表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『最弱』の汚名は返上する。~不遇だなんて、言わせない~  作者: パタパタさん・改
第二章『ニーナ編』
113/178

第二章22 『鶏と年上の卵』

 オレは今、非常に困っている出来事が二つある。


 まず一つ、買い物をし過ぎた。


 肉と調味料と野菜、そして果物となんかよく分からない土人形の置物。オレは大丈夫だ。これくらいなら全然食べられる。アルテインも強化の過程において大量の薬や肉、毒草や薬草を食べさせられてきたのも有り、腹に入るらしい。しかしガリヒョロのもやしみたいなオレウスの腹に果たして入るのかが疑問である。


 全体的に華奢な印象を受けるオレウスはある意味アルテインと同じで女の子に見えてしまう。そんな食べ物にがっつく印象のないオレウは一キロの肉を平らげることが可能なのだろうか。どうしても見た瞬間にお腹いっぱいになるオレウスが想像できてしまう。


 ――まぁ、これは些細な出来事だ。


 こちらが本題のもう一つ。


 現在日が暮れかけている夕方。市場と家が近いのもあってしっかりゆっくりと買い物をしていたオレ達はものの見事に巡回していた治安維持隊に絡まれた。


 オレウスの言っていた通りふらっと現れて前後を囲み「怪しい」だの「家出カップルか?」と因縁を着け、奴らは買い物袋の中身は何かと聞いてきた。ついでに名前と住所、あと何故かアルテインのみスリーサイズを聞かれていた。


 勿論そんなものに答える義務などなく、オレは例の「令状か捜索差押許可状でもあるんですか?」と問い返した。クソなこの状況から解放されるかと思っていた。でも現実は違った。


 「なんの令状? 捜索差押なんたらか状って何? ぼくらは治安維持隊だよ? 治安維持のために、今から君らを尋問する。治安維持隊のぼくらの眼は誤魔化せない。悪いことをしている奴らは顔に出るんだ。そこになんの間違いもないのさ」


 「令状とか許可状がないと動けないなんて古い考え方だ。公式な証書を作って、初めて動くんじゃない。自分が腹立った奴をすぐに捕まえて、尋問して、悪かったことを反省させる。業務の効率化って奴だよ。分からないの?」


 「正義の力を振るって何が悪いのか・・・。本当に悪い奴は法律には引っかからない。今の時代は人の眼から見た”悪”が悪者なんだ。悪者には正義の鉄槌が必要なんだよ」


 話が通じない。ホンモノのマジキチ治安維持隊だったのだ。


 服は白を基調とした紳士服で、右腕には緑色の腕章がはめ込まれている。きっちり着こなせばそれなりにフツメンでもイケメンに見えるかもだが、マジキチは違った。


 ボタンを掛け間違っていたり、そもそもボタンをせず、肩を出した状態か、羽織っている状態だった。しかも若干ズボンもズレているし、妙に鉛筆の芯のような臭いが鼻を突く。三人全員がマジキチだった。


 変なのに絡まれたなと思う今日この頃。こいつらが治安維持隊じゃなかったら間違いなく吊し上げていたと思う。


 「(下手すりゃパーティアスの警察騎士よりもヤベェんじゃねぇか? 目の前の奴なんてポッケに手を入れることもなく、堂々と膨れ上がった下腹部握ってるし、こえぇよ・・・)」


 アルテインの前に立っているから目の前の変態をアルテインが見ることはないが、少なくとも一早くこいつらをどうにかしなければいけない。アルテインの純潔の解放は自らが自覚する事であって、誰かが強制する事ではない。うっかり見てしまうなんて世界が許してもオレが許さん。


 「治安維持隊が治安崩してどうする・・・。あぁ? 主観でしか物事を語れない幼稚園児共が。さっさと去れよ。後ろの二人連れてさっさとオレの視界から消えろ。関わるな」


 買い物袋をその場に置き、オレは目の前の変態マジキチに中指をぶっ立てる。マジキチに打ち勝つにはマジキチ以上のDQN思考だ。常識知らずには非常識と昔から相場は決まっている。オレの態度に目の前の男が眼を見開く。だがすぐに憤怒の表情に変わった。


