表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/7

1

「もう、信じられないわ!」


「だぁから、悪かったって。」


「あなた全然反省してないわね!?」


「そんな事ないだろ。」


「許せない、許せない、許せないわ!」


「そんなにキィキィ怒鳴るなよ。」


 僕の目の前で繰り広げられる痴話喧嘩。最低だ。

 ここは兵士の詰所で、僕がここに来たのは仕事の為だった。

 僕はこの町の役所で働いており、今日はたまたまここに書類を届けに来ただけだったのだが......。


 僕が来た時、詰所には今痴話喧嘩を繰り広げている彼しかいなかった。

 責任者は暫く戻らないとの事だったので、書類を責任者に渡すよう頼み、役所に戻ろうとした時だ。

 彼女が鬼の形相で怒鳴りこんできた。


 扉の前に仁王立ちし、ものすごい威圧感を放つ彼女の横をすり抜けて帰ることができず、僕は置物のように部屋の隅にそっと寄った。


 話の流れからして、どうやら二人は恋人同士のようだ。

 それが、そこの彼が浮気を繰り返した事により、彼女がぶちギレ怒鳴りこんできた、という事らしい。


 彼女のぶちギレ具合に対し、彼の全く悪気のなさそうな、反省など微塵も感じられない態度に、彼女はますますヒートアップしていった。


 僕から見てもこいつは女の敵だと思う。


「こんな男が好きだなんて、自分でも信じられないわ。もう、ウンザリよ。」


「おいおい、あんなの皆ちょっとした遊びだろ?」


 彼女は彼に向かって指を指した。


「私はこれでも魔女の末裔よ。愛するあなたに素敵な呪いをプレゼントするわ。」


「はぁ?一体何を......っつ。」


 彼の体がビクリとはねた。


「この呪いはね、想いを遂げる事ができれば解けるわ。ふん、精々葛藤するのね。呪いが解けたらまた会いましょう、ルクス。」


「ちょっ......、待て、イーラ!」


 彼女はそう言い捨てて、部屋から出ていった。


「ったく、何なんだよ。」


 彼は髪をガシガシと掻き、ため息をつくと思い出したように僕の方を見た。


「あぁ、あんた悪かったな。」


「いえ。では僕もこれで失礼します。書類、よろしくお願いしますね。」


 やっと解放された。こっちの方が何なんだ、だよ。全く。

 僕が部屋を出ようとすると、彼が腕を掴んできた。


「......まだ、何か?」


 なぜか彼はひどく驚いた顔をしていた。


「あ、いや、悪い。何でもないんだ。行ってくれ。」


「はぁ。では失礼。」


 本当に何なんだあの男は。まぁ、もう関わることもあるまい。

 僕は役所に戻ると、今の時間で遅れた分を取り戻す為、黙々と作業した。


 夕方、一息ついた所で来客を告げられる。


 応接室に行くと、来客は先ほど詰所にいた彼だった。


「どうかされたましたか?何か書類に不備でも?」


「いや、問題なかった。書類は確認し終わってサインもしてある。それを届けに来たんだ。」


「わざわざ?それは、ありがとうございます。1週間猶予があったのに、今日中にいただけるとは。お早い対応、助かります。」


 僕は彼から書類を受け取った。その際、少し手が触れた。




 彼は兵士だけあり、鍛えられた逞しい体つきをしている。背も高い。

 切れ長の鋭い目つき、スッとした鼻、顎には髭、髪は短くこざっぱりしている。

 ワイルドで恐そうな外見なのに、口元は常に笑みを浮かべている。それがまたフェロモンを撒き散らしてるというか、だだ洩れているというか、とにかく色気が凄いというか。

 はっきり言って、こいつはモテるだろう。ちょい悪男に憧れる女の子はイチコロだろう。

 僕は昼間見た時には、そう思っていた。



 なぜ、僕が急にこんな事言い出したかって?


