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『最弱』の汚名は返上する。~不遇だなんて、言わせない~  作者: パタパタさん・改
第二章『ニーナ編』
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第二章21 『お買い物デート』

 「――ここだな」


 オレ達二人を連れたオレウスがやって来たのは首都郊外の豪邸だった。煉瓦の壁に鉄製の門、隙間からは家庭菜園顔負けの自然と、その奥からは白い外装のデカい四角の集合体のような家が見える。アルテインの元家と比べれば小さいが、少なくともオレの元家よりは数倍でかかった。


 オレウスは案内の地図をしまうとその鉄製の門の横に設置されている小さい扉を開けると、「ついてこい」と言って中に入って行った。


 オレとアルテインは言われるがままオレウスの後を追って中へと入る。


 荒れ狂ったような、なんの整備もされていない雑木林を抜けながら、オレは何の躊躇もなく樹海みたいな敷地を歩くオレウスに尋ねた。


 「ここってどこなんだ? 勝手に入って良いのか?」


 「あァ、ここ一帯はオレ様の所属する組織の土地だ。入ッても問題は特にと言ッてねェよ。『業皇』には事前に許可貰ッてるしなァ」


 「・・・よく許可したな『業皇』は。こんな豪邸貸してもらえるなんて・・・」


 「貸されてねェよ。貰ッたンだ」


 「え!? 貰ったんですか!?」


 オレより先にアルテインが驚愕の声を上げた。気持ちは分かる。どういう心情なら組織に何の利益も与えられないオレやアルテインに国籍、パスポート、家を与えられるのかと。後で闇金みたいなのに狙われるのではと戦々恐々とするが、オレウスは「気にすンな」とため息を吐く。


 「ここは元々、オレ様と『業皇』の家だッたンだ。土地を決めたのは『業皇』。金出して土地買ッて金出して家を作ッたのがオレ様だ。名義は『業皇』だッたがァ、組織が大きくなりすぎて一か所に居座り続けるのは危険ッてことで海外に拠点を移したンだ。そン時も名義は『業皇』だッたがァ、オレ様が戻るッつッたら名義変えてくれてよォ・・・」


 「それ貰ったっていうか、返されたって言い方が正しいんじゃ・・・」


 「まァ、そォだな。オレ様としてはどッちでも構わねェが」


 「その話を聞いてるとここに居るのってかなり危険じゃね?」


 「その心配はねェ。オレ様の家だッたことに変わりはねェが、建ッて一度も使ッてなかッたからな。目立ちすぎるし、普通に生活すンなら公園か路地裏、廃工場で十分だッたしよォ。多分組織内でもオレ様の家知ッてる奴もォいないンじゃねェかな?」


 「悲し過ぎない!?」


 俺の心境をアルテインが代わりに喋ってくれた。多分ご近所からは庭の整備のなっていないふしぎな豪邸という印象だろう。人の住んでる気配がないのに他の住宅よりも明らかに大きさが違う。老人ホームをまるまる一個家にしたようなデカさだ。


 樹海を進んで行くと玄関らしき場所に到着した。白一色と清潔感があるが、周囲の庭の混雑模様のせいで清潔感を感じれない。


 ドアは現代チックと言うか、かなり厚い色つきのガラスがはめ込まれており、それを囲うように長方形の鉄板が敷き詰められている。


 「いィから入ンぞ」


 「あっはい」


 鍵を刺し、くるりと回すとカチャッと反応がある。数年は放置されていたであろう家にしてはきしむ音は一切しない。日当たりが良いのかかび臭い事もない。少し乾いた木造の香りと、セメントで作られた重量感のあるしっとりとした空気が肌に触れた。


