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『最弱』の汚名は返上する。~不遇だなんて、言わせない~  作者: パタパタさん・改
第二章『ニーナ編』
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第二章25 『良いニュースと悪いニュース』

 話の舞台は食事代へと移る。


 長いテーブルの隅っこで、オレとアルテインが隣同士で、オレウスとイドが隣同士でオレ達の前で食事をする。三人分だけしかなかったはずのステーキが四人分あるのはこの際触れないでおこうと思う。


 綺麗に盛り付けられた何よく分からない葉っぱやらソースが、やたら豪華な皿に添えられている。これだけはイドのセンスを認めざるを得ないが、イドの口から出た言葉はやたら大雑把だ。


 「んで、オレ達の入学に関してはありがとう、なのか? でも後者のモンスターに関連する事件ってなんだよ。アンドロイドの事件の他にもなんかあんのかこの国は」


 「あー、別に王権争いが民間人巻き込んでる程度の小せーことだからあんま気にすんなってだけだ」


 「馬鹿、民間人巻き込ンでる時点でアウトだ。まァ、こッちも裏で手ェ回して情報収集とか色々するからわざわざ調べる必要はねェッてこッた。概要くらいなら教えても良いが、聞くか?」


 「あー、うん。聞いておきたい」


 「ボクも、ゼクサー君が先走った時背中を守れるようにしたいし」


 オレとアルテインが頷くと、オレウスはフォークを置いて事件について話し始める。


 「前に言ッたが、国王ブロシュートの政治は王権政治だが、それはあくまでも肩書で実際は議会制だ。国王は年に一回の議会の総決議で存続か終結かが決まる。ブロシュートは頑固爺共からは良い顔をされてねェが、国民の支持率は圧倒的に高い。それで、その支持率を落とすために企てられたのが、最近話題になッたモンスターの襲撃事件だ」


 「あれ? でも今の国王って遺跡掘り返したりで反感買ってるんじゃないのか?」


 「それもある。だが、遺跡を掘り返して自然遺産をぶッ壊してもそれを無に帰す程の莫大な利益を上げていたり、一般市民でも貴族や議員になれる機会を沢山用意してる。それに外交もクソ上手いし人望も厚い。クロテントや先代国王の純血思想とか優生思想に囚われねェ柔軟な思考も持ッてやがる。不祥事やらかした貴族を匿わねェからな、そりゃァ民間人の支持率も高ェッて訳だ」


 今代国王のブロシュート。初めて聞いた時はとんだデストロイヤーだと思っていたが、今こうして聞いてみれば割とちゃんと王様やっていた事実に愕然とする。惚れそうだ。惚れないが。


 「ンで、そォいう王様をクロテントやら野党は気に入らねェらしい。だから国内にモンスターを放ッて不祥事を起こし、ブロシュートの軍備費用の減額方針のせいだッて支持率の低下を狙ッてるッてこッた。実際、死人も出てるから支持率が低くなるかも知れねェが、ブロシュートの支持率はクロテントの数千倍だ。そォ簡単にクロテントの時代はこねェ」


 「もうバレてるんだクロテントの一派がやったことって」


 「や、この国にいる同じ組織の奴に聞いた話だ。噂程度に囁かれてるが、民衆にはそこまで浸透してねェ。せいぜい陰謀論者が騒ぎ立てるくれェだろ。・・・確信はねェが、アンドロイドに”人間病”を発病させる病原菌(ウイルスコード)をばら撒いたのもクロテント率いる国王ガチアンチだッて言ッてるが、そこはまだ定かじゃねェ」


 「モンスター襲撃事件はマジなのかよ・・・」


 よくも悪くも、この国の上層部はヤバいようだ。パーティアスは悪い意味でぶっ飛んでいるが、ダンケルタンは次にヤバい。


 オレはモンスターたる存在に初めて出会った時の、あの得体の知れない感覚を思い出し、身を震わせる。


 「(灰獅子みたいな奴が平然と壁の中で人食ってる所に出くわしたら、一般市民からしたらトラウマもんだよな・・・。国王落とすなら市民の犠牲はやむなしって神経が分からねぇな)」


 あの時、アルテインと本当の意味で出会った時のことを思い出す。足が震え、行動を起こせないオレの目の前でアルテインが勇猛果敢に灰獅子に一撃を食らわせたのだ。


 オレは多分、そんなアルテインの正義感の強さと、それに見合う行動力と強さに惹かれたんだろうなと思う。


 ふと横に居るアルテインを見やると、アルテインは丁寧な所作でステーキを食べていた。ナイフでコリコリと肉を切り取り、フォークでプスッと刺してそのまま甘い紅色を舌唇の中に押し付ける。少し頬が動き、肉を転がす様子が見て取れる。


