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『最弱』の汚名は返上する。~不遇だなんて、言わせない~  作者: パタパタさん・改
第二章『ニーナ編』
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第二章14 『声』

 夢を、―――見ていた。


 夢なのか、現実なのか、それがよく分からないような、夢だ。


 目の前には一人の少女が居た。おかっぱの黒髪に碧眼の、二つの右目と一つの左目がある女の子だ。


 その周囲にはオレが恐れた”目”があった。


 ――「嗚呼、いったい私が何をしたと言うの!? こんな忌み子を産むなんて・・・!!」


 ――「きっと神がお怒りになったのだ。この忌み子を他の人間と一緒にしてはならん! 呪われてしまうぞ!」


 ――「一人である程度の事が出来始めたら山奥の家屋にでも閉じ込めるんだ。そして次の災害の日に殺せ。それが神の御意思だ」


 ――「忌み子だ。きっと普遍的な殺し方では神の御意思に適わないだろう」


 ――「生きたまま埋めるのが良いんじゃないか? 井戸の中に入れて土をかぶせれば、俗世の殺し方ではない方法だろう?」


 場面が暗転し、再び別の角度から”目”が口を開く。


 ――「”鬼”め。家屋から離れるなと言っているが、周辺で野菜を作り始めた」


 ――「その周辺で作物を収穫しないように。瘴気がばら撒かれるからな」


 ――「この前子供があの家屋の中に居る”鬼”を見たっていうのよ。何日間も水浴びをしていなくって、服も汚れている。臭いったらありゃしないわ!」


 ――「変な顔に三つの眼。おかしいったらありゃしない!!」

 

 ――「聞いてよ母ちゃん! 俺、あの”鬼”に石をぶつけてやったんだぜ!! 俺に会った時すげぇ喜んでたけど、石当てたら泣き出してよ!! すっげー面白かったぞ!」


 場面が暗転する。今度は少女の頭が見え、その頭に対して声が降り注いできた。

 

 ――「三つ目があるとしても、同じく人の腹から出てきたんだ。流石にこの扱いはひでぇってばよ」


 ――「村の皆はおかしくなっちまった。あれやこれやを「神の御意思」とか言って、あの子には何の罪もねぇってのに・・・」


 ――「災害の日が予言されて村長は儀式の準備をし始めてる。村から逃がすなら今日明後日しかないぞ」


 ――「この村に居ても彼女には何の利益にもならない。居るか居ないかも分からない神の為に生き埋めにするよりも、山から出した方が数倍マシだ」


 ――「さぁ、君。私達と一緒に逃げよう!」


 気づけば女の子は縛られていた。白い布服の上から容赦なく麻縄で縛られており、今度は地面から口が開く。黒い人影がその少女の周囲を囲っていた。


 ――「逃げたかと思ったぞ。村人が数人消えたのと同時にお前も居なくなったからな。神への貢ぎ物が逃げたと慌てておったところじゃ」


 ――「家屋の周辺ならまだしも、散歩で下山とはな・・・。村人が消えたのは神の御意思か、そんなところだろう」


 ――「村長、占いによりますと神は捧げものが早く欲しいと言っているそうですが、”鬼”の処分はどうしましょうか・・・」


 ――「定刻通りに行うぞ。これは神と相対する魔神の仕業だ。神の御意思に従う我々を過ちへと導こうとしているのだ」


 ――「今後は散歩させないように、家屋の全てを木版で塞ぎ、外との交流を絶たせます」


 ――「それがいい。儀式前日になって散歩とは神に顔向けできんからな」


 そして次の瞬間、場面が全体的に暗くなる。黒い波にでも取り込まれたかのように光すら届かない場所で、少女は一人息を詰めながら呟いた。


 ――「みんなと・・・、村のみんなと一緒に暮らしたかったのに・・・」


 ――「どうして、どうしてあの人たちは私を村から追い出そうとしたの? 私が何をしたの?」


 ――「なんで私には親がいないの? だから嫌われてるの?」


 ――「私は毎日笑顔でいた。泣き顔は見せないようにした。他の人たちが村から逃げたけど、他の人たちには内緒にした。ご飯も自分で捕まえた。それなのに、なんで私は嫌われてるの? ”鬼”じゃないのに、恐くなんてないのに・・・」


 ――「こんなにみんなに好きになって貰えるように頑張ったのに・・・。みんなして私を嫌うんだ。なら、みんな、―――死んじゃえ。一生嫌いなもの見続けて、苦しんで死ねばいい」


 少女は憎しみを口にし、そのまますぐに動かなくなった。過度な食事の偏りと人的交流のないストレスによる衰弱死だ。しかしその怨念は千年単位の年月で浄化されることはなく――、


 次の瞬間、顔の見えない神父らしい姿をした人間の呪文の縄によって、その少女は地に伏せられていた。


 ――「すまないが、君はこの山に封印される定めがある」


 ――「私が何をしたと言うんだ!! 皆が見てくれないのが悪いんだろうがぁぁぁッ!!」


 ――「数千年前から存在すると言われている三つ目の鬼とは聞いていたが、ここまで強いのは久々だ。悪霊と言えど、君の要求は理不尽だ。封印されて少し頭を冷やすがいい」


 ――「呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪う呪うううううううううううううううううううううう!!!!」