 「おい! お前、ぼく達治安維持隊を敵に回したらどうなるか分かってるんだろうな!? 家を調べ上げて、自殺に追い込んでやる! 無論、親族全員処刑だ!! そしてお前は此処で再起不能にする! 目の前で彼女が無惨に犯される姿を脳みそに焼き付けるんだなぁッ!!!」


 「じゃぁオレはお前ら全員を全裸にして、尿道に針入れてズルルゥ――!って抜いてやるよ。どうだ? 顔真っ赤にするってことはその気があるってことだろ? なんだ早く見せろよ男らしくないな。・・・しゃーない。オレが下ろしてやるからそこに居ろよ」


 ふぅ、とため息を吐き、オレは目の前で憤慨する男にずんずんと近づく。オレが如何に本気なのかを目撃した目の前の変態は、「ヒェ!」と息を詰まらせる。今さっきの憤怒の表情が青白くなっていた。


 「ち、近寄るな変態! それ以上近づいたら公務執行妨害と暴行の容疑で逮捕するぞ!!」


 「おいおい照れるなよ。嫌がってるけど、実はそういう状況に萌えるって奴だろ。オレは知ってるんだぞ。ってか、暴行の容疑って、オレがどんな暴行をするって想像したんだ? おいおい、オレがどんなスッゴイ”モノ”でお前達の無垢な奥地にバッチンバッチンと暴行するんだって、なぁ???」


 「二度は無いぞ! 正義の法律が火を噴くぞ!?」


 「火ぃ噴くのはお前達の顔だろ? いいだろ。別に減るもんじゃねぇし。お前丁度オレを誘って来ただろ、その魔剣で。オレも丁度イロイロ溜まってたし、合意だろ? オレ、多分お前らの奥地を見たら最後、巨大化する聖剣で魔剣ごと魔界への入り口を封印しちまうぜぇ? ふへへ・・・」


 じりじりと近づくオレと、にじにじと後退する治安維持隊。オレは今相当ヤベェ顔をしているのだろう。アルテインには見せられないような、今にも男を喰いまくる野蛮人のような顔を・・・。


 アルテインの後ろにいる治安維持隊の二人は何が起きてるのやらと不思議そうな顔をしている。だが、何を勘違いしたのか、腰に付けていた鞘から剣を抜き取りオレを威嚇してきた。いったいオレが”ナニ”を出したと言うのか・・・?


 「お前が最近噂になっている露出狂だな!? こんなところで、ぼくら治安維持隊の目の前で曝け出すなんてどうかしている!! 処してやるから覚悟しろ!」

 

 これにはアルテインもオレがヤバい状況だと理解したのか、オレの背中合わせで両手を広げて治安維持隊の行く手を阻む。


 「ゼクサー君まだ何もしてないじゃん! ここの人たちは聖剣とか魔剣とか伝説とか英雄譚の話をした人を斬るような蛮族なの!?」


 「どけ! メスガキ!! こっちは治安維持庁消されて上層部が殺気立ってんだッ! そいつを晒し首にしねぇと立つ瀬がねぇ!!」


 「ぼくらの正義の執行を邪魔するとは同罪だ! 女子だからって容赦はしない!」


 アルテインが純粋であるがゆえのに理解力の弊害が浮き出ていた。しかし実際オレは無罪だし、卑猥なことは一言も言っていないししていない。あっちが勝手に勘違いしてキレているだけなので完全に冤罪、というかオレが一方的に脅されているという状況なので、アルテインの怒りは真っ当なものだ。


 「(しかしアルテインが男だとは気づかないもんなのよな・・・。彼女ってか彼氏だし。まぁ、オレもアルテインを「嫁」って言ってるから女でも問題はないか? いや、あるか)」


 「それ以上ボク達に近づいたら全員叩き潰すよ! 無罪の人を裁くのは見逃せられないし、それが大好きな人ならなおさらだ!」


 真後ろから鬼気が溢れる。属性の力が全身から湧き出ているような、それだけでアルテインの怒り様が分かる。目を見なくとも分かる。空気が一層張りつめた様な、煌々と光のような怒りが空気を伝ってオレに伝播する。


