春雨さんと水たまり
「なっがーい水たまりがあるわ」
「危ないですね、避けて通りましょうか」
「水を見て逃げるは勇なきことなり」
「はあ?」
「あなたは水たまりから逃げてはいけないわ」
「いや足びしょびしょになるぐらいなら逃げますよ」
「あなたは勇泣子ね」
「勇気がなくて泣いてる子みたいなニュアンスですか」
「あなたに涙は似合わないわ」
「恥ずかしいセリフを臆面もなく……」
「さあ、挑戦しましょ!」
「勇気と無謀は全然ちがうんですよ」
「あなたが進まないならわたしがやるわ!」
「えっ、ちょっ」
「飛び越えてわたしの勇気!!」
「冷たいですか?」
「つめたい」
「足びしょびしょですか?」
「あしびしょびしょ」
「やらなきゃよかったでしょ?」
「そんなことないわ」
「えー」
「わたしが踏み出した勇気を否定しちゃいけないわ」
「また微妙にかっこいいことを……」
「これでまた次の一歩を踏めるわ」
「次の一歩も水たまりゾーンですけどね」
「一歩一歩に重みを感じるの」
「そりゃそうでしょ」
「あなたは足軽ね」
「意味合いが変わりますねえ」
「尻軽?」
「もっと変わるから!」
「ところでどうしてあなたも濡れてるの?」
「春雨さんの勇気ジャンプでこっちにまで水が跳ねたんだよ!!」
「ごめんね」
「そう素直に謝られると弱いんですよねえ」
「軽いわね」
「足も尻も軽いですからね」
「他者に害を被るならば、無闇に勇気を出すものじゃないわね」
「まあケースバイケースで」
「これからは足を洗って生きていくわ」
「早く家に帰って文字通り足洗ってくださいね」