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『最弱』の汚名は返上する。~不遇だなんて、言わせない~  作者: パタパタさん・改
第二章『ニーナ編』
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第二章19 『デートの約束』

 「あーい、通っていいですよー」


 「それでは、失礼しますね」


 衛兵の声と馬車の上座に座る人の声が聞こえ、馬車が再び動き始める。


 オレは窓からこっそりと、衛兵が見えなくなるのを確認してからゆっくりと息を吐いた。


 「あぁ~、出ちまったな。まさか正門から堂々と”外”に行けるなんて思ってなかった」


 「だから大丈夫だって言っただろーが。通行証見せて、パスポート見せれば出入りは可能なんだよ。衛兵もいちいち貴族専用の馬車の中なんて見ようともしねーだろ。海外のお偉いさんの懐潜ろーなんて、誰も思わんだろ。それと同じだ」


 「それもそうか・・・」


 本来ならばパーティアス民主国の”外”に国民が出ることは違法だ。国から依頼を受けた冒険者や調査団、もしくは海外の旅行客の帰宅等は例外として認められているがしかし、それ以外は出入りが禁止されている。理由は単純明快。いくらイズモとカグヤが”外”の凶悪モンスターをぶっ倒したからと言って、”外”が危険なことに変わりはない。プロの冒険者でも死ぬ可能性のある場所なのだ。


 今では他国を繋ぐ街路を舗装し、周辺の木々や凶悪モンスターを軒並み殲滅し、比較的平穏になった方だが、それでも真夜中の”外”での活動はかなり危険だとされている。無論、駐屯地も至る所に設置されており、旅行客はその駐屯地に泊まりながらパーティアス民主国に来るのだ。


 そして今現在、オレを含める一行を乗せる馬車は海外の貴族御用達しの馬車らしい。窓ガラスも少々特殊らしく、外からの光を遮る効果を持っているようで、外から中はほとんど覗けない。それに衛兵と言えど一般的な人がわざわざ貴族の載る馬車の中を見ようとは思わないだろうという、視覚的な牽制の意味を含む黒塗りに金色の縁取りという外観だ。


 正直オレもこういう色が牽制になるというのは、現実の衛兵の反応を見るまでは信じていなかった。


 「(確かに深い赤色とかはちょっとお金持ちっぽいイメージあるけど、近寄りづらいかと言えばそうでもないような・・・。でも実際、衛兵は窓を覗きこまなかったし、パスポート見ただけだし・・・。中々人と言うのは不思議だ)」


 自分もその人間の内一人だと言うことは忘れてはならない。


 「多分ルナが普通の人より色彩感覚に影響されにk、鈍感なんじゃねーかなって思うんだよな」

 

 「おい、何で今言い直した」


 「ゼクサーの長所であり、短所でもあるからだ。長所だがァ、それを妄信すると痛い目を見る。そォいう意味で鈍感ッてことだろォな」


 「おお、俺が馬鹿にする目的で言ったことを意味ありげに・・・」


 「おまッ!? マジかよ。ふざけンじゃねェぞクソイドォッ!! オレ様が一人恥ずかしい奴に見えるじゃねェかッ!!」


 「良い事を言った!」と自慢げなオレウスの顔が憤怒に染まりかえる。恥ずかしさを一気に通り越したらしい。真っ赤になるというよりは殺気と狂気が入り混じったような、黒い顔だ。


 ミシミシと車内の空気が音を立て始めたのでオレが「まぁまぁ」と宥めると、オレウスはチッと舌打ちをしてそっぽ向いた。しかしすぐに顔を戻すと、持ってきたバッグから紙袋詰めにされたあるものを取り出した。


 取り出し口を見てみればなんだか、色のついた布らしきものが入っているのが見えた。


 「なんすか、それ? 服みたいな・・・」


 「むしろ服以外の何があンだ?」


 「服なのか・・・」


 オレウスが紙袋の中身を取り出すと、丁度上と下の二組の服が折りたたまれた状態で顔を出した。


 「ダンケルタンで一昔前に流行ッた一般の服だな。オヴドール学園の制服は色ンな意味で有名だからそれ着とけ」

 

