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『最弱』の汚名は返上する。~不遇だなんて、言わせない~  作者: パタパタさん・改
第二章『ニーナ編』
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第二章23 『アンドロイド』

 「え・・・・」


 「えっ・・・」


 「・・・。確かに急に「お姉ちゃん」はハードルが高いか・・・? なら「ネェネェ」とか「姉貴」とかどうよ! あ、「姉御」でもいいんだよ!?」


 「そういう問題ではなく!!?」


 「急にゼクサー君に近づいて、なんなんですか貴方は!?」


 完全に宇宙猫だったが、目の前のアンドロイドのインパクトしかない台詞に会心の一撃を入れられて目を覚ます。アルテインも「おめめドコー?」状態だったが、なにやら危機感を覚えたようでオレとアンドロイドの間に割って入る。


 一見可愛くても初対面でいきなり「お姉ちゃんって呼んで」は怖い。初対面でなくとも怖い。アルテインんに言われようものなら尊死する。


 第三者に割り込まれたのが癪に障ったのか、アンドロイドはこれ見よがしに激昂する。


 「あなたこそゼクサーのなんなのですか? 部外者は口を挟まないで貰えませんか?」


 「ボクはゼクサー君の恋人だ! ゼクサー君に関係あることはボクにも関係することだ!」


 「え」


 今度固まったのはアンドロイドの方だった。可愛らしい顔が文字通りにピクリと眉一つ動かさずに止まった。そしてその視線だけを動かして、ゆっくりとアルテインの全身を見る。


 次の瞬間、驚いたような顔をしたアンドロイドがアルテインの肩を摑んで揺さぶり始めた。


 「なるほど! 君がゼクサーの言っていたアルテインちゃんか! はぁはぁ、これはこれは・・・、まぁゼクサーの選んだ子だし? 姉としてここは二人の結婚を認めるべきだねぇ!!」


 「みゃみゃみゃみゃみゃみゃみゃッ!!?」


 ゆっさゆっさと揺らされるアルテインの呂律が回らなくなる。状況把握能力が追い付いていないようだ。アンドロイドから敵意が消え、何故か親近感を感じたので手を出さずにその光景を見守っていると、アンドロイドはそのままアルテインを揺さぶりまくり、最後は思い切り胸に顔をうずめさせた。


 解放されたアルテインは完全に眼がぐるぐる状態。展開が謎過ぎて混乱していると見える。そのままオレにアルテインを渡したアンドロイドはアルテインを抱いている腕とは違う、もう片方のオレの腕を摑んで距離を詰める。頬が紅い。金色の瞳がこちらをジッと見ている。


 「私はニーナ。メンタルクリニックで働いているアンドロイドお姉ちゃんよ。一応、恋する乙女やってて、片思い先は仕事先の先輩であるアルバルト先生。あ、先生は人間だからね! 困ったことがあればいつでも聞きにきてね!! なんなら今でもいいよ! さぁ、ゼクサーの疑問を話してごらん!」


 「・・・・はぁ」


 オレとしてはアンドロイドはここまではっちゃけたようなのだとは思っておらず、それが驚きであることこの上ない。無論、オレに「お姉ちゃん」呼びさせる心理は全く分からんし謎だ。疑問しかないまである。


