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 イーラさんの家は明るい色合いで統一された可愛らしい部屋だった。

 魔女の末裔だなんて言っていたから、なんとなく黒っぽい暗い色合いを想像していた。

 でも、そういえばと思い返すと、彼女は「これでも魔女の末裔よ」と言っていたな。

 現役の魔女もいるし、彼女の血はかなり薄いのだろう。

 とすれば、呪いの効果も弱いのではないだろうか。


「はい、お茶でもどうぞ。近所の人にもらったハーブティー。」


「いただきまーす、あ、おいしい~!」


「いただきます。」


「それで、どんなご用件かしら?」


 イーラさんはテーブルに頬杖をつく。


「あなた、ルクスに呪いをかけたと言いましたね?」


「そうよ、彼に聞いたの?」


「それもありますが、僕はあの時、あの部屋におりましたので一部始終見てました。」


「やだ、恥ずかしい!」


 イーラさんは、お見苦しいところをお見せしましたと笑った。


「でも、そうか。それで来たのね、あなた。」


「はい。あの男が呪いのせいで僕を好きだと。」


「ごめんなさいねぇ、とばっちりね。」


「本当に呪いをかけたんですか?」


 イーラさんはにぃっと笑った。


「本当よ。彼にはね、恋の呪いをかけたの。」


「恋の呪い?」


「そう。あの人、すっごい浮気性なの。カッコいいでしょう?モテるのよ。もう、女の子なんて選り取り見取りよ。」


 話しているうちに、昨日の様な恐ろしい顔つきになってきた。


「へぇ~、女の敵じゃないですか。チャラそうでしたもんねぇ。」


 モニカは暢気に返事をしている。恐ろしくないのか、その顔。


「そうなのよ。彼はね、片想いで苦しんだりしたことがないの。声をかけた女の子は大体落ちるし、そもそも向こうから寄ってくるし。」


「えー、でも失礼ですけど、あたしはあんまりタイプじゃないかな~。」


「そう!そういう子は彼も対象外なのよ!彼の好みの女の子は、皆彼が好みなのよ!わかる?自分を好きそうな子にしかいかないのよ!」


 イーラさんは恐ろしい顔で熱弁している。僕は黙って空気のようにやり過ごす。

 モニカがいてよかった。マジ感謝。


「ますますヤな感じですね。」


 モニカはうんうん共感しているようだ。


「きっと、本気で人を好きになった事ないのよ、彼。」


 イーラさんは少し悲しそうな顔になった。


「だから私、彼にも恋の辛さを教えてあげることにしたの。」


「結局、恋の呪いって何なんですか?」


「ふふ。彼、女の子大好きでしょう?だから、呪いを受けてから一番はじめに見た同姓に恋するように呪ったのよ。私は魔力も弱いし、所詮作り物の気持ちですもの。ずっとは続かないの。」


 なんて事だ!だから、奴は僕が好きになってしまったのか。あの時さっさと帰ればよかった。本当にひどいとばっちりだ!


「じゃあ、すぐ効果が切れるって事ですか?」


 イーラさんは楽しそうに言った。


「条件を達成しないと呪いは解けないわ。でもね、日に何度かふと我に返るのよ。あの女大好き男が、男に恋して男に迫るの。我に返った瞬間、さっきまでの自分に絶望するでしょうね。ふふふ。」


「......その、呪いが解ける条件とは?」


 僕は恐る恐る聞いてみた。呪いをかけたとき、彼女が何か恐ろしい事を言っていた気がするのだ。


「そうね、彼が思いを遂げることが出来れば呪いは解けるわ。」


「それって、」


「あの人だったら、好きな人とヤれたら成就じゃないかしら。」


 何をとは聞かないぞ、僕は。


「でも残念だわ。本当は男くさーいムキムキマッチョの兵士仲間に惚れてほしかったのに。そしたら、もっと絶望も深かっただろうし、同僚にもドン引かれたでしょうに。運のいいやつ。」


 それでは僕の運が悪かったというのか。理不尽!いや、そんな事を言っている場合じゃない。


「それで、僕はお願いに来たんです。」


「何かしら?」


「あの男の呪いをどうにかしてもらえませんか?呪うのは全然構わないんですけど、僕は迷惑してます。他の呪いに変えるなり、相手を変えるなりしてもらわないと困ります。できれば第三者を巻き込まないでいただきたい。」


 イーラさんはキョトンとした。


「ムリよ~。恋の呪いは私が唯一使える呪いなの。それに、条件が揃えばかけることはできるけど、私に解くことはできないのよ。自力で解くしかないの。本当、ごめんなさいねぇ。」


「ちょ、ちょっと待って!じゃあ、僕はずっとあいつに狙われるかもしれないって事?」


「そうねぇ、それか一度だけ我慢すれば解けると思うのだけど、私としては頑張って拒み続けて彼にダメージを与え続けてほしいわ。」


 なんて非道な女なんだ!あいつじゃなくて、僕が絶望したよ。


「でも、それだとさすがにユリウスさんが気の毒ですよ。見てください、この人めちゃめちゃ弱そうじゃないですか。力ずくでこられたら、太刀打ちできませんよ。」


 その通り、僕はゴリゴリのインドア派だ。あんなのに勝てるわきゃない。モニカ、もっと言ってやれ!


