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『最弱』の汚名は返上する。~不遇だなんて、言わせない~  作者: パタパタさん・改
第二章『ニーナ編』
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第二章20 『入国』

 怪奇現象とは現代科学でも解決できない奇妙な現象の事を言う。霊的なものから、気象に関するもの、はたまた古代の科学技術と様々だ。


 そしてその怪奇現象たる現象が実際に起こると、例え原因が分かっていようと頭では理解できないのである。


 例えば、――そう。


 「お、壁が見えて来たぜ。そろそろお前ら準備しとけよ」


 馬車の窓を覗き込む変態が一人、意気揚々と他の車内メンバーに喚起する。


 長い旅が終わったような、そんな嬉しそうなノリな所あれだが、まだオレが馬車に乗って五時間経ったばかりである。


 本来パーティアス民主国からダンケルタンに行こうとすると一周間近くかかるのだ。最短ルートで行けば五日間で着くらしいが、それはかなり危険な道のりだ。安全に舗装され、装飾の大人しいモンスターが生息する地域を進むと軽く一周間は潰れる。


 それが、そんな道のりがまさかの五時間で終わりを迎えているのだ。


 異常だと言わざるを得ないだろう。


 そしてそんな現象を引き起こせるのは車内で一人しかいない。


 「クソイド、テメェ『座標飛ばし(ファストトラベル)』しやがッたな?」


 二人分の長椅子を占領し、横になっているオレウスが不機嫌極まりない眼でイドを見る。イドは「そーだぜ!」とグッと親指を突き出してきた。何もよくない。


 すかさず慌てた声で、上座に座る同業者が荷台越しにオレウスに聞いてきた。


 「オレウスさん! 急に周囲の景色が変わったんですがこれは・・・!?」


 「だいじょーぶ! ほんの六千㎞ちょっと飛ばしただけだ」


 「ジォスさんの所業ですか!? 勘弁してくださいよ。馬は走ることを生きがいにしているから周囲の変化なんて気にしてない感じですけど、僕は人ですよ!? そういうことするなら先に言ってくださいよッ!! 心の準備が出来ないじゃないですかぁ!」


 「え、でもお前、ネロにグ―パンしてたじゃねーか。心の準備とか今更だろ」


 「それとこれは話が別ですよ! あーもう、面倒くさい人だなまったく!」


 鉄製の壁だが怒声は車内にまでしっかりと聞こえてきた。おそらくこの同業者さんもイドには苦労しているのだろう。心中は察してもあまりある。その原因がイドであるならばなおさらだ。


 同業者さんは車内にしっかり聞こえる「はぁ・・・」を零し、また無言になる。オレウスはなにか複雑な思いがあったのか、妙に顔をしかめていた。目からは昔の黒歴史に対する羞恥とその時に感じた壮絶な怒りが見えていた。


 「(見た目すげぇ怖い能面って感じなのに、瞳を覗けばさらに怖さが増すのは何なのかね・・・?)」


 怖い。というか怖すぎる。オレウスのことだから黒歴史内容もきっとかなりアングラな方面だ。絶対他組織との抗争とか、内部戦争とかその方面だ。


 オレがまだ知らないオレウスの黒歴史に戦々恐々としていると、イドがキラキラした目でオレウスの肩をばしばしと叩いた。


 「おいオレウス! 見てみろよ城門近くの衛兵!」

 

 「いッてェなァオイ! 月落とすぞクソイドがァッ!!」


 途端に顔がどす黒くなり、瞳からは見るだけで人を殺せそうな殺意が溢れ始める。しかし手は出さず、イドの進めるがまま窓から衛兵の様子を見やるあたり、オレウスとイドの関係が長い事が伝わってくる。


 「全体的に殺気じみてンなァ・・・。クソイド、テメェが衛兵を冤罪で掘ッたのが原因だろォが。反省しろ」


 「なんでじゃ!? 俺はあいつらの引き締まった筋肉をほぐして開発してやったんだぞ! 人を露出狂扱いしておいて、脱糞でイケる身体にさせられたとか俺がもう聖人君子だろーが!」


 「おいそういう話をここでするな。アルテインが居るんだぞ」


 「「あ、すまね」」


 「?」


 少し話の内容が汚くなってきたのでオレが注意を促すと、今さっきとは打って変わったように二人が口をそろえて謝罪をする。そして当のアルテインは話の内容がよく分かっていなかったのか、可愛くこてりと首を傾けていた。かわええ・・・。

 

 「ゼクサー君、ジォス君達はいったい何の話をしてたの? うnもごっ!?」


 「アルテイン、まだその道は早い」


 一瞬、アルテインの口から出されてはならない言葉が出掛けたので慌てて掌で封をする。男の娘が「うんこ」だなんて尊厳破壊がすぎるのではなかろうか。


 そういうことは絶対に言わせてはならない。誰が何を言うか。大事なのは「誰が」である。爆弾発言を可愛い男の娘に言わせてはならない。


 オレは改めて、アルテインが求めない限りそういう世界を教えてはいけないと心に誓った。


 

 A A A


 