 しかし「さぁ!」と両手を広げて待っているアンドロイド、もといニーナに何も疑問を聞かないのは憚られたため、オレが一番気になっていることを聞くことにした。


 「なんでオレに「お姉ちゃん」って呼ばせたいんだ?」


 「その質問は却下です」


 「えぇ・・・・」


 「さぁさ! 疑問は無いのかいゼクサー! 一つも聞いてくれないのはお姉ちゃん寂しいぞ~!」


 「・・・・・・」


 却下された。というか、無かったことにされた。


 「うぇぇ」とニーナを見ると、ニーナは「早く早く」とニコニコしている。怖い。怖いよこの人。


 オレは再度、うんうんと唸り、新たな疑問を浮かべた。


 「なんで治安維持隊の奴らはアンドロイドを見た瞬間逃げたんだ? オレが「令状か捜索差押許可状出せ」っつっても効かなかったぞ」


 「それは私達アンドロイドは全員映像記録があるからだよ。『棺桶』って機械にそういう機能がある。それで、異常を感知したら、その映像記録を治安管理局に送って通報することも可能なの。後、アンドロイドは凄い高いから。アンドロイド新法で、どんな状況であろうと所有者以外でアンドロイドを傷つけた者に、アンドロイドを修復するための責任義務が発生するって定められてる。だから治安維持隊も関わりたくないんだよ」


 「ほーん。理解した。・・・・治安管理局ってなんだ? オレ、治安維持隊しか知らねぇんだけど」


 「治安維持隊は国が活動を認めた国の治安を守る市民団体。治安管理局は国主導の元動いている治安を守る団体だよ。権力は管理局の方がずっと上だから人数が少ないことを除けば信頼に足る治安維持団体だよ」


 「(即答とかどんだけ構ってほしいんだよこの人・・・)」


 オレの聞いた質問は全て一瞬の間もなく、綺麗に解答され、オレは口をつぐまされる。


 しかし足りないのかニーナはまだまだニコニコと笑顔を浮かべてオレの前に立っている。背丈はオレが少し高いのだが、どうにも恐怖かニーナの方が高く見えてしまう。笑顔が怖いというのも相当だが、オレはニーナの顔を直視しないように目を逸らしながら苦し紛れに新しい疑問を加える。


 「・・・じゃぁ聞くけど、なんでオレの姉なの? 見た目オレより年齢低いだろ」


 「まっ! 十五歳ですよ! ゼクサーは十四でしょ! だからお姉ちゃんなのです! 何も間違ってないし、おかしくなんてないんですよ! 後、背丈と歳に関する事を女性に聞いちゃいけません!」


 「一歳年上!」と豪語するニーナを見て更に慄く。オレは一度もニーナ相手に自身の年齢を言った覚えはない。なんならアルテインの名前とかオレの名前とか教えた覚えは全くない。読心術でも身に着けているのか、最近のアンドロイドは人の心でも見れるのか、アルテインみたいな芸当が他にも出来るというのが恐ろしくてならない。この世界の人間は個人情報の管理とかがばがばなのではなかろうか。こんなプライバシーの侵害が公共化してるってのも一周回って珍しい。


 ぷぅ、と頬を膨らませてご立腹のニーナを見ながらオレはそっと息を吐く。なんとも面倒くさいのが身内になろうとしているのが恐ろしい。しかし本人にオレ達を害する意志が無いのが殊更謎である。