 床は赤いカーペットで彩られ、目の前には二階に上がる階段が二手に分かれて掛けられており、その真ん中を妙にデカいドラゴンっぽい像が陣取っている。


 「ここがオレ様、もといお前らの家となる場所だ」


 玄関を越え、オレ達に振り返りオレウスがニヤっとした笑みで此方を見た。日差しと家の暗がりで顔の怖さが際立っていた。額縁に入れて飾れるレベル。


 なんとなく家に入る時点で察していたが、本当に子の豪邸が自分の家になるのかと思うと少し現実感が薄れる。


 しかしオレが感激に浸っている暇はないようで、オレウスはふところから更に紙封筒を取り出してアルテインに渡した。


 「とりあえずオレ様は家の掃除をやる。お前らは外の店で買い物行ッてなンか買ッてこい。海鮮類は信用ならねェから海の幸は買ッてくるンじゃねェぞ」


 「外の店ってどこにあるんだ?」


 「ここら辺だッたら、家を出て左行ッて、突き当りを左に直進したら業務市がある。あそこはダンケルタンの内部紛争時も元気にやッてたから今でもやッてるはずだ。”お買い物デート”ッて奴だ。行

ッてこい」


 「みゃぁっ!!?」


 しげしげと封筒を見ていたアルテインの顔が、オレウスの「お買い物デート」という単語だけで赤くなった。耳まで真っ赤。漫画の主人公はこういう時「熱でもあるのかい?」とか意味分からんことを言うが、オレはアルテインの手を摑む。


 「じゃぁ行こうぜアルテイン。じっくりまったりとデートしようぜ!」


 「うにゅぅ・・・・。ゼクサー君がそう言うなら、ボクは良いよ」


 「お前らさッさと帰れよ。変に帰りが遅くなると治安維持隊に絡まれる」


 「なんすかそれ」


 「パーティアスで言う警察騎士だ。オレ様がお前らの国籍作るために戻ッてきて東奔西走してたら絡まれた。中身は単なる職質だが、捕まると三時間愚痴られ身体を触られ謝罪を求められる。謝罪しなかッたら公務執行妨害で逮捕される。オレ様はその場で二人を行動不能にしたら命乞いされたが」


 「うわ何それきついな」


 「それって国が認めないでしょ?」


 オレとアルテインが二者二様に顔をしかめると、オレウスは首に手を当ててコキリと鳴らす。


 「議会も問題視してるし、当代国王も竿を握られたことあるから嫌悪してる。まァまァのクソだが重大事件を解決したり犯罪組織を吊し上げにしてるから国も国で手を出せねェ。そんな感じだ。ま、あいつらに絡まれたら「令状か捜索差押許可状出せ」ッつッたら良いぞ。大半のイキリはこれでなンとかなる」

 

 「その言い方だと過去に通じなかッた輩が居るみたいな・・・」


 「マジキチは通じねェぞ。「顔が犯罪者。触らせろ。謝罪しろ」ッてな。そォいう奴からは全力で逃げろ。捕まッたらとりまぶッ殺しとけ。過去に治安維持隊に無理矢理されたとか玉取られたとか、調べりゃ沢山出てくる。そォいうのはゴキブリと同じ。潰してなンぼだ」


 「「流石に殺すのはちょっと・・・」」


 「流石に全員が全員それな訳ねェからな。まァ、さッさと帰ッてこいよ」


 そう言い残し、オレウスは「掃除道具どこしまッたッけ?」と家の中、奥へ奥へと消えていった。


 残されたオレはアルテインに顔を向ける。


 「・・・じゃぁ、行くか」


 「―――、うん」


 アルテインと手を繋いでオレとアルテインは玄関を出る。


 どうやら中々、デートと言うのも難しいもんだと思った。



 A A A


 

 割と業務市というのはすぐに見つかった。巨大な空き地に巨大なテントを立てた様な、店と言うには市場と言う印象だ。市場であることに変わりはないが。


 市場と言えば主婦が沢山いると言う印象があったが、全然男もいるし、カップルとか新婚さんらしき人たちもいる。


 がやがやと騒がしい中、オレとアルテインはガラスケースに入った様々な食材を見る。値札が書かれた食材は新鮮さを醸し出すように水滴が付いているのもあるが、残念なことに単位が『ゴント』以外分からない。


