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世界遺産召喚

「でも私は、お二人をお尋ね者にしてしまいました。これでは他国に亡命するほかありません。なんとお詫びすればよいのか……」


 俺が謝罪すると、レイカさんとゼストさんは、顔を見合わせて笑い始めた。


「心配することはない。私らはどこのギルドにも所属していないフリーの冒険者だ。もともと、国籍すら持っていない。アレスくんの心配することではないよ」


 レイカさんは可笑しそうに微笑む。


「そういうことだ。少年。俺たちはどうせ流浪人なんだから、王国を追放されたって関係ないよ」


 ゼストさんも愉しげだ。


 家格だの、スキルだの、地位や名誉や力に縛られない生き方をしているのだろう。俺もそうありたい。心からそう思った。


「君には大恩が出来たからな。君が大成するまで、面倒は私たちが見よう。それに君のスキルは、使いようによっては最強のスキルになり得る」


 レイカさんはそんな気休めを言ってくる。だが俺には、その言葉を信じてみたい気持ちもあった。


「どうすれば、俺のゴミスキルでも最強に至れるんでしょうか?」


「ゴミスキル? とんでもない。君が召喚したのは私の実家だ。人の生家をゴミ呼ばわりしてほしくないな」


「そうだぞ、少年。過度な謙遜は下手な悪口よりも失礼だ」


 ゼストさんが窘める。


「いや、そういうつもりじゃ……では、レイカさんの実家はあのボロ家だって言うんですか?」


「そうだ。私は千年後の未来からやって来た。あのボロ家はコンクリートで出来ていた。今の時代にはない技術だ。そして何より、この写真が証拠だ」


 コンクリート? シャシン? さっきから何を言っているんだ?


 だが、差し出された肖像画を見て、俺は戦慄した。


 こんな細密でリアルな筆致の絵画は見たことがない。何かのスキルでも使ったのか?


「ここに写っているのは、私と私の家族だ。これを回収できただけでも僥倖だったよ。まぁつまり、アレスくんのスキルは千年後の未来から建物を召喚するスキルというわけだな」


 なるほど。ということは、俺が召喚しようとした自宅の離れは、千年後にはレイカさんの自宅になっているということか。


「おそらく、少年が思い浮かべた土地に、千年後に建っている建造物が召喚されるのだろう。なんにせよ、レイカの奴が本当に未来人だったと、今ここで証明されたわけだ」


 そんな不思議なことがあるのか。


「ちょ、ゼスト。私が未来人だってまだ信用してなかったの?」


「まぁ、証拠が無かったからな。今は信じているが。お、もう国境外に出たぞ」


 ゼストさんが告げると、俺たちは唐突にボルボロスの口から吐き出された。そのまま地面に投げ出されたので、俺はとっさに受け身を取って衝撃を和らげる。


「ここは魔王領との緩衝地帯だ。ここまで来れば王国兵の奴らも追って来ることはない。ただその代わり、モンスターは大量に出現するけどな」


「ですよね。野営は交代で見張りですか?」


「いつもはそうしてる。だが、少年のスキルでどうにかならないのか? 見張りは疲れるんでな」


「そうですね……」


 周りを見渡すと、遠くに古城が見えた。ボロボロで今にも崩れそうだ。千年後には残骸すら残っていなさそうだが、試してみる価値はある。


「スキル発動」


 恥ずかしいので【廃屋召喚】とは唱えなかった。


 だが、またしても青い光が現れ、巨大な建造物が目の前に出現した。向こうにはボロボロの古城が依然として建っている。だがこちらには、壮麗な城塞が聳え立っていた。


「すごいな。ちゃんとした城だ。しかも城壁や濠まである。これなら三人同時に眠れそうだ」


「待って。何か書いてある……【世界遺産 アレグレット城址】。すごいね」


 何がすごいのかは分からないが、とりあえず俺のスキルはただのゴミスキルではなさそうだ。


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