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『最弱』の汚名は返上する。~不遇だなんて、言わせない~  作者: パタパタさん・改
第二章『ニーナ編』
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第二章29 『どっちつかず』

 新しい学校に通い始めて早三日、ある程度クラスになじめたかと言えばそれは違う。


 「ゼクサー君さぁ、今さっき先生とすれ違ったのに挨拶しなかったよね? それは年上を敬うという気持ちが足りない証拠じゃないかね」


 「ネテロ先生に今日も振られて血走った目ぇしてるアームロンド先生に話しかける勇気はねぇよ。あと敬老心はパーティアスで捨ててきたからな。文句を言われる筋合いはない」


 「なっ――! そうやって何でもかんでも自己中だから君は人に好かれないんだ! わかっているのか!?」


 「わぁーってる。人に合わせりゃそれが人生の最後だってことくらい。大体最近の奴らは自分で考えなさすぎるしな。思考が退化してんだよ。簡単に言えば野蛮人だ。オレは野蛮人に好きになってもらいたくはねぇ」


 「こッ、のッ! もういい! 君は話にならない!!」


 クラスの委員長であるオベロン=ドームットがこれ見よがしに額に皺を刻んでオレの席から離れる。


 休み時間だというのにこの男は飽きずにオレに絡んでくる。そのせいでオレはクラスで浮いた存在となっていた。


 アルテインは隣のクラスまで遊びに行っているため、必然的にオレの周囲はほぼ初対面の奴ばかりになる。しかも編入挨拶の時にオベロンとした軽い言い合いのせいで、オレはどうやら思想が強い奴だと思われているらしい。そのせいもあってオレは話しかけづらい状況にあるのだ。


 「(ま、全部オベロンのせいだからなぁ・・・。オレ全然強い思想持ってないのに・・・)」


 ちなみにだが、オベロンがオレに対して攻撃的な姿勢をとる理由の一つにアルテインに告白して振られたというのがある。適切に言えば、「編入生と二人でお茶をしたかった」とアルテインとのデートを目論んで言ったものの、「ゼクサー君は来ないでくれ」と言ってしまい見事にアルテインの拒否反応を食らってしまったのだ。


 「(確実にオベロンの自業自得なんだよなぁ・・・)」


 その後のオベロンはアルテインの拒絶にオレに逆切れし、「アルテインとだけ特別に仲良くするのは不平等だ!」とか言いながら顔を赤くして走り去っていったが、現実は嫌がらせが増えただけであった。


 「困るといえば困るが、あいつも友達いなさそうだよなぁ・・・」


 正直な話、オレはオベロンが他の誰かと話している姿を見たことがない。おそらく周囲も面倒くさいんだろう。自分の痴態よりも人の一挙手一投足が気になって仕方がない男だ。絡まれれば最後、謝っても離してくれない冤罪説教時間がやってくる。


 そんなオベロンは今日もまたオレに絡んだ後、人が変わったように一番後ろの隅の席で日差しに当たっている。相変わらず特定の人物以外の眼が見えない中、オベロンは特に行動も相まって何を考えているのかが分からない。


 教室は全体的に木造の柱と床と、コンクリートの壁で構成されたどこにでもあるような小奇麗な学校の教室だ。机も椅子も鉄の骨組みに気の板をのっけただけの簡素なもの。そういった風情も合わさってどれほどクソなオベロンでもクラスの中に溶け込んでいるように感じてしまう。


 しかし現実は見た目ほど優しくないもんだ。


 「(オレも誰か友人作っとかねぇとなぁ・・・。オレウスに要らねぇ心配かけちまう)」


 オレウスは時折、アルテインとオレに近況報告をさせてくる。主にアルテインではなくオレの方に質問は集中するが、オレウスの職業柄変な奴の事を言うとその変な奴が抹消されそうで怖いという気持ちがある。例えばオベロンとかオベロンとか、後オベロンとか・・・。


 少なくともこのクラスは無理でも他クラスなら友人が作れるのではないかと、オレはそんな希望的観測をする。


 「話したことなぇけど、暇そうなやつに声かけてみれば一発だろ」


 友達の作り方? んなもん簡単だ。暇そうなやつを捕まえて「友達になってくれ」と言ってオーケーをもらえばそれで成立する。


 難しく考える必要性は皆無だ。


 

 A A A


 

 前言撤回、オレ氏、友達はできないと諦めることになりそうだ。


 舞台は学校。時刻は夕方前。帰る生徒もいれば単位を稼ぐために授業を取る生徒もいる。そして部活動にいそしむ時間でもある。


 オレは今まで色々な努力をしていた。


 編入生という立場を使って教科書を借りようとしたり、トイレの場所を教えてもらおうとしたり、あらゆる生徒に話しかけた。しかしどうにもオベロンの悪名が轟いていたのか、「この機に友達になろうぜ」と言えば、「オベロンと同じくらい思想が強い人と友達はちょっと・・・」や「オベロンと張り合えるあたおかは他を当たってください。俺には荷が重いです」と断られる始末だ。


