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『最弱』の汚名は返上する。~不遇だなんて、言わせない~  作者: パタパタさん・改
第二章『ニーナ編』
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第二章16 『計画通りと予想外』

 曰く付きの山。


 ――かつて、そう呼ばれた山がある。


 昼夜問わずに異形の声が響き渡り、半永久に山の中から出られず、夜には山一面の空気が悪くなる。そして異形が”悪意”と共に侵入者を追いかけてくる。さらには神の位を冠した悪霊が人を誑かし、一生晴れない霧とトラウマを与えてくる。割とこの山に入って行方不明者になる人と言うのはこれらが原因だとオレは考える。


 しかし今ではそんな声も聞こえはしない。


 オレが”悪意の翼”を『平面の集中力(レーダー)』に接続することによって、『平面の集中力(レーダー)』が感知する山を含んだ全ての”悪意”を吸収したのだ。


 今やただの何処にでもあるような山の中、オレは山を越え、特徴的なキノコ型の家にたどり着いた。


 コンクリート製だが、どこか温かさを感じるおじいちゃんの家。庭園に入るとそこにはまごうことなき天使が麗しい肩を露出された服を着てジョウロで花に水を掛けていた。白銀の髪の毛に横眼からでも分かる白い肌、そして一筋の光が見える混沌とした瞳を持っているのが見える。


 「ん?」


 オレが声を掛けようと彼に近づく。すると彼の方が先にこちらに首を向ける。


 驚き、そしてすぐに瞳一杯に嬉しさがこみあげていくのが分かる。そしてその感情のまま、彼はオレに特攻を噛ますが如く、オレに飛びついてきた。


 「ゼクサー君!!」


 「わっぷ!? あぁ、アルテイン・・・」


 見た目に反して人間らしい重さのある彼の抱擁を受けとめ、少し肺が圧縮され息が詰まる。しかし彼の心配に答える為にもオレは彼を抱き返す。


 そしてその輝きに満ちた顔を覗き込んで、オレは笑顔を作った。


 「ただいま、アルテイン」


 朝日が昇り、アルテインの笑顔がより輝いて見えた。


 

 A A A


 

 「おかえり、息子よ。試練はどうじゃったかの?」


 「やっぱ嵌めたな爺ちゃん」


 居間に通されたオレは爺ちゃんのニタリ顔を見ながら天井を仰ぐ。裏鬼門が不吉だと知った瞬間、なんとなくオレはおじいちゃんに弄ばれているのではないかと考えていたが、まさかそのまさかだった。


 おじいちゃんは「嵌めた覚えはない」と前置きし、人差し指を立てる。


 「言ったじゃろ? 「お祈りした後に”試練”が始まる」とな。裏鬼門のある方向を歩かせたのは間違いなくワシに責があるじゃろうが、息子よ。家に帰ってから試練があるとは言っておらんぞ」


 「大人げねぇな爺ちゃん・・・」


 「しかし、息子は試練を突破したじゃろ。その証拠に山全体にかかってあった穢れやら悪意やらが丸ごと取り除かれておる。どんな手を使ったかは知らんが、息子の”悪意の翼”とやらを制御するに至っているのは明白じゃ。祈りが効いたかのぉ?」


 「かっかっか」と笑うおじいちゃんだったが、祈りが効いたかと言えばそれは分からない。オレは仕方ないと肩を落とす。おじいちゃんを責めても意味がないし、個人的には責めたくはない。それはそれとして聞いておきたいことがある。


 「爺ちゃん、なんでオレを裏鬼門の方向でお使いに行かせたんだ?」


 「そりゃぁ、悪霊共に喧嘩を売る為さ。裏鬼門は霊の通る道でもある。自分の敷地を勝手に歩かれたら霊だって腹が立つじゃろ? それで息子が襲われやすくして、それに反応した息子の力を出させやすくなるって魂胆なのよ」


 飄々と答えるが、実際は結構死線をくぐってきたようにも思う。


 「(”悪意”に呑まれかけた時、アルテインの声が無かったらと思うとオレかなりやばい道通ってたんじゃねぇかな?)」


 悪霊の使う呪詛であるトラウマの呼び起こしにオレが引っかかった時、大会の時同様にドス黒い”悪意の翼”が生えた。そしてそのままオレの意識が残酷なものへと乗っ取られそうになった瞬間、悪霊となった人の記憶の一部始終とアルテインの声が聞こえたのだ。


 原理は不明。そうでありながら空耳にしては現実味を帯びていた。一番の問題ははっきりと聞こえたのにも関わらずアルテインの姿を認識できなかったことにある。


 「(過去にあった出来事を再現する走馬灯の一種みてぇなものだと思っていたが、今まででアルテインにあんな声掛けをされた覚えはねぇから結局謎のままだったんだ・・・)」


 救いの声。そう呼ぶにふさわしい怒声だった。それがオレが”悪意”の中で自我を目覚めさせるきっかけとなったのは確かだが、その正体は未だ分からず仕舞いだ。


 むしろその正体不明の激励がないとヤバいくらいにはヤバい状況だったのだ。


 そんな状況を脱したからこそ、今オレがここにいる訳だが、おじいちゃんは本当に碌なことをしない。


 「”子育てに竜は子を火山の中に入れる”って感じじゃねぇか。ぶっちゃけオレがオレでなくなるところだったぞ」


 「ワシだって別に英才教育したいわけじゃないんじゃぜ? ただ、なんとなく「あ、これはちょっと息子には頑張ってもらわねぇと」って感じ取っただけじゃぜ?」


 「爺ちゃん、頭に仙人でも入ってんじゃねぇの? その洞察力でオレが力を制御出来たって考えると色々納得するし、恐くなるわ!」


 「いくら長年ワシの勘が当たって来た歴史があるからと言っても流石にちょっと心配になったからの! いくら半端な怨霊を退ける力を持っていても、隣の山の”アレ”は息子にはキツイんじゃねぇかなぁ?って」


