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 事件後、諸星さんは酒井さんや中山さんに火鴉のことを話したらしい。

 二人とも、原因が分かって安心していたそうだ。それと、あの事件のことは世間に口外しないとも言っていた。

 それを聞いて僕も安心した。これで火鴉は静かに暮らせるだろうから。今頃、どうしてるのかなぁ。

 あ、そういえばあの後、総隊長から聞いたんだけど、総帥がこの事件の捜査を直々に依頼してきたのは、諸星さんと総帥が知人だったからなんだって!

 二日前、諸星さんが珍しい花を見つけたと聞いて、あの花を見に行ったそうなんだ。

 で、総帥ってばその時に、あれが火鴉の卵だって気づいてたらしいんだよ!

 だから近いうちに火鴉が卵を取り戻しに来るかも~って思って、僕たちに捜査というか、ぶっちゃけ諸星さんの警護をするように仕向けたんだ!

 知ってたんならその場で諸星さんに言うとか、僕たちに言うとかしてくれればよかったのに!

 それに、なんであれが火鴉の卵だって知ってたわけ!? 人外である淑生さんだって知らなかったのにっ。ほんと謎だよあの人!!

 憤懣やるかたなく、僕はソファーで、春希ちゃんが淹れてくれた紅茶を飲んでいた。春希ちゃんは僕の向かい側で茶菓子を食べている。

 心なしか頬が赤いようで、時々僕をちらっと見るんだけど、目が合うとすぐに俯いてしまう。いつもそうなんだよね。なんでだろう?

 ため息をついて窓の外を見ると、こつん、と僕の後頭部に何かが当たった。

「?」  

「あ、ごめーん、ゆかりん」

 振りむくと僕の足元に紙飛行機が落ちていた。淑生さんがもう一つ、紙飛行機を手に駆け寄ってきた。

「……紙飛行機?」

「ちょっと目測誤っちゃって。大丈夫?」

「はい、ちょっと当たっただけなんで。どうしたんですか、これ」

「んー、暇だったから暇つぶしに作ったのよ」

 それにしたってなぜ紙飛行機。懐かしいけれど。子供の頃よく作ったなぁ。

「ゆかりんも作る? 今、真愛良たちと誰が遠くまで飛ぶかやって……」

 言葉を切って、淑生さんは瞬時に真剣な顔で僕の頭を抱え込み、姿勢を低くした。

「ぶっ!?」

「こーら、真愛良! こっちに飛ばさないでよ。能力(ちから)使うのも反則!」

「使えるものは使った方がいいでしょ~。一番はまいらだもーん」

「そんなのズルいわよっ」

 何かもめてるみたいだけど、それは僕抜きでやって! 今の僕の状況は、かなり苦しい。

 頭を抱きかかえられたかと思ったら、そのまま淑生さんの胸に顔を押しつけられた。このままじゃ窒息する!

「むーむーっ!」

「あら、ごっめーん、ゆかりん」

「ぶはっ……はぁ…苦しかった……」

「んふふ、でも気持ちよかったでしょう? あたしの胸のな・か・は」

 そ、そりゃあ淑生さんの胸は大きくて柔らかかったけど……ってそうじゃない!

「いきなり何するんですかぁ!」

「で、ゆかりんもやらない?」

 人の話は聞いてクダサイ。もう、いくら暇だからって紙飛行機なんて……

「ふっ、油断すんのはまだ早いぜ? トップはこの俺だ!」

 火群さんがそう叫んで紙飛行機を飛ばす。紙飛行機は紙飛行機とは思えないスピードでこっちに飛んでくる。

「うわっ」

 とっさに体を逸らしてよける。紙飛行機は開いていた窓から外に出ていく。

 きょ、凶器だ。火群さんの手にかかると、紙飛行機でも凶器に大変身だ。

「あ、危な~……」

「あたしも負けてられないわね。よーし」

 淑生さんは紙飛行機を持って、真愛良ちゃんたちの方へ。

 よくよく見れば、すでにあちこちに紙飛行機が落ちている。ずいぶん作ったんだな。こんな大量の紙、どこにあったんだろう。

 捜査資料も書類も、今じゃデジタル化が進んでほとんどコンピューターの中だ。チラシでもなさそうだし、どこから持ってきたのやら……

 はたと思い当たって、僕は嫌な予感がした。

 そおいえば昨夜(ゆうべ)、昔の未解決事件を調べるために、一通り書類を借りてきたような……

 確かにほとんどの資料や書類はコンピューターの中だけど、デジタルの場合、不測の事態でデータが壊れる場合がある。だから念のために紙での書類も保管されている。

 その紙の方の書類を僕は昨日借りてきたんだ。そしてそれは、僕の机の上に置いておいたはずなんだけど……

 その時、捜査の応援に駆り出されていた土師さんと天刻さんが戻ってきた。

「おわっ。……何やってんだ、お前ら……」

「あーら、(たか)さん、天さん、おかえりなさーい」

「おやおや、紙飛行機ですか。懐かしいですねぇ」

 紙飛行機の脅威から避難し、僕はおそるおそる床に落ちている紙飛行機を一つ手に取り、開いてみる。そして、愕然とした。

「ガキかお前らは」

「まだ未成年(こども)だもーん。土師おじさんたちもやろうよ」

「お、勝負すっか? 誰が来ても負けねェぞ」

「いいですねぇ、幼少時代を思い出して、私も混ぜさせてもらいましょうか」

「天刻さんまで……」

「ねぇ、春希ー、あなたもやらなーい?」

【いいえ……私はいいです…】

「さあ、一番手はどいつだ!? 来ねェなら俺から行くぜェ!」

「まいらもいっくよぉ~」

 背中でみんなの声を聞きながら、僕はプルプルと手を震わせた。

 それはまぎれもなく、僕が昨夜持ってきた書類(の中の一枚)だったのだ!