「それもそうねぇ。」


 イーラさんも流石に僕が気の毒だと思ったのか、何か僕の身を守る方法がないか考え出した。


「そうだわ、護身術を習うのはどうかしら?」


「今から?この僕が今から護身術を習って、奴に太刀打ちできるようになるのは一体いつです?」


「そうね、ユリウスさんなら習得する前にヤられちゃうわね。」


 やられない。僕は何もやられないぞ、モニカよ。


「じゃあ、魔具を作ってもらうのはどうかしら?」


「魔具ですか?」


「そうよ、ルクスが来たら吹っ飛ばすとか、動けなくするとか、なんか盾みたいなのが出るとか!」


「僕、あまり詳しくないんですけど、魔具ってそんな事できるんですか?」


「知らないわ。私、ツテもないし。」


 なんという無責任発言。


「魔具か。いいかもしれないよ、ユリウスさん。」


「モニカは魔具に詳しいの?」


 するとモニカはお守りを取り出した。


「このお守りも魔具の一種なんだよ。言ったでしょ、おばあちゃんに貰ったって。これ、おばあちゃんのお手製なのよ。だから相談してみよう。何かいいの作ってもらえるかもしれないし、呪いの事もイーラさんより詳しいかもしれない。」


 僕は初めてモニカが天使に見えた。

 行きつけの店のただのおしゃべりで、おせっかいな店員さんだと思っていたのに!


「ちょっと、ユリウスさんあたしの事そんな風に思ってたの?失礼ね。おばあちゃん紹介するのやめようかしら。」


「お嬢さん、男なんて皆失礼、無礼なイキモノなのよ。」


 どうも声に出ていたらしい。


「ごめん、モニカ。帰りにモーモー屋のクレープ奢るから許してよ。」


「一番高いやつよ。」


「かしこまりました。」


「仕方ないわね。」


 僕達はモニカのおばあさんの所へ行く事になった。


「迷惑かけちゃったのに、力になれなくてごめんなさいね。何かあったら話は聞くから、いつでも来てちょうだい。」


「いえ、おじゃましました。」


「イーラさんも今度うちの店(にこにこ亭)に来てくださいね!」


「近々行かせてもらうわ。」




 僕達がイーラさんの家を出ると、ストーカー男が飛び出してきた。

 話が終わるのをずっと待っていたらしい。


「ユリウス!」


 奴が両手を広げて僕に突進してきたので身構えると、僕と奴の間にモニカが入ってきた。

 手にはいつの間にかフライパンを持っている。

 奴は突進してきた勢いのまま、フライパンに顔面をぶつけていた。


「痛ってぇ。」


「そのフライパン、どっから出てきたの?」


「何かあった時の為にカバンに入れて持ってきてたのよ。役に立ったでしょ?」


 確かに、大きな鞄を持っている。

 まさかフライパンが入っていたとは。


「悪い、別に抱きつくつもりじゃなかったんだ。どうなったのかと思って。」


 モニカは僕の護衛のつもりなのだろう。僕を隠すように、奴の前に立ちはだかっている。

 手のフライパンが勇ましい。


「イーラさんは呪いを解けないそうですよ。」


「なんだって?じゃあ、俺は呪われたままなのか?」


「そうなりますね。あなたの予想通り、ユリウスさんに恋する呪いがかかってるみたいですよ。」


「やっぱりか。俺はどうすればいいんだ。ユリウスと結婚すればいいのか。」


 なぜそうなる。こいつまたおかしくなってるな。


「ユリウスさんの身を守るために、これから魔具を作ってもらおうと思ってます。」


「魔具だって?そんな簡単には手に入らんだろう。」


「ふふん、あたしにはツテがあるんですよ。」


「そうなのか!では俺も同行しよう。」


「お前、仕事はどうしたんだ?制服を着てるって事は、今日は仕事だったんじゃないのか?」


 奴は顔を背けた。

 さすがに仕事をサボったのをつつかれ、居たたまれなくなったのだろう。


「お前じゃなくて、名前で呼んでほしい。」


 よく見ると、奴は頬を赤らめクネクネしていた。


「......絶対呼びたくない。」


「呪いってすごいのね。思考回路がおかしくなるんだわ。」


 僕達はストーカー男を放置して行くことにした。






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