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『最弱』の汚名は返上する。~不遇だなんて、言わせない~  作者: パタパタさん・改
第二章『ニーナ編』
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第二章24 『来た理由』

 オレ達が帰ると、豪邸には明かりがついていた。中に入ると聞きなれた声が響いていた。


 「たでーまー」


 「今帰りました」


 適当なオレの声とアルテインの丁寧な声が玄関に木霊する。声はぴたりと止み、右の廊下の奥から一人の人物が歩いて来た。


 肩までかかった白髪に憎悪と狂気を煮詰めた様な赤い瞳が印象的な華奢な男性、オレウスだ。


 過去にパーティアス民主国南部にある精神病院で課長を務めていた人であり、裏社会を知る人間でもある。


 今では戸籍上オレの父親というポジションで、オレとアルテインと共に生活する仲にある。


 「よォ、遅かッたじゃねェか。・・・さては治安維持隊に絡まれたな。それも話の通じないマジキチに」


 「なんで分かるんだ・・・!?」


 「そォいう顔してッからだ」


 一瞬にしてオレ達の災難を看破するオレウスは軽い溜息を落とし、オレの前に手を差し出した。


 「ン」


 「ん? ・・・・ほい」


 何の意図か分からず、オレウスの掌にオレの掌を乗せる。しかしオレウスの表情は変わらない。むしろこころなしか目元がぴくぴくしているように見える。オレは横に居るアルテインに問う。


 「オレ今なんかやばいことしたか?」


 「え? 掌を出したらその上に掌を乗せただけでしょ? 別に変じゃなくない?」


 「やっぱそうだよな」とオレが答えると、オレウスはドスの聞いた口調でオレに言う。


 「いやテメェ可愛いかよ張ッ倒すぞ。荷物持つッて意味だろォが」


 「あぁそういう。オレウス、なんか重いもの持てなさそうな感じだから、なんで手を差し出していたのか分からんかったわ。ありがとうございます」


 「あぁ、なるほど・・・。確かにこれではゼクサー君が犬・・・」


 「ディスられてンのか心配されてンのか分からねェな・・・」


 渋い顔をしながらオレウスはオレから買い物袋を持つとそのまま左の廊下を歩いていく。向かった先にあるのはおそらく台所だろう。


 オレウスはそのままついて来るオレ達には眼もくれずに左側の廊下を歩き、突き当りの部屋を開ける。


 そこには大きな厨房が、―――いや、割と普通の大きさの台所があった。


 「それにしてもでっか・・・!!」


 調理台の上には多種多様の調味料が揃えられており、壁には同じ数はあるだろう鍋やらフライパンやらが掛けられている。


 オレウスは見てくれにしては何故持てているのか不思議な買い物袋を台におき、中身を開封していき、顔をしかめる。


 「肉三キロ・・・・。正気の沙汰じゃねェだろ。十九歳の胃袋を何だと思ッてやがる」


 「お、じゃー俺が貰おっかなー」


 「「!!??」」


 突如、オレウスの肩にかぶさるように変態が一匹、誰も居なかったはずの空間から急に姿を現わした。何もいなかったのを確認していた、というよりも日常の一風景と認識していたオレとアルテインが二者同様に変態の出現に度肝を抜かれた。


 しかしオレウスは動じずに開封作業をしていく。


 「おい、オレウス今さっきルナ達が帰ってきた時部屋に鍵かけただろー! 「ちょッと待ッてろ」って言ってからそっと俺が居る部屋に鍵かけただろー!」


 「青少年の教育に悪いと思ッてなァ。後、肉はやらねェぞ。ゼクサー達がわざわざ買ッてきてくれたンだ。喰わねェのはよくねェ」


 「お前カロリーは燃やせばゼロカロリーとか言って消し炭生成するタイプだろー? ダメだ。俺が料理する。下処理の方法は分かってもそっから先を知らねーお前には荷が重い」


 「オイクソイド。いつからオレ様は料理できない設定が追加されやがッたァ?」


 「そう言いつつ、しっかりちゃっかり大量の塩を肉に振りかけよーとしているオレウスでしたー☆」


 「ちッ」


 黙々と動かしていた手を摑まれて見えたのは袋に入った塩だった。まさか一袋まるまる振りかけるつもりだったのかと思ったが、本人が料理できると言っているのだからそんなはずはない。しかしイドに手首を摑まれて不機嫌になったのか舌打ちをして反応するオレウスの瞳は図星の様相が見て取れた。


 イドはそのままオレウスを横に押しやり、塩袋を奪いとる。


 「いーか? 塩は肉の重量の1%だ。袋まるまる使う馬鹿は肉じゃなくて塩を喰ってるよーなもんだからなー。糖尿病で死ぬぞー」


 さらさらっとまるで宮廷料理人のような華麗な下ごしらえに驚く一同。どうやらイドはただの変態じゃなかったようだ。非常に遺憾である。


 「鶏肉とかそのあたりは塩振って水気を拭きとるってのが普通だけど牛肉だからな。白い筋の部分は焼くと縮むからある程度切っていく。今回は不注意で牡蠣の生焼けに当たった経験からレアがトラウマになっているオレウスの為にウェルダンにするぜ」


 「ウェルダン・・・? レア・・・?」


 「焼き加減の話だ。レアは中赤い奴、ウェルダンはしっかり焼く奴。ちなみに牡蠣は生食用と加熱用で全然違うから、加熱用を生焼けで食ったらオレウスみてーなことになる」


 アルテインの疑問に答え、イドがオレウスを指さす。果たして「オレウスみてーな」とはオレウスががりっがりの体形をしている事か、もしくは普通にオレウスのトラウマの事を言っているのか謎である。


