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 モニカのおばあさんの家に戻ってくると、おばあさんはお茶を飲んで待っていた。


「おや、おかえり。」


「あれ、おばあちゃんもうできたの?」


 おばあさんはお守り袋をふりふり見せてくれた。


「ユリウスさんと言ったね。このお守りを持ってごらん。」


 僕は渡されたお守り袋を手に持った。


「よし、ではそこのお兄さん、なんて名前だったかね?」


 そういえば、こいつ名乗ってなかったかも。


「俺はルクスだ。」


「じゃあ、ルクスさん。あんた、ユリウスさんにさわってごらん。」


「いいだろう!」


 大義名分を得たと言わんばかりに鼻の穴を膨らまし、奴は僕ににじり寄ってきた。

 

「はぁ、はぁ、」


 また息が荒くなっていて、正直めちゃめちゃ怖い。

 あろうことか、奴は僕に思いっきり抱きついてきた。手に触れる、とかではなく、ものすごく力強く抱き締められる。苦しいしゴツゴツしてて、ものすごく不快!


 僕が即座に助けを求めようとした時だ。奴は「ぅわっ!」と叫んで離れた。助かった。


「どうしたんだ?」


「うまく作用したね。」


 おばあさんの説明によると、奴がこのお守りの持ち主にさわるとビリッとする仕組みになっているそうだ。静電気の強力なやつらしい。


 奴はうなだれている。


「こんなもので正気に戻ったって、結局俺の呪いは解けてない。根本的な解決になってない、俺はどうしたらいいんだ。」


「物理的にユリウスさんに会うのが不可能なくらい遠くに行けば?」


「それで俺はこの先どうやって生きてくんだよ。」


「知らないわよぉ。兵士なんでしょ?どこか僻地に異動願いでも出したらいいんじゃないの?」


 モニカはバッサリと突き放した。僕もそれはいい案だと思い、隣でうんうん頷いておく。


「俺はユリウスと離れたくない。」


「おい。」


 もうおかしくなったのか。正気に戻ってる時間が短いな。


「ユリウスが俺と結婚してくれれば丸く収まると思うんだ。」


「全然収まらないんですけど。」


「俺はユリウスと両思いになって、結婚して、イチャイチャ結ばれたら呪いが解けると思うんだ。」


 増えてる、増えてる!

 結ばれないから。

 目つきが怖いから。


「お兄さん、わがままよ!どうしてユリウスさんが結婚しなきゃいけないのよ。」


「なんでお前が反対するんだよ。俺はユリウスを幸せにしてみせる!」


 なれない。

 断言するが、なれない。

 僕はごつい男と結婚しても幸せになれない。

 嫁はかわいい女の子がいい。

 そもそも同性は結婚できないんだけど。


「やはりお前もユリウスを狙ってるな?お前のような凶暴な女に、ユリウスは渡さんからな!」


「なんですってぇ!」


「安心しろ、ユリウスは俺が守る。」


「あたしはユリウスさんみたいにナヨナヨした男はタイプじゃないわ!バカにしないでよね。」


「なんだと?お前こそ俺のユリウスをバカにするなよ。この愛らしさがわからないと言うのか?その目は節穴か!」


「呪いで恋してるだけのくせして、あたしの目が節穴ですってぇ!?」


「もはや呪いなど関係ない。俺はユリウスを愛している。添い遂げるつもりだ。」


「ハッ!この国では男同士は結婚できないのよ。そんな事も忘れたの?残念なアタマねぇ~。」


「お前こそ知らんのか、隣国は同性も結婚できるんだぞ。俺はユリウスがいるなら隣国へ移住したっていい。」


「それくらい知ってるわよ!ああいえばこう言う......、腹立つ~!」



 ひどい。

 イーラさんは奴に恋の呪いをかけたのではなく、僕に不幸の呪いをかけたのではなかろうか。

 どう考えても僕の精神的ダメージの方が大きい。

 ナヨナヨって。普通だろ?ルクスと比較されるとナヨナヨに見えるかもしれないけど、僕は一般的、標準的なはず。


 二人は延々言い争いを続けていた。


「そんなに言うならば、俺の愛を見せてやる!」


 奴はモニカにそう叫ぶと、またしても力強く僕を抱き締めだした。


「うげっ」


 思わず変な声が出る。


「ふん、やれるもんならやってみなさいよ!」


 モニカも何やら煽っている。


「っくっ...。」


 えっ、ちょっと、お守りは?

 なんか呻いてるけど、さっきみたいに離れてくれないんですけど!?

 効いてないの?え、使いきり?1回こっきり?違うよね???


 奴は少し腕の力を緩めた。


 正気にもどったか?と思った瞬間......





 僕の頭はショックで真っ白になった。


 奴はぶちかましてくれた。


 マウストゥマウスのキ✕を。


 許しがたい事に、舌まで✕✕✕✕。


 奴のヒゲがジョリッとしたところで、僕は我に返り、人生最大出力、渾身の力で奴を突き飛ばした。怒りに任せて3度程、奴を蹴りつける。


 おぇっ。

 何が嫌って、ちょっと気持ちい......いやいやいや、吐き気がするだけです。


 お守り効いてないじゃん。



 奴はポーッとした顔で僕を見つめたまま動かない。少しすると、赤らめていた顔が段々青ざめてきた。


「ぅおえぇぇえぇっ。」


 突然奴が吐いた。


「気持ち悪っ!気持ちいいとか、幸せ、とか思っちゃったよ、気持ち悪っ!!」


 キ✕したことにより、強烈に我に返ったらしい。

 そうだろう、そうだろう。僕はもっと気持ち悪かったがな!このヒゲヅラヤロウ。


「あれ?俺、呪い解けたかもしんねぇ。」


「え?」


「は?」


「おや、まぁ。」


 奴はじっと俺を見る。


「ちょっと、手ぇかしてくんない?」


「イヤだ。さわるな。」


「いや、もう何もしねぇよ。お前見ても全然ドキドキしてこない。確認だけだから。」


 僕はしぶしぶ奴に手を出した。

 奴は僕の手を取り、にぎにぎとさわる。


「男と手ぇつなぐとか、ないわー。」


 いや、それ僕のセリフなんですけど?


「やっぱり、さわっても変わらない!俺の呪い解けてる!」


「何よ、それってユリウスさんとキス出来たからって事?ヤらなくても解けたって事?」


「キスで解ける呪いだったのか?」


「違うわよ。イーラさんによれば、想いを遂げる事ができれば解けるそうよ。だから、あなたならヤれば解けるんじゃない?って言ってたのよ。」


「確かに、ユリウスに会うとドキドキするし、さわるとムラムラした。押し倒してしまいたいと常に思っていた。」


 常に思ってたのかよ。


「だが、呪いとはいえ、あんなに誰かを好きだと思ったのは初めてだった。」


「え、まさか初恋的な?だからキスだけで満足できちゃった的な?やだ、ウケる!」


 モニカは奴を指差し大笑いしだした。


 奴は真っ赤になって怒っている。


 とにかく、被害は受けたものの、奴の呪いは解けたらしい。


 もう二度と、僕に迷惑をかけないでいただきたい!




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