 そしてそのままこくりと呑み込んだ。なまめかしい、白い肌に覆われた首が動く。


 ステーキになりたい。割と本気でアルテインの養分になってもいいかもしれないと思った瞬間でもあった。


 アルテインはナイフとフォークを置いて水の入ったコップを口元で傾ける。油で潤っていた桃色の唇が水で染まり、ハンカチで口元を軽く拭うといつもの可愛らしい口が現れる。


 「・・・・・・・っ」


 ずっと見ていたのが分かったのか、アルテインがオレに視線を移した瞬間に頬をより紅くさせる。目からは「なんでじっと見てるの?」と言った言葉が見えた。


 オレはふっと微笑んで言う。


 「あまりにも美味しそうに食べてたから、可愛いなと思って」


 「・・・・・・・もうっ」


 赤面しつつも混沌に入り混じる琥珀の眼にははっきりと”照れ”が見えた。この場が食事の場であることがゆえに奇声を発しなかったが、普段なら驚いた猫のような声を上げるだろう。しかし、こうした場ではまた違ったアルテインの可愛さが出てくるというのも素晴らしいことだ。


 「イチャイチャすンのはメシ喰らッてからにしろ。ステーキが固くなるだろォが」


 アルテインの可愛さという悦に浸っていると、やけに攻撃性の高い言葉が飛んできた。


 言葉を発した主であろうオレウスは行儀悪く、片手のフォークで肉を突き刺し、ナイフで切ることもなく空中で食っている。山賊とか海賊のやりそうな食事作法と刺々しい言葉に威圧を感じ、オレは自分の食事に向き直った。


 「そう言えばオレウスさん、最初にジォスさんが言っていたボク達の入学の件なんですけど、どういうことですか?」


 もくもくと食事を続けると、もう食べ終わったアルテインが口を開いた。しかしオレウスの反応は芳しくなかった。

 

 ギロリと人数千人は殺してそうな目でアルテインを睨み返す。

 

 「丁寧語と敬語と謙譲語はやめろ張ッ倒すぞ」


 相変わらずの反応だった。


 オレウスはどうにも身内からある程度距離や上下関係を踏まえた話し方や発言を嫌う傾向があるらしい。オレウスの瞳は「ただ仲良くなりたい」という意味しか込められていないが、どうにも自然とそうなってしまうのだ。


 アルテインもそれを察したのか、いつもの口調に戻して再度質問する。


 「そう言えばオレウスさん、最初にジォスさんが言っていたボク達の入学の件だけど、どういうことなのかな?」


 「ちょッと変だが、まァいいか・・・」


 オレウスは少し変な顔をしたが、それ以上言及することなくアルテインの疑問に答える。


 「簡単な話だ。テメェら二人して駆け落ちでここに来たンだから、学校は中退だろォが。流石に理由が理由だからな。オレ様個人とクソイドが伝手を使ッて、テメェら二人をとある学校に編入させることにしたンだ」


 「裏口入学・・・」

 

 「それは危険度が高ェからしてねェ。丁度、先言ッたモンスターの襲撃事件で二人の生徒が死ンだわけだが、運が良いことにそこの学校の校長と理事長はオレ様の組織の人間だ。多少の融通は利いてくれたみてェでよォ、その空いた二人分の末席をテメェらで埋めてもいいッてな。だから全面的になァンにも、問題はねェンだよ」


 「運が良いって・・・」


 「大丈夫だ。後ろ盾はちゃァンとある。そこらの貴族よりもずゥッと性質悪ィ後ろ盾がなァ」


 「オレウス、そこじゃねーよ。運が良いってのは確かに言い方がよくねーけど、それ以外にお前らにちゃんとした修士課程を終えさせる方法がねーんだよ。これが一番安全、そーゆーことだ」


 「それは、ありがとうございます・・・? なのかな・・・?」


 アルテインは少し曇った表情で頷く。少し憚られるが、死者の何も冒涜していないので何に対して嫌悪感を抱けばいいのかわからない。気持ちが迷子だ。


 それでもちゃんと感謝を伝えられるアルテインはいい子過ぎるかもしれない。


 「それで、ボク達が学校に行く日はいつなのかな?」


 「明々後日」


 「え」


 それでも笑顔を保ったアルテインの表情が固まる。しかしオレウスは今なんと言ったのか。吐き出しかけたステーキをむりやり食道に流し込み、オレはオレウスのセリフを頭の中で反芻させる。


 「(今明々後日って聞こえた気が・・・。まさか、そんな早くからできるわけが、いやでもイドも絡んでるし時間を超越したような挙動するし、あながち否定するもんじゃない・・・。マジかよ)」


 「なんかルナの思考能力がどんどん鋭くなってることに喜びを隠しきれねーんだが、これが父性ってやつかねオレウス?」


 「オレ様に聞くンじゃねェ。・・・早い方がいいとは言ッたが、明々後日になるとは思わなンだ。普通もッと掛かるだろォが、手続きとかいろいろ面倒だろォ」


 オレウスとイドの会話を聞くに、イドがまた変な技を使って手続きすべてを完了させたらしい。半裸の変態だが、その実力はいまだ底を見せない。


 「ありがたいような、ありがたくないような・・・」


 「アルテインに激しく同感」


 「放置しとくと面倒臭ェ奴になるくせに、構ッても利益が出ねェとはこれ如何に」


 「あれ!? 俺がなんか厄介野郎の扱いを受けているッ!!?」


 三者三様。しかし持っていることの根源は全員同じだ。


 イドは終始納得のいかなさそうな、そんな顔をしていた。

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