 後戻りはできなくなってしまった。というか、こいつらが事をややこしくしているので、最初から後戻りはできなかったのだろう。


 オレはそっと自身の掌をスライドさせて股間、――その横、腰に携えてある一振りの斧の柄を触れる。動き出せば問答無用に一撃を繰り出す構えだ。


 「―――無理なら、ちょっとやる必要があるかな? なぁに、身動きを取れない身体にして君の奥地をチャックするのさ」


 オレが滴るような声で囁くように言った瞬間、目の前の治安維持隊は一気に顔色を白くし、震える手で帯剣していた剣を引き抜いた。


 「ぼくは、ガチホモは!! 嫌いなんだよぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 そしてそのまま問答無用に斬りかかってくる。どうやら女は好きだが、男に好かれるのは嫌なタイプだったようだ。見事にオレの表っ面だけのアプローチに狂気を感じた治安維持隊はオレの正当防衛に見事にからめとられたと言う事だ。


 オレはそっと「よし!」と心の中で思い、迫り来る男の剣撃に斧の照準を合わせる。


 空気を切り、怒濤の勢いで混乱状態の男がまっすぐにオレに向かって、


 向かって――――、


 

 「それ以上の過剰な手出しは違法行為と認識して治安管理局に通報しますよ!」



 オレの眼前に迫り来る真剣。それに丁度合わせた斧が当たろうと言うところで声が響いた。


 止まる空気。オレとアルテインは声の主を見た。


 桃色の髪に黄色の瞳。全体的にまだ幼く、オレより少し高いかと思われる背丈と年齢。白い医師服で全体像は分からないが、明らかに痩せ型でさぞかし異性からモテそうな見てくれをしている。


 アルテインの前に居た治安維持隊の二人が怪訝な表情をすると、その子は頭の横を少し押す。すると、明らかに眼の色が変わった。黄色から黒。そこに光る青色が円となって何重にも重なる。それがどういうことなのか、オレ達にはちんぷんかんぷんだったが、治安維持隊は舌打ちをした。


 「チッ、アンドロイドか・・・。間が悪い・・・」


 「アイツらのせいでぼくらの正義は悪いように記録されるからな・・・。管理局を呼ばれたら面倒くさいぞ・・・」


 「私は万能型心理的医療福祉専用アンドロイドです。精神障害にて暴れた患者を制圧できるように対人殺傷用制圧用殲滅用戦闘技術をプログラミングされています。治安維持隊の粗暴がこれ以上続くのであればどんな理由であれ、即刻参戦し、制圧します。直ちに武装を解除し、違法な職務行為をやめなさい」


 「アンドロイド」と聞いてオレとアルテインはハッとなる。思い出したのは馬車の中オレウスが教鞭を取った時の授業内容だった。アンドロイドは元々は人間。そこに機械とか魂みたいなものを入れて色々加工を施したのがアンドロイドとなるのだ。


 それが今、目の前に立っている。


 初めて実物を見たためか、オレもアルテインも恍惚な表情をしていた。だが治安維持隊の方はそうでもないようで、むしろ焦った表情で剣を鞘にしまうと「次はない!」とかの捨て台詞も吐かずにその場を足早に去って行った。


 見事なまでの逃げっぷりにオレとアルテインは呆気に取られてその光景を見ていた。


 住宅街の奥へと消えて行った治安維持隊を見送り、オレは視線をアンドロイドへと戻す。不思議と何か初対面にしては変な感覚を感じた。


 ――まるで、食品店に売っている卵を産んだ鶏が見ているような、そこに不思議な親和性を持っているような、そんな感覚だ。


 オレがぼけっと突っ立っている様に見えたのか、そのアンドロイドは少し恥ずかしそうに頬を染めて聞いてきた。


 「・・・・急にすみません。ここら辺を同じ白衣を着た男の人がうろうろしてたと思うのですが、見ませんでしたか?」


 「? いや、見てねぇな・・・」

 

 「探しているんですか?」


 「そうです。仕事先の先生なんですが・・・。あと、それと・・・」


 「「それと?」」


 オレとアルテインの問いに、アンドロイドはずずい!とオレに顔を近づけて言った。


 「私を「お姉ちゃん」と呼んでくれませんか?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