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ヤス

作者: 杉将

 私は犬の面倒など見たくなかったが、親が死んでしまい、世話をする人間がいないということで犬を引き取った。

 ヤスという名前のその犬は、私の家に来て、さっそくションベンをした。くわえて、素知らぬ顔をしている。初めて来た人の家でションベンをし、謝罪もせずに歩き回るなど、信じられなかった。私が大ざっぱで、小さいことは気にしない性格であれば優しく接したかもしれないが、私は潔癖症で神経質だった。私はヤスを抱き抱え、浴室に連れて行き、そこに閉じ込めた。歩き回られていたら、叩いたり、怒鳴ったりしてしまいそうだった。私はどうしたものかと考えたが、ションペンの後始末をすること以外に、するべきことはなかった。私はペットシーツにションベンを染み込ませ、その後、消毒ができるウエットシートで綺麗に掃除をした。私は小さくため息をついた。なぜ、私がこんなことをしなければならないのだろうか。私はペットシーツやウエットシートをゴミ袋に入れ、臭いのしないようにきつく縛った。それから、手を石鹸で洗いながら、浴室が静かだな、と思った。考えてみると、犬は元の飼い主を失い、ショックを受けているかもしれなかった。何も失っていない私と比べると、何かを失った犬の方が、辛いのかもしれなかった。私は洗い終わった手をタオルで拭き、浴室に向かった。閉じ込めていることに、罪悪感を感じていた。浴室を開けると、ヤスはうんこをしていた。そして、それをじっと見つめて、今にも食いそうだった。私は、コラッ、と言った。ヤスがこちらに向かって、トコトコと歩いてきた。私の足を嗅いでいる。それから足元で、私の顔を見上げた。目が丸かった。私はもう一度、コラッ、と言った。怒っている顔を作っていたのだが、ヤスはなぜか尻尾を振っていた。その時私は、命がある、と思った。命は面倒だ、とも思った。ヤスを浴室から出してやり、私はうんこの後始末をした。あまりの臭さに涙が出た。

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