「こ、これは……」

 ななななんてことおっ。この書類はただの未解決事件じゃなくて、重要未解決事件のものなのに!

 よりにもよって、よりにもよってそんなものを紙飛行機にするなんてぇ! 

「みんな、今すぐ紙飛行機を戻し……わっ!」

 いくつかの紙飛行機が目の前に飛んできた。慌ててよける。

「紫ちゃん、そこにいたら危ないよ~」

「おら、どけ、ゆか!」

「待って下さい、この書類は…」

「気をつけて下さいね、海宝君」

「はーい、じゃあ次、あったしー!」

 またも飛んできた紙飛行機をしゃがんでよける。

「だっ、だからやめてって……」

「ったくしょうがねーな。ガキの遊びに付き合ってやる、よっ」

 なんと土師さんまで紙飛行機を飛ばし始めた! こ、これ以上、重要書類をメチャクチャにしないでーっ。

 僕は床に落ちている紙飛行機を集めつつ、部屋の隅へと移動する。

「もう、みんな人の話を聞いてくれないんだから!」

 たとえデジタル書類で同じものがあると言っても、書類自体が大事なものだ。他の人だって使うし……もしも。

「こんなことが総隊長や総帥に知れたら……っ」

「私に知れたらなんなのかな?」

 ……………………………………。

「総隊長!!?」

 ぐりん、と振り向くと、隅っこで紙飛行機を拾い集めていた僕の真後ろで、しゃがみこんだ総隊長が僕の顔を覗き込んでいた。いったいいつの間に!

 軽い笑顔で「やっ」と小さく手を上げる総隊長。なぜここに! いやなぜこんな時に!

「ここはいつも楽しそうだね。ついつい遊びに来てしまったよ」

 来ないでクダサイ! 何もこんな時に!

 ワークデスクの向こうでは、総隊長たちの存在に気づいているのかいないのか、紙飛行機競争がなおも続いている。

「紙飛行機か。いいね、私も昔作って遊んだものだよ」

「そ、そーですか」

 無意識に声が裏返る。総隊長のくせに、どうしていつもこの人はここに来るんだよ!

 総隊長って言ったら、この警吏庁のナンバー2で多忙のはずなのに~!

「それにしてもたくさん作ったんだね。それは紫くんが作ったのかな?」

「いえ、あの、これは……」

「私にも一つ貸してくれないかい?」

 そう言って、ひょいっと僕の腕の中から紙飛行機を取る総隊長。待って、それは!

「ん? この紙飛行機……」

 ぎゃーっ! 気づかれた!!  総隊長はおもむろに紙飛行機を広げ、書面に目を走らせた。

「これって、私が昨日、君に貸した書類だよね?」

「そそそ総隊長、これには深いわけがっ」

「あはは、やってしまったね~。重要書類で紙飛行機か。おもしろいねー」

 ぺらぺらっと紙飛行機の折り目がついた書類をひらめかせながら、総隊長は満面の笑みを浮かべる。

 笑ってるけど……なんかオーラが怖い。

「まあ、別にコピーがあるからね。気にしなくていいよ」

 僕の体からだらだらと冷や汗が流れ出る。総隊長はこう言ってくれているけど、重要書類であることには変わりない。

 それに、総隊長からものすごくプレッシャーを感じる。や、やっぱり怒ってます?

「紫くーん? 大丈夫? 私の話、聞こえてるかい?」

 僕の顔の前で、総隊長は手を振ってみる。やっぱりこのままじゃいけない!

 僕は大量の紙飛行機を抱えたまま、勢いよく立ちあがった。

「みんな! 早く紙飛行機、いや書類拾ってキレイに戻して!」

「どーしたの、紫ちゃん」

「なんだなんだぁ?」

「なるべくキレイに! 元通りとはいかなくても、あまり目立たない程度に戻して下さい!」

 叫びながら、僕は片っ端から紙飛行機を集め始める。みんなは一斉に不平を漏らした。

「えーっ、なんでぇ?」

「後でちゃんと片付けるって」

「交ぜて欲しいならそう言えばいいのに。ゆかりんってば淋しがり屋さん」

「そうじゃありません! これっ、この紙飛行機全部! 重要書類なんですよぉ!」

「「えーっ!」」

「おやおや」

 さすがにみんなも目を白黒させる。天刻さんは悠々としているけど。

「早く! 早く元に戻して下さい!」

「なんでもっと早く言わなかった!」

「気づかなかったんだから仕方ないじゃないですか! それより、紙飛行機にする前に誰か気づいて下さいよ!」

 叫ぶと、真愛良ちゃんがつまらなそうに、ぷいっとそっぽを向いた。

「まいら、知らなかったんだもーん」

「中身ちゃんと読んでクダサイ!」

「そういえばさっき、いくつか外に出てったよな…」

 ぽつりと言った土師さんの言葉に、淑生さんが悲鳴を上げる。

「うっそ! じゃあ、外まで探しに行かなきゃいけないの!?」

「どいつだ、外に投げやがったの!」

「あんたでしょ、ほむらん! 何考えてるのよ、バカ!」

「るせーな、知るか!」

「今はケンカしてる場合じゃありませんってば! とにかく、全部残らず拾って下さ―――――い!!」

 隊員室に、泣き叫ぶ僕の声が響いた。そんな中、天刻さんと総隊長は立って壁に寄り掛かり、

「おやおや、いらっしゃったんですか、榊原さん」

「うん、さっきからね。何度来てもここは賑やかだね」

「そうですねぇ」

 なんて、手伝う気ゼロでなごやか~な会話をしている。

 僕は今日も、明るくて、楽しくて、ちょっと……いや、かなり騒がしい一日を送っています。



 

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