアイストースが女性だというのは分かっているが、理解しきれていない節がある。どうしても女性として見ることができないというか・・・、変な感じだ。


 格好も見てくれも明らかな女性。しかしどうにも違和感がぬぐえない。


 彼女が変なのか、もしくは他人の目が見えなくなったオレの眼の副作用か―――。


 「もうすぐ着くよ」


 「うん?」


 アイストースの足が遅くなる。住宅街の景色が変わり、気がつけば近くにある商店街の入り口が真上にあった。花形のシンボルマークの上にはでかでかと『アルマ商店街』と描かれている。


 「どこ行くんだ?」


 「ちょっと、ね・・・」


 言葉を濁す。アイストースの目的は、言葉だけではわからない。


 にぎわう人々の間をすり抜け、角を曲がり、並ぶ色鮮やかな店を通り過ぎていく。どこへ行くというのか。街路に敷き詰められた店の種類からは想像がつかない。


 「――ここで」


 「うん?」


 連れられた先、そこは商店街の中でも少し目を引く場所だった。立ち並んだ店の年代を感じる壁と違い、ここはまだ新しい。側には『塗装中・接触禁止』の張り紙があった。


 そして、その塗装中の壁、店と店の間の細い通路の入り口には花束が添えられていた。


 意味は、なんとなくわかる。ただし、よくない意味だが。


 「誰か死んだのか? アイストースの身内か?」


 一瞬、アイストース「さん」と言うべきなのではと、なれなれしい言葉使いにオレの精神がこわばる。しかしアイストースは特段気にした様子はなく、少し首を横に振る。


 「ウチのクラスメイトだよ」


 「    」


 空白ができた。何かを言おうと口を開いてみたが、うまい言葉が見当たらなかった。悲しいというか虚しいというか、知らないところで死んだ知らない人間なんてオレが感知するものでもないし、知ったところでなんになるという話だが、どうにも心は理屈ではなかったらしい。


 「マックスとエル。クラス公認のカップルだよ。この商店街にデートしに来たとき運悪くモンスターが襲撃してきて・・・」

 

 「・・・」


 「見つかった時は二人とも胴体は真っ二つ。マックスがエルを庇ったんだって。でもモンスターの爪はマックスごとエルを切り裂いた。即死だったんだって」


 「・・・そうか」


 何も関係ない。しかしオレはアイストースト同じように手を合わせた。その様相に隣にいたアイストースが「え」と驚いた声を漏らす。


 「んだよ」


 「あ、いや、・・・てっきり「だから何? 死んだ奴のことなんてオレには関係ないだろ」とか言い出すもんだと思ってたんだ」

 

 「おいオレってそんなに慈悲のない奴だと思われてたのか? 確かにだからなんだよって気分だけど、死者を悼む気持ちはあるぞ。さも「全員悲しむべき」って当たり前のように押しつけられるのがいやなだけだ」


 確かにクラスメイトが、それもカップルが死んでしまったのは悔やまれることだ。オレだって鬼じゃない。災害でできた石碑や事故死した人の跡に手を合わせるくらいはする。でも、それだけだ。その当時の悲しみを知っているのはその当時の人だけである。未来に生きているオレがどれほど想像をしようと、その痛みを理解することはできない。さすれば涙を流すこと、悲しむことはきっと死者への冒涜となるだろう。それは悪の同情なのだ。


 悲しい思いをしたのは過去の人。オレはその悲しみを理解することはできない。だからごめんなさいと言う意味も重ねて手を合わせる。


 死者への悼みと、その苦しさを理解できない無力さに対する謝罪の意。これがオレが思う「手を合わせる」と言うことだと思う。


 「なんでこんな場所にオレを?」


 「秘密だよ」


 謎だったアイストースの行動を疑問にしたが、本人は口に人差し指を当てるだけだ。オレが血も涙もない奴だと思っていたのであれば、わざわざここに連れてくる意味がわからない。


 しかし大して重要なことでもないため、オレはそれ以上の追求はしなかった。


 「でも、悪くなかった」


 「・・・?」


 アイストースが腰に手を当ててふっと息を吐く。何が悪くないのか。それは本人にしかわからない。


 オレの怪訝な顔を見ると、アイストースは軽く咳払いをして言う。


 「変なことに巻き込んだけど、シャーベットでも奢るよ。せっかくの希有な人だし」


 