 目の前の彼の様子がちょっとおかしいのだ。


 気のせいだと思いたいのだが、僕に妙に熱っぽい視線をむけてきている。ような気がする。


 昼間詰所で見たときは、態度のデカイ嫌な奴だったが、彼は今、どこぞの乙女の様にモジモジクネクネしている。あの図体、あの風貌でやられると、はっきり言ってキモチワルイ。


「では、確かに受け取りました。」


 僕は彼に退室を促す。早く帰れ。


「俺は今日、これで仕事が終わりなんだ。」


「はぁ。」


「よかったら、この後、食事に行かないか。」


 頬を赤らめ僕を食事に誘うこの男に、言い知れぬ不安を感じた。


「申し訳ないのですが、僕はまだ仕事が残っているで無理です。」


 僕は笑顔で拒否した。


「そうか、ならば俺は外であなたの仕事が終わるのを待つとしよう。」


 なぜ。


「いえ、今日は残業予定ですので、どうぞお帰りください。」


「その、実は相談にのってほしいのだ。」


 またしても、なぜ。

 僕と彼は今日が初対面。なんなら、僕らは名前も知りませんが。


「僕、知らない人には付いていくなと躾られておりまして。」


「そうだな、失礼した。」


 わかってくれたらしい。


「俺は知っての通り、兵士をしている。ルクスと言う。25歳だ。生まれはとなり町だが、10歳からはずっとこの町に住んでいる。もちろん独身だ!」


 わかってないな?僕は自己紹介を求めたんじゃないぞ。そんな情報いらないんだが。


 彼は期待に満ちた目で僕を見つめている。

 やめてくれ。

 しかし、相手が名乗った以上自分も名乗らないわけにはいかなかった。


「僕はユリウス、ご覧の通り役所勤務です。」


「そうか、ユリウスは何歳なんだ?」


 グイグイくるな。


「27歳ですよ。」


「なんと、そんなに愛らしい容姿をしているのに、俺より年上とは!」


 彼の頬はさらに上気した。


 誓って言うが、僕の容姿は決して愛らしくはない。今までの人生でそんな評価、子供の頃でさえ一度も貰ったことはない。

 中肉中背、これといった特徴もない、ザ・普通。それが僕。


 こいつは一体なんなんだ。


「とにかく、今日はムリです。仕事中にそんな事言われても困ります。業務の邪魔です、お帰りください。」


 僕は一気に言いきった。


「む、そうだな。ユリウスは真面目なのだな。そんなところもいい。」


 顔を赤らめモジモジしていた奴は、急に顔をしかめだした。

 そして、なんというか、突然我に返って絶望した。という感じで崩れ落ちた。


「なぁ、あんた......。」


 本当、こいつ何なんだ。早く帰ってくれよ。


「俺は今、おかしくなかったか?」


「そうですね、正直に申しますとかなりおかしかったですよ。」


 僕は投げやりに答えてやる。


「そう。おかしいんだよ、俺。」


 彼は先程とは打って変わって、今度は青ざめた表情ですがり付いてきた。


「俺は、女の子が大好きだ。」


 突然の宣言。そんな申告しなくても、女の子大好きそうに見えてたよ。

 大体、それが理由で痴話喧嘩してたじゃないか。


「はっきり言って、この世に俺以外の男なんて必要ない。女の子は全て俺のもの!」


 何言ってんだこいつ。くそかよ。


「ってくらい女の子が大好きで、男は嫌いなんだが......」


 突然、やつは俺の手を握ってきた。


「昼間から、あなたの事が頭から離れな......じゃない、だぁ~~っ、くそっ。」


 なにこの情緒不安定さ。

 ちょっと、警備!やばいよ、こいつ。

 僕の顔は完全にひきつっている。


「俺は、本当にイーラに呪われているかもしれない。」


「はぁ?」


「......俺はお前が好きみたいなんだよ、ありえないだろ?この俺が、男を!!」


 奴は屈辱、といった感じで声を絞り出して恐ろしい事を言った。

 俺の手を握る力が強くなった。すごく痛いし、なんだか汗ばんできている。


「はぁ、はぁ、」


 ちょっと、なんか息荒いんですけど。


「けっ......警備ー!誰かー!!」


 


 彼は警備の人に引き剥がされて連れていかれました。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