終末的少年少女
「おしべをめしべにくっつけるんだよ」と、ワアリが言った。「そうすれば子供の花ができる」
「でもどうして?」と、メルリは不思議がる。「機械みたい。生命って神様が作った機械なの?」
「ぼくに聞かれても」
ワアリは逃げるように笑う。実験台に置かれた花を操作すると、みるみるそれは枯れて、シルバーのオタマジャクシを落とした。
「それは何」
メルリが聞く。
「タネだよ。これが花の子供」
「可愛くない」
メルリが口を尖らせる。
「子供って可愛いものでしょ」
「じゃあ次。次はコウノトリの交尾を見てみようか」
「うん。面白そう」
ワアリが指を動かすと、大きなコウノトリが二羽、狭い実験台の上に現れた。
ワアリが操作すると、二羽は奇妙な格好で互いのポジションをずらし、尻にある穴どうしを擦り合わせた。
やがて雌がたまごを産んでみせた。
それを見てメルリが言った。
「これは食べるものでしょ。ごはんにかけたり、フライパンで焼いたりして」
「仕方がない」
ワアリは言った。
「ゴリラを出そう」
2人のいるシェルターが朝日に照らされている。
その紫外線を殺人的なまでに含みすぎた光を反射して、銀色のロケット型シェルターは2人を守っていた。
空気は薄すぎて、気温を保ちきれない。有毒ガスも含み、生物の生きられる環境は失われていた。
もう存在しない彼らの教師が、録画された古い映像で、2人を導く。
『産めよ、増やせよ、愛せよ』
2人は最後の人類だった。
彼の唇に押しつけていた唇を離すと、メルリは聞いた。
「そして、どうするの?」
「わからない」
ワアリは赤い顔をして、答えた。
「おしべをめしべにくっつけるんだけど……」
「さっき見たゴリラのようにすればいいのね?」
「メルリ」
ワアリは逃げるように、言った。
「外へ出てみないか」
「禁止されているわ」
「出ようよ」
夢を語るように、ワアリは誘った。
「子供を造る前には『ケッコンシキ』を挙げるんだよ。教わっただろ? 外にチャペルという場所があるはずだ。動画で観たろ? そこへ行き、ぼくらの未来を始めるんだ」