 城門入口に停車し、オレとアルテイン、オレウスは衝撃を受けた。


 夕方で日も落ち始めている中、天候が良いのは良い事だ。空気が橙色に染まっているが空には雲一つもない。晴天は素晴らしい事だが、城門の空気は悪かった。


 オレ達が乗っていた馬車が停車した辺りから一様に空気が殺気立った気がする。否、殺気立っているのだ。濃ゆい緑色の服装だが、どうにも落ち着きがないように感じる。


 それにだが、異様に数が多い。パーティアス民主国の入国では衛兵が五、六人だったにもかかわらず、ここの人数はざっと数えて十二人。うちの国の約二倍だ。そして全員が全員、オレ達を見た瞬間帯剣している剣の柄を触り始めた。目が黒霧がかっていて真意は分からないが、とても敏感な状態と見える。


 「機嫌、悪いね・・・?」


 「アルテインは下がっとけ。オレウスも居るし、あっちが手を出して来たら問答無用に叩き潰す」


 「その必要はねェよ。慌てンな。落ち着いてパスポートを出せ」


 少し顔を強張らせるアルテインの前に立ち、オレはそっと『雷撃』を撃ち出す用いへと入る。だが、更に前に出たオレウスが懐からパスポートを出す。


 そのまま入口近くに居る衛兵一人に声を掛ける。


 「オイ、帰国者だ。戦闘態勢になッてねェで帰国処理しろ。――ゼクサー、アルテイン、お前らもとッとと済ませンぞ」


 そう言って目の前にある鉄製の机にパスポートを叩きつけた。衛兵も間近でオレウスに凄まれたのが怖かったのか、「ひぃえあい!」と間抜けな返事をした。


 「さ、最近立て続けに事件が起きているので荷物の取り締まり等を強化しています。手持ちの荷物を全て出してくだしゃい!」


 オレウスの眼光に睨まれたのか、手荷物検査の衛兵が台詞を噛んだ。かなり焦っている様に見えるがオレウスの後に続き、オレとアルテインがそれぞれを手荷物を出していくと手早く、しかし真面目に不審物が紛れ込んでないか調べていく。


 一瞬懐にあったアルテインに関するドメヴァーの日記があったことを思い出し、出すか躊躇ったが一応出しておいた。アルテインはオレが日記帳を出したことには何の疑問も抱いていない様子。まさかそんなものがまだあるとは思ってないのだろう。


 その後軽い身体検査を受けて解放され、パスポートは無事に返還された。


 「特にと言って問題は見当たらないので、大丈夫です。今さっきはとんだ失礼を。最近は厄介な事件が相次いでいまして、国内が少しピリピリしてるんです」


 「事件だと? パーティアスは勇者の息子追放騒動云々で騒いでて危ねェから、安全なこッちに帰ッてきたッてのに、ここもなンかあンのか?」


 「えぇ・・・、まずは露出狂が現れ、衛兵全員の身体を変えさせられ、挙句その露出狂を刺激してしまったがために首都の時計塔が崩壊しました。その後、警戒態勢を取っていたのですが数日前に城門の衛兵全員が忽然と消えるという怪事件が、そこからどんどん学校やら酒場やら治安維持庁が建物ごと消えると言う事件が相次いでおり、犯人は未だ捕まっていない・・・。正直、国中が少し敏感になってるふしがありますんで・・・、すいません」


 「そォか・・・。まァ、パーティアスよりかはまだマシだなァ」


 「パーティアスですか・・・。確か勇者様の実子が追放されたとかで・・・」


 「そォだよ。その”『伝説の勇者』の息子”のせいで容姿が似てるオレ様のガキが夜襲を受けやがッてよォ、警察騎士団に相談したが、あいつら「似てるのが問題だと」とか相手にならねェ。学校じゃァいじめに遭うし、不良にも絡まれやすくなッた。「似てる」だけで命の危険があるからなァ、オレ様の故郷で暮らすのが良いッて思ッたンだよ」


 「それはそれは、大変な目に・・・」


 どこからそんな話が出てきたのか、嘘八百という訳でもないが話の半分以上は嘘だ。しかしオレはオレウスの「黙ッて話合わせろ」という瞳の意思を汲んだため何も言わなかった。アルテインはオレが手の平を握ると何かを察したようで、同じく言及しなかった。


 オレウスの嘘話に衛兵は顔を曇らせながらオレを憐れんだ。


 「ちなみにお父さんは一人で子育てを?」


 「いや、海外で働いてる妻が居る。息子のいじめから引ッ越しが急だッたからなァ。あいつの仕事がひと段落してある程度地位を確立したら合流するッて予定だ。日常的にはオレ様一人で子育てしてるが、別に苦じゃねェよ。息子達がクッソ有能だからな」


 「息子さらん、凄い良い人じゃないですか・・・」


 「いえ、オレもオr、――父さんには感謝してますよ。襲ってきた奴返り討ちにしてくれたり、馬車手配してここまで送ってくれたり。アルテインも」


 「はい。お父さんには不良を追い返してもらったこともあります!」


 オレとアルテインがオレウスを「父」と置いて賛美すると、衛兵は「良い親子やなぁ」と深い吐息を漏らす。なんか申し訳なくなってきたのは気のせいだろうか。


 衛兵はそっと頭を下げると手を突き出し、城門の奥を指した。


 「―――長く引き留めてすいません。どうぞ、貴方達親子に良い未来があることを願っています」


 深々と敬礼する衛兵にオレとアルテインが頭を下げた。オレウスは「あァ、あンがとな」とだけ言い残した。


 城門を出ると、夕日の光がまっすぐとオレ達を差していた。


 

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