 「なぁ、そろそろ良いか? 肉が腐るし、ニーナさんもここでオレ達に構う必要はねぇだろ。やることあるだろあんた」


 「まぁ! 姉に向かって「あんた」とは! あと、「さん」付けは違和感だから「お姉ちゃん」か「ニーナ」呼びにしなさい。違和感がないから」


 「こっちは違和感盛りだくさんなんだよ」


 まったくもってオレ達を解放する気のないニーナに頭を悩ませていると、ふと人通りの少ない道に足音が響いた。上等な靴特有のコツコツという音が街路に木霊する。


 オレは腕に抱いている混乱状態のアルテインを起こしていたためか、その足音を通行人か何かだと思っていたが、ニーナはその足音が響いた瞬間に勢いよく音源へと首を向ける。


 「アルバルト先生!!」


 そう叫んだ瞬間、オレと混乱状態だったアルテインが目を覚まして声が向けられた主へと視線を移す。


 夕焼けをバックに白衣のその男は一瞬びっくりしたような表情をすると、分かりやすく溜息を吐いた。


 「ニーナ・・・。こんなところに居たのか。探したよ何処に行ったのか・・・、はぁ」


 根暗と言っても差し支えないような長く黒い前髪。陰に隠れて見えにくいが、黒い瞳が見え隠れする。


 「アルバルト先生」と、そう呼ばれた男はニーナとオレ達を交互に見やり、これまた深いため息を吐き、オレ達に向かって頭を下げる。


 「すまない。僕の管理が甘かったせいで、うちのアンドロイドが迷惑をかけたようだ・・・」


 「あ、いえ。むしろ治安維持隊に絡まれていたところを助けていただいたので、別に迷惑とかではありませんよ!」


 慌てて否定したのはアルテインだ。ニーナによって治安維持隊を退散させたのは事実だ。そこに迷惑なんてありゃしない。そこだけは。


 アルテインのニーナの擁護の意見を聞き、アルバルトは「そうか」とだけ呟く。そしてそっと視線をオレに向ける。


 「なんとなく、ニーナと君の間が不思議だ。もしかしてニーナの生前のご家族か友人か何かかな?」

 

 「や、全然初対面でs」


 「私の弟です!」


 「なるほど初対面だったか。いやいや、不思議と家族間のような親和性の高い雰囲気だったからそういう特別な間柄だと・・・。つくづくニーナには変な能力があるようだ」


 「ちょ! アルバルト先生!? 変な能力って何ですか変な能力って!! 後私の発言無視したでしょ! 弟だって言ってるでしょーが!」


 「仮に姉だったとしても、姉の前であんな古代文明を初めて見たチンパンジーのような顔をする弟があってたまるか。完全に「なんだコイツ」って目をしていたのが分からなかったのか?」


 オレの返答が遮られ、ニーナが意見をごり押してきた。しかしアルバルト先生はニーナの扱いに至っては上級者なのか、あっさりとオレの言う事を信じてくれた。しかし例えがディスっている気がしなくもない。


 ニーナの絶えない弁明を聞き流しながらアルバルトが前髪を掻いて目をオレ達に向ける。


 「すまない。ニーナは不思議なアンドロイドでね・・・。引き留めて悪かった。買い物の帰りなんだろう? ニーナは僕が落ち着かせておくから今の内に、ね」

 

 「は、はぁ・・・」


 「では早く帰りましょうゼクサー君。流石に他の女性と一緒のゼクサー君を見たくありません」


 ぷんすかと機嫌の悪いアルテインに苦笑しながらオレは買い物袋を持ち直す。


 そのまま羽交い絞めにあっているニーナを横目にアルバルトに頭を下げた。


 「すいませんね。では、また会えたら」


 「出会いはあれですけど、今度会う時はニーナさん抜きでお願いします」

 

 「あぁ、じゃぁね。―――と、ゼクサー君、だっけ?」


 そのまま小走りに言えに直行するオレをアルバルトの声が引き留めた。振り返ると、アルバルトは脱出を試みようとするニーナの腕を抑えながら言った。


 「君、疲れすぎだよ。見ていて辛くなる。何かあったら僕の病院を訪ねてくれ。話くらいなら聞くよ」


 「――――? それってどういう・・・」


 「じゃぁ、太陽の御加護のあらんことを! ほら、ニーナも嫌われたくなかったらここらへんで身を引きなさい」


 そう告げたアルバルトはオレの疑問を残したまま、ニーナの腕を引きずり背を向けて歩き出していった。


 「つかれすぎ、ねぇ・・・。どういうこっちゃ」


 胸の中に残った疑問を聞こうと悩んだが、オレは前方で此方の様子を窺うアルテインを見て疑問をしまう。


 またいつか会えたら、言葉の真意を聞こうと、そう思いながらアルテインの方へと歩を進めた。



※「太陽の御加護のあらんことを!」は「あなた(方)に良い未来がありますように!」という意味である。ダンケルタンには元々太陽信仰があった。「太陽=未来」のような意味を持っている。ダンケルタンの人が別れる際にこの言葉を言うのはその宗教の名残である。

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