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 次の日、僕は午後休をもらうことにした。

 昨日の約束通り、イーラさんに会いに行くためだ。


 午前中はせっせと仕事をこなし、退勤するとにこにこ亭に寄った。


「いらっしゃいませ!あら、ユリウスさん。昨日は無事に帰れたかしら?」


「もちろん、無事に帰りましたが。」


 僕は昨日と同じ定位置に座り、旨辛チキンライスを注文した。


「ねぇねぇ、昨日のお兄さんはなんなの?」


 店員さんは興味津々に聞いてきた。


「俺とユリウスの仲を裂こうとしてるのかー!って、あれ何?あたしもう気になっちゃって!」


「さぁ、何だろうね。」


「あ、助けてあげたのに冷たいんだ~。」


 そうこうしているうちに料理が運ばれてきた。う~ん、いいね、ピリッと辛くてうまい。

 半分近く食べた頃、僕の向かいの席に水とサンドイッチが置かれた。


「あたしも休憩~!」


 店員さんことモニカは僕の向かいに座った。


「さぁさぁ、話してちょうだいな。」


 どうしても昨日の話が聞きたいようだ。

 仕方がないので、僕は昨日の出来事をかいつまんで説明した。


「へぇ、じゃああのお兄さんは何かの呪いをかけられて、ユリウスさんを好きだと思っちゃってるの?」


「あの男はそう思ってるらしいよ。本当のところは僕もわからないからね。とりあえず、呪いをかけたっていうイーラにさんに会って、僕を巻き込まないよう話してくるよ。」


「あら、あのお兄さんの呪いを解いてもらうんじゃなかったの?」


「あんなの自業自得でしょ?僕には関係ない。ただ、そこに僕を巻き込むのはやめてもらわないと困る。呪うのは構わないけど、当事者同士だけで他人に迷惑がかからないようにしてもらわないと。」


「ユリウスさん、冷たーい。」


「別に冷たくないでしょ。僕、昨日初めてあいつに会ったんだよ?イーラさんに会いに行くのに今日は午後休も取ったんだ。いい迷惑だよ。」


「そうなのね~、ふぅ~ん、へぇ~。」


 モニカはニヤニヤしている。


「これからそのイーラって人に会いに行くのよね?」


「そうだけど。」


「ねぇ、それ、あたしも付いてってあげる。」


「はぁ?何で?」


「相手は魔女の末裔でしょ?何かあったら大変じゃない(面白そう)!」


 大変だなんて思ってないだろう。完全に楽しんでいる。


「仕事があるだろう。大将に怒られるんじゃないの?それに付いてきてモニカに何かできるわけ?」


「平気平気、私今週まだ休み取ってないもの。それに、おばあちゃんに貰った、いい呪い返しのお守りがあるのよ。私が触れてる人にも効果があるやつだから、ユリウスさんまでうっかり呪われないように、一緒に行ってあげるのよ!」


「じゃあ、そのお守り貸してよ。」


「ダメよぅ、これはあたしのだもん。さぁ、お会計したら外で待っててよ。置いていったら激甘ご飯食べさせてやるんだから。」


「はぁ、わかったよ。」


「お父さーん、今週のあたしの休み今日にするね!ユリウスさんのお会計お願い、出掛けてくるからー!」


 モニカは大将にそう言うと、ちょっと着替えてくるから、ちゃんと待っててよ!と店の奥に消えていった。





「それで、イーラのお家はどこらへんなの?」


 言いながらモニカは地図を覗き込んできた。


「西区だね。」


「あら、ここおばあちゃんの家の近所だわ。」


「そうなの?」


「この辺りがおばあちゃんの家ね。案内できるから、任せてよ。あたしって役立つぅ~!」


 僕達の町は真ん中に中央区があり、そのまわりに東西南北の区がある。

 イーラさんの家は西区の中央区寄りにあり、そんなに遠くもなかったので、僕達は歩いて行く事にした。


 歩いている途中で、モニカがコソコソ声で聞いていた。


「ユリウスさん、気づいてる?」


「何に?」


「やっぱり気づいてないのね。」


「だから何に?」


 モニカが小さく後ろを指さす。


「付いてきてるわよぉ~、昨日のお兄さん。」


 え!と、後ろを振り返ろうとしたらモニカが腕を組んでひっついてきた。


「ダメよ、見ちゃ。お兄さんの存在に気づいてるって分かったら、またややこしい事になるんじゃない?知らんぷりよ。」


 確かに、近くでギャーギャー言われるよりは、後ろからひっそりストーキングされている方がいい。

 僕はモニカの言うとおり、知らんぷりする事にした。

 それにしても、僕は何時に行くとは言っていないはずだ。一体いつからいたんだ?

 もしかしたら、朝からずっとストーキングされていたのかもしれない。というのは、怖いので頭からポイした。


 30分程歩くと西区に入った。


「ほら、そこの道を右に曲がって、突き当たりを左に行くとすぐだわ。赤い屋根って書いてあるね。どれかしら。」


 赤い屋根、赤い屋根、赤い屋根...


「ちょっと。赤い屋根ばっかりなんだけど。」


「バカなのね、あの人。」


「表札を見よう。」


 赤い屋根率が高かったので、僕達は表札を見てまわった。


「あ、あった。モニカ、ここみたいだ。」


 コンコンコン


「イーラさん、いらっしゃいますか?」


「はぁーい?」


 中から返事があった。イーラさんはご在宅らしい。留守じゃなくてよかった。


 ガチャリ


「どなた?」


「こんにちは、僕はユリウスと申します。」

「私はモニカです。」


「はぁ。」


「突然すみません。実は、あなたの恋人のルクスについてお話に参りました。お時間いただけますか?」


 イーラさんの顔が少し険しくなる。


「何?あの人の知り合いなの?」


「いえ、昨日が初対面ですので、顔見知り程度です。ですが僕、非常に迷惑しておりまして。」


 イーラさんの表情が少し柔らかなる。


「あら、もしかして......、いいわ、入って頂戴。話を聞きます。」


「ありがとうございます。お邪魔します。」

「おじゃましまーす。」


 僕とモニカはイーラさんの家に入った。


 玄関のドアを閉めるときに、チラリと後ろを見ると、心配そうな顔をした奴が見えた。


 奴は兵士の制服姿だった。

 おいおい、仕事はどうしたんだ。

 あの様子じゃサボったんだろうな。


 僕はガチャリと扉を閉めた。




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