 A A A



 「はいよ、アイスシャーベットだよ。早いうちにお食べ」


 「ありがとうおじさん!」


 「どうも・・・」


 商店街の一角、妙にカラフルな店で販売されるシャーベットを購入し、オレ達は店の壁にもたれかかってそれを食す。


 商店街は人であふれている。ここがモンスターの襲撃事件の起きたところだというのに、皆が皆、まるでそんな事件がなかったかのように元気に騒いでいる。


 「(普通なら人減ってもおかしくねぇってのに、変わってんな)」


 「おいしいよね。これ、火属性の応用で温度調節してるんだって。機械だとカッチンコッチンになるみたい」


 「へぇ、属性で料理作るとかあんのか。オレ、大体火打ち石使ってたけど、電気でも発火できるんかな・・・」


 「火打ち石!?」


 「おん?」


 ぼそっと呟いたオレの小言に反応するアイストース。開いた口からアイスがこぼれていた。もったいない。


 しかし関心はそこではない。アイストースはオレの台詞に食ってかかった。


 「火打ち石って、なんで? パーティアスから来たんなら電気が通っているんじゃないの?」


 「いや、そうじゃねぇ。前の家だと料理作ったことねぇよ。オレが言ったのはパーティアスの”外”でサバイバル生活してたときに火打ち石使って料理していたってだけだ」


 「え、あの”外”!? モンスターと戦った経験があるのは知ってるけど、まさか泊まり込み!?」


 「んだよそうだよ。それしかねぇじゃねぇか」


 「聞いてないよ! それだとゼクサーって結構すごい人じゃん!!」


 「ホントは旅行以外で”外”出るのアウトなんだけどな・・・」


 「泊まり込みで”外”にいけるのがすごいってことだよ! 夜の”外”はやばいんでしょ? 一部の冒険者以外は活動に限界があるっていうし」


 「いやぁ」と否定しようとしたが、オレは言葉を止める。目の前のアイストースは興奮している。ここで変に否定しても意味がない。もっとオレの評価に拍車がっかるだけである。そうなると面倒なのは噂話の増長だ。


 実際、現実にオレは大多数の生徒から「公爵一家の息子を論破できる思想が強いやばい奴」という認識を受けている。それにアイストースや『武装生徒会(ユニバース)』が聞いた情報が伝播すれば確実にオレに近づく奴もいなくなる。ここで変にアイストースの興奮を加速させれば碌なことにならないのは明白だ。


 撒いてしまった種はどうしようもない。ならばこれ以上の繁殖を防ぎ、沈静化するのを待つほかない。栄養剤と化しているオレが動けばいい未来は見えないのだから。


 というわけでオレは隣で一人勝手に妄想を膨らませるアイストースを無視しシャーベットを食べることに専念することにした。溶けちゃうし。


 そうしてやけに看板の原寸大の絵よりも大きいシャーベットを食べ終わりかけている時だった。


 そんな普遍的な日常が一変したのは、ほんの少しの影がオレの頭上を横切ったこと。ただそれだけだった。最初は鳥かと思ったが、一瞬見えた影が鳥の形をしていなかった。


 「――――――ッ!」


 商店街のガラスの屋根。それがギィという音を立てた瞬間、ざわざわとしていた客足が止まる。全員が一律にして屋根を支える鉄骨に首を向ける。


 アイストースもまた音源の方向に首を這わせ、シャーベットを落とした。


 それもそのはずだ。


 屋根に、何かがいる。


 一見して思うのは白いオオカミだ。しかし、大きさがオオカミの何倍もあることと、同時に手足のほかにお尻に尻尾のような長い触手が四本見受けられた。それが二本鉄骨に掴まっており、もう二本が屋根のガラスに接着している鉄骨を押していた。音の原因はそれだろう。しかし状況が状況だ。音を出したモンスター本人も自身の存在がばれたことに驚きを隠せていない。


 ――――が、すぐに調子を取り戻すとその瞳を殺気立たせる。


 「GYUOOOOOOOOOOOO!!!!!」


 刹那、聞いたことのない叫びが商店街の一帯を埋め尽くした。



 

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