 そのまま流れ作業の如く、イドはフライパンに油を敷いて肉を置き、火を着ける。クミンやらニンニクやらローリエを入れて蓋をする。


 暇になったイドが時間つぶしに口を開いた。


 「すげーよな。パーティアスは普通に電気属性能力者から電気を抽出して町の電力を賄ってるけど、ダンケルタンは違う。古代文明の技術を使ってるんだよ」


 「古代文明の技術? アンドロイド以外でもあるのか」


 「そーそー、戦乱時代のダンケルタンの兵器は大体古代文明の殲滅兵器が主だし、こーやって夜でも明かりが着いたりコンロに火が灯ったりするのは古代文明の超科学のおかげなんだぜ」


 曰く、ダンケルタンは古代文明の遺跡にあった特殊な機器によって、空気中に存在する属性粒子を取り入れてエネルギーに変換する技術を手に入れたとのこと。そのエネルギーを流す管を地中に設置して一戸建ての家でも証明が付いたりコンロが使えるようになっているらしい。


 「まー、ソーラーパネルとか原子発電よりかは安全性高ーってのは強みだよなー。でもちまちまとしかエネルギー生成できねーから沢山設置して常時稼働して無きゃならんってのが弱みだよな、な?」


 「オレ様に尋ねンじゃねェッ!! 確かにダンケルタン出身だがンな技術オレ様がここに居た時はなかッたぞ。・・・・兵器は飽きる程見てきたが、エネルギー生成とかは知らねェ」


 「しゃーねーな。まー、オレウスの時代のダンケルタンの兵器はあれだからな。周囲の有機物を吸収分解して自己修復できるからな。エネルギーの心配とかなかったんだ。オレウスが知らねーのも無理はねーってことよな」


 やれやれとイドは肩をすくめ、フライパンの蓋を開ける。溢れたのは焼肉特有のあの香りだ。人生で焼けた肉を食べたこと自体があまりないが、オレウスが奢ってくれたチキンバーガーとはまた違った、食欲を刺激する臭いがオレの鼻腔をくすぐる。


 「良い匂い・・・」


 「クソイドのくせに料理が上手ェのが玉に瑕かァ」


 アルテインが頬を染めて鼻をならし、オレウスは首に手を当ててこきりと首を鳴らす。対してイドは買い物袋から取り出したバターを切り取り裏返した牛肉一つ一つに置いていく。


 「ワインばしゃー! 蓋ポーン!」


 そして何を血迷ったのか何処からともなくワインを取り出し、フライパンに注いだ。熱した鉄に水を掛けた様な音が一瞬聞こえたが、すぐさま蓋をされて外界との空気を遮断された。


 「なんでワイン入れたんだ?」


 「香りづけ。と、肉を柔らかくするって意味合いがある。後微弱な肉特有の臭さを消す効果もある」


 「ほへぇ。美味いのかな」


 「また今度アルテインにでも作ってもらえ。美味しさが段違いだぞ。アルテインの真心が詰まったステーキとか、俺みてーな暑苦しい漢が作るよりずっと格上だぞ」


 「はっはっは」と高笑いをするイドの言葉に急に顔を赤くするアルテイン。顔を俯かせてもその赤さは耳までしっかりと到達しており、可愛さは数倍に上がっている。


 「こンな光景見てると、こいつホントに男なのかと疑問になるな」


 「それをオレウスが言うとはな。傍から見れば華奢な女の子に見えるってのに、不思議なもんだよ」


 「よォしクソイド。今ここでテメェを第四のステーキにしてやろォか?」


 「なにそれこわい」


 馬鹿げて見せるイドにオレウスが息を吐く。見てくれの性別にかなりのトラウマがあるようだが、怒りようもすぐに収まった。イドの本気とも遊びとも取れないような話し方のせいかもしれない。


 そんなことを考えながら、蒸気から漂う肉の焼ける香りに舌鼓を打っていると、ふとアルテインがイドに口を開いた。


 「そう言えば、なんでジォスさんは此処に来たんですか?」


 その疑問の意図。それは何故ジォスが此処に居るのか?という侮蔑的な意味ではない。オレウスとの会話等も含めてどんな理由で此処に来たのか?だ。


 「それは――」とオレウスが説明しようとしたところで、イドがオレウスの口を塞ぐ。


 「俺が説明するぜ。ま、そんな過激なニュースじゃねーから安心してくれて構わねー」


 「じゃぁその安心安全なニュースとやらはなんだ?」


 正直イドがこういうタイミングで言う事はぶっ飛んでいることが多い。しかし本人が安心安全だと言っているこの状況。身構えるような報せではないと信じたい。


 そっと台所から騒々しさが消される。沈黙の中、誰しもがイドの口から出る言葉に集中している。


 一人は何を言うか分かったもんじゃないと言う目。二人は安心安全に一切の保証がない事による疑念の目だ。

 

 口が開かれる。ふっと出す息を確認した瞬間、身が強張る。


 そして―――、



 「お前達二人の入学の話と、最近出ているモンスターによる暴徒事件についてだよ」


 

 安心安全と危なっかしい話。その両方が出てきた。


 「良いニュースと悪いニュース、混ぜりゃ相殺されてなんて事のない日常のニュースになるんだぜ?」


 ニカッと笑うイドを思い切りぶん殴りたくなった。


 

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