 「あぁ、そうだよ爺ちゃん! 話と違うぞ!!」


 おじいちゃんの非道っぷりに戦慄していたが、オレはふと気が付いた。

 

 おじいちゃん曰く、山の悪霊や悪い神様は暴行を加えて更生させたと。悪霊が居るのはこの際仕方がないとしても、悪い神様が居るのは納得がいかないのだ。


 まさかおじいちゃんの悪い神様を更生させたと言うのは嘘か、とおじいちゃんに詰め寄ると、おじいちゃんは言い難い顔をした。


 「すまねぇってばよ。言ったじゃろ? 最近土砂崩れが起きたって。”あいつ”は山に封じられていたんじゃ。つまりは山が一種の御札みたいな役割を持っていたんじゃよ」


 「あぁそれ、なんか記憶であったな。すんげー理不尽な理由で封印されてたけど、それで山に封印されたからなんだって?」

 

 「簡単に言えば土砂崩れは傷じゃ。お札に傷が付けば、それはお札としての効力を失う。山の場合、地形が変わることが封印を解くきっかけになったんじゃ。それがつい最近でな。ワシが行けば一発粉砕できるが悪霊になった理由が割と悲惨でのぉ。なんかに使えんかと考えている時に丁度息子が嫁さん連れて帰省してきたんじゃ」


 「ま、成仏できたようでなにより!」と高笑いをするおじいちゃんを尻目にオレは少し頭を傾かせる。


 「爺ちゃん、あの女性の悪霊の事知ってたのか? ”鬼”って呼ばれて迫害されていたってこととか色々・・・」


 「あぁ、数年前に息子がお祈りに行った神社で”トンネルの事”とついでに聞いたんじゃよ。三つ目を理由に迫害されて最後は生き埋めじゃ。そりゃぁ人が憎くて仕方がなかったじゃろう。いくら後に祀られて神様になったとしても、やりきれんじゃろうて」


 「そうか・・・。やっぱり成仏出来て良かったって感じだな・・・」


 「そうじゃな。息子のおかげであいつは成仏できたんじゃ。どういう手を使ったかは定かじゃねぇが、それは確実に人一人を救っていることと同じじゃて。ワシの代わりに何とかしてくれた事にゃぁ感謝しかねぇ。――――ありがとな」


 堂々と、その場で拳を床に突いて頭を下げるおじいちゃんをオレは慌てて止める。


 「良いって、爺ちゃん。もうその言葉は”あいつ”から貰ったんだよ」


 「―――ほう、意思疎通ができたのか。霊感も霊力もない息子が霊相手に意思疎通するとは、相手が成仏寸前だったのかもなぁ。悪霊だった奴に感謝されるなんて、それだけ息子が強硬手段にでていなかったってことじゃな。やっぱワシの息子はどこでも神じゃな!!」


 「位の高い神様兼可愛い弟分みたいな扱いだったよ正直。悪霊を構成する”悪意”って要素を山全体から吸い上げただけだ。強硬手段ってか、あいつの記憶を辿ったら強硬手段にゃ出られねぇ」


 十数年間迫害され、生き埋めにされて悪霊になり、それでもなお迫害され続けてきた彼女の記憶。その一端を見てしまえば、「ぶっ飛ばす」という選択肢が頭の中から消えるのは明白だった。


 取った選択肢は暴力ではなく、原因の排除。言わば、彼女を変えた”悪意”を取り除くことだ。


 「(迫害されて生きてきた。――そんな奴をましてや”このオレ”がもっと大きな”悪意”でねじ伏せられる訳がねぇんだからな・・・)」


 そういうところでオレは彼女と少し似ていると思う。しかし、その後ろで抱えた業はオレなんかよりもずっと深いのだ。


 「まぁ、ずっと燻ってる訳には行かねぇよ。また会う約束しちまったしな。次会う時は悪霊でも三つ目でもねぇんだから、オレだってしっかりと割り切っておかねぇと笑われちまう」


 しかしずっとそのことを気にし続ける訳にも行かないと、オレは話を区切り立ち上がる。数時間一緒にいなかったせいで身体がアルテインを求めてうずいているのだ。


 おじいちゃんも「そうじゃな」と大きく頷き、老人とは思えぬ程綺麗に立ち上がる。


 「ま、これで試練は終了じゃ。せいぜい二、三日は帰らんかと思っていたが、想定外の結果で驚いた! 後の三日間は好きなように過ごすがいいさ。ワシはちょっと一日家を外すから、山を出ない限りは何をしてもかまわんぞ」


 「え、爺ちゃん何しに行くんだ? 買い物?」


 爺ちゃんの庭には畑があるし、肉はジビエ肉を使う。それに調味料も雑草やらを使うから山を出る理由は特にと言ってない。時々「俗世が気になる」とか仙人みたいな事言って山を下ることがあるが、流石に日をまたぐ買い物は聞いた事がない。


 オレが問うと、おじいちゃんは拳をオレに突き出した。


 「決まっておる! あのクソイズモを沖に沈めにいくんじゃよ!」


 ニカッと笑うおじいちゃんに恐怖と安心感を覚えた、変な瞬間だった。


 

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