 ――「君が身勝手な理由で呪い殺した村民、その全てを悔やみながら山の中で自分自身を呪うが良い」


 ――「あぁぁぁ!! 落ちる! 落ちる! 許さない! 絶対に、ゆるさなぁぁぁぁぁぁぁああああああああああぃぃぃぃいいいいいいいッッッ!!!」


 断末魔と言うよりは絶叫。数千年の月を憎しみに当て、最後は似つかわしくない”自業自得”の言葉と共に、山の中に光と共に吸い込まれていった。


 場面の経過を見るに、少女は愛を欲して悪霊になったのだろう。自分の住む村人に愛されたかったのだろう。しかし彼女は生まれながらにして奇形児であった。だから医療知識が充実していなかった当時の世の眼は「バケモノ」という認識だったのだ。


 迫害を受け、与えられることのない感情を、彼女は「いつか」、「自分がもっと努力すれば」”与えられる”と思っていた。否、信じていたのだ。だからこそ、自分がどれほど頑張っても得られない苦しみ、周囲の無理解、不寛容が少女の憎悪を助長させ、爆発させたのだ。


 「理解すればよかったのか」、「愛を与えればよかったのか」という話ではない。悪霊は、――少女は迫害をして、家屋に閉じ込めて、神の偶像を妄信する”自分が生まれた村の人達”に愛してほしかったのだ。好きになってもらいたかったのだ。


 しかしそれは叶わぬ夢だった。だから、夢だったのかもしれない。


 村は過疎化が進み、人は離れて行き、誰もが彼女を忘れた。子供に約束を守らせる強制力のある脅し文句に使われていたのかもしれないが、少なくとも”愛される”とは無縁であることに変わりはない。むしろ大人からはただの空想、子供にとっては恐怖の対象だった。


 こうして彼女は悪霊となった。ほんの一つの承認欲求が得られない。それが彼女の魂の中でくすぶり、”悪意”となって牙を剥いたのだ。


 オレが何故これを見ているのか、その理由が少し分かる気がした。


 ――「同じ悲しみの持ち主だと思ってたのに裏切りやがてぇッ!!」


 何もない暗闇の空間からオレに向かって罵声が振りかかる。


 そして直後に、オレの声が響いた。


 ――「あぁ、呪ってやるよクソ野郎」


 

 A A A 



 「―――ッ!!」


 意識が覚醒した。大海原の中、沈んでいた自我の息が詰まり、勢いよく水面に顔を出した。完全覚醒し、そしてすぐに大量の”悪意”が脳の中を蔓延る感覚が生まれた。


 体中の血管という血管の中を蟲が這いずり回るような不快感が押し寄せ、呑まれそうになる。


 混然とする意識と”悪意”の世界で、オレはただ目の前の悪霊の神に対して複雑な感情を抱いていた。しかし身体は排除する方針なのか、無理やりにオレに纏わりつく黒いオーラを悪霊にぶつけ、吹っ飛ばしている。


 弄んで、嬲って、遊んで、醜く勝ち捨ててやると、残酷な考えが頭の中を渦巻いていた。


 止めようとするも、身体は言う事を聞かず、オレの意識すらも別の意志が身体にあるかのように主導権を奪われようとしている。


 ダメだ!!


 幾ら心の中で叫んでも”悪意”は止まらない。大会の時の台詞の一文字一文字が耳元で再現される感覚がある。その度に、オレの中の憎悪は火を噴き、鼓動が激しくなる。


 止めたいのに止まらない。


 今さっきまで憤怒と化していた悪霊も、オレの”悪意の翼”には手も足も出ないのか、防戦一方だ。どれだけ防御をしても、その防御を貫通させる翼が彼女を穿ち、空に叩きつけ、地面に落とす。


 「がぁあぁぁああああああぁぁぁあああああ!!!!!」


 ドンッッッ!!!!!!


 悪霊の絶叫が森を揺らし、その上を新しい衝撃が埋め尽くす。


 このままでは悪霊を追い払うことはできる。しかし、オレも意識が乗っ取られそうだ。オレの意識が乗っ取られたならば、何をしでかすか分からない。大会のようにうまく”悪意の翼”が消えてくれるとは考えにくい。


 下手をすれば、―――――。


 最悪の想像を仕掛け、オレは無理やりにでも身体を止めようとする。


 しかし身体は相変わらずの凶気を孕んだまま微動だにしない。むしろオレの意識が止めようとする以上に侵食してくる”悪意”が強くなっている。


 「今さっきまでの態度を呪いたくなるような地獄を作る」、「さも自分だけ悲しいとかいう特別思考を屈辱を与えながら握りつぶす」、「悪意を剥ぎ取って抵抗させないように甚振る」と、残酷さを助長する考えがただただ、オレの中で存在を声高々に主張する。


 まるで蔓のように、じくじくと膿がオレの思考回路を上塗りしていく。


 あ――――。


 意識の強さと言う問題ではない。圧倒的に、優先度が違い過ぎたのだ。


 そうしてオレはばっと覆い尽くされた闇の中へと自我を隠されて―――、



 「―――ゼクサー君!!」


 

 何も見えなくなった混沌の中、天空にヒビが入り、裂け目から光があふれ出した。


 この世で最も愛しき声が、怒号を持ってしてオレを隠した”悪意”の法衣を叩き斬ったのだ。



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