 封筒の中に入っているお金はこの国で使える紙幣のようだが、どこにも数字らしい数字は載っておらず、変なオッサンの肖像画が描かれたものばかり。その枚数ざっと十枚。


 ダンケルタンとパーティアスの言語は大部分が似通っていると言う事に現を抜かし過ぎてしまった、その弊害とも言えるだろう。


 これにはアルテインも渋い顔をしている。


 「渋い顔しててもアルテインは可愛いね」


 「にゃっ!? 急に可愛いとか言わないでよ! 今集中して頭の中で情報整理してるんだからっ!」


 「お、おう、すまねぇ・・・」


 落ち着くためにアルテインの頭を撫でると、それに反応したアルテインが頬を真っ赤に染め、嬉しいのかと思った直後怒りが飛んできた。


 慌てて手を引っ込めると、アルテインは再び渋い顔をして「う~ん、う~ん」と唸り始める。


 しかしそんな腹痛のような声も十秒程度で収まった。


 はっと顔を上げると、ぱたぱたとオレの手首をつかんで市場の奥へと進む。そして奥の方、熟成肉を売っているおっちゃんに話しかけた。


 「おじちゃんのところ、今日は一キロで何ゴント?」


 「今日は二千ゴントだよ。何キロ要るんだい?」


 「とりあえず三キロ。お代はこれで」


 ――と、アルテインが封筒の中に入っていた変な御札一枚を取り出しておっちゃんに渡す。


 「一万ゴントだから、・・・五千ゴントか」


 「違うよおじちゃん、四千ゴントでしょ」


 「わざと間違えたんだよ。こんな可愛らしい女の子と好青年のカップルの買い物なんて青春、値下げしとかねぇと罰が当たるってもんだぜ。ほれ、四千ゴントのおつりだよ。――若人君、しっかり支えてあげな」


 返された紙幣を受け取り、アルテインは「ありがとう!」と盛大な作り笑顔を見せる。オレも「支えますよ」とオレなりのキメ顔を作った。


 おっちゃんから渡された肉の入った袋を片手に持ち、オレとアルテインは一礼してその場を去る。


 鼻歌を歌いながら素の笑顔を見せるアルテインを追いかけながらオレはアルテインに聞いた。


 「よく紙幣の使い方とか分かったな?」


 疑問視したのは変なオッサンの書かれた紙幣。そのお金がどれほどの価値なのか、それを同じくして分かっていなかったアルテインが急に買い物を終わらせたからだ。


 アルテインは「えへへ」と頬を染めて詳細を語った。


 「ボクね、耳がとても良いんだ。障害物とか無かったらとても遠いところの音も聞こえる。で、ちょっと集中して聞いてみたらね、あったんだよ。ヒントが」


 「ヒント?」


 「今さっきのお肉屋さん。そこに子供が母親連れてお使いに来てたみたいなんだ。そこで一部始終を言うとね」


 と、アルテインが聞いた子供のお使いの会話を再現した。


 「「お肉屋さん、お肉を三キロくださいっ!」、「はい、一キロ二千ゴントだから、六千ゴントだよ」、「この変なおじさんの絵とお兄さんの絵、どっちが一万ゴントだっけ、ママ・・・?」、「変なおじさんの絵の方よ。お兄さんは千ゴント。老けて税金を沢山食べるから一万ゴントなのよ。」、「・・・うん? 分かったー! お肉屋さん、一万ゴントで、おつりください!」って感じかな」


 「それで同じ買い物をしたという訳か・・・」


 「うん、すごいでしょ! 褒めてー!」


 笑顔でオレになでなでを求めてくるアルテイン。オレは右手が塞がりながらも左手でわっしゃわっしゃとアルテインの頭を撫でる。とても嬉しそうだ。顔がおやつ食ってるハムスターのようだ。


 精一杯なでなでしていると、ふとアルテインが我に返ったかのような、とても心配そうな顔をしだした。ちょっとこの世の終わりに片足突っ込んだような、「やっべぇ、どうしよ」みたいな表情をしている。


 「どうしたんだ?」


 サーッと、血の気が引いているアルテインに声を掛けると、アルテインはぼそっとオレの顔を見て零した。


 「オレウスさんってお肉入るかなぁ・・・。骨と皮くらいとても細いけど・・・」


 「それは言ってはいけない」


 

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