 「ありがと。でもサイズ合うかなぁ・・・」


 「大丈夫だ! 俺がきちんと二人分のあらゆるサイズを測定して選んだからなー!」


 「はぁっ!? いつ測定しやがった変態!!」


 オレは自分の肩を抱いて涼し気なイドに怒鳴る。多分耳先まで顔が真っ赤になっていた。しかしイドはなんてことない顔で、なんてことのないような返事をする。


 「やー、見りゃ分かるだろそれくらい。ちなみにだが、アルテインよりもルナの方が大きくてな。あれでノーマルモードとか、NTR系薄い本に出てくる間男がキレるレベルだわ。まー、俺より小せーからまだ全然パンツとズボンで隠せるけどなー!」


 「ノーマルモードと”えぬてぃーあーる”系薄い本がなにかは知らんが、少なくともお前今履いてねぇってことは十二分に分かったぞこの変態」


 「おい! まるで俺が履いてねーみてーな言―方じゃねーか! 自然体なだけなんだよ! ヴィーナスが美の化身で俺が変態とはどーいう事だ! どっちもちゃんと下は隠してるぞ!!」


 「そォ言うテメェはわざわざ「またおっきくなったよ♡」とか言いながら、食事中のオレ様に「ウィンナー☆」とか言ッて見せてくるだろォが・・・。あれのどこが美の化身だ。オレ様の視界に映ッてたのはそンな神々しいモンじゃなかッたぞオイィ・・・・?」


 「やだ♡ あなた見てたの? 俺の盛り立った、鞘から抜かれし一振りの聖剣の剣s」


 「テメェの自制心の効かねェ荒ぶッたブツを切り取ってこんがりと先端から焼いてやろォかァッ!!!??」


 ダゴンッ!!!!

 

 と、オレウスの怒声と共に車内全体が大きく揺れる。それがオレウスの拳がイドを壁に吹っ飛ばした音だと分かるまで三秒程かかった。


 鉄拳制裁で打ち抜かれたイドは「最後まで言わせろよー」とか怪我のない元気な顔で言ってのけた。これにはオレウスも一発で終わらないかと踏んでいたが、オレウスは溜息をひとつついて拳を下ろす。


 「いいの?」


 「あンな頭の軽ィ奴にいちいちキレてたらこッちの身がもたねェ。一発に全怒りを込めて放つのが良ィンだよ」


 「人を殴ってる時点でよくない気が・・・」


 「それは殴られた奴に人権があッたらの話だろォが。クソイドをぶン殴るのと、モンスターを殺す。そこにどれほどの違いがあるッてンだ?」


 「「そもそも人間扱いされてなかったのか・・・」」


 オレとアルテインの声が被った瞬間だった。顔を赤くすることもない。ただただ、ぶっ飛ばされたイドにどういう目を向けるべきか、改めて考えさせられた時だった。そんな思考時間も空しく、イドはぶっ飛ばされても平然と立ち上がりオレウスの横に座り直していた。


 「(ホント、どういう精神性をしてるんだろうな・・・・)」


 「一般男性の平均的な精神性だぜ?」


 「お前が言うな」


 心を平然と読んでくるイドはさておきと、オレは机に出された服を手に取る。新品の服特有の香りが鼻を突いた。


 生地は黒で金色の猛虎の刺繍が組み込んであり、全体的に高級感が漂っている。アルテインのも同じで、ズボンは同じ黒一色。


 アルテインも自身の服を見て目をきらきら、さらにオレのを見比べて目がキラキラした。


 「すごい! ゼクサー君と同じ服だ! お揃いだよ。これ着てで、で、でで、でーと、とか、してみたいなー、なんて・・・ね」


 嬉しそうだったのが、どんどんしりすぼみに声が小さくなっていく。耳は真っ赤。頬も真っ赤。銀髪のショートカットの男の娘が恥ずかしがる姿は可愛いなと思いつつ、オレは了承の意思を示した。


 「いいぜ。真面なデートしてねぇし、ダンケルタン着いて、ある程度生活できるようになったらデートしようぜ!」


 「ふぁっ!? い、良いの!? ありがとう、ございましゅ・・・」


 丁寧語。そして噛んだ。もう可愛すぎるのではなかろうか。否、可愛い過ぎる。尊いを越えて”好き”である。


 ぎゅっと胸に服を抱くアルテインを見て無意識に頬がたるんだ気がする。そんなオレをオレウスは見て、一言漏らした。


 「青春だなァ・・・」


 ニヤァ、と不敵な笑みを浮かべるオレウスがどこかオレをうらやんでいる様にも聞こえた。


 

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