 「だぁれが、思想強い人だよクソッタレが。オレそんなにヤベェ奴に見えるかよ・・・」


 誰もいない教室でオレは呟く。

 

 ちなみにアルテインは三日前にできた友人と一緒に遊びに行った。オレも誘われたが、アルテインの友人が明らかに悪い雰囲気を醸し出していたから、ついていくのはやめた。


 不思議とここではオレが”電気属性”という理由で嫌う人はいない。オベロンをどうにかすれば、友人ができるかもしれない。しかし何をどうすればいいのか分からないため、本末転倒だ。結局オレは椅子にもたれかかることしかできないのである。


 静まり返った教室。乾いた木の臭いが鼻をくすぐる。広い教室でもどうにも狭く感じてしまう中、響くのは窓を叩く風の音だけだ。しかしオレはその中に一つの、こちらに近づいてくる足音を耳にした。


 この教室は突き当りで、左は壁だ。その足音は真っすぐとこちら向かっていた。


 誰だろうと、半ば友人作りに諦観の念を浮かべているとふいに扉が開き、足音が中へと入ってくる。しかし、すぐにその音も止まった。なんだろうかと視線を動かすとこちらに首を向けている女子が視界に入った。


 肩までかかった薄く黄色い髪に夏用の制服とニーソックスに身を包んだ女子であった。


 「あれ、編入生君?」


 「あん?」


 決して喧嘩腰というわけではない。ただ、その女子の声が少し変だったからだ。例えるなら変声期に男子が出した女子の声みたいな、どうにも性別が分からないような声だ。


 「何してるの?」


 「友人探し」


 「なにそれ」


 軽く笑われた。いや、笑っていない。笑っている声だけが出ている。その女子はこちらに近づいてくると、隣の席に荷物を置き、机の中に入っていた問題集を引っ張り出し鞄の中に入れていく。今更だが隣の席だったようだ。気づいていなかったぜ・・・。


 しかし表情に皺ひとつ見えない当たり、これまた変な人だなと思っているとその女子が話しかけてきた。


 「ねぇ、部活はもう決めた?」


 「決めてねぇ・・・。それどころか友人も作れてねぇ」


 「他クラスはどうだった?」


 「同じだ。オベロンのせいでオレが思想強い奴だと思われてる」


 「へぇ・・・」


 女子は鞄に荷物を入れ終わると、「ねぇ」と声をかけてきた。目は曇っていて見えないが、こちらに興味があるというのはなんとなくわかる。


 「なんだよ」


 「部活決まってないなら、”私”のところおいでよ」


 「―――――んえ!?」


 少し思考が遅れた。というか、びっくりした。部活の誘いではない。なぜか目の前の女子は「俺」か「僕」というものだと思っていた、そう思っていた自分に驚いたのだ。


 しかしその申し出は今、オレが一番喉から手が出るほど欲していたものだった。


 「ぜひ! でも、なんでオレなんだ?」


 疑問はある。どうしてオレを選んだのか、だ。このクラスの同級生であればオレがオベロンのせいで思想強い奴と思われている。少なくともいい目で見られていない人間を部活に招待するとはどういう意図があるのか、オレには分からなかった。


 その女子は少し首をひねり、それっぽい答えを出した。


 「君が、・・・その、なんだ。強そうだったから、かな?」


 「は?」


 「あぁいや! 変な意味は全くない。ただ、なんというか、戦士みたいな、修羅場をくぐってきた駆け出し冒険者みたいな風格があったからかな。オベロン君との言い合いの時、編入生君「ほぉ、やってやろうか青二才!」って目をしてたからね」


 「そんな目してたのかよオレは・・・」


 「挑戦的だなぁとは思ったよ。ま、”私”の所属する部活はそういう挑戦的な人が多いと思うから、編入生君にはピッタリかもしれない」


 にやりと笑う女子の姿はどこか男らしく、格好良さがあった。そのままその女子はオレに対して手を差し出す。


 「実は編入生君の名前、憶えていないんだ。だから改めて、ぼ、――いや、”私”の名前はアイストース=ベネズェトだよ」


 「覚えてねぇのかよ。まぁいいか。オレの名前はゼクサー=リベリオンだ。好きなように呼んでくれ」


 握り返す手から伝わる妙な温かさ。しかし強い仲間としての意思が感じられた。


 アイストースは握った手を離すと鞄を持つ。そのままどこかの方向へと指をさした。


 「じゃぁ部の会場に案内するよ! きっとみんな喜んで迎え入れてくれるよ!」


 「ちょっと待て、いったいオレはなんの部活に入らされるんだ!?」


 忘れていた話題だ。アイストースは「あ」と口を開ける。完全に頭から抜け落ちていたらしい。少し顔を赤らめ、咳払いをする。


 「決闘クラブ。――表ではそう呼ばれている。正式名称は『対決戦戦術解析同好会』」


 「決闘?」


 「学校では教えられない武器や戦術を使って、古代文明の技術を用いて各々の戦力を鍛える。そういう目的で作られた同好会。それが、”私”たちが所属する部活。――『武装生徒会(ユニバース)』だよ」


 

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